魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第六話

― 斎藤一樹 ―

 

 広い空!

 白い雲!!

 広い海!!!

 照りつける太陽!!!!

 そして灰色に輝く艦船!?

 

 入校から一年以上が過ぎ、訓練のステージが学校から野外に移行し、より実践的なものになってきた。

 そして現在海上訓練中。ミッドチルダ南部の港湾部を出て沖合100海里の位置にあたる。

 現在、海上においての戦闘訓練を行っており、俺は今、地上本部特別救助隊所属、L型級巡洋艦「カーディナル」の甲板で、海上で行われている戦闘訓練を眺めていた。

 何故かというと、今現在俺はデバイスもなく魔法のコントロールもまだできず、訓練に参加できないからだ。

 一対一の戦闘で陸上であれば問題ないのだが、空戦や海上となると魔法が使えないと訓練に参加できない。

 そんな俺が何故訓練に同行しているかというと、まあ救助係とでも言うのか、医療班の真似事が出来るからである。

 地上での訓練中、俺は魔法が使えない。故に非殺傷設定が出来ないのである。

 そうすると俺と訓練した人間は大小様々な怪我をする事になる。今までで一番大怪我は「骨折」それも数か所同時、それがしょっちゅうあるものだから俺自身すまないと思い、「気功」を怪我の部分に当て見たところ、骨折が一週間しないうちに完治してしまったのだ。

 これは良いと思い、模擬戦→治療、模擬戦→治療、模擬戦→治療、模擬s…………そんな事を繰り返しているものだから、治療技術がみるみる上昇していき、しまいには「技」にまで昇華してしまったのだ。

 覚えた「技」は「龍掌」(りゅうしょう)某格闘漫画で読んで覚えていたものだが、当時はまだ出来ず半ば諦めていたが、ここにきて出来るようになったのだった。

 どうやら「ラーニング」で覚えていても、他の条件が満たされないと格闘系の「技」であってもすぐに出来るというものではないようだ。

 おそらく今回の条件とは「気功」だったのだろう。他にも色々条件がありそうなのでいまいち便利なのか不便なのか分からない能力である。

 それはさておき、そんな理由で俺は現在カーディナルの後部甲板で五味教官監修の筋トレメニューを黙々と消化中である。

 

「五味教官、広い空っすね」

 

「ああ、そうだな」

 

 腕立てをしあながら、

 

「五味教官、白い雲っすね」

 

「ああ、そうだな」

 

 腹筋をしあながら、

 

「五味教官、広い海っすね」

 

「ああ、そうだな」

 

 筋トレをしつつ、話しかける俺に全く関心が無いような答え方をする。

 

「五味教官、何で水着の美女がいないんですか!?」

 

「訓練中だからに決まっているだろ!!」

 

「じゃあ、さっさと訓練やめて砂浜行きましょう! 水着美女が呼んでますよ!」

 

「そうしたいのはやまやまだが、ここからどんだけ時間がかかると思ってるんだ!」

 

「アレ? 五味教官既婚者じゃなかったけ? 砂浜で女の子引っかけて浮気しようとしてんの?」

 

「ちょっと乗ってやった結果がこれだ! 馬鹿言ってないで、訓練に集中しろ!」

 

 そう言いながら五味教官との会話を楽しみつつ、訓練をしていると、

 

《ビィー! ビィー! ビィー!》

 

 艦全体に警報が鳴り響く。生徒たちは「なんだ?」と動きを止め艦を見る。そんな中、五味教官が通信を開き確認する。

 

「何事ですか?」

 

 五味教官の目の前に映像が開かれ、通信員の人が対応する。

 

『現在、当艦より北西約20キロの地点において、船舶からのSOS信号をキャッチしました。当艦はこれより救助のため現場海域に向かいます。訓練を中止し艦内に戻ってください』

 

「了解しました。」

 

 そういうとウィンドウは閉じらる。すると五味教官が全員に、

 

「訓練中の全員に通達! 訓練中止! 速やかに艦に戻り食堂に集合せよ! なお怪我などがある場合、斎藤に見てもらってから来る事! 以上だ! 各員速やかに行動しろ!」

 

 そう言うと五味教官は艦内に姿を消した。そんな中俺は戻ってきた負傷者の手当てを開始するのだった。

 カーディナルの中でも一番広い部屋に訓練生全員がそろっている。と言っても、食堂なんだけどね。良い匂いが漂ってくるので訓練をした後には中々響くものがある。匂いから察するに今日のメニューはカレーのようだ。

 治療のため遅くなった俺はクロノを探し隣に座る。

 

「よ、クロノ。何か説明有ったか?」

 

「いや、まだだ。これから五味教官が来て説明するそうだ。一樹は何か知っているか? 五味教官のそばにいただろ?」

 

「俺が聞こえたのは、船舶からのSOSをキャッチしたって事と、これからその海域に向かうって事だよ」

 

「そうか、しかしこの海域に船舶か。あまり聞かないな」

 

「そうなのか? この海域は航路になってないのか? もしくは何か獲れるものとか無いの?」

 

「流石にそこまで知らないよ」

 

 ふむ、何か起こりそうな感じだな。どうなるんだろう? そう考えていると五味教官が入ってきた。

 

「よし、全員そろっているな。では説明をする。」

 

 五味教官はそう言って、手元のスイッチを操作する。すると部屋が暗くなりスクリーンに映像が現れる。

 

「本日1129時、「カーディナル」は北西約20キロの位置からSOS信号をキャッチ、現場海域向かって、30ノット(約60キロ)で進行中、現場到着予想時刻は約20分後1149時になる。現場海域には小型船舶の船影を確認していが、現在こちらから呼びかけているものの応答はない。不測の事態が考えられるため、この件は同乗している「特救」が行う事になった。我々はここで待機。幸いにも「特救」の作業内容を見る事が許可されたため各自モニターをしっかり見ること。以上だ。あと15分程で現場に着くが何か質問は有るか?」

