魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第四十八話

― 斎藤一樹 ―

 

「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺は全員から蒐集していたら、いつのまにか管制人格ことリインフォースが出てきてた。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」

 

「普通に蒐集しただけじゃねーか」

 

「ですよね」

 

 ヴィータに突っ込まれる。

 

「それにしても予想外だ。こんなに早く400ページ以上集まるとは……」

 

 シグナムがそう呟く。そらそうだ。俺だってアースラメンバーだけで400越えするとは思わなかった。

 因みに蒐集の内訳は、なのちゃん、フェイト、亜夜の三人で120ページ、ゼストさん、クイントさん、メガーヌさんで100ページ、リニス、アルフ、ユーノで60ページ、クロノ、リンディさんで60ページ、プレシアさん一人で80ページ合計420ページ。俺の9ページって……orz

 凹む、これはマジで凹むわ~。俺が9人いてやっとプレシアさんの魔力を超えるという現実に軽く絶望する。

 そんな事はさておき、管制人格事リインフォースはというと夜点の書を胸に抱きはやてをじっと見ていた。

 

「………………」

 

 はやてもいきなり現れたリインフォースポカンと見上げている。

 そんな無言が続くのでこんな行動をしちゃったのは仕方ないと思うんだ。

 俺はリインフォースの後ろに周りこんで、パーティー等で被る三角帽(紙製)を頭にのせて、さらに髭眼鏡を装着させる。

 

「ブウゥゥゥーーー!! か、一樹兄ちゃんいきなり何しとるん!?……ップ」

 

 それを見たはやてが盛大に吹き出した。

 突っ込んだ後再びリインフォースを見て笑いを堪えている。

 

「主はやて、この輩を敵と認識しました。ぶちのめして良いでしょうか?」

 

 リインフォースは俺に向き直ると静かに怒ってきたが、三角帽と髭眼鏡をつけっぱなしなので迫力は全く無い。

 

「いや、二人が無言で見つめあってるから何かしないといけないと思って」

 

「せんでええ」

 

「主はやて、許可を」

 

「あかん、っていうかそれ外さんと」

 

 そう言ってはやてはリインフォースをしゃがませて三角帽と鼻眼鏡を外し、

 

「うんしょっと」

 

 迷う事無く自分で装着した。

 

「あ、主?」

 

「どや? 似合っとる?」

 

「やると思ってたよ」

 

「いや~、これを手にしたらやることは一つやろ?」

 

 そう言って何故かご満悦のはやて。そこはかとなく楽しそうだ。

 そんな風にふざけていると、

 

「はやてちゃん! 一樹さん! 遊んでないで手伝ってください!」

 

「「あ……」」

 

 一人で蒐集されてぶっ倒れてるなのちゃん達を治療していたシャマル先生の叫びが部屋に響いた。

 その後、なのちゃん達を各部屋に運び一息入れるため食堂に移動し、人数分の飲み物を用意する。今この場にいるのは、シャマル先生を除くヴォルケンリッターと、俺とゼストさんだ。はやてとリインフォースはなのちゃん達に付き添っている。

 

「いや~、しかしみんな鍛え方が足んねーんじゃねーか? 蒐集されてゼストさん以外全員ダウンとか」

 

 蒐集されてピンピンしているのはゼストさんのみ。耐えたという点ではクイントさんも入るが、立ち上がっても生まれたての小鹿のように膝がガクガクだった。なので今は用意された部屋で休んでもらっている。

 他の皆は立ち上がることも、動くこともできなかった。

 

「これが普通だ。むしろお前ら二人が異常だ」

 

「「むっ」」

 

 ザッフィーに冷静に突っ込まれてしまった。

 

「まあ、普段の訓練が異常だからなうちの隊は」

 

「……自覚あったんすねゼストさん」

 

 何気ない一言に呆れてしまう。

 

「ほう……、参考までに聞かせてもらおうか」

 

 ずい、と身を乗り出してきたシグナム。

 

「これを使っている」

 

 そう言ってゼストさんは懐から白いリストバンドを取り出しテーブルの上に置く。

 

「これは?」

 

「着けてみれば分かるよ」

 

 聞いてくるシグナムに説明する。

 

「ふむ」

 

 そう言ってシグナムは何気なくリストバンドを装着し、

 

