― 斎藤一樹 ―
「ちーっす。父さ~ん、スサノオのメンテ宜しく~」
「お、来たか。まあ座ってゆっくりしてして行きなさい」
そう言って俺が訪れたのは「DMD」で、何故来たかと言うとスサノオの定期メンテナンスの為である。
入口から入って正面の大きな机に座っている父さんにスサノオを投げて渡す。父さんは両手でしっかりとキャッチしてスサノオに聞く。
「調子はどうだいスサノオ」
《良好です課長。カートリッジシステムに若干のガタつきが発生していますが許容範囲内です》
「そうか、後でエドに見てもらうとしよう。他に調子の悪いところはあるかい?」
《現時点ではありません》
「分かった。じゃあ、通常通りメンテナンスを始めるよ」
《了解》
そう言うと父さんはスサノオを円柱の装置に置く。するとスサノオが浮かび上がり、父さんの前のモニターにスサノオのデータが映し出される。
さながらRPGのステータス画面の様だ。すると次に現れたのは文字がびっしり詰まった画面で、それがスクロールしていく。
「お~、さっぱりわからん」
「ははは、慣れれば意外に分かるもんだよ」
「そんなもんなの?」
「そんなもんさ」
「そんなもんですよ」
ハハハハハハと笑う二人。……二人? 俺は父さん横で笑っている人を見る。
「……誰?」
いきなり現れた丸眼鏡をかけた女性職員、緑の髪を肩あたりまで伸ばたショートカットで、後ろ髪がクルッとはねっ返っている。
またどっかで見た事のある奴が出てきた。流石にモブキャラを全員把握している訳ではないので名乗ってもらわないとさっぱりだ。
「ああ、一樹とは会った事なかったっけ? 彼女はマリエル・アテンザ。本局からこっちに新デバイスの開発の関係で来ているんだ」
「はじめまして、本局第四技術部所属、技術官マリエル・アテンザです。本局から一時的に「DMD」にお邪魔させてもらってます。噂は色々聞いてるよ、一樹三等陸士」
「あ、どうも。斎藤一樹三等陸士です。因みに噂ってどんな?」
そう言って握手を求めて来たので、とりあえず握手をして記憶を探る。
マリエル・アテンザ……確かアースラに乗ってなのちゃんとフェイトちゃんのデバイスを修理した人だっけ?
アレ? それってシャーリーだっけか? いかん、よく覚えてない。
「曰く上官に敬意を払わない碌で無し、曰く悪戯の名人、曰く地上本部の汚点だとか色々あるけど?」
「あ、悪戯の達人にしておいてください。後は汚点にして頂点とか?」
「……噂通りみたいだね」
「ハッハッハ、名人なんて士官学校の時に卒業してますよ」
「一樹、あまりはしゃぎ過ぎないでくれ。少なからずこっちにも苦情が来るんだから」
「……それでいいんですか?」
「良いんだよ。たいした問題じゃないしね」
「結構な問題の様な気がするんですけど?」
「な~に、まだ見習いだからグリ~ンダヨ~!」
「一樹もなんだかんだ言ってそれなりに事件を解決しているからね。人の足りない地上ではまず首を切られる事はないだろうね。ああ、でも地上だからって訳でもないけどね。海でも同じだろう」
「へ? そんなに解決してるんですか?」
意外だったのか驚かれた。
まあ、確かにこんなにふざけた奴がまともに仕事が出来るわけがないと思われても仕方がないだろう。
それに管理局は公務員みたいなもんだ余程の事がない限り首を切られる事はない。まあ、切られる時は切られるのだが。
「どうだろ? 俺自身応援で行ってるだけだから解決してるって言うのもおかしいし、大抵ゼストさんと一緒に突入するだけだからな~」
「ゼストさんって地上本部のエースじゃないですか!? なんでその人と!?」
あ、やっぱゼストさんって有名なんだ。本局の人にも知れ渡ってるし。俺は一部を除いて無名だからな~。
「知らんがな。おっさん経由で命令が来るんだもん」
「?、おっさん?」
「レジアスのおっさん」
「!?、何で地上本部のトップクラスから直々に命令があるんですか!?」
「あれ? そう言えば何でだろ?」
言われて初めて気が付いた。確かおっさんと知り合ったのは、配属先での歓迎会だった。
まあ、歓迎会と言う名の全員との模擬戦だったのだが。そこで最終的にゼストさんと引き分けに持ち込んでぶっ倒れたのだ。時間制限付き、一本勝負と言っても隊全員との模擬戦だ、ホント洒落にならなかった。
魔力も体力も氣も限界の中、良く引き分けに持ち込めたものだと感心する。その後開かれた飲み会で初めて話したんだよな確か。何でいるのか聞くと、毎回新人が配属されるとこの模擬戦が開かれるからそれを見に来るのだとか。
ゼストさんの部隊と言う事もあって一番見に来やすいらしい。そこで色々聞かれて無難に答えてたはずなのだが…………。まあ、此方としてもおっさんと伝手が出来るので深く考えなかったが。
「……ホント人の噂って当てにならないね」
考え込んでいたら呆れられた。何故に?
