魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第四十一話

― 八神はやて ―

 

 リビングで一樹兄ちゃんと一緒に本を読んどったら、ヴィータが散歩から帰ってきた。

 

「ただいま~、はやて! おやつにプリン食べていいか?!」

 

 ヴィータがそう聞いてきたので時計を見ると三時になっとった。

 

「ええよ~」

 

「やった!」

 

 許可を出すとヴィータが嬉しそうに台所に向かっていく。

 昨日買ってきたプリンを食べるのを楽しみにしとったからな~。

 

「ん? プリン?」

 

 向いに座っている一樹兄ちゃんからそんな声が聞こえた。

 

「どないしたん? 一樹にい……一樹兄ちゃん。そのテーブルの上に乗ってるもんは何や?」

 

 私は一樹兄ちゃんの前に置いてある透明のプラスチック容器を指さす。一樹兄ちゃんもその容器を見ている。

 

「プラスチック容器だな」

 

「そやなくて、その容器には何がはいっとたんや?」

 

 分かっとるんやけど確かめずにはいられへんかった。

 

「プリンだな」

 

「それ、名前書いてあったはずなんやけど?」

 

 昨日、確かヴィータがラベルに名前書いとったけど。

 

「ん、ヴィータプリンと書いてあって珍しい商品だと思って食べたのだが、普通のプリンでがっかりした。ひょっとしたら水虫が治るかと思って期待していたんだが。流石にトニオプリンじゃないと無理なようだ」

 

「当たり前やん。そもそもプリン食べたくらいで治る訳ないやろ。まあ、個人的には娼婦風スパゲッティーを食べてみたいんやけど」

 

「美味すぎて虫歯が飛び出るわけですね。分かります」

 

「って言うか一樹兄ちゃん水虫やったん?」

 

「あくまでもネタなので違います」

 

「さよか、でも一樹兄ちゃんそれヴィータのプリンなんやけど?」

 

 そう言ってチラッとヴィータの方を見てみると、冷蔵庫の中を捜している。

 ゴソゴソしとるから多分奥の方を探してるみたいや。

 

「うん、正直食ってから気付いたのでどうしようもなかった。帰ってきたら素直に謝って師匠のプリンを買いに行こうと思ってた。ついでになのちゃん達にもヴォルケンリッターを紹介しようと思ってたから」

 

「そう言えばなのはちゃん達にまだ紹介しとらんかったな。何故かタイミングが悪かったし。と言うか師匠って桃子さんの事なん? 何時の間に弟子入りしとったん?」

 

「翠屋で桃子さんに色々聞いてたら、いつの間にか弟子入りしてた」

 

「なんやねんそれ」

 

 そんな話をしてるとヴィータがこっちに来た。

 

「はやて、私のプリン知らないか?」

 

「それなら一樹兄ちゃんが……あれ?」

 

 ヴィータを見てからまたソファーに座っとる一樹兄ちゃんの方を見ると、そこには誰もおらへんかった。

 でもテーブルの上にあるプリンの容器に気付いて、ヴィータがよろよろと近づいてくる。

 

「は、はやて……こ、これは……」

 

 絶望したかのような顔をして、そっと容器を手に取る。

 

「ヴィ、ヴィータ?」

 

「た、楽しみにしてたんだ。散歩から帰ってきたら食べるって、食べてやるって約束してたんだ!」

 

「や、約束?」

 

「容器から小皿に移して、ゆっくり味わって食べるって! あたし以外が食べないようにちゃんと名前まで書いといたのに!! それなのに!! こんな無残な姿に!!」

 

 ガチ泣きし始めるヴィータ。そう言えばプリンを食べるのは初めてなんやった。

買い物行ったときにヴィータが興味津々に持って来たんやった。そんときにプリンが如何に美味しい食べ物か説明したら、ものすっごいキラキラした目で見てきたんやった。

 まあ、市販品やから説明したほど美味しい訳やないんやけど。桃子さんとか一樹兄ちゃんのプリンの方が断然美味しいし。

 

