魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第三十四話 A`s編開始

― 斎藤一樹 ―

 

 俺は今階段を駆け下りている。一段飛ばし何ぞ生ぬるい事はせず、壁を使い三次元的な機動で降りていく。

 なまじエレベーターを使うよりこっちの方がはるかに速い。俺の後ろには後を追ってくるスーツ姿の人達。

 しかし「氣」で身体強化をした俺に追いつけるはずがなくぐんぐん引き離されていく。そして俺は建物の正面玄関まで来ると。自動ドアの前に立ち開くのを待つ。

 自分の体がギリギリ通れる隙間があいた瞬間スルリと外に出て、建物の正門前にいる報道陣に向かって持っていた紙をバッと広げる。そしてその紙には、

 

「勝訴?」

 

 と書かれていた。

 

「「「どっちだよ!?」」」

 

 それを見た報道陣の何名かから声が上がる。それについて俺が話そうとすると、

 

「またやったか! この馬鹿者が!!!」

 

ゴギャン!!!

 

 とおおよそ人体から出るような音では無い音が周囲に響き渡る。

 俺は殴られた衝撃で顔が地面に突き刺さり、ちょっとした穴ができた。

 ゆっくりと顔を地面から離し、殴られた頭を押える。良く見ると地面には俺の「顔拓」が出来ていた。

 

「痛ぅぅーーー!! 痛いっすよゼストさん!! なんばしよっとですか!?」

 

 そう言って俺はゼストさんを見る。

 黒髪で大雑把な髪形、大柄で口を一文字に結んでいて、身長は俺より頭一つ分高く190位ありそうだ。

 いかにも寡黙とか武人と言う言葉が似合う人である。

 

「そんな事も説明しなければ分からんのか?」

 

「いえ、分かりきってますけどね」

 

「……」

 

「いや~、一度でいいからやってみたかったんですよ。これ」

 

そう言って俺は手に持っていた「勝訴?」の紙をひらひらさせる。

それを見てゼストさんが額を押えため息をつく。

 

「お前はもう少しまじめに仕事を出来んのか?」

 

「俺は何時でも全力ですが?」

 

「方向が盛大に間違っているぞ」

 

 ゼストさんと他愛もない話をしていると周りのマスコミがヒソヒソと話をしていた。

 

(おい、あれゼスト一尉じゃないか?)

 

(ああ、間違いない。どうしてここに地上本部のエースが?)

 

(護送担当なんじゃないか?)

 

(なるほど。しかし、あの陸士はだれだ?)

 

(さあ? ゼストの部下じゃないか? しかし、上司にため口とは……)

 

(地上本部の人手不足ってのはほんとに深刻なんだな)

 

(ああ、あんないい加減な奴でも使わないといけないのか)

 

(ゼストも大変だな)

 

(地上本部は大丈夫か?)

 

 と何やらひどい言われようである。

 ふう、と一息つきゼストさんの方を見ると苦笑いしていた。

 俺とゼストさんは報道陣から見えない位置まで移動する。するとゼストさんが話しかけてきた。

 

「あれが今のお前の評価みたいだぞ?」

 

「まあ、あれだけ見ればそうなるんじゃないですか? 今までマスコミに騒がれる様な事件解決してないですし」

 

 やっぱりと言うかゼストさんにも聞こえてたみたいだ。

 

「どの口でそれを言う。今までだって解決してきただろうに」

 

「や、それ参加したの俺だけじゃないうえに公式には俺は参加してないでしょ?」

 

 ゼストさんは「むっ」と唸る。

 

「……今回の事件はどうしたんだ?」

 

「ん~、メインで解決したのは俺じゃないので」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、俺は裏でコソコソしていたので。はたらか見たら邪魔してたようなもんですし」

 

「……何をやっているんだお前は」

 

「裏工作です」

 

「法に触れるようなことはしてないだろうな?」

 

「……さ~て、そろそろプレシアさんが出てくるところですね!」

 

「おい斎藤。また何かしたのか?」

 

「イイエ、ナニモシテマセン」

 

「片言になっているぞ」

 

「キノセイデス! HA! HA! HA!」

 