「まいっか、考えてもわからねーし。そう言う事もあるって事で良くね? それでいいっすかアテンザさん」
「……まあ本人がそう言うんなら。あと、マリーでいいよ。みんなそう呼ぶし」
「テンプレですね分かります」
「てんぷら?」
首をかしげて聞いてくる。
「何故日本の料理を知っている?」
「え? ニホンは知らないけど、最近出来たお店にあったよ? 食べてないから味は分からないけど」
「マジでか!?」
「ああ、確かに本部の近くに出来たって聞いたよ。今日のお昼はそこにする?」
「賛成! 味を確かめてやる」
「あ、私も食べてみたい」
「うっし、じゃあ皆で行くべ」
「そうだね、スサノオのメンテナンスが終わったら皆で行こうか」
「フフフ、私の舌を唸らせる事が出来るかな?」
「もうちょっと掛かるから待ってくれ」
話が付いたので、父さんは画面に再び目を落とす。
マリーさんも自分の作業に戻っていく。特にやる事がないので椅子に座ってまっているとふと気になった事があった。
そう言えば、何でマリーさんがいるんだろ? 本来なら本局にいる筈なのではないだろうか?
「そう言えばマリーさんの開発している新デバイスってどんなの?」
「え~っとね、グレアム提督の指示で氷結系のデバイスを開発するんだ「ブーーー!!ゴホ!ゴホ!!」、ちょ、ちょっと大丈夫!?」
俺は飲んでいたコーヒー(砂糖とミルク入り)を噴き出す。
「だ、大丈夫! ゴホ! ちょっと気管に入っただけだから。ゴホ!」
予想外だ、まさかデュランダルの開発だったとは! となると父さんも関わるってことか? 確認しなきゃ。
「そ、そう? で、その開発で上手くいかない所があるからDMDに協力してもらう事になったの。いまいちデバイス自体に氷結化能力を持たせるのが上手くいかないのよね~」
「ふ~ん、今はそんな事が出来るんだ」
確かデュランダルは現在の最新技術を詰め込んだデバイスだったはずだ。
クロノが使う予定だからカートリッジシステムをぶち込んでもいいんだけどな。
「実用化にはもうちょっと掛かりそうなんだけどね。でも、上から早く完成させろってせかされるし、圧力が掛かるしで余裕がないのよね。全く、そんなに簡単に出来るんなら誰も苦労なんかしないわよ」
「ご愁傷さま。まあ、焦って完成させていざ使ってみたら爆発しちゃいました、何て事になったら目も当てらんないからね。そんな声気にしなくていいんじゃねーの?」
「そうなんだけどね~、でも言うほど簡単じゃないんだよ? 皆カリカリしてくるし、雰囲気も悪くなるし、まだそんなに経ってないからそれ程でもないけど、末期になってくると酷いものよ? もうみんな目は血走ってくるし、ちょっとした事で怒鳴ったりするしでもう……はあ」
「……それはまた壮絶な光景で」
「でしょ!? そんな状況でまともな仕事が出来ると思う?」
「無理無理」
はっきり言ってそんな状況で仕事何ぞしたくもない。
「それなのにうちの上の連中ときたら、そんな事知りませんと言わんばかりに軽く言ってくるからホントやめてほしいわよ。ここの環境が羨ましいわ」
「まあ、うちは特殊だからね。でもそっちほど開発資金はないよ?」
そう言って苦笑いする父さん。
「そうなんですよね~。」
う~んと悩むマリーさん。開発はどうしても資金が必要だ。地上と本局では使える資金の額がかなり違うと聞いた事がある。
それもまた魅力の一つだろう。そんな話をしていると、大柄で無精ひげを生やして、作業着を着た男性が入ってきた。
「おう、一馬。戻ったぞ」
「あ、エドさんちーっす」
入ってきた男エドさんこと、エドワード・サックス技術官である。
「一樹か、来てたのか」
「スサノオのメンテっすよ」
「フレームの方はどうだ?」
「スサノオが言うにはカートリッジシステムに若干ガタつきがあるみたい。今は問題ないみたいだけど、ほっといたら装弾不良とか起こすかもしんない」
「そうか、スサノオはどうした?」
「今中身見てもらってる」
そう言って俺はスサノオの方を指さす。
「分かった。それが終わったら見てやる。他に不具合はあるか?」
「いや、今んとこ特に……あ、この規格のカートリッジってある?」
そう言って俺は在庫を聞く。その規格は、シグナムとヴィータのカートリッジだ。
