魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第三十一話

― プレシア・テスタロッサ ―

 

 私は呆然としていた。私のいる部屋はジュエルシードの暴走の影響で崩れ始めている。

 天井からはパラパラと破片が落ちてきて、床はには穴があき、その先は虚数空間が出てきてしまっている。

 私は考える。カリウムが言ったとおり普段だったら気付いていただろう。それで初めて交渉の席に着く事が出来るのだから。

 やっぱり自分でも焦っていたのだろう、実験の失敗、進行する病気、集まらなジュエルシード。それでいてフェイトに対する気持。

 アリシアでは無い人形のはずだった、体のいい駒のはずだった、しかしそこに綻びが出始めた。

 きっかけは恐らくカリウムの言葉だろう。それは頭の中で反響する。「フェイトはアリシアでは無い」五月蠅い! 「フェイトはアリシアの妹ではないのか?」黙れ! 「アリシアはどう思うだろうな?」

 

「だまれぇーーー!!!!」

 

 そんな事はとっくに分かっていた。

 それでも私はアリシアに、もう一度アリシアに会いたかった。もう一度一緒に暮らして今まで一緒に居られなかった分アリシアと共に歩みたかった。ただそれだけだった。それだけだったのに……。

 私はアリシアが入っているポットにもたれかかる。アリシアは事故当時のまま変わらない姿でそこに居る。もう終わりだ。私に残された時間はもう残り少ない。ジュエルシード三個ではアルハザードに行く事は出来ないだろう。

 それでもその希望を捨てきれない。アルハザードならきっと私の願いがかなう。もう、そう思わないと私は……。

 フラフラとジュエルシードに近付いて行く。三つのジュエルシードは膨大な魔力を放出していてとてもじゃないが今の私には封印なんて出来そうにない。

 でもここで更に魔力を与え暴走させれば確実に次元断層を起こす事が出来るだろう。ジュエルシードに手を伸ばし魔力を与えようとした時だった。

 

バガァーーーン

 

 突然扉が吹き飛んで部屋の中に土煙があたりに舞う。その中から話し声が聞こえてきた。

 

「たっく、クロノちゃんと訓練してんのか? 上から落ちてきた破片にあたって流血とか笑えないぞ?」

 

「……最近仕事が忙しくてな」

 

「大丈夫なのかそれ?」

 

「疲れてるんだ!! だいたい何で僕のところに一樹に対する苦情が回ってくるんだ!?」

 

「俺が回してるから」

 

「お前が元凶か!?」

 

「ゼスト隊長とレジアス准将じゃさばききれなくなってきてな、親友だって言ったらクロノに御鉢が回っていったって感じだな」

 

「お前! 准将に何やらせてんだ!? だいたい何したらそんな事になるんだ!?」

 

「まあまあ、そんな事よりお~いプレシアさん、助けに来たよ!」

 

「そんな事じゃない! 重要だ! あ、おいこら一樹!」

 

 くだらないやり取りをしながら手を振ってくるのはこの間フェイトが連れてきた管理局員だ。

 

「母さん!」

 

 フェイトが私の元に走ってくる。が、

 

「近寄らないで!」

 

 そう強く言い放ち近づかせないようにする。

 

「何を……しに来たの」

 

「……あ」

 

「消えなさい」

 

 突き放つようにフェイトに言う。

 が、フェイトは臆することなく言ってきた。何時もであれば萎縮して答える事なんて出来ないのに。

 

「母さんに言いたい事があってきました。……私はただの失敗作で偽物なのかもしれません。アリシアになれなくて期待に応えられなくて、いなくなれって言うなら遠くに行きます。だけど生み出してもらってから今までずっと、今もきっと母さんに笑ってほしい。幸せになってほしいって気持ちだけは本物です。だからもう一度始めませんか? 私達はまだ始まってもいないから……」

 

 そう言ってフェイトが手を差し出してくる。その手を握りたくなるのを抑える。

 