「……何をしているんだお前達は?」

 

 俺がゼストさんに問いただされている所に来たのはレジアスのおっさんだった。

 身長は俺とゼストさんの中間位で、角刈りっぽい髪形に、モミアゲに顎鬚に口ひげすべてが繋がっていて、しかも眉なしという厳つい恰幅の良いおっさんだ。

 しかしこのおっさん侮る事なかれ、恰幅は良いがデブではなくかなり鍛えられている。たとえて言うなら脂肪を無くした力士のような感じだ。

 この間徒手格闘訓練に参加してきたのだが、その際某天空の城に出てくる親方のごとく上半身をパンプアップさせ、Tシャツをはじけさせるという事をやってのけた。流石にあれにはど肝を抜かれた。

 原作では魔導資質は無く、戦闘シーンも無く、あっさり退場してしまったので、てっきりそういった方面はからっきしだと勝手に思っていたからだ。

 しかしふたを開けてみれば、魔力を使用しない徒手格闘はクイントさんと以上と言うチートぷり。

 重量級の体からは考えられない程軽いフットワーク、そしてそこから繰り出される打撃は脅威の一言である。

 流石は小将と言ったところか。

 そしてその横には、青味がかった紫の髪をポニーテールにしている明るい雰囲気の女性、クイントさんに、紫の絹糸の様な髪を腰まで伸ばし物静かそうな雰囲気をまとっていてさながらどこかのお嬢様のような感じのメガーヌさんがいた。

 二人とも美女と言って差し支えないほど綺麗な容姿をしている………が、いざ戦闘が始まると普段の様子はなりを潜め、かなりイケイケな感じになる。

 初めて会った時はメガーヌさんのポジションは召喚師のフルバック。所謂「後方支援」だ。

 なのにやたらと前に出たがる。理由を聞いてみたら「クイントばかり前衛をしててずるい」だそうだ。

 ポジションの事を言ったら「前衛も出来ますよ」なんて言ってきた。なんでもここに来る前はクイントさんと一緒に前衛をしていたらしい。

 そして以前とある犯罪グループのアジトの制圧作戦の時、いざ二人で前衛をしたなんかそりゃあもう無双だった。

 初めは二対二でやり始めたのだが、調子が出てきた上に久しぶりのコンビだった為クイント・メガーヌペアは初めに戦っていた相手二人を倒したら他の場所にも乱入していき次々に制圧して、終いには二人で6~7割の犯人を捕まえた事があった。

 その際テンションが上がりまくった二人は嬉々として笑いながら犯人を制圧したそうだ。

 まあ、そのあとゼストさんに注意されたようだが。で、そんな二人が声をかけてくる。

 

「一樹君また隊長をからかってたの?」

 

「あまり誉められたものではありませんよ?」

 

 二人にそう言われるが……。

 

「……美女に挟まれて両手に花とか……死ねばいいのに」

 

「レジアス、ずいぶんとお盛んだな」

 

「き、貴様らは(怒)」

 

 俺とゼストさんの言った事に青筋を浮かべるレジアスのおっさん。

 

「あら、うれしい事言ってくれるわね。でも私はゲンヤさん一筋なのよ」

 

「「知っている(っす)」」

 

 照れながら答えるクイントさん。

 

「私ももう少し年の近い人でないと」

 

「「……」」

 

 ばっさり切り捨てるメガーヌさん。

 

「ワシは妻に娘もおるわ!! 何が悲しくてこの二人と関係を持たなければならん!?」

 

「「あ」」

 

 余計なひと言を言うおっさん。

 俺とゼストさんは声をあげた。三者三様の答えだったが最後のは余計だった。なぜかと言うと、

 

「あら? それは私達では役不足だという事?」

 

ガシィ!

 

「いくら少将でも言って良い事と悪い事がありますよ?」

 

ガシィ!

 

 おっさんの肩をクイントさんとメガーヌさんが掴んでいるからだ。はたから見ても肩に手が食い込んでいる。

 

メリメリメリ!!!