 

 そう言うとスイッチを操作し映像が消え部屋が明るくなる。

 皆現場の雰囲気にのまれ答える事が出来ない。無理もない。訓練だと思っていたらいきなり実戦に放り込まれたのだ、そんなすぐに切り替えが出来るはずがない。

 

「無いようだな。では指示があるまで待機だ」

 

 そう言って教官は食堂を出ていった。それを確認してから俺はクロノに話しかけた。

 

「なあ、クロノ外に行って直接見ないか?」

 

「な!? 馬鹿か君は! こんな時ぐらい大人しくしてろ!」

 

「だってよ、生で見れる機会なんぞめったにないぞ? しかも「特別救助隊」だぞ? 救助のエキスパートだぞ? その活動を生で見れるんだぞ! 絶対外に行った方が良いって!」

 

「う、確かにその方が良いかもしれないが……」

 

「良いじゃねぇーか。見つかったら怒られるだけだよ。仲良く二人で怒られようぜ!」

 

「はぁ~、何でそんなに潔いいんだ」

 

「後になって後悔したくないだろ? ハッ! 俺今良い事言った?」

 

「いや、それほどの事は言ってない」

 

「ガッデム! なんて世の中だ!」

 

 そう言いながら俺とクロノは食堂からこっそり抜け出し、甲板を目指すのだった。

 

― 1058時 ミッドチルダ沖合 ―

 

 そこには、豪華なクルーザーと漁船の様な船が並んでいた。

 クルーザーには、周りに美女を侍らせ、小太りの男がゆったりと椅子に座っていた。その後では執事服の初老の男性が静かにたたずんでいた。

 そして漁船の様な船には4人の男性が乗っていて、漁船の甲板には布のかかった一抱え程の箱の様な物とトランクケース5つが置かれていた。

するとリーダー格らしき男が小太りの男に話しかける。

 

「よー、ハンスの旦那注文の品きっちり揃えてあるぜ」

 

 男はそう言うとトランクケースの一つを持ってクルーザーに乗り込み、ハンスの前で開け中身を見せた。

 そこにはビニール製の袋に入れられた白い粉がぎっしり詰まっていた。

 横では執事が白い粉を調べハンスに向かって頷く。それを見てハンスは嬉しそうに笑た。

 

「おお、そうか! チャック! これでまたひと儲け出来る。金はいつもの通りで良いのか?」

 

「それでよろしく頼むわ。それと旦那にはいつも贔屓にしてもらってるから今日はちょっとした土産があるんだ」

 

「ほう、なんだ?」

 

「いや、ここに来る途中に偶然捕まえたんだが、良かったらと思ってな。おい」

 

 チャックと言われた男がそういって合図する。

 ハンスの前にトランクケースの横に置いてあった箱を持ってきて、それにが撫せてあった布を取り払う。

 

バサァ

 

 と音がして中身があらわになる。

 それは箱ではなく檻になっていて、中には青いドラゴンの子供が入っていた。

 胴体は細長く西洋的なドラゴンではなく和風のドラゴンだ。

 檻の中でとぐろを巻いており不意に明るくなったので、顔を持ち上げ周囲を見ている。すると激しく暴れまわり遠吠えの様な叫び声をあげ威嚇する。

 

「おお、珍しいな。ウォータードラゴンの子供か」

 

「でしょう? ペットにするもよし、殺して薬の材料や、剥製にするもよし。旦那の好きにしてください」

 

「そうか、ではこれは貰っておこう。これからも贔屓にさせてもらおう」

 

 そう言って握手を交わし、チャックとその仲間が船に戻った時それは起こった。

 

ズガァァァーーーーン!

 

「な、なんだ!」

 

 ハンスが動揺して大声を上げる。両方の船が激しく揺れ、何人かが転倒しチャックの仲間の一人が海に投げ出される。

 

バシャァーン。

 

 慌てて落ちた場所に駆け寄っていく。

 水面を見るが落ちた奴は見当たらない。少し経つと水面に影が見えたので、浮き上がってきたと思ったが影はどんどん大きくなり、水面が持ち上がり巨大な何かか姿を現す。

 青い鱗、細長い胴体、口が長く先端には触角の様な髭の様なものが生えている。それはウォータードラゴンの成体だった。

 

「グルルル……」

 

 と、うなるように威嚇し口に銜えていたモノを船に向かって吐き出す。

 

ドチャッ

 

 と音がしてそれはハンスの前に落ちる。

 それは先ほど海に落ちたチャックの仲間だった。手足は不自然に曲がり、胴体には無数の穴、折れた首のせいで顔がハンスの方に向きハンスと目が合う、その顔は血まみれで壮絶な表情をしていた。

 

「きゃーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 ハンスの周りにいた女が叫び声をあげる。

 それにはじかれたようにチャックは持っていたデバイスを起動させ、仲間は質量兵器である銃を取り出し構え、ハンスは船内に逃げ、船長に向かってどなりちらす。

 

「は、はやく出せ!!」

 

「だ、駄目です! さっきから出力を上げていますが前進しません!」

 

船長が焦ったように言ってくる。

 

「な、何だと!? ど、ど、どうにかしろ! 何のために高い金で雇ってると思ってるんだ!」

 

「無理です! 最初の衝撃でスクリューが破損したようです!」

 

「何とかしろ!」

 

「む、無理です」

 

「そ、そうだ! 助けを呼べ! どこでも良い!! さっさとしろ!!!」

 

「わ、分かりました。」

 

そういうと船長は無線を手にしてSOSを発信した。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 俺とクロノは幸い誰にも見つかる事なく無事に甲板に到着した。

 そして、物陰からこっそり「特救」の様子を窺う。

 そこには甲板上で慌ただしくも冷静に、素早く、行動する「特救」の姿が有った。

 運ぶ機材、各自が身につける装備品の点検に準備、その一つ一つの練度の高さに声を上げる俺とクロノは感心する。

 