「私の、フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです」

 

「ふ……くだらないわ」

 

 私はデバイスで床を突く。そこを中心に魔法陣が展開しジュエルシードが更に魔力を放ち始める。

 

「ちょ! プレシアさん!? 何してんの!?」

 

 あの局員が驚くが知った事じゃない。

 

『拙いよみんな急いで! 庭園が崩壊する! もう時間がない!』

 

「了解した! 急げフェイト・テスタロッサ!」

 

「私は行くわ、アリシアと一緒に」

 

「……母さん」

 

「私はあなたを駒として、人形として使ってたのよ」

 

 そうフェイトに向かって言い放つと床が崩れる。

 天井からも一際大きな塊が落ちてきて私とアリシアは虚数空間に向かって落ちていく。

 

「馬鹿野郎!」

 

「母さん! アリシア!」

 

 フェイトが手を伸ばすけど間に合わない。

 私はゆっくりと落ちていく。視界に映る物がゆっくりになる不思議な感覚だった。再びフェイトを見ると今にも泣き出しそうな顔をしている。

 ああそうだ。アリシアと交わした約束「妹がほしい」母さんが仕事の時でも一人で留守番しなくても済むといって、仕事を手伝えると言ってくれた。

 駄目ね、私は何時も気付くのが遅すぎる。最後にもう一度フェイトを見ようと上を向くとそこにフェイトの顔はなく、代わりにあの局員がまっすぐ私に向かって落ちてきていた。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 プレシアさんがアリシアと一緒に落ちていく。

 すぐにフェイトが駆け寄って手を伸ばすけど届くような距離では無い。俺はバリアジャケットを解除してすぐに走り出し、腰につけていたポーチから紐のついたカラビナを取り出し、途中士郎さんにそのカラビナを渡す。

 

「士郎さん命綱預かってて!」

 

「は? ちょっと? 一樹君!?」

 

「ア~~~~イ、キャ~~~~ン、フラ~~~~イ!!」

 

 そう言うや否や俺は手を伸ばすフェイトの隣から虚数空間に飛び降りた。

 シュルシュルと音を立てて腰のポーチから紐がのびていく。

 

「「「「「なっ!!」」」」」

 

「一樹!?」

 

 飛び降りた俺を見てみんなが驚くがそんな些細なことはほっといて、俺は魔法が使えるうちに加速してプレシアさんに向かって行く。

 するとすぐに魔法が使えなくなったが、その甲斐あってすぐにプレシアさんに接触する事が出来た。

 プレシアさんのバリアジャケットも解けてタイトスカートにワイシャツ、白衣姿戻っていた。

 その時のプレシアさんの驚いた顔は中々イイ顔をしていた。

 

「あ、あなた馬鹿なの!? ここが何処だか分かってるの!?」

 

「馬鹿とは失礼な! 俺は大馬鹿だ! 無論、虚数空間だって分かってますよ!」

 

「魔法が使えないのよ!」

 

「知ってる! さっき使えなくなった。その前にさっさと捕まってくれ! 後アリシアをキャッチしなきゃならんのだ」

 

 身体で空気抵抗を受け姿勢制御する。特にバランスが崩れる事なく何とかプレシアさんとアリシアをキャッチする。

 

「そろそろ衝撃来るぞ! 踏ん張れ!」

 

 プレシアさんに一方的に伝える。何か言いたそうにしていたがその前に衝撃が来た。

 生憎バンジージャンプとかに使われる様な紐では無いので、伸縮性は乏しくそのまま「ビン!」と紐が張りそのまま上にバウンドする。そのまま何度かバウンドしてやっと治まる。

 

「クッ……」

 

「あ~、大丈夫っすか?」

 

「い、一体何が?」

 

「ちょっと待ってください。お~い、引き上げお願いしま~す」

 