この規格、地球の規格だと500S&W弾という馬鹿デカイ規格なのだ。因みにこれは、かの有名な44マグナムの三倍の威力を誇る程のものだ。
ハンドガンの中では世界最強と言われているが、カートリッジシステムの場合は別だ。このサイズがオーソドックスなサイズらしい。
「ん? あるっちゃあるが何に使うんだ?」
「知り合いがこの規格のカートリッジ使ってっから予備として欲しいんだけど」
「数は?」
「とりあえず四箱」
「やけに使うな。使い捨てじゃないんだぞ?」
「念のため。連続使用を考えてるので」
大丈夫だとは思うがう、万が一充填出来なかったら不味いので。
「お前のはどうするんだ?」
「完成してんの?」
「ああ、とりあえず今10発程あるが?」
「んじゃあそれもお願い」
「分かったちょっと待ってろ」
そう言ってエドさんは奥の倉庫に入っていった。そしたら今のやり取りを見ていたマリーさんが聞いてくる。
「ねえねえ一樹君、君のデバイスってカートリッジシステム積んでるの?」
「はい、積んでますけど?」
「ちょっと見せてくれない!? 私、資料とかでは見た事あるんだけど実物のカートリッジシステムって見た事ないの!! 私の周りに使ってる人っていないのよ!!」
目をすっごいキラキラさせてせがんでくるので、思わず引いてしまった。
「い、いいっすけど参考にならないと思いますよ?」
「へ? 何で?」
「え~っとですね」
首をかしげるマリーさん、どう説明したものかと悩んでいると、
「一樹見せた方が早いだろ。メンテ完了だ。確認してくれるかい?」
「いいタイミングだね」
「偶然だよ」
「ま、いっか。スサノオ」
《了解、セットアップ》
そう言うと足元に魔法陣が現れて、それが上にあがる。すると足元からバリアジャケット姿になっていく。
その後スサノオをいじって、魔法プログラム一覧をチェックする。バリアジャケット、防御魔法、攻撃魔法、特に問題はなさそ……ん? アレ? 集束魔法が入ってる。入れた覚えはないし使った事もない、くらった覚えはあるけど。違うとは思うけど念のため父さんに確認する。
「父さん。何かいじった?」
「いや、普通のメンテナンスをしただけだから何もしてないけど?何かあったのかい?」
そう言われて少し考え込む。父さんもいじってない。となるとこれはどっから…………あ!
もしかしてこれ「ラーニング」か?それなら納得がいくんだけど、まさかこんなふうに覚えるとは。
まあ、確かにあんときは色々余裕がなかったから分からなかったのかもしれん。しかしついに魔法を「ラーニング」し始めたか。何か気分は某RPGの青い魔導師だな。
「あ、うん。ごめん問題なかったよ父さん」
「そうか、それは良かった」
「ねえねえ、早く!」
「了解、これがそうだよ」
そう言って俺は籠手に付いているスライドを引きして薬室(チャンバー)を見せると、籠手の部分にガッとしがみつき食い入るように観察する。
「……こ、これがそうなの?」
「ええ、これが俺のカートリッジシステムです」
「……とんでもないわね。通常の規格の何倍あるのよ?」
「さあ? 十倍はあるんじゃないっすか?」
「威力は?」
「薬莢が通常のカーットリッジより丈夫な分、圧縮出来る魔力も規格外らしいっす。前にクロノがS2Uで一回、一発だけロードして使ったらヒビだらけになっちまった。生半可な強度のデバイスじゃバラバラになると思いますよ」
実はS2Uは特にフレーム等の強化はされていなかったのだ。何でも普通のデバイスに積んだ時のダメージ等を確認する為でもあったらしい。しかし、それなら事前に言ってほしかった。P・T事件の時をれを知らなかったから、聞いた時ヒヤッとしたものだ。
「へぇ~、スサノオだっけ? それは大丈夫なの?」
「元々スサノオはこれを使用する前提で設計されてるから強度は問題ないよ。ただ部品に不具合が出るから使う度にちゃんと点検整備しないとすぐに駄目になる」
「そうだ、特に一樹の場合、攻撃手段が格闘だから攻撃しても防御しても籠手にダメージがたまりやすい。だから余計に点検に力を入れないと駄目だ。ほれ、一樹の十発と知り合いのカートリッジ十四発入り四箱だ」