「はやて! 誰だ! あたしのプリン食べたのは!?」

 

 滝のように涙を流しつつ私に聞いてくる。まあ、隠す必要あらへんしあっさりばらしとこ。

 

「一樹兄ちゃんや。さっきまでそこにおったんやけどな。いつの間にかいなくなっとった」

 

「そうか、やっぱりあんにゃろうだったか」

 

 ふらりと起きあがるヴィータ。なんや、黒いオーラが見えるんは気のせいや無いと思う。

 

「はやて、あいつが何処行ったか分かるか?」

 

「さ、さあ? いつの間にか消えとったし」

 

「はやて、あたしまた散歩してくる」

 

「それはええけど、デバイスはしまっとき」

 

 いつの間にかヴィータが完全武装しとった。

 

「なっ! それじゃあ一樹をぶっ飛ばせねーよ!」

 

「ぶっ飛ばすんはええけど、いきなり魔法つこうてご近所さんにばれてしもたら不味いやろ?」

 

「う~~~~、チクショー! 一樹~! 何処行ったー!!」

 

 ヴィータはそう言いながらリビングを出て行ってしもた。余程頭にきたようでドアも閉めへんかった。

 ヴィータを気の毒に思いながらリビングのドアを閉めに行ったら、ソファーの後ろに不自然に置かれたダンボールに気が付いた。

 こんなところにダンボールを置いた覚えはあらへんし、大きさ的に丁度大人一人がちょうど入れるぐらいの大きさやったから、まさかと思いつつダンボールを持ってみると、中には何も入っていないみたいでやたらと軽かった。

 それもそのはず、本来閉まっとるはずの下の部分が見事に開いとった。持ち上げたダンボールをどかすと、そこには体育座りをした一樹兄ちゃんがおった。

 

「……何しとるん?」

 

「……見つかると思っていたのだが、まさか本当に気付かれないとはちょっとびっくりのうえ、この虚しさをどうすればいいか分からない。まじめにダンボールのカモフラ率にびっくりです」

 

 ほんまに予想外だったらしく、ポリポリと頬を掻いとった。

 

「まあジャングルは兎も角、一般的な住宅やったら極端に不自然やないからな。しかしどうするん? ヴィータほんまに怒っとったで? 初めて食べるプリン楽しみにしとったし」

 

「え? プリン食った事なかったの?」

 

 これも予想外だったのか一樹兄ちゃんが驚いとった。

 

「みたいやで? 昨日の買い物の時に目キラキラさせとったから」

 

 そう言うと一樹兄ちゃんが「あちゃ~」って額に手を当てた。

 

「どうするん? ちょっとやそっとじゃ許してくれそうにないで?」

 

「だよね」

 

「眞悧(さねとし)先生乙。」

 

「しびれるだろ?」

 

「フグ食べた後やったら痺れてたかもしれへん」

 

「それは駄目だろ」

 

「それは兎も角、何とかしないとヴィータに磨り潰されてまうで?」

 

「ハンマーとアスファルトに挟まれてですね? しかし、磨り潰されんぞ!」

 

「はあ、……何か手はあるん?」

 

 私がそう聞くと「う~ん」と少し唸ると頭の上に豆電球が出てきよった。どうやら何か思いついたみたいや。と言うか

 

「どうやったん今の?」

 

「豆電球はスサノオのおかげです。ヴィータが食べた事がないってことは守護騎士全員がそうだよな?」

 

「まあ、確かめたわけやないから分からへんけど、多分そうやと思うで?」

 

「じゃあ、全員で食べられるプリンを作るか」

 

「全員で食べられるプリン? 元から全員で食べるんやろ?」

 

 作るときに容器を人数分用意すればいいだけやん。

 

「ああ、個別で食べるんじゃなくて、一つを全員で食べるんだ」

 

 それを聞いて私に電流が走りよった。

 

「ま、まさか! それはあの伝説の!?」

 

