魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第四十二話

― シグナム ―

 

「命の危険がある?」

 

 私はそれを聞いた自分の耳が信じられなかった。それを聞いたのは主の主治医である石田医師からだった。今日は主はやての通院日だったので私とシャマルで付きそい何時も通り診察を終え、後は薬を受け取り帰るだけだったのだが、今日は私とシャマルが石田医師に呼ばれた。そしてその言葉を聞いた。

 

「はい、僅かではありますが麻痺が進行しています。今すぐ入院する必要があるという訳ではありませんが、そう遠くないうちにそのあたりも考えて本格的な治療を始めた方が良いかもしれません」

 

「し、しかしそういった症状は今まで……」

 

 そうだ、主はそんな症状は一度も見せていない。

 

「ええ、まだそこまでの症状が出る数値ではありません。今までずっと横這いだったのが少しづつですが変化が見られます。それに加えてはやてちゃんは我慢してしまう性格ですから、仮にそう言った事があっても周りには見せないでしょうから……」

 

「そ、そんな……」

 

 シャマルが呟く。

 

「今でこそ、下半身のみですがこのまま進行が進めば内臓器官のにまで麻痺が進行するでしょう。そうなる前に手を打たないと……分かっていただけますか?」

 

「…………少し時間をください」

 

 言葉がなかった。そう答えるので精一杯だった。そう言って私とシャマルは診察室を後にした。

 

「何故だ!! 何故気付かなかった!!」

 

ゴッ!

 

 人気のない廊下の壁を殴りつける。殴った音が廊下に響き消える。

 

「ご、ごめんなさい。私が、私がもっと気を付けていれば……。麻痺が進行性のものだって気付けたはずなのに!」

 

 シャマルは両手で顔を覆い泣きながら答えてくる。

 

「シャマルに言ったのではない。自分自身に言った」

 

 自分自身の無能さに腹が立つ。主の異変に全く気付く事が出来なかった自分自身に。

 

「シャマル、ヴォルケンリッター全員に連絡を。主はやてが寝静まった後にこの事を話しあう」

 

「……分かったわ。一樹君には?」

 

「連絡する必要はない」

 

「で、でも」

 

「一樹は信頼できるが管理局は信頼できない。それにこれは我々の問題だ」

 

「……分かったわ」

 

「それに、今から私達がしようとする事を知れば管理局は止めに入るだろう」

 

「そうね」

 

 そう言って私とシャマルは歩きはじめる。その足取りは何時もより重いものになっていた。

 その夜主はやてが寝たのを見計らい家を全員で家を抜け出し、近くの公園で話し合う。

 

「そ、そんな! じゃあ、このままじゃはやてが死ぬって言うのかよ!」

 

 ヴォルケンリッター全員を集め、今日石田医師から聞いた事をそのまま伝える。

 それを聞いてヴィータが声を荒げて言う。

 

「……そうだ」

 

 私は短くそう答えた。

 

「シャマルは! シャマルは治癒も出来るんだろ?! 魔法で治せないのかよ!!」

 

「御免なさい。私の力じゃ無理だったわ」

 

 シャマルも辛そうに答える。

 

「助けなきゃ……。はやてを助けなきゃ!!」

 

「しかし、どうするのだ? 既に我々の存在は管理局にばれているぞ?」

 

 ザフィーラがそう言ってくる。

 

「極力接触しないようにするしかあるまい。それも一樹に悟られぬように秘密裏に」

 

「あいつに気付かれない様にか……出来るのか?」

 

「「「…………」」」

 

 ザフィーラに言われ押し黙る。

 それもそうだ。なんせやつは神出鬼没と言っていいほどいきなり出てくる上に、気配の消し方が異様に上手い。

 そこに現れるまで気付く事が出来ない程に。

 

「いっそ、奴に事情を話し蒐集を手伝ってもらった方がいいのではないか? あいつも主を見捨てる事はしないだろう」

 

「それは出来ない。シャマルには言ったが一樹は信頼出来ても、管理局は信頼できない。最悪一樹が騙されているという可能性も捨てきれない。現時点では頼る事は出来ない」

 

「でも確かにザフィーラの言う通りじゃ無いですか? 正直一樹君に最後まで隠し通せる気がしないですよ?」

 

「言うなシャマル。例えそうだとしてもそうしなければ主の身が持たんのだ」

 

「それはそうですけど……」

 

 そう答え沈黙がその場を支配する。そんな中ヴィータが話しだす。

 

