魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第三話

― 斎藤一樹 ―

 

 父さんの職場見学から一カ月が経ち、俺も小学校4年になった。

が、俺はこれから小学校には行かず。ミッドチルダにある魔導師士官学校に行くことになった。

 そして今、俺の前には士官学校の正門がある。

 なぜ急に行く事になったのかというと、何というか鶴の一声だった。別に行く事が嫌な訳ではない。これからの事を考えればむしろ歓迎すべき事なのだろうが、あまりに急な事で頭が追いつかなかったというのが正しいだろう。

 あの日、初めて魔法を使った日から歯車が回り始めたんだと思う。一ヶ月前のあの日から。

 

― 一ヶ月前 ―

 

 そこは白い空間で、とんでもなく大きな部屋だ。日本の首都にあるドーム型の球場がすっぽり入ってしまうほど大きい部屋だ。

 その部屋の壁、床、天井には正方形のタイルがびっしりと並んでいる。

 そんな部屋に爆発音が響く。それも一回ではなく連続して何度もだ。

 

キュン! ドドドドドドドドン!!!

 

 まるで雨のように打ち出される魔力弾。

 撃ち出しているのは猫耳をはやした女性だ。そこに緊迫感は無く、声こそ出していないが、笑顔で笑いながら撃っている。

 そして打ち出された魔力弾を紙一重でかわしつつ逃げているのが俺である。

 

 待て待て待て待て待てまてまてまてまてまてマテマテマテマテマテ!

 

 俺は今必死に逃げている。

 場所は先ほどクロノが使っていたテストルーム。デバイスのテスト等を行うだけあってかなり頑丈に作られているらしい。

 だから雨のように降り注ぐ魔力弾が床や壁にあたってもびくともしないのだ。そうたとえ「雨のように降り注いでも」だ。

 今俺は魔力の弾幕をよけ続けていた。なぜこんな状態になったかというと三十分程前にさかのぼる。

 

「え? そんなに頑丈に出来てるのこの部屋?」

 

 クロノとの訓練アンド模擬戦が終了して一息ついていたロッテが反応した。

 

「ああ、開発中のデバイスなんかもテストするから理論上SSランク同士の全力戦闘にくらいなら耐えられるように設計されているよ」

 

 と父さんが答える。俺に部屋の説明をしていた時だ、意外だったのかロッテが反応する。

 

「え~、そうなの? そうと知ってたら手加減なんかするんじゃなったなぁ~」

 

 とロッテが言う。若干クロノの顔が引きつっている。

 

「そうなのかい? じゃあこれから一樹に魔法を教えるんだけど、私じゃうまく教えられないから余裕があったら教えてもらえるかな?」

 

 するとロッテは少し考えた後、実に良い感じ「ニヤ~」としながら了承した。

 それを見たクロノが慌てて父さんに進言するが、

 

「か、一馬課長! ちょっと待ってくだs……もが」

 

 後ろに回り込んでいたロッテに口をふさがれる。それに気づかず父さんはロッテに

 

「クロノ君の師匠をしているんだろ? クロノ君と同じ感じで構わないから」

 

 そういうと、クロノが顔を青くして、ロッテが更に「ニヤー」とし、横にいたアリアがため息をつく。

 アレ? なんか変なフラグたった?

 するとロッテが俺の首根っこをつかみ、「さぁ~、ガンガン行こうね~!」と満面の笑みでテストルームに引きずっていく。

 引きずられていく途中で、アリアの横を通り過ぎたとき「御愁傷さま」と言われ、クロノからは「頑張れ」とため息交じりに言われた。

 俺はと言うと、きっと何を言っても俺に拒否権はないんだろうなぁ~。と思いつつ引きずられて行った。きっとBGMがあるのなら「ドナドナ」が流れているだろう。

 そして今に至る。

 流石に何発か被弾はしたがまだ体は動く。慣れてきたのもあるのだろう何となくコツみたいなのが分かってきた。

 するとロッテが攻撃をやめ俺に言ってくる。

 

「よく避けるねぇ~、それだけ避けられるならもう魔力を感じ始めたかな?」

 

 そこで言われてハッとする。そうかこの感じが魔力か。そういえば胸のあたりから何か感じるな。

 

「おお、これが魔力か! すげえ! 俺、てっきりストレス発散で弾幕避けさせられてんのかと思った!」

 