 そう大声で上に叫ぶと。俺達はゆっくりうえに上がっていく。ちゃんと聞こえたようだ。

 しかしギリギリだったな。何とか捕まえられて良かった。そう思っているとプレシアさんが腰のポーチを見ていた。

 

「あ、気付きました? このロープがあったから助けられたんですよ。今頃上でみんなが頑張って引き上げてますよ」

 

「あ、あなた正気? こんな細いロープで飛び込んでくるなんて!」

 

「いや、大丈夫っすよ? こう見えてもこれカーボンナノチューブ製だからよほどの事がない限りこの程度の重さじゃびくともしないっすよ。まあ、備えあれば憂いなし。魔法ばっかに頼ってちゃ駄目って事です」

 

「…………」

 

 それを聞いて沈黙するプレシアさん。

 今だゆっくり引き上げられている。今回ばかりはアリサに感謝だ。自分で頼んでおいてなんだが、かなり良いもの貰ったな。誘拐された時助けた報酬で頼んだ甲斐があったというものだ。

 しかしアレだ、上に着くまで幾分時間がありそうなので、俺はプレシアさんと会話することにした。

 

「助かっちゃいましたな」

 

「助けたのはあなたでしょ?」

 

「まあ、何人かに頼まれましたからな」

 

「そう、でも残念ね。私はそう長くないわ。例え助かったとしても管理局は今回の事で私を逮捕するのでしょ?」

 

「いえ、今回の事では逮捕するような罪状はないですよ? 逮捕するなら違法研究方面だけだと思いますよ」

 

「どういう事?」

 

「どうもこうもフェイトは管理局(おれたち)とは敵対してないし妨害もしてない。それにアルフの証言からプレシアさんはカリウムに脅迫されてたんでしょ? 全部が全部無罪になるかって言ったら分からんけど今回の件に関しては殆ど罪状はないと思いますよ」

 

「そう……、一体私は何をしていたのかしらね? アリシアを生き返らせる為に手を汚し、上手くいかないのをフェイトのせいにして八つ当たりして、手を組んだと思っていた奴には裏切られ、挙句管理局に助けられるなんてね。まるで道化ね。……ウッ、ゴホッ、ゴホッ!」

 

 プレシアさんが咳き込んだと思ったら抑えた手から血が流れる。

 

「あ~、その前にプレシアさんの病気治さないと駄目か」

 

「ハァ、ハァ、……無駄よ、もう、治らない、所まで進行、してるわ」

 

 息も絶え絶えに言ってくる。

 

「それがそうでもないんですよ」

 

 そう言って俺はアリシアのポッドを別のワイヤーで固定して腰から下げる。そしてスサノオに呼び掛ける。

 

「スサノオ応答できるか?」

 

『………………』

 

「おい! スサノオ! 起きろこのファッキンデバイス!」

 

『ザッ……ハイ……クソ…郎…聞こえ…すか。クソ野郎聞こえますか?』

 

「お、やっと虚数空間を抜けたか」

 

『はい、システム正常、診断プログラムを流した結果各部異常ありません。クソ野郎なんでしょうか?』

 

「おう、アレを出してくれ」

 

『了解。アレですね』

 

 そう言ってスサノオから出てきたのは、なんというか18歳未満には見せられない本だった。

 

「そうそう、これこれ今晩のおかずは何にするかな~って、ちげーよ!! プレシアさんいるのに何てもん出すんだよ!!」

 

 そう言って俺は本を虚数空間にぶん投げる。しかもスサノオが寄越したのは御丁寧に人妻ものだった。

 

『しかし、今までは例外なくこれ等でしたが?』

 

「頼むから状況を考えてくれ! ヴァリトラからもらったヤツだ!!」

 

 なのちゃん達が聞いたら一斉に「お前が言うな!!」と突っ込まれるであろう台詞を言う。

 

『ああ、そちらでしたか。了解しました』

 

 そう言ってスサノオから出てきたのはあの小瓶だった。

 カリウム(おれ)がプレシアに見せた小瓶そのものだ。そしてそれを見たプレシアさんは本日何度目かになる驚愕した顔をする。

 

「あ、あなた! それは!!……まさか!!」

 

「そ、つまりはそう言う事。詳しい話は後でするから今はこれを飲んでくれませんか?」

 

 おれはそう言って小瓶から結晶を取り出しプレシアに飲ませようとするが、

 

「お、お願い! それをアリシアに!」

 

 涙目になってすがってきた。ちょ、危ない!