「そう、あの伝説のアレだ! 誰もが一度は夢見たものだ!! と言う訳で材料と道具を買って作ってくるのでヴィータには内緒の方向で」

 

「しゃあないな。その代わりとびきり美味しいのを作らんとあかんで?」

 

「おうよ。お菓子作りで手を抜くとか考えられん。じゃ、ちょっくら行ってくる」

 

 そう言うと一樹兄ちゃんは出かけて行ってしもた。

 バタン、と玄関のドアがしまる音がすると急に家の中が静かになった。再びソファーに座って本を読み始めてふと気付く。久しぶりに家に一人になった。

 クライドさんは今は斎藤家におるし、シグナムとザフィーラは散歩……と言うか地形の把握に行ってしもたし、シャマルには買い物を頼んだ。

 ここ一週間はホンマに色々あって騒がしかったもんや。いきなり守護騎士の皆が出てきて、一樹兄ちゃんと一触即発の状態になって、今ではそこそこ慣れてきたみたいで始めほど警戒されてへんし。

 でもまあ、ヴィータとシャマルは一樹兄ちゃんに弄られとるから守護騎士からは別の意味で警戒されるようになってしもたけど。

 私もみんなでゲームしたり、アニメ見たり、遊びに出かけたり、隙を見てシグナムとシャマルのおっぱいを揉ん……ゲフンゲフン。

 ほんま楽しい毎日や。せやけど、弄りながらも上手くつきあっとるんは流石一樹兄ちゃんと言ったところやろか?

 なんだかんだでヴィータとは仲よさそうやし、シグナムとシャマルとも上手くやっとるし、ザフィーラとはちょこちょこ組手の相手しとるし、クライドさんとは相変わらず変装の練習しとるし。

 今はまだ準備が出来てないみたいやから詳しくは教えてもらってへんけど、準備が出来たら色々と行動せなあかんみたいやし今のうちにいっぱい遊んどいた方がええみたいや。

 まだまだやってへん遊びは山ほどある。準備が整うまで目一杯遊び倒すんや!

と、そんな事を考えとると

 

ゴキャ! メキャ! ドガン! バガン! グシャ!

 

 とんでもない音が聞こえてきよった。心なしか家が振動で揺れたような気もした。

 い、一体何があったんや? 音のした方である玄関をの方を見ていると、リビングのドアが開いてヴィータが戻ってきた。

 はて? 一樹兄ちゃんを探しに行ったには早い帰りやな? 一樹兄ちゃんとすれ違わなか……まさか。そう思って良くヴィータを見てみると頬に赤い液体がついとった。

 

「はやて、生ゴミってどうすればいいんだ?」

 

 やっぱりやった。ヴィータは何かを引きずっとる。それはモザイク無しでは見られへん何かやった。

 

「あ~、明後日がゴミの日やからその日に出せばええよ?」

 

「ちょ、はやて! そこは心配する所でしょ!!」

 

「「うわ!!」」

 

 私がそう言った瞬間に元の姿に戻った一樹兄ちゃんが突っ込んできた。ヴィータと一緒にビビる。

 

「……おめーほんとに人間か? 普通だったら死んでるぞ?」

 

「普通だったら死ぬような攻撃を容赦なく連撃してくるヴィータに脱帽です。これは、主人公補正とギャグ補正があるから五分で治るのです。ですので他の人には決してしてはいけません」

 

「頼まれたってしねーよ」

 

「でもヴィータ、何で玄関で出待ちしてたんだ? 玄関開けたら無い胸の前で腕組んで仁王立ちしててビビったんだけど?」

 

「おし、ちょっとそこに座れ。平たくなるまでぶったたく!」

 

 そう言ってデバイスを起動する。

 

「まあまあ、落ちつこうな? ヴィータの胸はステータスや! 希少価値なんやで!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「そうや、それが分からん一樹兄ちゃんは可哀相なんやで」

 

「異議あり! 俺は別に貧乳を否定したわけではない! 俺は落下型ヒロインのみならず、「待った!」……何ぞね?」

 