 ガラスの向こうでクロノが感心して「そうだったのか!」と言わんばかりの顔をしている。

 

「いや~、初めはそのつもりだったんだけどね。ずいぶん避けるから気になって聞いたんだけど当たったみたいだね」

 

 ガラスの向こうでクロノが「だぁ!」と言いながらすっ転んだ。芸人かおまえは。

 

「結局ストレス発散だった訳かい! で、何で弾幕やめたんだ?」

 

「う~ん、結構きれいに避けられるもんだからね~、ちょっと本気出そうと思って」

 

 そういうとロッテは自然体で構える。

 体に馴染んでいて、さっきとはまとう空気が違う。鳥肌が立ち、自然と体が後ずさる。

 

「ちょ、おま、待て待て! 俺は今日魔法を初めて知った初心者だぞ!? 何でいきなり上級者みたいな扱いになってんだ!?」

 

「決まってるじゃない! 私のストレス解消のためよ!」

 

 ぶっちゃけやがった!! 見ろ! 向こうでアリアとクロノが頭抱えてんぞ! そんなこと堂々と宣言するな!

 あ~、何で俺こんな目にあってんだ? 何かイラっときた。次の日は筋肉痛確定だけど全力でいってみっか。

 相手は俺より数段上、まさに桁違いだしな。遠慮はいらんだろ!

 

「じゃあ、俺も全力で行くからな! 覚悟しとけよ!」

 

ロッテは相変わらずニヤニヤしながら、

 

「どうぞ~、全力出してみたら~?」

 

 …………あ~、絶対泣かす!

 そう決意すると、俺は左半身を引き右こぶしを前に出し軽く腰を落とす。呼吸を落ち着かせ深く深呼吸する。すると胸から全身に、感じとしては血液の循環の様に全身をめぐる。

 それを数回繰り返す。するとだんだん感覚が鋭くなっていく。行ける。自然とそう思った。

 

「行きます」

 

そう短く答えると地面を蹴った。

 

 

― ロッテ ―

 

 初めは、からかいながら遊んでテキトーに魔法でも教えればいいかと思っていた。

 話からすると魔法は初心者の様だし、自分が魔法を使えるようになればそれではしゃぐだろうし。

 最近クロノはからかい過ぎて良い反応してくれなくてつまらないのだ。そこに降って湧いたように現れた子だ。精々からかい倒してやろう。

 私のストレスも取れて、あの子も魔法が使えるようになって一石二鳥じゃん!

そう思っていたが、開始早々に驚かされた。私の射撃魔法の弾幕をほとんど被弾せずにかわすじゃないか。

 いくら手加減してるとはいえ、初心者がかわせる様な数ではない。クロノでさえ初めは被弾しまっくったのだ。少しムッとしつつも感心する。

 が、このままだと面白くないので少し本気を出そうと思った。私の得意分野は格闘戦だ。これなら絶対にはずさない。

 そう思い射撃魔法をやめ、気になる事もあるので声をかけた。

 

「よく避けるねぇ~、それだけ避けられるならもう魔力を感じ始めたかな?」

 

すると男の子はハッとなり、

 

「おお、これが魔力か! すげえ! 俺、てっきりストレス発散で弾幕避けさせられてんのかと思った!」

 

 うっ! 流石にそれが目的だったので言い当てられて困ってしまいそのまま言ってしまった。

 

「いや~、初めはそのつもりだったんだけどね。ずいぶん避けるから気になって聞いたんだけど当たったみたいだね」

 

 流石にそうくるとは思ってなかったのか突っ込んできた。

 

「結局ストレス発散だった訳かい! で、何で弾幕やめたんだ?」

 

「う~ん、結構きれいに避けられるもんだからね~、ちょっと本気出そうと思って」

 

 そう、本気だ。全力ではないにしろ私の得意分野だ。

 さっきみたいに避けられる事はまずあり得ない。私は言うと同時に自然体に構えた。威圧するのも忘れない。空気が変わったのを感じたのか慌てて言ってきた。

 

「ちょ、おま、待て待て! 俺は今日魔法を初めて知った初心者だぞ!? 何でいきなり上級者みたいな扱いになってんだ!?」

 

 ふふふ、何そんな当たり前のことを聞いてるのかしら? 私は堂々と胸を張って答えた。

 

「決まってるじゃない! 私のストレス解消のためよ!」

 

 そう、本来の目的はこれなのだ。向こうもうすうす気づいてたみたいだし隠す必要なんてないわ!