「お~、流石に早いな。全員動きに無駄がないな」

 

「確かに、こういった部分を見れるのは為になるな」

 

「そうだろう、そうだろう、救助だけ出来れば良いってもんじゃないからな」

 

 ビシッ! と俺とクロノが硬直する。

 俺達以外の第三者の声。ある意味お約束と言えばお約束なのだが実際やられるとやはりあまり良いものではない。

 ギギギ、と二人でゆっくり振り向くとそこには知らないおっさんがいた。

 あれ? ここは普通五味教官が良い笑顔で立っているものではないのだろうか? と場違いな事を考えつつおっさんを見る。

 そのおっさんは190はあろうかという身長に、銀色の制服を着た身体は無駄なく鍛え上げられている事が分かる、厳つい顔をしているが今は心なしか笑っている様に思える。

 

「え~、どちらs……ん? ぎ、銀制服だと!?」

 

「あ゛!?」

 

 二人して驚愕の声をあげる。

「銀制服」それは「シルバー」とも呼ばれ、厳しい入隊訓練をクリアした「特別救助隊」の人間のみが袖を通す事が許される制服。その制服を着た人物が今目の前にいる。

 今一度おっさんを見るとその顔は悪戯が成功した子供の様な顔だった。

 

「おう、そこの二人確か食堂で待機のはずじゃなかったか?」

 

「トイレに行こうとしたら道に迷って甲板まで来てしまいました」

 

 そう聞かれ答えたは良いものの、ものの見事にいつもの通り、脊髄反射並みにしれっと答えてしまったのが問題だった。

 焦ったクロノが小声で、

 

(こんなときになんて答え方するんだ!)

 

(問題ない、大丈夫だ!)

 

(大丈夫じゃない! 問題だ!)

 

 そんなふうにヒソヒソ話しているとそれを見かねたのか、

 

「あ~、そんなに焦るな。別に取って食う訳じゃないんだ。しかし、何でわざわざ甲板に来た? 食堂でもモニターできるだろ?」

 

「それは、え~っと何て説明すればいいのかな? 確かに食堂では現場の活動は見れると思いますが、今見ているところは見えないと思ったのでこっちに来ました」

 

「ふむ、「現場」だけでなくその前後も見たかったという事でいいのか?」

 

「はい、そんな感じです。現に今見ている「特救」の人たちの動きはとても参考になります」

 

 そう答えるとおっさんは考え出し、クロノは感心したようにこっちを見て言ってきた。

 

「一樹もちゃんと考えがあったんだな」

 

「何を言う! いつもちゃんと考えているぞ! どうしたら「何かイベントがあるかも」という気持ち抑えつつ言い訳が出来るかという……ハッ! おのれ! 謀ったなクロノ!?」

 

「どう考えても一樹の自爆だろ!」

 

 そんな事を言い合ってる内におっさんが聞いてきた。

 

「それはさて置きお前ら、もっと近くで見たいか?」

 

 会話はしっかり聞かれていたらしいが、そんな事を聞いてきた。

 

「い、良いんですか?」

 

 とクロノが答える。

 

「良いのか? ホイホイ誘っちまって。俺はシルバーだろうがなんだろうが弄り倒す男なんだぜ?」

 

 と俺が答える。直後、クロノが殴ってきたがヒョイっとかわす。

 

「おう、その代わり終わったら見た感想を報告書として提出してもらう。後は港に帰るまでの間は艦の清掃だな」

 

 ニヤニヤしながらそんな事を言ってきた。

 あ~、こりゃ逃げられそうにないかなと思いつつクロノと一緒におっさんの後について行くのだった。

 

「あれ? ベン隊長、その子供はどしたんですか?」

 

 おっさんについていくと、途中で若い隊員が話しかけてきた。

 どうやら既に準備は終わってるらしく後はベン隊長待ちの様だ。

 

「はじめまして。お父さんの隠し子の一樹dあべし!」

 

 言い終わる前にクロノに叩かれた。

 

「少しは自重しろ!」

 

 そんな俺達の様子に笑いながらもベン隊長はジェイクに話しかける。

 

「お、ジェイク準備は終わったか?」

 

「はい、一通り点検も終了していつでもいけます」

 

「そうか。その前に紹介しよう。今回カーディナルに士官学校の生徒が乗ってるのは知っているな? この二人はシルバーに憧れていてどうしても俺達の動きを生で見たいと言ってきたのでな。せっかくだから連れてきた。」

 

「そうですか。了解です。俺はジェイク・フィッシャーよろしく」

 

「おお、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はベン。ベン・ランドールだ」

 

「クロノ・ハラオウンです。」

 

「カズキ・ランdヘブシ! ……カズキ・サイトウです」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 二人で挨拶をする。

 途中無言でクロノに殴られ、すごい勢いで睨まれた。ジェイクさんが汗をたらしつつクロノに言ってきた。

 

「面白いやつだね」

 

 そう言われクロノはため息をつき

 

「馬鹿なだけです。誰でもあんな感じなので手に負えません」

 

 そんな事を言ってきたので

 

「そんな事を言いつつその状況を楽しんでいるクロノなのです」

 

 と補足を付け加えると、

 

「そんなわけあるか!」

 

 と突っ込んで来た。

 その様子をみて横でガハハと大声でわらうベン隊長。とても出発前とは思えない空気だ。しかしその空気が一変する。

 

パパパパパ

 

 反応したのは二人、俺とベン隊長だ。クロノとジェイクさんは何だ? と首をかしげている。そんな中俺はベン隊長に聞く。

 

「ベン隊長、この艦には質量兵器の防御装備、防弾関係はありますか?」

 

「ああ、とりあえず「特救」の分はある。こりゃ、装備させた方が良いな」

 

「ですね。音からするに7.62ぐらいだと思います」

 

「ほう、お前そんなことまで分かるのか?」

 