「はやては私達に色々教えてくれた。戦いばかりの私達に色んな楽しい事を教えてくれた。始めにシグナムが蒐集すれば足が治るって言っても、他の人に迷惑がかかるからしたら駄目だって言って蒐集をしようともしなかった。そんな優しいのに何でこんな事になるんだよ? 私達がいけないのか? 今までの事の罰が当たったって言うのかよ?」

 

「ヴィータちゃん……」

 

「はやては死なせない。絶対に死なせない! どんな手を使っても絶対に助ける。でもはやてが望んでないから殺しはしない。はやての未来のためにも」

 

「ヴィータの言う通りだ。我々は何としても主を助ける。しかし殺しは無しだ。主に罪を背負わせる訳にはいかない」

 

 そう言って私はレヴァンティンを構え、主から賜った騎士甲冑をまとう。

 

「今は一分一秒でも時間が惜しいわ」

 

 シャマルも騎士甲冑姿に変わる。

 

「管理局にもばれず、一樹に悟られずに蒐集をする。かなり難しいがやるしかあるまい」

 

「ああ、どんなに難しくってもそうしないとはやてが死ぬ」

 

 ザフィーラとヴィータも騎士甲冑をまとう。

 

「よし、全員覚悟は良いか?」

 

「「「当然!」」」

 

「シャマルが言ったように時間がない。各自が証拠を残さないように慎重に行動しろ。良いな?」

 

「「「「応!」」」」

 

 ……ん? 声が一人増えたような……。まさか!

 他の全員も気付いたようで私の見ている方向、を一斉に振り返る。

 そしてそこには予想通り、知られてはいけない人物がいた。

 

「ハッハー!! 元気が良いなシグナム! 何か良い事でもあったのかい?」

 

 その人物、斎藤が人を小馬鹿にしたような顔でそこに立っていた。

 

「シグナム……」

 

「言うな」

 

「やっぱり無理でしたね」

 

「蒐集する前に感づかれたか……」

 

 斎藤の方を見て全員が「ああ、やっぱり」という顔になる。

 

「斎藤……何しに来た」

 

 私は判り切った事を聞く。こいつが此処にいるという事は先ほどの会話は全て聞かれていたのだろう。

 

「ん、まあ始めは俺に対する仕返しでも計画する為にコソコソ話し合いでもしてるのかと思ったけど、さっきの話を聞く限りだと、そうでもないみたいなんだよな~。俺としては仕返しの方がまだ楽だったんだけど」

 

「やはり聞いていたのだな……」

 

「ああ、蒐集に関しては待ってほしいんだけど?」

 

「主はやての病状を知った上での事か?」

 

「そうだ」

 

 その平然とした声を聞いて怒りがこみ上げてくる。

 

「間に合わなかったらどうするつもりだ! こうしている間にも病状は進行しているのだぞ!! 今から蒐集しても間に合わないかもしれんと言うのに、なぜそこまで平然としていられる!?」

 

「一樹、シグナムの言う通りだぜ。今から蒐集しなきゃ間に合わないとしたら一樹はどうすんだよ!」

 

 そう言ったヴィータに斎藤は平然と答える。

 

「間に合う方法を探す」

 

「見つかんなかったらどうするんですか!?」

 

「シャマル先生、見つからなかったらじゃない。見つけるしかないんだ。はやてを助けるのにそうするしかないなら、そうしなきゃいけないんだ」

 

「一樹、お前の言っている事は現実味がない。我らはその方法がなかったらどうすると聞いているのだ」

 

「確かにその通りかもしれない。だけどねシグナム、俺ははやてだけを助ける訳じゃないんだ」

 

「どういう事だ?」

 

 斎藤の発言に首をかしげる。

 

「俺の助ける対象はヴォルケンリッターも含まれているんだよ」

 

「「「「はあ?」」」」

 

「今は詳しく言う事が出来ないけどそれが俺の理由だよ」

 

 何を言い出すかと思えば、

 

「貴様、我らを馬鹿にしているのか?」

 

「……何でそうなる?」

 

「当たり前だ! 今助けるべきなのは主はやてであって、断じて我らでは無い!!」

 

「そうだ! 闇の書を完成させればはやては治ってまた何時もみたいに生活出来るんだ! 何であたしたちを助ける必要があるんだ! そんなの必要ない!!」

 

「そうですよ! 助けるのははやてちゃんです!」

 

「もはや語る必要は無いな」

 

「これ以上話す必要は無い。我等を止めたければ力づくで来い!」

 

 そう宣言して私達は戦闘態勢をとった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 /(^o^)\ナンテコッタイ。どうやら地雷を踏み抜いてしまったらしい。

 まあ、確かに何も知らない人から見れば「はぁ? 何言ってんの?」ってなるような事ではあるか……。

 詳しく説明できないってのが痛いとしか言いようがないのだけれど。情報漏洩って面倒だよな!