 

 その痛みで我に返ったのか自分の発言の迂闊さに気付いたようだ。

 

「あ、いや、言葉のあやだ! 決して嫌だという訳でhイダダダダ!! こら、待て! どこに行くんだ! 襟を掴んで引きずるな!」

 

 二人に引きずられていくおっさん。

 

「何処って、体育館の裏ですよ?」

 

「古今東西、そこはいろんな事が起きる素敵な空間らしいですよ?」

 

「ま、待たんか! 体育館はここにはない! しかも何だその変な知識は!? 誰が教えt……貴様か斎藤!!」

 

 これ見よがしにイエーイ! とダブルピースしてみる。アヘ顔ではないが。

 

「カツアゲ、告白、草むしり! なんでもござれの体育館裏! おっさんの場合は「おい、ちょっと来い。シメテやる」見たいな感じか?」

 

「「さて、もう言い残すことはないかしら?」」

 

 クイントさんとメガーヌさんがきれいに声をそろえて言う。

 

「あ、コラ! やめんか! ぉぃ! …………ぬわーーーーーーっっ!!」

 

 ズルズルと引きずられて離れていく。

 声もだんだん小さくなるが、建物の陰に入り見えなくなってしばらくして悲鳴が聞こえた。

 

「一体どうなった事やら」

 

「まあ、あいつらも加減ぐらいしているだろう」

 

「でも常識的に考えて少将を体育館裏に連れ込んでボッコボコにするってどうなんすかね?」

 

「お前が常識を語るか?」

 

「失礼な。俺にだって一般常識位ありますよ?」

 

「お前の普段の行動は非常識だ」

 

「ですよね~。しかし、どっから漏れたんすか? マスコミに」

 

「分からん。正直候補がありすぎて調べきれん。反対派の工作の一つであるのは確かなのだがな」

 

「予想はしていましたけど結構な数っすね」

 

「ああ、流された情報もかなり偏ったものだったからな。まるで修復が失敗するのが前提と言わんばかりのものだ。それが連日放送されてしまったからな。自然と世論が修復に否定的になってしまった。失敗すれば危ないのは局員だけではないからな」

 

 そう言って俺とゼストさんは再び裁判所の正門に目をやる。

 そこのは数多くの報道陣が詰めかけていた。待っているのは恐らくさっき連れて行かれたおっさんと、プレシアさんだろう。何故こうなったかのかはちょっと前にさかのぼる。

 「P・T事件」正式名称は「プレシア・テスタロッサ殺人未遂および次元災害未遂事件」である。

 それから少し経ち、今は四月の終わり。俺は今ミッドチルダの裁判所にいる。

 何の裁判が行われているかと言うとはプレシアさんの裁判だ。早すぎじゃないか? と思うがこれにはある理由がある。その理由は今連れて行かれたレジアスの おっさんが管理局の月例会議で爆弾発言をかましたからだ。

 

「闇の書修復を行う」

 

 これには当然さまざまな場所から反対があった。

 本局しかり、地上本部しかり、特に本局の一部からは猛反発された。

 「出来るわけがない」「無謀だ」「11年前を忘れたか」「あんたバカァ?」等など。色んなところから色んな意見が出た。特に古参の連中からの反対が多かった。

 何故か? 闇の書との戦闘を経験しているのは今となっては古参の連中だけだからだ。その当時の凄惨さを身にしみて知っていからだろう。

 唯一反対しなかったのは聖王教会位だろうか? 闇の書自体が古代ベルカ時代に作られているのは知られており、もしこれが修復されれば聖王教会が得る利益はかなりのものだろう。

 しかし、積極的に協力しようというのもでもなく、美味しい所だけ取れたらいいなと言う考えが見て取れる。

 正直ウザイ。手伝わないなら余計な事はしないでほしい。俺は政治的なものだったり駆け引きだったり、そう言った事は本来さっぱりなのだ。

 今はまだ原作知識が役に立っているからいいが、正直余計な事にいらん心配をしないで全力で事にあたりたいのだ。まあ、そういった事はおっさんがしてくれるそうだが。

 今回おっさんがこんなことを言い出したのは俺が持ちかけたからだ。俺は「P・T事件」が終わってすぐにユーノの首根っこ掴んで無限書庫にぶち込んだ。

 もちろん探してもらうキーワードは「闇の書」「夜天の書」の二つ。最初はかなり渋っていたが、報酬を用意すると二つ返事でOKをしてくれた。報酬の内容は……まあ、やつも男だったと言っておこう。