 すると男の子は面白い事を言ってきた。

 

「じゃあ、俺も全力で行くからな! 覚悟しとけよ!」

 

 あらあら、強がっちゃってまぁ~、そんなこと言われたらからかいたくなるじゃない!

 

「どうぞ~、全力出してみたら~?」

 

 ニヤニヤの止まらない顔をしている私とは対照的に、真剣な顔になって、半身になり右こぶしを前に出し腰を落とした構えをとる男の子。

 始めてみる構えだなと思っていると、ゆっくり深く深呼吸を始めた。

 次の光景に私は目を疑った。男の子のリンカーコアが活性化し、魔力が体を包んでいく。魔力自体は大した量じゃないけど、決して魔法を初めて使う人間に出来る芸当ではなかった。

 呆然としている私に、男の子が言ってきた。

 

「行きます」

 

 その後私の意識は暗闇に包まれた。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 相手までの距離は約5メートル前後、ちょっと遠いが覚悟を決め踏み込んだ。

全力で踏み込んだにも関わらず周囲はゆっくり進む。異常なほど遅い。

 しかしそこからが異常だった。着地出来ないのだ。地面を滑るように移動し、構えを崩さず相手の眼の前まで行く。

 これ以上は相手とぶつかる。そう思い意識的に左足を地面につけようとすると自然と左足全体が地面をとらえる。

 その位置は俺にとってのベストポジション。右腕を伸ばせば相手の額に届く距離。若干肘に余裕が出来る程度まで伸ばし額の手前で止める。

 そして宙に浮いている右足で思いっきり地面を踏みぬく。右足から地面を踏みぬいたエネルギーが這い上がる。そのエネルギーを左腕を引き、右腕に流す。そこから一気に右腕を伸ばし相手の額を掌打で打ち抜く。

 

ズドン!

 

 とてつもなく重い音が響き渡る。

 それは地面を踏みぬいた音なのか、ロッテの額を打ち抜いた音なのか分からない。

 感じたのは右腕にしっかりとした手ごたえ。見えたのはゆっくり崩れ落ちるロッテ。そして俺は、

 

「ざまぁみろ……」

 

 そう言って意識を手放した。

 

― クロノ・ハラオウン ―

 

 僕は頭を抱えていた。ロッテの悪い癖がまた出てしまった。

 しかもそれが向けられているのが一馬課長の息子、一樹と言ったかな? に向けられていることだ。

 弾幕で攻撃し始めた時は流石に止めようと思ったが、一樹がさほど被弾せずかわし続けるのでタイミングを逃してしまった。

 そのあとロッテと一樹の会話を聞いて一瞬感心したが、次の会話を聞いて「感心」が尻尾巻いて逃げだしていった。

 マイクで拾っていた会話で一樹が強がりを見せ、ロッテがからかっている。僕はどう一馬課長に謝ろうか考えていたが、一樹が構えたとき息をのんだ。

 一樹が魔力を体にまとい始めたのだ。

 魔力自体はそこまで多いものじゃないが問題はそこじゃない。

 魔法をつい数時間前に初めて知って、訓練をし始めてまだ一時間も経っていないのだ。普通だったらこんな事出来るはずがない。

 僕は思わず隣にいる一馬課長に尋ねた。

 

「か、一馬課長。彼は以前魔法を使った事は?」

 

「いや、あるはずがない。それにデバイスだって今日使うのが初めてなんだ。魔法が使えるはずがない」

 

 一馬課長も意外だったのか若干顔が引きつっている。

再び一樹をみると数回深呼吸をした後、「行きます」と言った。

 次の瞬間一樹の姿が消え、ロッテの目の前にあらわれた。しかもロッテは反応出来ていない。

 そんな馬鹿な! そう思った次の瞬間、とてつもない轟音。それと同時に崩れ落ちるロッテ、そしてそれと同時に倒れる一樹。

 僕達はその場から動けなかった。脳が目の前の事を理解できず、フリーズした状態だ。

 無理もない。自分の師匠であるロッテが、魔法の訓練を始めて一時間の素人に負けたのだ。

 いくらロッテが油断していたとしても「あり得ない」結果だった。そう思っていると、パンパンと手を鳴らす音が聞こえた。それは母さんからだった。

 