 

「落ちついてプレシアさん! 大丈夫! あと一個だけあるから!!」 

 

 そう言って俺はスサノオからもう一つ同じものを取り出す。それを見たプレシアさんは、

 

「あ、あなたは一体何者なの?」

 

「う~ん、平管理局員? 階級は臨時三等陸士で首都防衛隊に所属してる、しがない局員ですが?」

 

 何か? と言う感じに首をかしげる。

 

「そのしがない局員がなんでそんな物持ってるのよ?」

 

「ドラゴンからのもらい物。子供助けたらくれた」

 

「はあ!?」

 

「事実なんだから仕方ないでしょ? それよりちゃっちゃと飲んじゃってください。もうすぐ到着しそうなんですから。あんまし見られたくないんですよ」

 

 そう言って俺はプレシアさんに結晶を渡す。

 

「ホントにいいのかしら? 俗な言い方だけどこれがあれば巨万の富が得られるわよ?」

 

「良いの良いの、元々この為にもらってきたんだから。もしかしたらまた行けば貰えるかもしれないし」

 

「……もう、どうでもよくなってきたわ」

 

「人間諦めが肝心って言いますよ?」

 

「そうする事にするわ」

 

 そう言ってプレシアさんは結晶をのみこんだ。すると一瞬全身が光ったと思ったら光はすぐに収まった。

 

「どうっすか?」

 

「……とんでもないわね。身体のだるさが全くないわ。しかも内側から魔力があふれる程出てくるわ」

 

「マジッすか?」

 

「嘘なんかつかないわよ」

 

 そう言ったプレシアさんをマジマジと見る。

 顔色は青白い色から血色のよくなった肌色に戻り、こけていた頬や、クマの出来た目、やせ細っていた身体も元に戻る。更には肌のハリやツヤまで戻ったように見える。

 若返ったんじゃねーか? コレ? 流石にこれだけじゃ病気が治ったかどうか分からないけど多分まあ大丈夫だろう。

 

「……すげーな。ここまで効果があるとは。でも念のため後で検査しておいてくださいよ」

 

 おれが呆然としていると上から声が聞こえてきた。

 

「母さん! アリシア! 一樹!」

 

 フェイトだった。おそらくずっと虚数空間をみていたのだろう。今にも落ちそうな程身を乗り出している。

 

「ちょ、フェイト危ねえ! いったん下がれ! 二人とも無事だから!」

 

「ホント!」

 

「嘘ついてどうすんだ! ホントだからさーがーれ!」

 

「うん!」

 

 そう満面の笑顔で頷く。

 ああ、可愛いなぁ~。あの笑顔が見れただけでもいいかもしれん。

 そんなフェイトの笑顔でホッコリしていると、

 

「……いくら恩があってもフェイトはあげないわよ?」

 

「……プレシアさん、いきなり親馬鹿っすか?」

 

 プレシアさんに突っ込みを入れつつ、俺達の方をのぞいていた美由希さんが手を伸ばしてきたのでその手を握り、引き上げられ、無事地上? に戻る事が出来た。

 そこには紐を引いていたであろう士郎さん、恭也さん、クロノ、アルフが固まっていて、亜夜、なのちゃん、ユーノ、フェイトが固まっていた。

 おそらく亜夜となのちゃんとユーノはフェイトを支えていたのだろう。どこか疲れた表情をしている。

 

「母さん!」

 

