魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第四十三話

― 高町なのは ―

 

 それは、ベットの上でくつろいでいた時に起きた。

 

「結界魔法!? 誰が!!」

 

 私は慌てて窓から身を乗り出して外の様子を見る。

 外は鈍い虹色のようなグラデーションになっていて、人気が無くなって静かになっている。

 

「レイジングハート!」

 

《イエス、マスター》

 

 そう言ってバリアジャケット姿になる。

 

「こんな大きな結界なら、一樹お兄ちゃんも亜夜ちゃんも気付いてるはずなんだけど……」

 

《はい、しかし二人からの連絡は今のところありません》

 

(亜夜ちゃん、一樹お兄ちゃん! 聞こえる?)

 

 二人に念話を送ってみるが返事は無かった。

 

「なんで?」

 

《今の状況に気付いてないという事は考えられません。ジャミングの可能性もあります》

 

「うん、他の可能性は……これ自体に関わってる?」

 

《はい。可能性は高いと思われます》

 

 一樹お兄ちゃんなら間違いなくこの状況に関わってる。絶対と言いきってい良いほどに。

 面白そうな事があったらそこに首を突っ込まずにはいられない。それが一樹お兄ちゃんなんだから。

 

「連絡がつかないんじゃ直接聞くしかないよね」

 

《はい、どっちにしろ現状ではそれしか手は無いかと》

 

「そうだね、行こうレイジングハート!」

 

《イエス、マスター》

 

 そう言って、まどから飛び出そうとした時、

 

ガチャ

 

「なのは、急に景色が変になったんだが何か知ってるかい?」

 

 お父さんが部屋に入ってきた。

 

「……え? あれ?! 何でお父さんが結界の中にいるの!?」

 

「え? いや、下に恭也と美由希もいるよ?」

 

「お、お兄ちゃんと、お姉ちゃんも!? れ、レイジングハート!? どういう事?」

 

 結界の中にはリンカーコアのある人以外入って来れないはずじゃなかったの?

 この間は入れるように設定してあったから入れたはずなんじゃ……。

 

《恐らくですが、三人ともPT事件で魔法に関わり、何らかの原因で抗体、耐性のようなものができ通常では入れない結界内に入れるようになったのではないかと。勿論きちんと識別された場合は判りませんが、このように不特定の場合は入れるのではないかと……》

 

「あ、だからお母さんはいないんだ「いや、母さんもいるぞ?」……何で!?」

 

「何でって聞かれても父さんに判るわけないだろ?」

 

「レイジングハート?」

 

《力になれず申し訳ありません》

 

「流石に予想外だよね……」

 

「まあ、母さんの事は父さんに任せなさい。見た所この原因を調べに行くんだろ?」

 

「うん」

 

「一人で大丈夫かい?」

 

「多分平気、それに一樹お兄ちゃんも関わってると思うから」

 

「そうか、それなら大丈夫だな」

 

 それを聞いて即答してくるお父さん。

 ……お父さんは何でそんなに一樹お兄ちゃんを信用しているんだろう?

 一樹お兄ちゃんのせいで何度危険な目に遭った事か……。

 

「お父さんはどうして一樹お兄ちゃんの事をそんなに信じられるの?」

 

「ん? なのはは信じられないのかい?」

 

「う~ん、信じられないんじゃないんだけど、何て言うかこう……もっと真面目にしてくれたらいいのにって思うの」

 

「ははは、そうだね。それはあるかもしれないね。でもね、一樹君ならきっとどんな時でもなのはの味方だって思うんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、どんな時でもね」

 

「う~ん、そうなのかな?」

 

 お父さんからの信頼はあるみたい。

 

「まあ、そのうち分かると思うよ。それより行かなくて大丈夫なのか?」

 

「あ、そうだね。じゃあお父さん行ってくるね」

 

「ああ、無理しないようにな」

 

「はーい」

 