「はいはい、ボーっとしてないで二人を医務室まで運びましょう。アリアはロッテ、クロノは一樹君をお願い。一馬課長は医務室に連絡してもらっていいですか?」

 

 僕はハッとして指示された通り、アリアと一緒にテストルームに入ったのだった。

 

― リンディ ―

 

 クロノ達に指示をした後、医務室に連絡を入れ戻ってきた一馬課長に一樹君の事を聞いた。

 

「一馬課長、一樹君は一体?」

 

 しかしうまく言葉に出来ず曖昧な聞き方になってしまった。私もまだ動揺してるみたいね。

 

「正直分かりません。ミッドチルダの事は教えていましたが、魔法の事は一切教えていませんでしたし、デバイスを持たせたのも今日が初めてです」

 

そう答えが返ってきた。嘘を言っているようではなかったし、目の前の事を信じられないのは彼も同じのようだ。

 

「では、どうしますか? 正直このまま放ったままではまずいと思うのですが?」

 

「そうですね、魔法を知り使えると分かった以上は訓練は必要です。魔力のコントロールも出来ていないみたいですし。しかし訓練をさせるにも中途半端なものを教える訳にはいかない。初めは私でも良いかなと思っていましたがこれを見た後では少々荷が重いですね」

 

そういうと、考え込んでしまった。しかし幸い私に一つ良い案があった。

 

「一馬課長。一樹君をミッドの訓練学校に入れてはどうでしょうか?」

 

「む? 確かに良いかもしれませんが、訓練学校だと期間が短いのでは? しかもそれだと卒業後すぐに現場に配置されてしまいませんか? 一樹はまだ9歳です。将来を決めるにはまだ早すぎます」

 

「ええ、そうですね。本人の意思もありますし。それと学校は訓練学校ではなく士官学校です。あそこなら2年間みっちり訓練できます。幸い4月からクロノも入校するので訓練の環境としてはこれが一番だと思います。そして卒業後はしばらくは嘱託魔導師として管理局の仕事をさせてみては?」

 

「う~ん、確かにその条件であれば一樹にとってもベストでしょう。それで進めた方がいいかもしれませんね」

 

 少し考え一馬課長はそう結論付けた。途中「なんて説明しよう……」と言っているのが聞こえたが、私は苦笑しかできなかった。

 しばらくぶつぶつ言っていたが途中思い出したように「医務室に行ってきます」と言い部屋から出て行った。

 やはり一樹君の事が心配なんだろうと思い、私も部屋から出ようとしたが、ふと視界の隅に何かが映った。

 気になったのでもう一度見てみると、それはテストルームの中にあった。

私はテストルームの中に入りその場所に行って驚愕した。その場所は一樹君が倒れた場所、ロッテを攻撃した位置だ。

 そこはあったのは床に出来た小さなクレータと、その中心にくっきりと残る小さな足あとだった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 ゆっくり、ゆっくりと意識が浮上する。瞼が開き光を感じ目を細める。

 体を起こそうとしたが右足と右手に痛みが走り起き上がることをあきらめる。しかも体全体が重くだるい。

 ここはどこだろうと思い周りを見る。俺がいるのはベットの上、周りはカーテンが閉まっているため分からないが、部屋に漂う医薬品の匂いが鼻をつく。どうやら医務室の様だ。

 何故ここにいるのかと思い記憶をたどっていく。

 

(確か、魔法を教えてもらうって事になって、ロッテに引きずられて、テストルームでいきなり訓練になったんだっけ。からかわれたのが気に入らなくて、全力で向かって……あれ? どうなったんだっけ?)

 

 思い出そうとするがいまいち思い出せない。

 右手に手ごたえは感じたのだが何の手ごたえなのかが分からない。

 

(いつの間にか医務室に居るって事は負けたのかな? 勝つのはやっぱ無理だったかな? ひと泡ぐらい吹かせられたら良かったんだけどなぁ~)

 

 そう思っていると、カーテンが開き人が入ってきた。

 

「あら気がついたのね、良かった。体は大丈夫? 痛いところはないかしら?」

 

 誰かと思ったらリンディさんだった。心配して見に来てくれたみたいだ。

 とりあえず質問に答えなければ。体を起こそうとするがなかなか力が入らない。するとリンディさんが苦笑しつつ、

 