「なっ?!」

 

 椅子から転げ落ちた。

 

「ああ、すまない。設定を戻していなかった」

 

 そう言ってゼストさんはシグナムに近づき、リストバンドを操作し始める。

 すると今まで腕が軽くなったのかシグナムはあっさりと立ち上がる。

 

「こ、これは一体?」

 

 リストバンドを眺めつつ聞いてくるシグナム。

 

「これはウチの隊で訓練に使っている魔力負荷及び筋力負荷が可能なリストバンドだ」

 

「というと?」

 

「リストバンド自体が魔力の流れに負荷をかけるんだ。負荷と開放をすることで魔力の強化をする。そしてそれに慣れたらプラスで筋力負荷、リストバンド自体が重くなる。こっちの負荷は今の所最大で100キロだ」

 

 俺はリストバンドの説明をする。

 

「……今の設定はいくつになってんだ?」

 

 気になったのかヴィータが聞いてくる。

 

「そういやあ、いくつだったんですか?」

 

 シグナムが転げ落ちる程だ。かなり強い負荷が掛かってるはず。

 

「魔力負荷に関しては最大にしてある。筋力負荷はこの間90キロに入った所だ」

 

「「「きゅ、90キロ!?」」」

 

 ヴォルケンリッターが驚愕する。

 そらそうだ。魔力で身体を強化してんなら兎も角、それ無しで90キロはどう考えても異常である。

 

「……また重さがアップしてんじゃないっすか」

 

「そういう斎藤はどうなんだ?」

 

「この間やっと70キロに入ったとこですよ」

 

「ほう、順調に伸ばしているな」

 

 にやりと笑うゼストさん。

 

「まあ、魔力が一切伸びませんからね、こっちくらい何とかしないとね」

 

 そのお陰か「氣」の方は順調に伸びていますがね。

 

「は、ハン! た、たかが70キロじゃねーか! そんくらいあたしだって直ぐに……」

 

 対抗心を出したヴィータが裏声で言ってくるが……、

 

「ヴィータだったな? 勘違いしている様なので訂正するが、一樹の言ったのは片腕で70キロだ」

 

 片腕の部分を強調するゼストさん。

 

「か、片腕? ……って事はもしかして」

 

 若干顔を青くするヴィータ。

 

「そ、両手両足、さらにはベルトにも同様の筋力負荷が掛かっているので合計70×5で350キロだな。そんでもってゼストさんは90×5で450キロって事だ」

 

 我ながらよくこんな負荷をかけて訓練できるものだと思う。

 この訓練は、24時間ずっと身体能力を魔力で強化していないとできないもので、魔力の極効率運用が求められる。

 これをすると自然(強制とも言う)とそれが身につき、息をするのと同じように身体能力の強化ができるようになる。

 まあ、できるようになるまでは地獄を見る破目になるが……。

 それさえ乗り越えれば魔力量の増加、運動能力の大幅な向上が見込める。俺の場合は『氣』が向上して『魔力』はほとんど向上しなかったがな!

 

「両足に加えベルトもかよ……」

 

「……お前一人で我々を相手できた理由が分かった気がするな」

 

 ザッフィーの呟きに満場一致で頷くヴォルケンリッター。

 

「ま、訓練はそんな感じだよ。これだけやれば否応でも鍛えられる」

 

「……限度というものを知らんのか?」

 

 ザッフィーが呆れながら言ってくる。

 

「「俺の辞書には載ってないな」」

 

 俺とゼストさんは堂々と答える。

 

「胸を張って答える事じゃないだろ。それとその辞書落丁してるから。不良品だから返品してこい」

 

 そんな俺達に突っ込みを入れたのはクロノだった。

 

「お、クロノ回復したのか?」

 

「完全とは言えないけどな。書類仕事をする分には問題ない」

 

 そう言いながらこっちに歩いてくるが若干足元が覚束ない。

 

「これで異常なヤツがまた一人増えた訳だ」

 

「いきなり失礼だな。僕は普通だ」

 

「この短時間で回復している時点で普通じゃねーよ」

 

「む……」

 

 どうやら少し自覚はあったようだ。

 

「で、どうしたんだ? 何か用でもあるのか?」

 