「聞いた事のある音なので。下手するとうちの世界の武器かもしれないです」

 

「そうか、そろそろ現場だ。今からサーチャーを飛ばす。何か分かったら教えてくれ。そうすりゃ艦の掃除は勘弁してやる」

 

 ニカッと笑い言ってくる。

 

「お安いご用です」

 

 そう言って俺もニカッと笑う。

 

「こっちだついてこい」

 

 そう言って俺はベン隊長について行った。

 

「え~と、クロノ君だっけ?」

 

「はい、何ですか?」

 

「あのカズキ君って何者?」

 

「なんて表現したらいいか分かりませんけど、ふざけてるだけの奴じゃないはず……です」

 

「そ、そうか」

 

 そう言いながら二人は船内へと消える一樹とベンの背中を見つめるのだった。

 

 その部屋は薄暗くなっていて、光源といえばモニターの明かり位しかなかった。

そこはCIC(Combat Information Center)又は戦闘指揮所と呼ばれる戦艦の中枢ともいえる部屋だ。

 

「状況は?」

 

 ベン隊長は、CICに入ると開口一番にそう聞いた。

 

「最低ですね。現在、密輸組織と思われる三人がウォータドラゴンと交戦中。一人が魔導師、二人が質量兵器で武装しています。そして、依頼人と思われる方ですが、こちらは全部で7名女性四人に男性四人、交戦はしておらず船内にいますね」

 

「そうか、武装はどうだ?」

 

「魔導師は、通常の杖型デバイスですね。他は銃で武装しています。流石にどんな銃かは……」

 

「あれはAK―47。装弾数30発、使用弾頭は7.62mm×39弾丸初速は710m/sec有効射程は約600mセミ・フルオートが可能な銃です。1949年ごろソビエトという国に配備され、その後も様々なところで使用され、今現在テロリスト等に使用され発展途上国で多大な被害をもたらしています。「世界最強の殺人マシーン」と言われたり「人類史上最も人を殺した兵器」とも「小さな大量破壊兵器」とも言われています。それはなぜか?非常に安価で多少乱暴に扱っても壊れない銃なんですよ。なので大量に出回り今では一億丁出回っているといわれています」

 

 通信員の言葉をさえぎり銃のスペックを教える。その説明を全員が聞き入っていた。

 しかし俺にはもっと気がかりな事があった。それはトランクケースの横にある長方形の木箱だ。俺の予想が正しいと結構ヤバめのものだ。

 

「それより、このトランクケースの横にある木箱、この中身って分かりますか?」

 

 通信員がベン隊長を見る。無言で隊長が頷く。

 キーボードをたたきサーチャーを操作すると、映像に木箱の中身が映し出される。そしてそこに映ったのは、

 

「チッ、RPG-7か。」

 

「何だ。その「あーるぴーじーせぶん」というのは?」

 

 隊長が聞いてくる。

 

「俗にいうロケットランチャーですよ。個人携帯出来る火器の中では高威力の物です。予備弾さえあれば何発でも撃てます。こちらも単純構造、取扱簡単、安価と三拍子そろっています。最大射程距離は弾頭に依存しますが500~700mぐらいです。ですのでカーディナルの防御がどの位強いか分かりませんが、射程内に絶対に入れないでください。ただ初速が115m/s、500mの地点で最大295m/sと若干ですが遅めです。それまでに撃ち落とせる装備があれば撃ち落としてください。それとまだ開けられて無いので絶対にこれに近づけさせないでください。近づいたら優先的に無力化してください」

 

「分かった、そうしよう。「特救」全員に通達! 各員、対質量兵器装備を着用、目標はウォータードラゴンと交戦している三名を無力化、更にトランクケース横の木箱には誰も近づかせるな! 近づいたら最優先で無力化しろ! ウォータードラゴンは俺がひきつける! その間に無力化しろ! 以上だ!」

 

 ベン隊長はそういうとCICから出ていった。

 俺は「ふう」とため息をつき再び映像を見て、何か見落としている事は無いか確認する。

 映像を見ている内に「特救」が出撃したようだ。6人ぐらいの隊員が空を飛び向かって行く。

 しかしウォータードラゴンは何でこんなところにいるんだろう?ふと気になったので通信員の人に聞いてみる。

 

「すいません。ちょっと聞きたい事があるんですけど」

 

「あ、はい。何ですか?」

 

「え~と、何でドラゴンがこんな処にいるんですか? いつもこの海域にいるんですか?」

 

「いえ、ウォータードラゴンもっと北の海域、冷たい海域にいて、温厚で大人しいと言われています。ですので何故あそこまで興奮しているか……ちょっと分かりません」

 

 ちょっと申し訳なさそうに言ってくる。

 う~ん三人を無力化しても最終的にはウォータードラゴンをどうにかしないと無理だしな~。原因は何だろう?

 そう思って映像を見ていると、「特級」が三人を無力化するのに成功したようだ。恐ろしく手際が良すぎて見逃した。なんてこったい。

 しかしドラゴンはまだ暴れている。何でだ?このままだとベン隊長ヤバくね?

 そう思って再び映像を見ていると、クルーザーの上に檻の様なものがあるのに気がついた。ありゃぁ何だ?