 そしてほぼ缶詰状態で無限書庫にこもる事二週間。原作以上の情報を引き出してきやがった。助手として俺とリニスも一緒だったというのもあると思うが。

 原作では三週間ほどかけて情報を探し出していたはずだ。それを一週間も縮める事が出来たのは助かった。おかげで月例会議に間に合った。

 因みに、俺とリニスが助手として付いた理由はもちろん無限書庫内に「カリウム」の情報が混じっていないかというのを確認するためでもあったのだが……こちらは早々に諦めた。

 はっきり言おう。無理だ! 片手間に調べるには量がありすぎる。まあ、無限書庫については管理世界の情報を制限なく集めるようなので管理外世界の事は大丈夫だろうと思う事にした。

 これが終われば時間も出来るからその時じっくり探す事にしよう。

 で、実際ユーノの仕事ぶりを見ると圧巻の一言だった。次から次へと関連書物を探し出してくる。おまけに片手間だと言わんばかりに整理も始める始末。

 ユーノマジパネェ! これからは「ユーノさん」と呼ばなければならないだろうか? これならクロノがスカウトした理由もうなずける。これだけの能力を使わずにいるのは惜しい。

 実際現場では情報が違ったり、情報なんてまるでない状態やで突っ込む事が多々ある。

 しかしこの無限書庫には正しい情報の宝庫だ。ここを使えるように出来るなら現場の死傷者数も減るだろうし、今まで着手出来なかった案件も出来るようになる。

しかし、それが出来るようになるのはまだ当分先のようだが。

 そして俺はその情報を元におっさんの説得を始めた。そこはおっさんの執務室。マホガニー色の重厚で高級そうな机で作業をしていたおっさんは手を止めて話を聞いてくれている。

 知り合いが闇の書の主の可能性がある事、まだ起動していないが何時起動してもおかしくない事、闇の書のせいで下半身が麻痺している事、そして、何とかしなければその知り合いの命が危険だという事を正直に話した。

 

「斎藤。それは何の冗談だ?」

 

「レジアス少将。今言った事は全て事実です」

 

 そう言って俺はスサノオを操作しウィンドウを開き画像を見せる。

 そこに映ったのははやてちゃんの情報と、部屋の本棚の片隅に置かれている闇の書の画像だ。それを見たおっさんの表情が変わる。

 

「……。どうやら本当のようだな」

 

「分かってもらって何よりです」

 

「また厄介な案件を持ち込みおって」

 

「む、そんなに厄介な案件ばっかり持ち込んでないですよ?」

 

「……そうだな。今回の件と比べれば他の事はままごとみたいなものだ」

 

「……すいません」

 

「構わん。で、どうするつもりなんだ?」

 

「闇の書を修復します」

 

「……すまん。もう一度言ってくれ」

 

 一瞬の静寂。おっさんが耳の穴を指で掃除して聞きなおしてくる。

 

「夜天の書に戻します」

 

「さっきと違うではないか!」

 

「聞こえてるんなら聞き返さんで下さい」

 

「ふぅ、……貴様といると退屈せんよ」

 

「ありがとうございます」

 

「誉めとらん。で、どうするのだ? はっきり言って闇の書は厄介事だらけだぞ?」

 

「と言いますと?」

 

「まず、これは上の連中に言える事だがほとんどが闇の書は毛嫌いしているな」

 

「……厄介事だから?」

 

「それもある。が、実際に地獄を見ているのだよ。闇の書と戦い、守るべきものを守れず、上司を、部下を、同僚を、家族を、恋人を殺されている。悲劇を止めるために全員が一丸となって解決しようとした。闇の書を直すプロジェクトもあった。しかし結果は……無残なものだったよ。それに携わった人全てが犠牲となった」

 

「………………」

 

 驚いた。闇の書を直すプロジェクトなんてあったのか。

 