 そういって、今度こそまどから飛び出していく。目指す場所は……臨海公園の方だ。

 

《マスター》

 

「うん、分かってる。行くよレイジングハート!」

 

《イエス、マスター》

 

 魔力反応のある臨海公園に向かって飛んでいく。

 町を眺めながら飛んでいくけど、幸いお父さん達みたいに結界の中に入り込んだ人はいないみたい。

 そのまま進んでいくと音が聞こえてきた。金属のぶつかり合う様な音と、爆発音が聞こえてきた。

 もっと近づいてみると四つの魔力光が見えてきた。白色の魔力光が、藍色と赤色と紫色の魔力光と戦ってる。一対三で戦っているみたいだった。それを見て近づこうとしたら、

 

「来るな! なのちゃん!!」

 

 一樹お兄ちゃんの叫び声が聞こえたのと同時に、ひとつの魔力弾が飛んできた。

 とっさのことで反応できない。目の前まで迫ってきた魔力弾がスローに見える。

駄目だ、避けられない! そう思って目を瞑る。直後、

 

ドガァン!

 

 と音がして吹き飛ばされてしまった。でも不思議と痛みはなかった。

 恐る恐る目を開けてみると、私は一樹お兄ちゃんに抱きしめられていた。ふぇ!? 何で抱きしめられてるの!?

 一瞬で頭の中が真っ白になって一樹お兄ちゃんの腕の中でもがく。思いのほか強く抱きしめられていたみたいでぜんぜん抜けられなかった。

 

「か、一樹お兄ちゃん! な、何で!? は、離して!?」

 

 そう言うと一樹お兄ちゃんは離してくれた。まさか抱きしめられるとは思ってなかったから顔が熱い。

 絶対赤くなってる! 混乱してると一樹お兄ちゃんが話しかけてきた。

 

「なのちゃん怪我は?」

 

「へ?」

 

「へ? じゃなくて怪我は!」

 

「な、無いよ?」

 

「じゃあ、俺のそばから離れるな」

 

「え? え? え?」

 

 そういって一樹お兄ちゃんが背を向けると、背中の部分のバリアジャケットが無くなっていて、血が出ていた。

 それを見てやっと気がついた。さっきの攻撃から私を守ってくれたんだ。

 

「か、一樹お兄ちゃん! 血が出てる!」

 

「ん? まあ、攻撃受ければ血ぐらい出るだろ?」

 

「そ、そうじゃなくて! わ、私のせいで」

 

「んな事はいい、今はそこでじっとしててくれ」

 

「う、うん」

 

 いつもと違う一樹お兄ちゃんの雰囲気にそう頷くことしかできなかった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 なのちゃんを庇って攻撃を受けた背中がヒリヒリする。

 あ~、やっぱ来ちまったか。連絡しとけばよかったな~。今ここでなのちゃんに攻撃させるわけにもいかないし、怪我させるわけにもいかない。できるかな?

 背中のダメージ自体はたいしたことはない。ただ「神速」と「縮地」同時に使った影響で頭痛がして、足が震えている。頭は二日酔いみたいに頭がガンガンするし、足はフルマラソンしたみたいに上手く力が入らない。

 覚えてはいたけどそんなに使ってなかったから反動がひどい。しばらくこの状態で戦うしかないのか。

 …………やべ~な。自分の状態が思ったより芳しくない。そう考えていると、

 

「はぁぁぁーーー!!」

 

ギャン!

 

 シグナムが斬りかかってきたのをガードする。篭手から火花が出る。

 

「あの距離を一瞬で移動するか。何かのレアスキルか?」

 

 攻撃を仕掛けながらシグナムが聞いてくる。

 

「うんにゃ、ただの技術だ。企業秘密だけどな」

 

「厄介だな」

 

「安心しろ。乱発できるようなもんじゃねーから」

 

 乱発なんかしたら死ぬかも、割と冗談抜きで。

 鍔迫り合いのような状況で動きが取れない。

 

「一樹お兄ちゃん!! アクセルシュート!!」

 

 その状況を見てなのちゃんが援護してくる。

 なのちゃんの放った誘導弾は四発。それが全て正確にシグナムに向かっていく。

 

「ちい!」

 

 シグナムは距離をとり、迎撃体制をとるが、

 

ガン! ガン! ガン! ガン!