 

「すいません、クルーザーの上にある檻みたいなのあれ何ですか?」

 

「待ってください調べます……!」

 

「何か分かりましたか?」

 

「大変です! 檻の中にウォータードラゴンの子供がいます! しかも負傷しているようです! ウォータードラゴンが怒っているのはこれが原因のようです!」

 

 おふぅ、何というお約束。どうするか? 仕方ない直接現場に行きますか。ちょっとクロノに頼みますか。

 

「すいません、ベン隊長に伝えてください。そっちに行くのでもうちょっと時間を稼いでください」

 

「はぁ? ちょっとあなた何を言って……」

 

「頼みましたよ~」

 

 そう言って俺はCICを出ていった。

 

 CICを出て外に出ると、そこにはクロノがいた。柵に手をかけ戦闘を食い入るように見ている。

 

「ん、一樹遅かったじゃないか。「特級」がもう制圧し終わったみたいだぞ」

 

 そうクロノが聞いてきたので、お願いしようとしたら、

 

『おい、カズキどういう事だ! こっちに来るって!』

 

 とベン隊長が通信してきた。

 

「ベン隊長、至急確認してください。クルーザーの上に檻があってその中にドラゴンの子供がいます。その子供のドラゴンの容体を確認して教えてください」

 

『もう確認した。ありゃ、長くないぞ。流れ弾が当たっちまってる。呼吸がかなり弱い』

 

「大丈夫です。死んでなければ何とかなります。という訳でクロノよ、カズキ・ヴィ・サイトウの名において命じる! 全力であそこに向え!」

 

 と言うとクロノは「はぁ~」とため息をつき言ってきた。

 

「やっぱり巻き込まれた。分かったよ早くつかまれ状況からかなり急がなきゃ不味いんだろ」

 

「やっぱり通じないよね……流石クロノ今の会話を聞いただけで理解するとは、そこに痺れる! 嫉妬する!!」

 

「そんなこと言ってないでさっさと行くぞ」

 

「スルーはキツイでsぐえ!」

 

 そんな事を言っていると首根っこ掴まれてクロノがクルーザーに向け飛行し始めた。

 

― ベン・ランドール ―

 

 そこには6人の隊員がおり、各々出撃前の調整などをしていた。そこに俺が入るとすばやくこっちに向き敬礼をしてくる。

 

「敬礼!」

 

 と、一人の隊員が声をかける。全員が一斉に俺に敬礼をする。それを見て俺は敬礼を返し、

 

「楽にしろ」

 

 と言い、全員が直る。それを確認し話し始める。

 

「現場の状況が確認できた。現場には二隻の船舶がおり、内一隻はクルーザー、もう一隻は漁船の様な船だ。状況から密輸の取引最中にウォータードラゴンが現れ交戦そんなとこだろう、二隻の船の上で三人が交戦中。この中の一人は魔導師、残りの二人は質量兵器で武装している。更にクルーザーの中に7人が確認されている。武装はしていないようだが油断はするな。ここまでで何か質問は?」

 

 するとジェイクが手をあげ質問する。

 

「交戦中の三人の武装の詳細は?」

 

「魔導師は通常の杖型デバイスの様だ。他の二人の質量兵器にあっては「AK-47」といわれるマシンガンだそうだ。さらにトランクケースの横に木箱があるが、これには非常に強力な火器が入っているため、これを取り出そうとするのがいたら最優先で無力化しろ」

 

 更に他の隊員が手をあげ、

 

「質量兵器の情報の信頼度は?」

 

「たまたまその武器が使用されている世界の出身者がいてな、情報は信頼できる。他に質問はあるか?」

 

 ベンは全員を見るがこれ以上の質問は無いようだ。

 

「よし、続けるぞ。現在対象三名はウォータドラゴンと交戦中、よってその後方から近付き奇襲して三人を無力化する。武装した二名には四人、魔導師には二人つけ、魔導師は空から太陽を背に、武装の二人は匍匐飛行で背後から奇襲を仕掛け、ウォータードラゴンの注意は俺がひきつける。攻撃のタイミングは任せる。以上だ。各自全力で事にあたれ!」

 

「了解!」

 

 そういうと全員が一斉にカーディナルから飛び出した。

 

― チャック ―

 

 俺は内心毒づいていた。

 クソ! 簡単な仕事だったはずだった。いつも通りの航路、いつも通りに警戒網を潜り抜け、いつも通り依頼人に接触し品物を渡すだけだった。

 それがちょっとしたサービス精神を出したばっかりに取引は御破算。しかも命の危険までついてきた。

 チクショウ! もう二度とサービス精神なんてぞださねぇーぞ! そう思いながら必死にウォータードラゴンの攻撃をかわす。

 すると急にウォータードラゴンの動きが止まり、何かに警戒するように間合いを開ける。

 その瞬間今までウォータードラゴンのいた場所に魔力弾が着弾する。何だと思い上を見るが、後頭部に衝撃を感じチャックはそのまま意識を手放した。

 

― ベン・ランドール―

 

「隊長、魔導師無力化に成功、デバイスを確保。バインドで拘束しました」

 

「同じくこちらも武装した二人を無力化。バインドで拘束、密輸品等全て確保しました」

 

「クルーザーの乗組員を確保、全員バインドで拘束、現在カーディナルからの転送作業を補助中」

 

 初手の攻撃からどんどん報告が上がる。

 俺はウォータードラゴンと対峙しながら指示をする。

 ウォータードラゴンは警戒して攻撃を仕掛けてこない。じっと睨み合いが続いたころ、カーディナルから通信がくる。

 

『ベン隊長! 報告です! クルーザーの上にある檻の中にドラゴンの子供がいます! ドラゴンが興奮している理由はそれだと思われます! なお子供は負傷している模様!』

 

 チッ! それが理由だったか。ベンは舌打ちし急ぎ確認をとる。

 確かに檻の中にいたが、戦闘中に流れ弾が当たったのか出血がひどい、既に虫の息だ。不味い。このままではいずれ死ぬ。

 そしたらウォータードラゴンを止める術は無くなる。

 そうなる前に何とかしなければと思い、治癒魔法が使える隊員に念話で指示を飛ばす。しかし状況は芳しくない。そんな中更に通信が入る。

 

『ベン隊長! 先ほどの管制室に来た子供の、え~っと!』

 

 よほどの事か、らしくないほどに慌てている。

 

「どうした。落ち着け。カズキがどうかしたのか?」

 

『そっちに行くから時間を稼げと言ってCICから出て行きました!』

 

 何だと? こっちに来る?