そう言って机の上にドンと置く。それを見てマリーさんがまた驚きの声を上げる。
「ちょ、何よこれ!?」
「俺のカートリッジだけど?」
「……これなら納得だわ。生半可なデバイスじゃ一発でバラバラね」
そう言って牛乳瓶ほどある俺のカートリッジを手に取り観察する。
「もう良いっすかね?」
「ええ、ありがとう。参考になったわ」
「……これ参考にしても仕方ないと思うんですけど?」
「あ、違うわよ。システム自体は同じだから大丈夫なのよ。一樹君のは耐久や、カートリッジのサイズやらが違うだけだからね。基本的な所はほとんど一緒よ」
「ああ、なるほど」
「ありがとう。いいもの見せて貰えたわ」
「ん、この程度で喜んでもらえて何より。じゃ、そろそろ良い時間だし飯にすっか! 腹減っちまった」
グ~、と鳴る腹を押さえながら言う。
「そうだね。エドはどうする?」
「すまん。もう食ってきちまった。何だ三人で行くのか?」
「ええ、近くに僕の故郷の料理を出している店があるみたいなのでそこに」
「そうか、また今度誘ってくれ。一樹、籠手の部分取り外して置いてけ。戻ってくるまでに見といてやる」
「そうっすか?じゃあ、お願いします」
俺はそう言って籠手を外す。ガチャガチャいじり、固定している部分を取り外していく。
ゴト、ゴト、
と両腕の籠手を机の上に置き、バリアジャケットを解く。籠手は整備設定になっているので一緒に消える事はない。
「おう、ゆっくり食ってこい」
そして三人で目的の店に移動した。店は地上本部から割と近く5分程でついた。店は日本でよく見かける佇まいで、和風な建物である。
まだ混む前だったのか席にはすんなり座る事が出来た。そこで三人とも天ぷらそばを注文する。いざ来てみると普通の天ぷらそばだった。
勘違いした料理が出てくるのかとヒヤヒヤしたが、今のところ大丈夫そうだった。そしていざ、
「実食!」
さあ、三人一斉に口に入れる。味はどうだ!?
「「「美味しい」」」
なかなかの味だった。「参りました」とならなくて良かった。
地元と比べても遜色なかったどころか美味い部類に入る。いい店を見つけたものだ。
しかし何でこんな店がミッドチルダにあるんだ? その事を気にしつつも三人で談笑しながら食事をとる。食べ終わってマリーさんが時間を確認する。
「あ、もうこんな時間。もう行かなきゃ」
「ん? 何かあるんすか?」
「うん、一度本局に戻らないといけないんだ」
そう言いながら立ち上がり、自分の財布からお金を取り出そうとする。
「あ、支払いはしとくから良いっすよ」
「いいの?」
マリーさんが確認をとる。
「うん、払うのは父さんだし」
「そこは自分で払うって言っとこうよ」
マリーさんが呆れた感じに言ってくる。
「分かりました。俺が払っときましょう」
「ありがとう。今度は私がおごるよ」
「ん、高級店で馬鹿食いフラグが立ちました」
「……ファーストフードで良いかな?」
「ファーストフードで馬鹿食いフラグが立ちました」
「馬鹿食いから離れようね!? うちは薄給なんだよ!?」
突っ込見ながら自分の給料をばらすマリーさん。まあ、俺も大したことはないが。
「まあ、気にしなくていいよ。たまには父さんに奢りたいので。最近父さんにたかってばっかりだったから」
そう言って俺はプラプラと手を振る。
「そっか、ありがとう。じゃあまたね。機会があったらまたデバイス見せてね」
「ん。考えとく」
そう言ってマリーさんはお店から出て行った。さて、これでゆっくり話が出来る。
「父さん」
「ん? なんだい?」
「最近家に帰ってるの? 母さんが心配してたよ?」
(念話で本題を話すから会話をしながらお願い)
「あ~、そうだね。ここ最近帰ってないな~」
(念話でとは、中々穏やかじゃないね)
まあ、念には念を入れておいた方が良いだろう。実際何処に耳や目があるか分からない。
「亜夜もあいたがってたし、兄ちゃんも戻って来てるよ」
(マリーさんの開発しているデバイスに関わるってホント?)
「本当かい?」
(本当だよ)
「うん、何か日本に用事があるんだって」
(ちょっと手を加えてほしいんだけど?)
「そうか。しばらくこっちにいるのかい?」
(それは例の計画の関係なのかな?)