 今はまだその内容を話しちゃいけないんだからやり辛いったらない!

 

「仕方ないか……」

 

 そう呟いて俺はバリアジャケット姿になと、すぐさま両手のカートリッジシステムをスライドしチャンバーにカートリッジを装填する。

 片方二発づつ、計四発のカートリッジがすぐに撃発可能になる。それを見たシグナムが呟く。

 

「ほう、貴様もカートリッジシステムを積んでいるのか」

 

「ああ、あると中々便利なもんでな。それよりシグナム一つ確認するが、俺が勝ったら蒐集は待ってくれるんだな?」

 

「正気か? 四対一だぞ?」

 

「おう、シグナム達も負けられないと思うけど、俺もそれ以上に負けられないんだよ。だから勝った時の条件はしっかりさせておかないとな」

 

「良いだろう、なら此方からも条件を出そう。我らが勝ったら貴様も蒐集を手伝え」

 

「まあ、そんくらいならな」

 

 しかし、実際にそうするとなると俺は犯罪者の仲間入りになりそうだ。

 結構ヤバい条件ではある。俺に対して減刑はあるだろうか?

 

「決まりだな。シャマル先生、結界を頼む」

 

「ええ、とびきり頑丈なものを張るわ」

 

 シャマルがそう言うと、景色が変わっていった。

 

「じゃ、始めるぞ?」

 

 俺はそう言って構える。俺から見て正面にはシグナム、左にヴィータ、右にザッフィー、後方にシャマル先生が陣取っている。まず始めの狙いは……。

 

「かかってこ「ズドン!」なっ!」

 

 シグナムがそう言い終わる前に、俺はシャマル先生に接近し鳩尾めがけ「崩拳」を放つ。

 「縮地」で間合いを一気に詰めて、シャマル先生の鳩尾に拳が突き刺さり身体がくの字になる。さらにそこから顎に掌を当て、震脚から顎に添えていた掌をそのまま上に突き出す。

 突き出すのは一瞬、「ズドンッ!」と音がして、シャマル先生の顔が衝撃で上を向き、そのまま崩れ落ちる。それをそっと受け止め、静かに横たえる。

 何とかシャマル先生の意識を断ち切る事に成功した。一回限りの不意打ち、次からは多分通じない。

 

「オォォォォーーーーー!!!」

 

 シグナムが横薙ぎにレヴァンティンを振るう。俺はそれを後ろにステップしてかわす。が、そこにはザッフィーが待ち構えていた。

 俺の後頭部をめがけて拳が唸りを上げて迫ってくる。それを首を左に傾ける事でかわし、そのままザッフィーの懐に入り突きだされた腕を掴み一本背負いをする。

 

「うお!」

 

 驚きとも似たザッフィーの声が聞こえる。その時には既に投げ終わり、ザッフィーの体勢は頭から地面に落ちようとしている状態だ。

 そして、俺はザッフィーの頭部めがけ蹴りを放つ。

 

メシィ!

 

 と音をたてザッフィーが吹き飛ぶ。が、空中で体勢を立て直し着地する。

 当たる直前で防がれたようだ。ったく、初見で「雷(いかずち)」を防ぐとかやんなるな。

 まあ、本来逆関節で一本背負いをして腕を折るのだからそれがない分防がれて当然といえよう。

 

「ぶっ潰れろ!」

 

 蹴りを放った体制がまだ戻る前にヴィータが襲いかかってくる。大上段からアイゼンが振り下ろされる。俺はそれを頭上で腕を交差して防御する。

 

ガギャン!

 

 と籠手とアイゼンが激突する音がして、続いて、

 

ボゴォ!

 

 と両足が地面にめり込み小さくクレーターを作る。

 

「チィ!」

 

 ヴィータが舌打ちする。

 俺は手首を返し、アイゼンを掴んで引き寄せ、一緒に引き寄せられたヴィータに掌底を叩きこもうとするが、ヴィータは右手をアイゼンから外し身体を半身にすることでかわし、すれ違いざまに顔をぶん殴られた。

 

ゴッ!

 

 威力自体は大した事なかったが、一瞬だけ視界が塞がる。

 そして次に視界に入ったのはシグナムの放った袈裟斬りだった。

 

(今からじゃかわせない!)