 武装グループは無力化したがまだウォータードラゴンがいるのだ。危険度はまだまだ高い。

 そんな中に来るとは正気か? そう思い一樹に通信をつなぐように指示をする。

 

「おい、カズキ! どういう事だ! こっちに来るって!」

 

 通信がつながり、一樹に問いただす。

 

『ベン隊長、至急確認してください。クルーザーの上に檻があってその中にドラゴンの子供がいます。その子供のドラゴンの容体を確認して教えてください』

 

「もう確認した。ありゃ長くないぞ。流れ弾が当たっちまってる。呼吸がかなり弱い」

 

『大丈夫です。死んでなければ何とかなりなす』

 

 と、そんな事を言ってきた。

 正直驚いた。一樹は嘘をついている様子はない。この状況下でそんな事を平然と言ってのけた。

 クックック、そんな事を言われたら賭けたくなっちまうだろうが!

 

「よし! 各員に通達! 今からここに馬鹿がやってくる! それまで何としてもウォータードラゴンの子供を死なせるな!」

 

 さてここが正念場だな! 俺は目の前にいるドラゴンと再び対峙する。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 クロノに運んでもらい現場上空に到着した。

 

「クロノ、良いよHA☆NA☆SE」

 

「分かった」

 

 そういってクロノは迷い無くつかんでいた手を離す。

 

「ちょっとは躊躇しろよぉぉぉぉーーーーー!」

 

 と、ドップラー効果を残し落下する。

 ぐんぐん近づく海面、風切り音が鼓膜を鳴らす。とっさに気功で身体を強化し足に「気」をまとう。

 

バッシャァァァーーーーーーーン!!!

 

 海面をたたく音と共に水柱が上がる。

 あまりの事に周りにいた全員が唖然とする。水しぶきが晴れそこに視線が集中する。

 俺は「内気功」の一つ、「軽気功」を使い、水面に立つ。不慣れなのでゆっくりとしか動けず、ゆっくり船に近づく。

 船体に手をかけジャンプして勢いを殺さず船体の縁を乗り越え着地する。

 

「斎藤訓練生。ただいま到着しました」

 

 そういうと檻から出されたウォータードラゴンの元へ急ぐ。既に動きは無く呼吸は弱い。出血も多い。

 大口は叩いたものの此処までの大怪我を治した事などない。しかも相手はドラゴンで人間ではないのだ。人間以外にするのは勿論初めてで成功するかどうかも分からない。

 でもやらなきゃ絶対後悔する。この世界に来て、この力を得て、助ける事が出来る命は助けると決めた。

 その為に力もつけた。だから絶対に助ける! 腹が決まると右腕に「気」を集中した。

 身体を循環するイメージをつくり、その流れを肩に流し、肘につなげ、拳に溜める。狙うはウォータードラゴンの胸、傷口の近く。

 

「飛翔鳳凰、龍門(チャクラ)の一つ「龍掌」!」

 

 一樹は小さく呟き、ウォータードラゴンを思いっきりぶん殴った!!!!

 

 ドン!!!

 

 と音がし船体が揺れる。ドラゴンと対峙していたベン隊長はあまりの事に声が出ない。

 対峙していたウォータードラゴンも唖然としている。どうやら状況を多少は理解していたらしい。

 全員が動けず呆然としている中、クロノが空から降りてきて思いっきりぶん殴られた。

 

「何やってんだ一樹! ドラゴンの子供を治して親に帰すんじゃなかったのか!? 止めを刺してどうする!!」

 

「待て待てクロノ。よく見ろ! 死んでないよ!」

 

「そんな訳あるh……え?」

 

 クロノが視線を戻すと、さっきまで虫の息だったウォータードラゴンの子供がゆっくりではあるものの動きを見せ、俺に近寄ってくる。

 その場にいた全員が更に呆然とする。何せぶん殴って傷が治ったのだ。信じろという方が無理だろう。

 しかし現実にウォータードラゴンは回復し、俺にすり寄り、首に巻きついてそのまま首を絞めていく。

 

「なして?!」

 

 俺は必死に子ドラゴンの体をペシペシと叩く。声は出ていないが「ギブギブ!」と意思表示。

 すると伝わったのかウォータードラゴンも絞めるのを止め、顔をすりよせてきた。

 少しじゃれた後俺は立ち上がりウォータードラゴンへ歩み寄る。

 一歩、また一歩と、船の縁まで行きそしてウォータードラゴンの正面まで来ると、

 

「ちょっと乱暴な方法だったけど治せてよかった。あんたの子供は元気だよ」

 

 そう言ってじゃれていた子供を見せる、すると一樹の頭の中に声が届いた。

 

(感謝する、小さき人よ。確かに乱暴ではあったが我が子の命助けてくれた事感謝する)

 

「何だよ、お前しゃべれんのか?」

 

(無論だ。まあ、喋ると言っても直接ではなく魔力を飛ばしてと言ったほうが正しいがな。お前達のところで言う念話と言うやつだ。しかしお前は驚かないのだな?)

 

「龍がいる、その時点で俺の世界とは全然違うからね。喋った程度じゃ驚かないよ」

 

(そういうものなのか? まあ良い。それと我が子を救ってくれた礼がしたい。我に出来る事なら協力してやろう)

 

「え? 急に言われてもな~、う~ん。あ、そうだちょっと相談なんだけど。…………て何とかなんない?」

 

 周りに聞かれても不味いのでそばにより小声で話す。

 

(それだったら、これを使え)

 

 そういうとウォータードラゴンは目から涙を出し、それを結晶化させた。

 その数は二つ。それは恐ろしい程の魔力を秘めており神々しい輝きに満ちていた。

 

「これは?」

 

(我々の涙を結晶化させたものだ。それを飲ませれば、言伝えでは万病を治し、死者すら生き返らせるといわれているが、実例がないので何とも言えないがな。まあ試してみる価値はあるであろう)

 

「……これを使って子供を助ければよかったんじゃね?」

 

 俺はその効果を聞いてそう聞かずにはいられなかった。

 

(残念ながらどういう原理か分からないが同族には効果が無いのだ)

 

「マジか……、微妙に使えねーな。でもサンキューな! 恩にきるよ!」

 

(気にするな。元々此方の礼だ。また何かあったら我を呼べ。出来る限り協力させてもらおう。)

 

「おう! ありがとな! 何かあったら頼りにさせてもらうよ。」

 

(では、また会おう小さき「一樹」む?)