「うん、しばらくいるって言ってた」
(うん、出来ればしてくれるとありがたい)
「じゃあ近いうちに戻るよ。お母さんにも言っといて」
(どんな内容なんだい? やるにしても内容次第だよ?)
「良かった。そんじゃあ母さん達にも知らせておくよ」
(そのデバイスをクロノしか使えないようにしてほしい)
はたから見たら普通の親子の会話になっているだろう。
しかし、念話の会話は普通の親子の会話じゃない。どっちかって言うと悪者っぽい会話だ。
「頼むね」
(何故?)
「あ、後ちゃんとご飯食べてるかって。インスタントばっかりじゃ駄目だって言ってた」
(他の奴がホイホイ使えるようになってるとちょっと困るんだよね。強力な物みたいだし)
「大丈夫だよ。最近簡単だけど料理をするようにしたんだ。まだそんなにこったものは作れないけど、そこそこ美味くなってきたよ。今度家に帰ったらお母さんに食べてもらおうと思ってるんだ。今まで料理を作るなんて事しなかったからね。喜んでくれると良いんだけどな~。一樹にも評価してもらいたいんだ」
(まあ、デバイス自体に氷結変換できるようにするから、術者が氷結変換資質を持ってればかなり強力になるね。仮に魔力ランクがSSSの魔導師百人分の魔力を注ぎ込めば計算上、マイナス一兆二千万度の冷凍魔法が使えるようになる。まあ、あくまでも机上の計算だから実際にやろうとしたら無理だろうけど)
「某美食家並み厳しいけど?」
(……何そのバスターマシン)
「お手柔らかに頼むよ」
(バスターマシン?)
「いやいや、ここで正直に言わなかったら父さんの料理は不味いままの料理になってしまう。気をつかって美味しいって言っても無意味。それこそ、その人の為にならないよね。そんなことしたら」
(こっちの話。で、どう? 出来そう? 出来るんならS2Uに積んであるカートリッジシステムも積んでもらって構わないんだけど。むしろそのあたりのデータを使ってクロノ専用に仕上げてもらいたい)
「まあ、その通りかもしれないね」
(む、結構面白いのが出来そうだね)
「でしょう? だからここは一つ、実行してみない?」
(でしょう? だからここは一つ、厳しく行きます)
「分かった。色々と組みこんでみるよ」
(じゃあ、一生懸命作るとしよう)
「ん?」
「あれ?」
此処まで話して何か違和感を感じて二人で顔を見合せる。
「最後だけ逆になってしまったね」
「あぶね~、やっぱり慣れない事はするもんじゃね~な」
一瞬ヒヤッとした。
「でもまあ、発想は良いと思うよ。後は訓練次第じゃないかな?」
「確かに、これはこれで使えそうだ。でもいきなりはやめておいた方が良いかも。一回戻ろう。話は戻ってからの方が良いと思う」
「そうだね。そろそろ戻ろうか」
そう言って俺と父さんは席を立つ。俺持ちなので父さんには先に出てもらってレジに行き会計を済ませる。
ランチだというのに結構な値段だった。DMDに戻るとエドさんが籠手を投げてきた。
「ほれ、一樹。出来上がったぞ」
俺は籠手を受け取り、バリアジャケットをまとい籠手をはめる。しっかりと固定した後スライドを何度か引き確かめる。以前あったガタつきやブレが無くなっている。
「流石エドさん。良い仕上がりっすね」
「なに、この程度は朝飯前だ。乱暴に扱うなよとは言えんが点検はしっかりしておけ」
「うっす、ありがとうございます」
エドさんにお礼を言って元に戻る。改めて父さんと話す。
「しかし、そこまでするにはそれなりの理由がいるね」
「それなら大丈夫じゃないかな? クロノはグレアム提督の知り合いだし、氷結魔法も使えるし。魔導師としても優秀だし。カートリッジシステムを使う上でクロノに協力してもらえば。クロノのデータを使ってたらいつの間にかクロノ専用になっていたで大丈夫でしょう」
「う~ん、とりあえずそれでいいか。駄目だったらまた考えればいいし」
「駄目だったらこっそりしちゃえば良くない?」
「それは最後の手段。何事も許可が出た方がやりやすいからね」
確かにその通りだけどね。まあ、とりあえずデュランダルの関係はこのくらいでいいか。
「じゃあ、父さん何かあったら連絡して」
「分かった。一樹も頑張りなさい。はやてちゃんを必ず助けるんだぞ。私も何でも強力する」
「分かってんよ。じゃあまたね」
「ああ、気をつけてな」
そう言って俺は帰るのだった。