「……フェイト」

 

 フェイトがプレシアさんに駆け寄ってプレシアに抱きつく。プレシアさんもフェイトを抱きしめる。

 

「良かった、無事で良かった」

 

「ごめんなさいフェイト」

 

 抱き合っている二人は目に涙を浮かべ強く、強く抱きしめあう。俺はそんな二人を後目にクロノに聞く。

 

「クロノ! 疲れてるとこワリーけどジュエルシードはどうなった?」

 

俺はプレシアさんとアリシアを下ろすとクロノに聞く。

 

「まだ封印出来てない! 今艦長の応援があって何とか持ちこたえてる! しかも拙い事に今のなのは達の魔力だけじゃ足りないかもしれない!」

 

「マジか!? この間五つ纏めて封印したろ!」

 

「その時とは状況がまるで違う! 三人ともあれだけの戦闘行動をした上にここまで来てるんだ! 魔力が無くならない方がおかしい!」

 

「それもそうか……。仕方ない、プレシアさん封印魔法出来る?」

 

 まだフェイトを抱きしめていたプレシアさん声をかける。プレシアさんはフェイトを離し此方に向き直って答える。

 

「残念だけど無理ね。デバイスがないわ」

 

 あ~、そうだった。二人を回収するのに手いっぱいでデバイスまで手が回らんかった。どうすっかなと頭をガシガシかいて考えていると、

 

「母さん、コレ」

 

 フェイトちゃんがバルディッシュをプレシアさんにさしだしてきた。

 

「お?」

 

「私のバルディッシュ使って。私殆ど魔力が残ってないからこのくらいの事しか役に立てない」

 

 とフェイトちゃんが言ってくる。

 

「フェイト……」

 

「お願い、みんなを助けてください」

 

 そう言って頭を下げる。プレシアさんはそんなフェイトちゃんの頭に手を置き優しく撫でる。

 

「馬鹿ね、娘を助けるのだから当たり前よ」

 

「母さん!」

 

 プレシアさんはそう言ってフェイトちゃんからバルディッシュを受け取る。

 

「バルディッシュいいわね」

 

『イエス、マスター』

 

 それにバルディッシュも応える。

 

「一樹、だったかしら? 封印魔法なら問題なく使えるわよ」

 

 そう言ってきたプレシアさんの顔はどこか晴れやかな顔をしていた。

 

「使い慣れてないデバイスでも大丈夫なんすか?」

 

「当たり前よ。伊達や酔狂で大魔導師を名乗ってる訳じゃないのよ?」

 

「え? そうなんすか? 俺はてっきり……」

 

「……いいわ、その間違った認識を正してあげるわ」

 

(……もう始まった。お兄ちゃんのプレシアさんいじり)ヒソヒソ

 

(相変わらず時と場所を選ばないね)ヒソヒソ

 

(で、でも母さんなら大丈夫じゃないかな?)ヒソヒソ

 

 そんなふうにヒソヒソ話している三人を横眼で見ていたユーノが、

 

「……こんな状況でもそんな話をしてるんだからなのは達も相当だよね」

 

「「「!!!」」」

 

 と冷静な突っ込みをいれ、その突っ込みで何かに気付く三人娘。

 本来であればもっと緊迫した状況で、みんなで話し合ったりして対策を立てているのが正しい形なのだろうが、そんな話をする事なく全く関係ない話をしているあたり、この三人もそれなりに染まっている証拠なのだろう。

 三人ともorzになっている

 

「ユーノ、そこは黙っていてやるのが人情ってもんだろう」

 

「元凶が何言ってんのさ」

 

「まあ、そこでへこんでいる三人はほっといて」

 

「え? ほっといて良いの?」

 

「ああ、いくらなんでもなのちゃん達に頼り過ぎだ。たまには管理局(おれたち)に任せてみんしゃい。良いだろクロノ?」

 