 

 ウォータドラゴンの言葉をさえぎり自己紹介する

 

「斎藤一樹だ、こっち風にいうとカズキ・サイトウかな」

 

(そうか、ではまた会おう一樹。我はヴァリトラ。水神の一角を担う龍である)

 

「おう。また会おうなヴァリトラ」

 

 そういうとヴァリトラは子供と一緒に海中に消えていった。

 それを確認すると俺はその場に座り込んで、大きなため息をついた。

 今手にあるのは龍の秘宝ともいえる物、それを使う事によりどう影響するかは分からない。でも重要なキーが出来た。まだこれからの事は分からないけど少しずつ良い方向に向かっていると信じたい。

 しかしこれからどう言い訳しよう。近づいてくるクロノやベン隊長を見るとそう思わずにはいられなかった。

 

 あたりは既に暗くなっていて、空には大量の星が輝いている。

 

「さっき、ドラゴンと何を話していたんだ?」

 

 警戒態勢も解除され「特級」の後片付けや、押収品の運搬と説明(ほとんどの質量兵器が地球製だったため)更に教官にこの事がばれ正座でクロノと共に説教された。

 その後ベン隊長に「卒業後はどうするんだ?」と、聞かれたので「18歳になるまで地球で勉強します」と断りを入れておいた。

 そして今クロノと一緒に甲板に出て缶コーヒーをのみつつ一息ついている所でクロノが聞いてきた。

 

「ん~? 子供を助けてくれてありがとうだって。困った事があったら協力するって言われた。て言うか聞こえてなかったのか」

 

 龍の涙(自分で命名)の事は隠しつつクロノに話す。

 そこで初めて俺以外は聞こえてないと知ったのだった。

 

「ああ、はたから見たらドラゴンに向かって一人話したり、驚いたりしていてなかなか見物だったよ」

 

 なん……だと?

 しかしあの会話が聞かれなかったのは不幸中の幸いである。

「万病に効く」とか「死者を生き返らせる」とか聞かれていたら確実に取り上げられていただろう。せっかく手に入れた「キー」なのだ、取り上げられてたまるか。

 

「そんな状態だったとは、ヴァリトラめ! 一言断れば良いものを! 後で泣かす!」

 

「まて、君は今何って言った?」

 

 あの野郎と思いながら言っているとクロノが驚いていた。

 

「ん? 後で泣かすって言ったぞ?」

 

「もうちょっと前だ!」

 

「そんな状態だったとは?」

 

「一樹、わざとだな? わざとなんだな? そうなんだな?」

 

「期待通りの反応ありがとう」

 

「いいからっさっさと答えろ!」

 

 若干キレ気味に言ってくる。やっぱりからかいがいのある奴だ。期待通りの反応もいただいたので素直に答える。

 

「ヴァリトラか?」

 

「ホントにそういったのか?」

 

「ああ、後「水神の一角を担う」とも言ってたぞ?」

 

 それを聞いてクロノはため息をついた。

 

「ホントに一樹といると信じられないような事が起きるな」

 

「で、どの位有名なんだ? ヴァリトラは?」

 

「有名ね、そんなもんじゃないよ。ほぼ伝説上の生き物だ」

 

「え? だってお前ら「ウォータードラゴン」って言ってなかったか? 生息域が分かってるぐらいなんだろ? 伝説ってのは言い過ぎなんじゃないか?」

 

「確かに言ったしヴァリトラ自体も「ウォータードラゴン」だがら間違ってはいないんだ」

 

「じゃあ、なんだってんだよ」

 

「ヴァリトラの名前が出てきているのは古代ベルカ時代より更に前の時代、ざっと計算しただけでも1000年以上前になる。その時語られているのは「大いなる災いから生きとし生けるものを救いし龍神ヴァリトラ」だそうだ。何からどう救ったのかは知られていないが少なくとも実在する事が判明した訳だ」

 

「なんと! あいつそんなに凄かったのか。どうするかクロノ。出来る事なら協力するって言われたぞ? 世界征服とかでも大丈夫かな?」

 

「馬鹿か君は? もっとマシな事を協力してもらえ」

 

「ですよね~」

 

 など軽い会話をしていると、誰かが近づいてくる。

 二人同時に振り向くとそこにいたのはベン隊長だった。「よう」と言いながら隣に来る。

 

「昼間は世話になったな。一樹がいたおかげで大分時間が短縮出来た。」

 

「え? そうなんですか?」

 

意外だった。別段特別な事はしてないはずだが?

 

「ああ、今回押収した質量兵器があるだろ? 普段はあれがどの世界の物かというところから始めて、どう造られ、どう使われ、どの位の危険度の物なのか、というのを地道に調べるんだぞ? それが一気に解決したんだ。普段だったらまだ書類整理の真っ最中だ」

 

 ああ、成程。

 確かに管理局が管理している世界ならともかく、確か地球は管理外世界だからな。調べるのにも時間がかかるだろう。

 そういった貢献が出来たのなら嬉しい限りである。書類整理の辛さは警察官時代に嫌と言うほど味わっている。

 

「そうですか。お役に立てて良かったです」

 

 そういうとバンバンと背中をたたかれまたお礼を言われた。

 それはそうと気になる事が一つあるのだ。

 

「ベン隊長ちょっと聞いてもいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「あの質量兵器。若しくは似たようなタイプの物見た事ありますか? それはいつ頃から?」

 