「そして、それ以降管理局の佐官以上ではこのような取り決めが出来た。「闇の書の主については何らかの犯罪行為を行った場合、可及的速やかに処理をする事」とな」

 

「んな!?」

 

「これは佐官以上しか知らされていない情報だ。大丈夫だと思うが気をつけろ」

 

「……ずいぶんな取り決めなこって」

 

「しかたあるまい。今までの主は例外なく犯罪行為に走っている。闇の書には洗脳機能まであると言われてもいるぞ?実際のところは知らんがな」

 

「そりゃまたいい加減な推測っすね」

 

「例外が無いのだ。犯罪をせず一生を終えたという例外がな。寄りによって全員が闇の書にのまれている。その場にいる者全てを道連れにしてな。しかも闇の書には転生機能まで付いている。転生する先は決まって「闇の書」を扱えるほどの魔力資質のある者だ。再度起動するまで多少時間はかかるようだが、転生先で起動しないで一生を終える確率なんぞ無いに等しい」

 

「まったく聞けば聞く程厄介ですね」

 

「違いない。で、さっきも言ったがどうするのだ?どう修復する?」

 

「そうですね。その前にこれを見てもらって良いですか?」

 

 そう言って俺はスサノオを操作して新たにウィンドウを開く。

 

「これは先日知り合った協力者と共に無限書庫で「闇の書」を調べた結果です」

 

「ほう、どれどれ……」

 

 そう言うとおっさんは自分の前までウィンドウを持っていき資料に目を通し始めた。

 

「…………」

 

 その資料に黙って目を通す。

 時折ウィンドウを操作し次の資料へと切り替える。部屋には切り替える際の電子音が響く。

 初めはどこかほころんでいた顔が次第に真剣な顔つきになっていく。資料の全てに目を通したおっさんは静かにウィンドウを閉じた。

 

「斎藤、この資料の信憑性はどの程度だ?」

 

 そう言って「闇の書」の資料を指さす。

 

「恐らく8~9割、翻訳の違いで若干の誤差があるかも知れませんが作業をしたのはスクライア一族、遺跡発掘の専門家(スペシャリスト)です。致命的な間違いはあり得ません。それにその資料が間違っていたら無限書庫は存在自体が無意味です」

 

「そうか、あのスクライア一族か……」

 

「はい」

 

「ふむ、「闇の書」の経緯についてはおおむね理解した。これだけの資料があれば上の連中の説得は出来るだろう。次は具体的なプランだが」

 

「はい、まず守護騎士達の説得。これは恐らく問題ないでしょう。主から直接命令させれば問題ないと思います」

 

「そこが出来ねば話しにならん。資料を見た限りでは修復には守護騎士の協力が必要不可欠だ」

 

「次に蒐集についてですが、無人世界のリンカーコアを所有している生物からの蒐集および管理局員の有志からの蒐集を考えています。無人世界での蒐集の際は生態系の調査の名目で許可をもらいたいんですが?」

 

「調査の件については良いだろう。手付かずの無人世界がいくつかあったはずだ。その中からとびきり凶悪な生物のいる所を見つくろってやろう。しかしもう一つの方は……いるのか?」

 

「まあ、地道に声をかけてみますよ。とりあえず同期あたりに頼んでみます。ネックとしては蒐集すると二~三日動けなくなるって事ですかね? 穴があいたら俺をその分使ってもらうってことで」

 

「それなら、その穴のあいた部分に守護騎士を入れた方が良いだろう。少なくともそれならゼストの部隊からは全員からの蒐集が可能になるはずだ」

 

 あ、そっか。

 

「まあ、事がすんなり運ぶか分からんがな。なにぶん恨みを買い過ぎている。余所に行った時無用なトラブルに巻き込まれんとも限らん」

 

「運用は慎重にならざろうえませんね」

 

「ああ、しかし犯罪者からは取り放題だ。捕まえれば捕まえただけ蒐集出来るぞ?」

 

「地上は平和になるし一石二鳥ですか?」

 

「いや、うまく親睦を深める事が出来れば地上の部隊に入ってもらえて一石三鳥になる」

 

 そう言ってガハハと笑うおっさん。

 どうも原作のキャラとの違いがありすぎて困る。まあ、いい人なので問題ないのだが。

 