 ふらふらのクロノがわざわざこっちに顔を出したのが気になったので聞いてみた。

 書類仕事ならこっちに来なくても部屋でできるし、聞きたいことがあるなら通信でもいいわけだし。

 

「ああ、ちょっとヴォルケンリッターに聞きたい事があるんだ」

 

「我々に?」

 

 シグナムが怪訝そうな顔をする。

 

「ああ、覚えてる範囲でかまわない」

 

「と言うと?」

 

「11年前の事だ」

 

 クロノの言葉を聴き、クロノが何を聞こうとしているのかを理解する。

 道理で複雑な顔をしている訳だ。

 

「クロノ! お前はまだ過去に囚われているのか!」

 

「一樹、僕もどうすれば良いのか分からないんだよ。少なくとも理屈では消えないんだ、憎しみも、後悔も……。父さんが死んだあの日、母さんがずっと泣いていたのを覚えてる。それが許せなかったんだ。自分の母親をこんな目に合わせた奴等が」

 

 声を荒げるでもなく静かに淡々と答えるクロノ。まるで自分自身にも言い聞かせているように言葉を紡いでいく。

 

「子供だったからなその時は。母さんをこんな目に合わせた奴等を必ずやっつけてやるなんて思ってたよ。管理局に入って、執務官という立場になって、闇の書を調べてきた。何か手がかりが無いか当時の資料を漁ったりもした。必死になって魔法の訓練もしてきた。今思えば執務官になったのだって闇の書を自分で何とかしたかったからなのかもしれない」

 

「「「…………」」」

 

 ヴォルケンリッターは黙ってクロノの言葉を聞いている。

 

「そしてそれが今目の前にいる。言い方は悪いが親の仇が目の前にいるんだ」

 

「でクロノとやら、お前はどうしたいのだ?」

 

 いつの間にかきていたシュバルツもといクライドさんがクロノに問いかける。

 

「く……シュバルツ? いつの間に来たんだよ?」

 

 ヴィータがネタばれしそうになるが寸でのところで訂正する。

 

(ヴィータ! 気をつけろよな!?)

 

(わ、わーってるよ!!)

 

 念話で注意をする。

 

「実は最初からいた」

 

 そういって指差した先にはテーブルの上におかれた食器と明兄ちゃんがいた。

 どうやら食事をしていたようでこっちに気づいた兄ちゃんがにこやかに手を振っている。

 全員で唖然としながら

 

『全然気づかなかった』

 

 声をそろえて言う。

 

「話を折ってしまったな。もう一度聞こう、クロノお前はどうしたいんだ?」

 

 クライドさんが問いかける。覆面の下の目は真剣だ。

 

「だから最初に言っただろ? 分からないんだよ。僕が調べた資料には、守護騎士は主の命令に忠実で、機械のようだとあった。でもヴォルケンリッター君達はどうだ? 泣いたり、怒ったり、笑ったり、仲間を心配し、主の命令に逆らって主を助けようとした。僕達とどこが違う? 同じだろ? だから分からなくなった」

 

 いっそ冷酷なままだったらこんなに悩まないで済んだかもしれないな、とクロノは呟く。

 

「ほう、では何もしないと? 良いのか? 仇をとるまたとないチャンスだぞ? もうこんなチャンスは巡って来ないかも知れんぞ?」

 

 クライドさんがここぞとばかりに言ってくる。

 ちょっと厳しすぎやしやせんかね?

 

「シュバルツだったか? 確かにその通りかもしれない、でもそんなチャンスは僕は願い下げだ。僕は父さんと母さんのしていた仕事、管理局の仕事を誇りに思っている。だからこそ、ここでそんな事をしても二人は絶対に喜んだりはしない」

 

「本当にそうか? それはお前の想像、いや、そうであってほしいという願いではないのか?」

 

「確かに本人に聞いたわけじゃないから絶対とは言えないし、僕の願いだというのも否定はしない。でも、父さんはそんな事はきっと望まない。それだけは分かる」

 

 クロノもそう言ってクライドさんから目を離さない。

 

「理屈ではないのだな……、お前がそう言うならきっとそうなのだろうな」

 

「ああそうだ。でも何もしないわけじゃない。僕はヴォルケンリッターの事を知っていこうと思う。分からないままにしては駄目なんだ。本当に悲劇を繰り返したくないのなら、誰かがそれをやらなきゃいけないのなら僕がそれをやる」