 ちょっとした沈黙の後ベン隊長は答えてくれた。

 

「ああ、ある。あれと似たようなものなら2~3年前からチョロチョロ見かけるようになったな。まだ調べきってないから押収品倉庫の中に結構な数があると思うがな、まあ今回の事でどの世界で使われているかが分かっただけでも儲けものだ」

 

 ふむ、成程つい最近からという事か。

 調べたいが情報が少なすぎる。捕まえたのにどの世界の物かも分かってない様じゃ捕まったのは末端も末端だな。これからの捜査に期待ってとこか。

 

「もし何かあったら手伝います。いつでも呼んでください」

 

「ああ、その時はよろしく頼む」

 

 そういうとベン隊長は艦内に戻って行った。それを確認してクロノが聞いてくる。

 

「一樹、君は士官学校を卒業したらホントに地球に戻るのか?」

 

「ん? なんだ急に?」

 

「僕たちは後半年もすれば卒業だ。そしたら僕は執務官になるため本格的に勉強を始めるつもりだ。そう思っていたら一樹はどうするのかな?って思ってさ。そしたらさっきベン隊長に言ってただろ、「18歳になるまで地球で勉強します」って。一樹は空は飛べないし、射撃も防御魔法も出来ない。でも地上での模擬戦は無敗だし、治癒なんか魔法より強力だ。それだけの能力があるのに、力があるのにどうしてすぐに管理局で働かないのかなって思ってさ。」

 

「なんだ、寂しいのか?」

 

「茶化すな。その力があれば助けられる人達が沢山いるかもしれない。救える命が沢山あるかもしれない。そう考えなかったのか?」

 

「う~ん、どうだろうな。正直そこまで考えてなかったし、ベン隊長に言ったのはまあ方便みたいなもんだからな。地球の日本じゃ就職するのは18歳くらいからが一般的だしな。それまでは管理局でアルバイトとか非常勤しながら自分のしたい事を見つけようと思ってたからな」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、しかも魔力があっても魔法が碌に使えない。そんなんじゃいつ首になってもおかしくないだろ? そしたら日本に戻らなきゃいけないし、その時ある程度の学がなきゃ就職だって出来ないよ。だからどっちにしろ俺は18までは日本を拠点に考えてるよ」

 

「今はその、なりたいものとかは無いのか?」

 

「まあ、人助けが出来るものだったら良いなと思ってるよ。だから管理局に就職ってのも候補のうちの一つだし。その管理局の事だってまだ全然知らないんだ。どんな部署があって、どんな仕事があるのか。だからおいそれと簡単に選べないよ。それに簡単に管理局を選べない理由もあるしな。」

 

「何だその理由って?」

 

「年端もいかない子供が前線にいる事だよ。はっきり言ってこれは異常だ。少なくとも日本ではありえない事だよ。いくら魔法が使えたって、いくら魔力が強いからって、「人材が足りない」たったそれだけの理由で子供に命の危険がある様な仕事をさせる。それが理由だよ。」

 

「しかし、管理局は多くの世界を守っている。それは仕方ないんじゃないか?」

 

 その言葉を聞いて俺はため息をつく。

 

「はぁ、クロノ話をしよう、そうだな今から10年後ぐらいの話だ。クロノはエイミィと結婚して子供が出来た」

 

「ブーーーーーーーーー! ゲホッゲホッ。どうしてそこでエイミィが出てくる!」

 

 クロノは飲んでいた缶コーヒーを吹き出し抗議してきた。

 

「もちつけ、まったくいつも期待通りの反応をする。ただたんに年の近い女の友達がエイミィしかいなかっただけだ。特に深い意味は無いよ」

 

「君ってやつは(怒)」

 

 どうせそのぐらいには結婚するんだからな。

 

「まあまあ、で話の続きだがエイミィとの間に出来た男の子としておくか、男の子は元気に育っていきました。しかしある時男の子にリンカーコアが有ることが分かり、魔力も巨大なものでした。当然管理局は目をつけ魔導師として育てる。そして魔力が巨大なため任務も当然危険なものになる。クロノお前はそれを許せるのか?」

 

「………………」

 

「実感がわかないか?しかしこれは十分にあり得る話だぞ。現にリンディさんはその立場にいるだろうからな」

 

「あ、……」

 

「そして、一番最悪なのはクロノお前がリンディさんに「殺される」事だよ」

 

 流石にこれにはクロノが反応してきた。

 

「馬鹿な事を言うな! そんな事は絶対にない!!!」

 

「クロノお前は勘違いをしていると思うぞ? 「殺される」というのはリンディさんがクロノに「死ね」と「命令」しなきゃいけない、そういう状況に追いやられる時だ。俺はそんなこと出来そうにない。俺は自分の子供と顔も名前も知らない一万人だったら自分の子供を選ぶよ。それを踏まえたうえでもう一度聞こうクロノ。お前はそれでも管理局が正しいと胸を張って言えるのか?」

 

「……」

 

「意地悪かもしれないが現にクロノ、お前はそういう状況にあるんだ。リンディさんにそんな思いはさせるなよ?」

 

「ああ、分かったよ」

 

クロノはかろうじてそう言う事が出来た。

 

「それにな、「子供」は身体も精神も未発達なんだ。体力は大人より無いし、仲間の生死をみて確実に取り乱すだろう。前線でそんな事になってみろ、最悪その一人にせいで部隊が全滅なんて事になりかねないぞ? 「子供」ってのはそれだけのリスクを背負ってるんだ。そんな事をしている組織をどうしてそんなに「正しい」と思えるか俺は不思議でならないよ。まあこれは俺の考えだからな、「こんな考えもある」って程度に思っていてくれ」

 

 そう言うとそれっきり二人で黙り込んでしまった。色々と思うところがあったのだろう。斯く言う俺も父さんにそんな思いはさせないとカーディナルの甲板の上で綺麗に出ている月を見上げながら誓うのだった。

 

 

 


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