 

 シグナムに当たる前に俺が全部叩き落す。

 

「え!?」

 

 なのちゃんは驚いて硬直する。俺は迎撃したため体制が不安定、それを見たシグナムは、

 

「私を庇うとは随分と余裕だな」

 

 容赦なく攻撃を仕掛けてくる。俺のほぼ真後ろから斬りつけて来る。

 

ザシュ!

 

「っっっ!!」

 

 襲ってきた痛みを歯を食いしばって耐える。俺はそのまま回転してシグナムに裏拳を叩き込むが、当たる事はなくガードされてしまう。

 シグナムが距離をとった瞬間ザッフィーが真上から攻撃してくる。

 

「オォォォーーーーー!」

 

 体重を乗せた打ち下ろしが俺の顔面を捉える。

 

ドガァ!

 

 その衝撃から俺は地面に向かって落ちていく。

 

ズシン!!

 

 幸い、たたきつけられる事無く着地に成功するが、

 

「ファック!!」

 

 着地してすぐ上を向くと、なのちゃんの後ろからヴィータが攻撃態勢に入っている。

 なのちゃんはこっちを気にしててヴィータにまったく気づいていない。このままじゃ!

 

「ちくせう!」

 

 本日二回目となる「神速」と「縮地」の同時使用。まだダメージが抜け切ってないというのに!!

 再度二つを同時に使用して俺はなのちゃんとヴィータの間に割ってはいる。

 

ガァン!!

 

「え?!」

 

「なっ!?」

 

 ヴィータとなのちゃんが同時に声を上げる。

 なのちゃんは後ろからの攻撃を地上にいたはずの俺が受け止めたことに、ヴィータは俺が攻撃を止めたことに驚く。

 その隙に、ヴィータの手首に俺の手首を当て、手首を返し下に落とし体勢を崩す。若干前のめりに体勢を崩したヴィータの腹に両手を当て、左足を踏み込み一気に接近し、そのまま勢いを殺さず両手を回転させながら突き出す。

 

八卦双撞掌

 

 相手に当てた両手に、震脚からのエネルギーと両手を回転させることによって生じる回転エネルギーを一気に相手にぶつける技で、いわゆる発勁である。それをくらってヴィータは後ろに吹き飛ばされる。

 

「つうぅぅーーー!!」

 

 お腹を押さえて痛がるヴィータ、本来であれば悶絶ものの攻撃だけど、現在は「縮地」の反動で震脚が不十分だったからダメージは軽微みたいだ。

 つうかやべえ。頭痛がひどくなって、足もプルプルいってる。空中にいる分には問題ないが攻撃のときはどうしたって威力が半減しちまう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 息も切れてきたな。流石にダメージが多くなってきたか。

 

「か、一樹お兄ちゃん!」

 

 心配そうになのちゃんが呼ぶ。

 

「ん? なんだ?」

 

「け、怪我! 血が出てる!」

 

「大した事ねーよ。こんなもんかすり傷だ」

 

「背中を思いっきり斬られてるよね!? 絶対かすり傷じゃないよ!?」

 

「かすり傷だよ。喚いたところで怪我は治らねーんだから」

 

「で、でも……」

 

 泣きそうな顔をするなのちゃん。

 

「あ~、大丈夫だから心配するな。泣くな」

 

「な、泣いてないよ!」

 

 そう言ってなのちゃんは強がる。

 う~ん、ちっとこういう戦闘は早すぎたかな?なんせお互いに殺傷設定だからな。

 刺激が強かったのかも知れん。そんな事を思っているとヴォルケンリッターが俺達を囲んでいた。

 