「蒐集はそれを予定しています」

 

「分かった。それで進める事にしよう。不都合が生じたら常に修正していく必要があるな」

 

「予定通りにいけば楽なんですけどね」

 

「それは無理だろう」

 

「そうっすよねぇ~。で、第二段階なんですけど、これは蒐集と並行して闇の書のバグを探していきます」

 

「大丈夫なのか? 資料によれば強制的にいじろうとすれば転生してしまうのだろう?」

 

「はい、強制的にしようとすればです。主の許可があれば問題ないでしょう」

 

「それはそうだが……大丈夫なのか?」

 

「まあ、無理そうだったらやめておきますよ。これに関しては必要な人材がいるのでおっさんの力で何とかできないかと思って」

 

「何だ?」

 

「プレシア・テスタロッサの協力が必要です」

 

「……何故だ? 技術者というのであれば優秀な者は他にもいるぞ?」

 

「優秀という理由ならそうでしょう。ですか今ここで必要なのは「信頼」です」

 

「なるほどな。確かに他から呼べば反対派の工作が絡んでくる可能性があるか。ではプレシアにはそれほどの「信頼」があるのだな?」

 

「はい、プレシアさんなら絶対にこっちを裏切ったりなんかしない」

 

「家族が人質になる可能性は?」

 

「こっちで最高のボディーガードを付けます」

 

「しかし、魔法が使えないのだろ?」

 

「魔法無しでなら俺以上です。多分ゼストさんクラスじゃないと仕留められないですよ?」

 

「……何者だ?」

 

「知り合いの父兄ですよ」

 

「……人間か?」

 

「人間です」

 

「……そうか」

 

 おっさんがため息をつき「世界は広いものだ」と呟いた。まあ、あの辺りは公式チートだから仕方ない。

 

「で、どうにかなりそうですか?」

 

「あ? ああ、それなら裁判を早めてスピード判決にするか。弁護人もこちらで囲んで、上訴無しで話を通しておけばよかろう。確かプレシアは魔導師だったな?」

 

「はい」

 

 おっさんは机の端末を操作するとプレシアさんの経歴を引っ張り出す。

 

「管理局への奉仕と、「P・T事件」の現地協力者からは事件解決の報酬がプレシアの減刑が願いだそうだ。流石に無罪は無理だが、これだけあれば執行猶予位はもぎ取れるだろう。その間に闇の書を直した功績で刑罰も帳消しか……。貴様が考えた筋書きにしてはまあまだな」

 

「何も言ってないのにそこまで推測しますか」

 

「この位出来ねば今の地位には到底なれんぞ?」

 

「俺はそこまで偉くなりたいとは思わんので」

 

「貴様がそう思うのならそれで構わん」

 

「ま、勝手気ままに動けるってのも強みなので」

 

「ふん、まあいい。プレシアには貴様から伝えておけ。面会位出来るのであろう?」

 

「ええ、今度プレシアさんの娘と一緒に行く予定です。その時に伝えましょう。取り合えず方針はこんなとこですね。他はまたその時期に話します。守護騎士が出てこないと分からない事もありますし」

 

「そうか。何かあれば最優先で知らせろ。出来る限り協力をする」

 

「あ~、でも流石にゼストさんとか送れないっすよね?」

 

「無理だな」

 

「では、アースラと協力体制をとってほしいのですが」

 

 それを聞いたおっさんは顔をしかめる。

 

「……海の連中とか?」

 

「そう露骨に嫌そうな顔しないでください。結構重要な事なんですから」

 

「何だ?」

 

「一つ、拠点となる場所を作っておきたいんですよ」

 

「それでアースラか?」

 

「正確に言えばアースラ組ですね。アースラ本体はおまけ。これには「信頼」のおける人達がいるので」

 

「女狐か」

 

「悪口ばっかり言わんで下さい! これが成功すればちったぁ仲良くなれるかもしれないでしょ!?」

 

「ふん、向こうがそう頼むのなら仕方ないがな」

 

「……頑固おやじ」

 

「なんとでも言え。ワシが何度煮え湯を飲まされてきたか……!」

 