「それは長い上に明らかに女性やないのが混じってる例のアレやな?」

 

「うん」

 

「カットやカット、聞いてられへんわ」

 

「何故に!? せっかく頑張って覚えたのに!!」

 

 ガッデムとばかりに言ってくる一樹兄ちゃん。

 

「そんな当たり前の事言われんでもわかっとるからや」

 

「よせよ照れるじゃねーか」

 

「誉めとらんよ」

 

 そんな事を話しとるとヴィータが呟く。

 

「二人が何言ってんのか分かんねー」

 

「ん、大丈夫や。そのうち分かるようになるから」

 

 私がそう言うと一樹兄ちゃんが言ってくる。

 

「それって大丈夫なのか?」

 

「さあ?」

 

 少なくとも世間一般的には大丈夫とは言い切れへんな。

 

「でもヴィータは一樹兄ちゃんを探しに行ったんとちゃうんか?」

 

「いや、玄関に一樹の靴がまた残ってたから」

 

「「ああ」」

 

 一樹兄ちゃんと一緒に納得する。

 

「でも、俺が出てかなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

「……」

 

「考えてなかったんかい!」

 

「い、いや一樹ならあたしが出て行ったのを確認してすぐ出てくると思ったから待ってたんだ!!」

 

「そうか、それなら仕方ないな」

 

「そやね、それなら仕方あらへんな」

 

 私と一樹兄ちゃんでほっこりしながらヴィータを見る。

 

「そう言いながら何でおめーはニコニコしながらこっちを見てるんだ!」

 

「いや~、何か微笑ましいもんを見せてもらったから。なあ、はやて」

 

「そやね~」

 

「は、はやてまで!」

 

 一樹兄ちゃんのと二人でほっこりしとると、

 

「主はやて、ただいま戻りました」

 

「主、戻りました」

 

「はやてちゃん! ちゃんと買ってきましたよ!」

 

 そう言ってリビングに入ってきたのは出かけてた三人やった。

 正確には二人と一匹やろか?ザフィーラは犬モードになっとるからな。……ん? ザフィーラの毛並みがくしゃくしゃになっとるのは何でや?

 

「お帰り~、どやった?」

 

 私は三人に聞く。

 

「八百屋のお兄さんが野菜を安くしてくれました! お肉も安く買えましたよ!」

 

 そう言ってシャマルが買い物袋を持ち上げて見せてくる。よっぽど嬉しかったのか良い笑顔や。

 

「公園で休憩した時、遊んでいた子供達がザフィーラによって来て、揉みくちゃにされた以外は問題ありませんでした」

 

「……少し疲れました」

 

 シグナムが答え、ザフィーラが疲れた顔をして言う。

 

「「「ああ、成程」」」

 

 三人で納得する。道理で毛並みがくしゃくしゃになっとる訳や。幼稚園ぐらいの子は容赦あらへんからな。

 ザフィーラも犬モードになると結構な大きさやからな。子供なら二、三人位乗れると思うし。

 

「大変やったなザフィーラ、おいで。毛並み整えるさかい」

 

「お願いします」

 

 そう言ってザフィーラは私の膝の上に乗ってくる。

 そんで、この間買ったばかりのブラシでザフィーラの毛を整えていく。時折ピクピクと耳が動いたりするんは気持ええ時みたいや。

 因みに、ザフィーラは人型にはならずもっぱら犬形態で過ごしとる。人型になる時は組手の時ぐらいや。しばらくザフィーラの毛並みを整えとると一樹兄ちゃんが声を上げる。

 

「お~い、はやて。ヴィータが羨ましそうに見てるからヴィータにもやってやれよ」

 

「なっ! べ、別に羨ましい何て思ってねーよ!」

 

「そうか? その割にはじーっと見てたみたいだが?」

 

「う、うるせー!」

 

 一樹兄ちゃんがまたヴィータを弄りはじめよった。

 

「ええよヴィータ。お風呂からあがったら髪を梳(と)かしたる」

 