 

 そう判断した防御を選択する。そしてレヴァンティンが肩に触れた瞬間、

 

「ハァッ!」

 

 上半身に力を入れ筋肉を爆発的に膨張させる。

 それは時間にすればほんの一瞬だが、レヴァンティンはそのまま巻き戻されたように反対側にはじかれる。

 

「なぁ!」

 

 流石のシグナムも驚愕する。「マッスルパワーボム」それが今の技である。

 本来であれば攻撃をはじくのではなく、攻撃を仕掛けた本人のパワーで逆にダメージを与える技なのだが、今ははじくので精一杯のようだ。

 それでも、シグナムに隙を作る事はできた。レヴァンティンをはじかれ万歳の様な状態になっている。つまり、

 

「ボディがガラ空きだぜ! 貰ったわらば!?」

 

 と、シグナムの肝臓を狙い打とうとしたが、当たる直前に横から顔面を殴られた。

 そのせいでどっかの世紀末の雑魚キャラの如く叫び声をあげた上に、吹っ飛んでしまった。

 二、三回バウンドして、ベンチをなぎ倒して木にぶち当たりやっと止まる。殴ったのはザッフィーだった。

 カウンターで貰ってしまったので予想以上に吹き飛ばされた。

 

「すまん、ザフィーラ」

 

「気にするな」

 

「あんにゃろう、結構かてーな。防御に魔力回してんのか?」

 

 シグナムがザッフィーに礼を言い、ヴィータが手をひらひらさせて二人のそばに行く。

 その三人の後ろにはシャマルが倒れていて、今はザッフィーが手当てしている。

 俺は、すぐに起きあがり再度ヴォルケンリッターと相対する。

 

「ザッフィー不意打ちとは卑怯なり!」

 

「開始早々それをしたお前が言うな」

 

「そういや、そうだった」

 

「ザフィーラ、シャマルはどうだ?」

 

「良いのをもらったからな、しばらくは目を覚まさんだろう」

 

「そうか……」

 

 シャマルの容態を聞いて俺の方に向きなおる。

 

「しかし、組手の時とは全く違うな。手を抜いていたのか?」

 

 ザッフィーが聞いてくる。

 

「いいや、手を抜いていた訳じゃないさ。ただ組手ってのはあくまでも練習目的だ。勝敗を目的としたもんじゃない。模擬戦や実戦とは別物だからな。自然とそういう動きになるよ」

 

「確かにそうだな」

 

「そんなに違うのか?」

 

「ああ、組手の時とは別人だ。手を抜けばあっという間に喰われるぞ」

 

「……それ程か」

 

「そして恐らく……まだ上がある」

 

「ほう」

 

 それを聞いたシグナムがにやりと笑う。それは獲物を狙う様な、新しい玩具を見つけた様な目だった。

 

「あ、コラ! ザッフィー! 憶測でものを言うな! 見ろ、シグナムがあんな嬉しそうな目してんじゃねーか!!」

 

「すまんな、つい口が滑った」

 

「違う、わざとだ」

 

 すっとぼけるザッフィーをジト目で見る。

 

「斎藤、本当にまだ上があるのか?」

 

「……自分の手の内をばらすと思ってるのか?」

 

「それはつまり、引き出させてみろと言っているのだな?」

 

「何でそうなる」

 

 げんなりして答える。

 

「ふ、だが全力を出さずに我らに勝てると思っているのか?」

 

「そうだぜ、余力を残してあたし等に勝とうなんざ百年はええ!!」

 

 まあ、確かにその通りなんだけど……。

 

「まあ、負けらんねーからな。ピンチになったら切り札くらい出し惜しみはしない」

 

「そうか、楽しみだな。しかしピンチになってからでは遅いかもしれんぞ?」

 

「俺は楽しくないし、切り札は絶対に使いたくない程危険なんだ。俺もお前等も」

 

「気にしている場合か?」

 

「気にするよ。手加減何かできないんだ。一歩間違えば殺しかねん」

 

「非殺傷設定はどうした?」

 

「設定してても無意味になるんだ」

 

「それは残念だな」

 

 それを聞いてシグナムがやっと諦めてくれた…………のか?

 

「ったく、ホント戦闘中毒(バトルジャンキー)だよシグナムは」

 

 そう言って再び構えをとる。

 

「さてと、準備運動も終わった事だし、本番といきますか!」

 

「よし、来い!」

 

 シグナムの声と共に再び、戦闘に移行した。

 

 

 


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