「あ~、はいはい。それはまた今度。協力の件お願いしますよ! どっちにしろ海が横やり入れてくるのは分かり切ってる事なんだから先手を打たなきゃどうしようもないでしょ!?」

 

「……しかたあるまい」

 

「はぁ……。あ~、後は……うん、無いな。今のところはこのぐらい……」

 

 あ、そう言えばおっさんはどうなんだろうか? ふと気になったので聞いてみる事にした。

 

「おっさんは「闇の書」をどう思ってるんっすか?」

 

 俺がそう言うとおっさんが黙る。目を閉じ、顎に手を当て考えている。その姿は何か昔の事を思い出しているようにも見えた。

 

「ワシは非戦闘組だったからな。当時の事は映像と数字でしか知らん。しかし、親しくしていた上司を同僚を殺されたと言う部分もある」

 

「…………」

 

「その時何度も思ったものだ。ワシに戦える力があったらとな。そうすればどうにかなったかもしれん。自惚(うぬぼ)れかも知れんがそう思わずにはいられなかった。さっきまでは闇の書何ぞどうでも良い代物であったからな」

 

「さっきまで?」

 

「ああ、貴様が持ってきた資料を見るまではな。あれが全面的に正しいとしたうえで考えれば、管理局の被害は回り回ったツケで、今の主は犯罪者でも何でもない。管理局(われわれ)が守るべき一般市民だ。今までの闇の書の罪(ツケ)を背負う必要は何処にもない。それに……」

 

「それに?」

 

「こんな年端もいかぬ少女を犠牲にしなければいけないというのは認められんな。娘を持つ親としても必ずこの少女を助けるぞ。それが私達の仕事だ」

 

「………………」

 

 あり? こんなキャラだっけ? ちょっとジ~ンと来ちまった。

 

「どうした斎藤?」

 

 ボケっとしていた俺を不思議に思ったのか声をかけてきた。

 

「あ、あ~、いえ、なんでもないっす。でもおっさんがそう言ってくれてありがたいっす。これで心おきなく修復に望めますよ」

 

「そうか。報告は定期的にしろ。判断は現場に任せる」

 

「了解。あそれと今更ですが少将昇任おめでとうございます」

 

「確かに今更だな」

 

 おっさんは少しほほを緩め言ってくる。俺は敬礼をして部屋を出て行った。その後プレシアさんに面会して裁判の話をして手はずを整えておく。

 闇の書の事を話していたのであっさり納得してくれた。でも、重要なのはそこでは無く一分一秒でも早く二人……アリシアとフェイトと暮らしたいようだ。

 話している時にやたらとその辺を気にしていた。そして今に至る。

 もう裁判も終わってしばらくたつのでそろそろ出てくるはずなのだが……と、噂をすれば。正面玄関からはプレシアさんが出てくる所だった。

 報道陣もそれに気付いたのかそちらに移動していく。それを見たゼストさんと俺はプレシアさんの元に向かう。

 ちょうどその時おっさん達も戻ってきた。おっさんはボロボロになっている。

 

「む、行くぞ斎藤、クイント、メガーヌ」

 

「「「了解」」」

 

 プレシアさんの所に付くと前から報道陣が詰めかけてくる。

 俺とゼストさんでそれ以上来れないように抑える。それでも進もうとしするががっちり押さえられているので進めない。やっと進むのを諦め俺の肩越しにマイクをプレシアさんに向ける。

 

『プレシアさん! 今の心境を一言!』

 

『闇の書は直せるんですか!?』

 

『危険ではないのですか!?』

 

『罵ってください!』

 

 誰だ最後の?!

 

「大丈夫です。直せます。危険がないとは言いませんが確実に直せる切り札がこちらにはあります。闇の書の悲劇をこれで最後にして見せます。この豚野郎!!」

 

「「「「……」」」」

 

「質問は以上でしょうか?」

 

 あまりの事に周りが沈黙しているとプレシアさんが報道陣に聞く。

 

「無いようですね。それでは失礼します。行きましょう」

 

 そのプレシアさんの姿にあっけにとられた俺達だった。

 

 

 

 


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