 

 そう言ったクロノはどこか自分でも納得したような顔だった。

 

「でもクロノ、分かろうとするならその質問はヘビーじゃねーか? もっとソフトな質問もあっただろうに……」

 

「……僕もそう思ったがきっかけになればと思ったし、何より僕が知りたかったんだ」

 

「知りたいからだったんかい……」

 

 クロノがこんな事を言うこと自体が珍しい。いつもは任務や仕事を優先し、私情は決して混ぜてこなかった。お堅い性格で、自分の事は後回しにして仕事を優先するクロノがだ。

 クロノも変わったものだと思いつつヴォルケンリッターを見ると、

 

「「「………………」」」

 

 誰もクロノの問いに答えようとしない。……いや、答えられないのか?

 11年前闇の書が暴走したときはヴォルケンリッターは(アニメでは)いなかったし。

 そんな風に考えていると、

 

「一樹兄ちゃん、11年前の事って?」

 

 その声は食堂の入り口から聞こえてきた。

 入り口を見ると、車椅子に乗っているはやてとその車椅子を押しているリインフォースが立っていた。

 その姿を見てため息を一つつく。あんましはやてには知られたくなかったんだがな~。

 

「あ~、はやての前に夜天の書を所有していた奴の事だ。はやてが気にする事じゃない」

 

「ほんま?」

 

「ああ、はやては全くもって関係ない」

 

「……私には無くても守護騎士のみんなにはあるんやね?」

 

 ……どうしてこう鋭いんだろうか? 俺の態度がまずかったか?

 

「そんな鼻の頭に血管が浮き出てたらいやでも分かるで?」

 

 そういわれてとっさに鼻を抑えてしまう。

 

「マヌケは見つかったようやね」

 

 にやりとするはやて。

 

「って、俺は別にスタンド使いでもないですから!」

 

「でもそういう反応してる時点でアウトやね」

 

 それはまあ、確かにそうなのだが……。しょうがない話しておくか。

 

「……十一年前に、管理局が多大な犠牲を出しつつやっと確保した夜天の書が移送途中に暴走し、当時護送を担当していたクライド・ハラオウン艦長率いるエスティア他数隻を巻き込み消滅。幸い乗組員の殆どが無事に避難はできたものの、エスティアの艦長クライド・ハラオウンがクルーを逃すための犠牲となった。それが十一年前の出来事だ」

 

「クライド……ハラオウンって……」

 

 はやてがはっとしてクロノを見る。

 

「そう、リンディさんの旦那さんでクロノの親父さんだよ」

 

「「「?!」」」

 

 流石に守護騎士達も驚きの表情を隠せない。

 

「ああ、それで教えてほしかったんだ。父さんの最後を」

 

「た、確かに一樹兄ちゃんの言うとおり、お互いを知ろうとする質問にしてはヘビーやね」

 

 若干顔を引き攣らせはやてが答える。

 

「主、問題ありません。その事が知りたいのでしたら本「そぉい!!」「「「「うわぁぁぁ!?!?!?」」」」」

 

 リインフォースが口を滑らせるところだったので強制的に黙らせる。

 方法は伝家の宝刀「ちゃぶ台返し」である。まあ、食堂のテーブルだけどね。

 それはそうとあたりは阿鼻叫喚である。テーブルに載っていたお茶やコーヒーが乱れ飛び、ヴィータはお茶を頭からかぶっていた。

 

「アツ! 熱いぃぃぃ!!!!」

 

「か、一樹兄ちゃん!? 何てことするんや!!」

 

「一樹! いきなり何するんだ!!」

 

 いっせいに抗議の声が上がるが気にせずリインフォースに詰め寄る。

 

「なにぃぃ!? 本にまとめるだと?! それなら誰もが感動するような超大作に仕上げようぜ!!」

 

 俺はそう言ってリインフォースを抱えダッシュで食堂を出て行った。

 

 

 

 

 




 とりあえずこれで今まであげてた分は終了です!次からは完全に最新話になるので時間がかかりますが、頑張りますのでこれからもよろしくお願いします!!
 まだまだ未熟なのでいたらない点が多いと思いますが、それらも遠慮なくしていただけるとありがたいと思います!
 ではこれからもよろしくお願いします!!


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