「よう、悪いな。待たせちまって」

 

「まったく、三対一で互角とはな。お前の実力を見誤っていたようだ」

 

「どうせなら最後まで間違ってもらえるとありがたかったんだけどな。ちなみに互角じゃねー、やや押され気味だしな」

 

 シャマル先生をノックアウトしたといっても現状でやや不利である。

 

「でも少し見直したぜ。一樹おめー強かったんだな」

 

「伊達に最前線で働いてる訳じゃねーからな」

 

「底が知れんな」

 

「まだまだ本気じゃねーんだぜ? 本気出したら変身するからな」

 

「ホントか!? スゲー見てえ!」

 

 ヴィータが目を輝かせて言ってくる。

 

「ヴィータ、信じるな。嘘に決まっているだろう」

 

 が、そんなヴィータに突っ込みを入れるザッフィー。

 

「なっ!」

 

「あ~、すまん。信じるとは思わなかった」

 

「わ、判ってる! 本気にするわけねーだろ!」

 

「その割には期待のこもった視線だったが?」

 

「う、うるせー!」

 

「か、一樹お兄ちゃん、知り合いなの?」

 

 今のやり取りを不思議に思ったのかなのちゃんが聞いてくる。

 

「うん、はやての家族で、騎士で、お隣さん」

 

「へ?! はやてちゃんの家族?! 騎士? ど、どういうことなの!?」

 

「そのままの意味だが?」

 

「……知り合いなんだよね?」

 

「そうだ」

 

「じゃあ、どうしてこんな危ないことしてるの!?」

 

「お互いに譲れねーもんがあったからな。仕方ねーんだよ」

 

 非常に簡単に説明する。こんなときに詳しく説明なんてできません。

 

「その通りだ。サイトウとはお互いに譲れぬものの為に戦っている。邪魔だてするなら容赦はせんぞ」

 

 それを聞いたシグナムがレヴァンティンを構え言ってくる。

 

「ま、そんな訳だからなのちゃんは大人しくしててくれ」

 

「で、でも」

 

「大丈夫、負けやしねーよ。それに俺はこの戦いが終わったらケーキ焼くんだ」

 

「さらりと死亡フラグ立てないでよ!?」

 

 さらりと言ったフラグに反応するなのちゃんと、

 

「む、それならばフルーツを使ったものを頼む」

 

「あ! ずりーぞシグナム! あたしはチョコを使ったやつが良い!」

 

「甘さ控えめのを頼む」

 

 違うほうに反応するヴォルケンリッターだった。

 

「しゃーねーなー。俺が勝ったらつくってやんよ」

 

「ず、ずりーぞ! さっきこの戦いが終わったらって言ったじゃねーか! 勝敗は関係ねーだろ!?」

 

「ヴィータの言う通りだ。勝敗は関係ない」

 

「自分の言ったこと位守れんとはな」

 

「……そこまでして食べたいのかよ。仕方ねーな、ちゃんと作ってやるから安心しろ」

 

「「「よし!」」」

 

 三人がそろって頷く。そんな様子をみてなのちゃんがつぶやく。

 

「……あれ? 一樹お兄ちゃん、その条件を使って交渉すれば戦わなくて良かったんじゃないの? 「戦うなら作らないぞ!」っていう風にすれば戦わなくてすむんじゃ……」

 

 その、一言に電流走る。

 

「き、貴様! 良くそんな恐ろしいことが言えるな!!」

 

「我等のささやかなひと時を奪うつもりか!!」

 

「あ、悪魔め!!」

 

 上からシグナム、ザッフィー、ヴィータの順である。電流が走ったのはもちろんヴォルケンリッターだ。

 

「ふぇ?! な、何でそこまで言われるの!?」

 

 自分の言った一言がどれだけの重さを持っていたかわからないで混乱するなのちゃんだった。

 

 


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