「ほ、ホントか!」

 

「はやてがヴィータを丸坊主にしようとしてる件」

 

「溶かしてどうする」

 

 ザフィーラが突っ込んだ。

 

「それより一樹兄ちゃん。材料買いに行かんでええの? デザートに作るんやったら時間あんま無いで?」

 

「あ、そうだった。じゃ俺買い物行ってくるから。ヴィータ、デザートに美味いもん食わしてやっからそれで勘弁してくれ」

 

「っち、しかたねーなそれで許してやらあ」

 

「サンキュ」

 

 そう言うと一樹兄ちゃんは買い物に出掛けて行った。

 

「しかしあれやね、ヴィータは一樹兄ちゃんのお菓子好きやね~」

 

 なんだかんだ言ってここ最近の流れやもんな~。

 

「そ、そんな事ねーぞ! あいつが作りすぎるから仕方なく食ってやってるだけだ!」

 

「ふむ、その割には毎回一つ多く食べているな」

 

 と、シグナムがヴィータに一言。

 

「なっ! それを言ったらシグナムは大きめのやつ取るじゃねーか!!」

 

「……気のせいだ」

 

「顔をそらして言っても説得力が無いぞ」

 

 ザフィーラが突っ込む。

 

「でも、一樹さんが作るデザートって美味しいですよね。色々作ってくれますけど、どれも食べた事ないから楽しみになんですよね」

 

「ああ、今まで大したものを食べていなかったからな」

 

「へ? そうなん?」

 

 ザフィーラの一言に驚いた。

 

「はい、元々我々は食事をしなくても問題ありませんでしたから。今までの主はそう言った事は全くしませんでした。そもそも休む様な事は無くずっと戦ってばかりでしたが」

 

「はあ~、大変やったんやね~」

 

 シグナムの話しを聞いて、ときどきどっかの軍曹みたいな話や行動をするのに納得や。

 年がら年中戦ってばかりやったらそれが常識になっても仕方ないやろ。そんな事を思っとるとヴィータが話しかけてくる。

 

「なあはやて。一樹は何を作るんだ?」

 

「ん~、それは出来てからのお楽しみや」

 

 アレを作るんやったらインパクトが大事や。ここでしゃべったらそれが半減してまう。

 

「う~、分かった」

 

「まあ、楽しみにしてて損はあらへんよ」

 

 唸るヴィータにちょっとだけヒントをだす。

 その後、夕ご飯を食べ終わって少し経った後に一樹兄ちゃんが亜夜ちゃんと晃さんとクライドさんを連れて一緒に訪ねてきた。その手には予想通りプラスチックのバケツを持っとった。

 

「待たせたな!」

 

 どっかの傭兵みたいに登場しよった。

 

「おせーぞ! 一樹!」

 

「全くだ」

 

「女性を待たせるのは感心しませんよ」

 

 と、守護騎士女性陣から文句を言われる。その様子を見て、

 

「……何時からテーブルに小皿とスプーンを用意して待ってたんだよ」

 

「夕食を食べ終わってからずっとだ」

 

 ため息交じりに言う一樹兄ちゃんにザフィーラが答える。

 

「マジでか!?」

 

「マジでだ」

 

「そんな楽しみだったのかよ……。まあいいや、それと今日は兄ちゃんの友人を紹介するよ」

 

 そう言うと一樹兄ちゃんは、クライドさんを指す。クライドさんは例の変装をしたままや。

 

「紹介に預かったシュバルツ・ブルーダーというものだ。晃に日本の事を、おもに忍者の事を色々と教えてもらう為に一緒に付いてきた次第だ。晃とはハーバードで知り合った」

 

 と、変装後のカバーストーリーを簡潔に言ってくる。

 何故こんな事をするかと言うと、一樹兄ちゃん曰くたびたび視線を感じるらしいんや、守護騎士の皆にも聞いたら時折感じるそうや。

 んで、この状況で監視してくるんに心当たりがある一樹兄ちゃんが今回守護騎士の新メンバーであるクライドさんには、晃さんの友人として行動してもらっていざと言う時に動いてもらおうという事になったんや。