「ああ、流石にこれだけ何もしてないと面目が立たないからな。今回は僕達に任せてもらおう」

 

「と言いつつプレシアさんに手伝ってもらうという矛盾……流石に情けなくなってくるな」

 

「……言うな」

 

 世界は、いつだってこんなはずじゃない事ばっかりだよ!! と哀愁漂う男二人の背中。

 しかしそう言いつつも黙々と準備をしていく。

 

「クロノ、カートリッジシステムは積んでたっけ?」

 

「ああ、お前と同じ奴が積んである」

 

「弾は?」

 

「ない」

 

「じゃあこれ」

 

 ほいっとカーットリッジを渡す。

 

「………………ちょっと待て、なんだこれは?」

 

「何って、カートリッジだが?」

 

「大きすぎだろ!?」

 

「まあ、試作品だからな。でも威力は折り紙つきだ。安全が保証できないほどに」

 

「……おい、まさかさっきのがそうなのか?」

 

「イエス! まあ、あんだけあれば三人の魔力でも封印出来んだろ」

 

「はぁ、まあ毎度の事か」

 

「もう慣れたろ?」

 

「慣れるか!!」

 

「よし、じゃあいっちょやりますか! クロノ魔力が一気に跳ね上がるからマジで気をつけろよ」

 

「言われるまでもない」

 

「プレシアさん! 俺とクロノがまずぶっ放します! 弱ったところを一気にお願いします!」

 

「分かったわ」

 

 プレシアさんが了解する。俺とクロノは頷き同時に構える。すると同時に足元に魔法陣が現れる。

 

「「カートリッジロード!!」」

 

ガッシャン!

 

 やたらと重い音がしてカートリッジがロードされ薬莢が排出される。

 

ズン!

 

 そう音が聞こえるぐらいの魔力の増幅、一気にコントロールが難しくなる。たった一発ロードしただけでこれだ。

 

「こ、こんなに凄いのか!」

 

「普通のカートリッジならここまででもないんだろうけどな!」

 

「なんで普通のにしなかったんだ!」

 

「それが斎藤家のクオリティ!」

 

 馬鹿を言いつつ巧みに制御する。

 さっきは「氣」も込めたが今回は魔力だけ。恐らく「氣」を使うとジュエルシードが壊れる。そのせいで前に任務でロストロギアを一個ぶっ壊したから多分「氣」を込めたら今回も同結果になるだろう。

 どうも「氣」と「魔力」を混ぜ合わせると破壊力が恐ろしいほど上がり非殺傷設定やら封印等の効力を無視して結果が「破壊」に繋がる傾向があるようだ。

 多分人に向けて撃つと非殺傷設定であっても殺せる。それに気付いたのが人に向けて撃つ前で本当に良かった。

 あの時書いた報告書に始末書、顛末書等々百枚近い書類は決して無駄ではなかった。

 

「一樹! 準備はいいのか!?」

 

「おう! 何時でも行ける!」

 

 クロノはS2Uを突き出した構えで、俺は中段に構え、最後にプレシアさんに確認する。

 

「プレシアさん!」

 

「何時でもいいわよ」

 

 そこにはバルディッシュを構えた白衣姿のプレシアさんがいた。

 俺達と同じように魔法陣が展開されているが、制御は一流、魔力量に至っては俺とクロノを超えてしまっている。流石条件付きSSランクは伊達では無い。

 因みにこの中で一番ちっちゃい魔力は何を隠そう俺である。カートリッジで底上げしているにもかかわらずクロノには届かず、プレシアさんには「プチ」と言う感じに抜かれてしまっている。

 魔力保有量Aは伊達では無い。しかし現実を目の当たりにするとくじけてしまいそうである。

 

「ちくせう。二次小説オリ主ならSSSランクでこんなピンチも楽々切り抜け、ニコポとナデポで挨拶するたび恋人増えるねっていうフラグ満載の展開なのに!」

 