 今のところ監視者はクライドさんの存在には気付いていないとの事や。何故そんな事が分かるかと言うとクライドさんが生きとる事が分かったら大騒ぎになっとるそうや。

 クライドさんはそれ程の人物らしい。因みにクライドさん、もうすっかりシュバルツも板に付いてきて殆ど違和感が無くなってきとる。

 

「向こうで日本の事で盛り上がりましてね、いい機会だったので一緒に観光する事になったんですよ。因みに彼の素顔は私もしら無いので聞かないでくださいね?」

 

 平然と晃さんが言ってくる。

 

「うむ、此方こそ宜しく頼む」

 

 と、シグナムが代表して答える。他のメンバーは後ろで笑いをこらえている。まあ、私もなんやけど。

 

「うし、自己紹介も終わった事だし本日のメインディッシュといくか!」

 

「デザートだよお兄ちゃん」

 

「そうとも言う」

 

「いや、そうとしか言わへん」

 

「まあ、細かい事は置いといて、いくぜ! 今日のデザートは「バケツプリン」だぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう言ってバケツに予め大皿をかぶせそれを素早くひっくり返す。

 テーブルの上には大皿に乗ったバケツが鎮座している。そしてバケツの底に付いていたコルクの栓を抜く。するとバケツの中でプリンが大皿に接地したのが分かる。

 そしてゆっくりバケツをとると、そこにはバケツサイズのプリンが見事に乗っていた。

 

「イエス! 成功した!! 崩れないか不安だったが上手くいった!!」

 

「は~、見事なもんやね~。あれ? キャラメルソースは?」

 

「こっち、流石に別で用意しておいた。なのでこれをかけて完成だ! 美味すぎて頬っぺたが落ちても責任とらねーからな! 因みにこっちは通常版」

 

 そう言って、小皿に乗った普通サイズのプリンを横に並べる。そうするとその異常な大きさが一層際立つ。

 

「うわ~、すごいですね~。これ何人前あるんですか?」

 

 シャマルが一樹兄ちゃんに聞く。

 

「え~っと、バケツのサイズが6リットルだから、大体八十人前ぐらいかな?」

 

「「「は、八十人前!?」」」

 

「明らかに作りすぎですね」

 

「ん~、まあそれはあるかも。でもまあ、一人当たり9人前位いけるだろ?」

 

「全然余裕だ!!」

 

「多分ヴィータちゃんだけだよ。流石にプリン9人前食べられる気がしないよ」

 

 そう亜夜ちゃんが言う。確かにデザートにその量は無理がありそうや。

 

「まあ、とりあえず食べてみるべ。食いきれなかったらとっておけばいい事だし」

 

「それもそうやね。じゃ、食べよか」

 

「「「「いただきま~す」」」」

 

 そう言って皆で食べ始める。

 

「うーーまーーいーーぞーー!!」

 

 いち早く食べたヴィータが口から光を出しながら叫ぶ。

 

「あ、ホントだ」

 

「そやね、何処となく翠屋の味に似とるな」

 

「師匠も手伝ってくれたからな。材料買って翠屋の冷蔵庫使わしてもらったし、結構ノリノリで手伝ってくれた」

 

「ん? 向こうで作ったんならなのちゃん呼ばなかったの?」

 

「……あ゛」

 

「忘れてたんかい!」

 

「仕方ない。写メだけでも送るか」

 

ピロン!

 

「メールに添付して、送信っと……着信。はえーな。どれどれ」

 

『酷いよ! 一樹お兄ちゃんには後でS(スター)・L(ライト)・B(ブレイカー)だよ!!』

 

 そのメールを見て青ざめる一樹兄ちゃんを皆で笑った。

 因みにバケツプリンはヴィータが半分食べるという食欲を見せて、皆で完食しきった。ヴィータはお腹を膨らませて満足そうに横になっとった。

 

 

 

 

 


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