「一樹! 何ブツブツ言ってんだ! ちゃんと集中しろ! お前が一番低いぞ!」

 

 ここぞとばかりに俺のハートをガリガリ削るクロノ。まあ、本人はそんな事思っちゃいないだろーけど。

 

「悪かったな! 俺はこれで殆ど打ち止めだよ!」

 

「そうか、じゃあもう撃てるんだな!?」

 

「そうだよ!」

 

「よし、じゃあ行くぞ!」

 

「あいよ!」

 

 それが合図となった。俺とクロノは同時に始動し、

 

「「ブレイズバスタァァァーーー!!!」」

 

 同時に放つ。クロノはS2Uを突き出し、俺は拳を突き出して魔法を放つ。青の魔力光と白の魔力光が突き進みジュエルシードに突き刺さる。

 

「「はあぁぁぁーーーーー!!!」」

 

 すると徐々にジュエルシードの魔力放出が弱まるが、やはり封印は出来そうにない。

 もしできそうなら押し切ろうと思ったが現実は甘くなかったようだ。なので、

 

「プレシアさん!」

 

 俺はプレシアさんに合図を送る。

 そこには準備万全で今か今かと待ちわびているプレシアさんの姿があった。

 

「スパークスマッシャー!!」

 

 そして放たれた封印砲は全てにおいて一流、制御も、威力も、狙いも全て完璧だ。

 一直線にジュエルシードに向かって伸びる紫の魔力光、そしてそれは弱まったジュエルシードに突き刺さる。

 その瞬間プレシアさんの砲撃を受けたジュエルシードは瞬く間に弱まっていき、魔力の放出をやめ元の状態に戻りその場に浮かび漂っていた。その状況を確認した俺は地面に降り立ちその場にどっと座り込む。

 

「あ~~~、終わった~~~! もう働かないぞ!」

 

 流石に限界に近い。つうか自分でもよく動けたと思う。

 武装隊と高町家との戦闘に、SLBの直撃、更には庭園内での戦闘に、カートリッジシステムの連続使用……これは疲れる。改めて思い返すとよく出来たものだと感心する。

 しかも今まで疲れが出なかったってことは、結構ハイになってた様だ。今はやたらと身体が重い。このまま寝転がって寝てしまいたい。

 そう思っていると横にクロノが降りてきた。その姿は若干煤けている。特に腕のあたりが酷い。S2Uにあっては所々ヒビがはいっている。カートリッジシステムの反動だろう。

 

「おうクロノ、大丈夫か?」

 

 隣に降りてきたクロノに聞く。

 

「……酷いな、ここまでダメージがあるとは思わなかった」

 

「まあそうだろうな。使用カートリッジはまさに規格外の大きさだからな」

 

「そう言うお前は問題無さそうだな?」

 

「ん~、まあ計算上大丈夫なように設計されて造られてるからな。魔力だけだったら問題ないぞ。反動はかなりきついけど」

 

「ん? じゃあさっきの怪我は……」

 

「ああ、「氣」を混ぜた結果肘あたりまでのバリアジャケットが吹き飛んでああなった」

 

「……何と言うかその「氣」って言うのは未知数だな」

 

「ホントだよ全く」

 

 そう話しているとなのちゃん達が封印したジュエルシードを持ってこっちに向かってきた。

 プレシアさんとフェイトもこっちに歩いて来ている。

 

「まあ、なにはともあれ無事に終わってよかった」

 

「ホントだな」

 

「あ~、早く風呂に入って休みたい」

 

 そう言って俺はその場に大の字になって後ろに倒れこむ。しかし現実は非常である。

 

「そう言いたいところだがまだまだやる事は山ほどあるぞ」

 

「何が残ってんだよ?」

 

 いや、まあアリシアの事とかチョイチョイ残ってっけどさ。

 

「書類作成」

 

「ですよね~」

 

 今度こそ俺は盛大にため息をついたのだった。

 

 

 

 


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