「良いわよ、そのままで」

 

 そう言ってくれたのでお言葉に甘える事にする。

 

「すいません、え~と体に力が入らないのと、右足、右腕に痛みがある以外は大丈夫です」

 

「そう、体の方は体力が戻れば問題なそうだけど、右足と右腕は診察してみないと分からないわね」

 

「そうですか。という事はやっぱり負けたんでしょうか?」

 

 するとリンディさんは「え?」と言いキョトンとしていた。

 

「覚えていないの?」

 

「断片的には思い出せるんですが、結果がどうなったのか分んねーっす」

 

 リンディさんは「う~ん」と考え教えてくれた。

 

「私としては引き分けかな~と思うのよ」

 

「え? 引き分けですか。負けではなくて?」

 

「ええ、そうよ。一樹君の攻撃がロッテに当たって、ロッテが倒れてそのあと一樹君が倒れた。だから引き分け」

 

 マジですか? ロッテってクロノの師匠っすよね? 油断していたとはいえ倒せたのか?

 

「え~と、マジですか?」

 

「マジよ♪」

 

 …………えぇぇぇぇぇぇぇ!! 勝ってないけど大金星じゃないですか! 内容が、内容がすごい気になる! どうやったんだ!?

 

「そこでちょっと提案なんだけど、一樹君。管理局の士官学校で魔法を真剣に習ってみない?」

 

 とリンディさんが聞いてくる。

 

「士官学校でですか? 何でまた急に?」

 

「まあ、色々あるけど、魔法を使うのが初めてという事にも関わらず、ロッテと引き分けた。これだけでもそう思わせるには十分よ」

 

 他の理由は大方管理局のいつもの理由だろうな。

 でも魔法を使いたいというのは変わらないしなぁ~。

 しかし士官学校でかぁ~。卒業したら管理局一直線じゃねーか。俺だけの判断じゃ決めらんないしなぁ~。いくつか確認しないとな。

 

「父さんはこの事は知ってるんですか?」

 

「もちろんよ、お父さんからもお願いされてもいるわ」

 

「士官学校って期間はどのくらいなんですか? 卒業した後ってどうなるんですか?」

 

「期間は二年間、その間寮暮らしになるけれどお給料も出るわよ。卒業後は管理局員になるのもいいし、しばらくの間嘱託魔導師でも良いわ」

 

 む? 聞いただけだと結構好条件の様な気がする。どうすっぺ? 

 此処で魔法の力をしっかり鍛えておくのはかなりプラスだと思うんだけど。変に縛りがつくのは勘弁だし。でも嘱託魔導師でも良いのなら、高校出た後でも管理局員になれっかな?

 まあいっか。管理局やめてもいいわけだし。この話受けますか。

 

「分かりましたリンディさん。士官学校で魔法習ってみます。」

 

そう答えると、リンディさんは満面の笑みで答えてきた。

 

「ありがとう! 一樹君! 断られたらどうしようかと思ってたのよ。良かったわ~♪」

 

「それで、士官学校はいつからなんですか?」

 

「え~と、今からだいたい一ヶ月後に入校してもらう事になるわね。寮には入校の一週間前、つまり三週間後には寮に入れるようになるわ」

 

 ずいぶんと急だな。準備とかもあるし、小学校とかどうすんだ?

 まあその辺は父さんに任せちまえば良いか。

 

「士官学校にはクロノもいるから大丈夫よ。分からない事があればクロノに聞いてね」

 

 おお、それは頼もしい。ボロ雑巾の様になるまで頼らせてもらいますか。

 すると、カーテンを開け入ってくる人達がいた。クロノだ。その後ろにはアリアと父さんがいる。ありゃ? ロッテは?

 

「やあ、目が覚めたのか。大丈夫かい?」

 

「すごいね君! ロッテを倒しちゃうなんて」

 

「一樹、話は聞いたかい?」

 

上から、クロノ、アリア、父さんである。

 

「体は若干痛いけど大丈夫。ロッテに関しては偶然としか言いようがないよ。父さんリンディさんの話はさっき聞いてこれから二年間士官学校に通わせてもらう事になったよ」

 

 父さんが「そうか」と短くいいブツブツ言いながら考え込んだ。

 時折「母さんに」とか「どうしよう」とか聞こえてくるから大方良い言い訳が思い浮かばないのだろう。ご愁傷様です。

 そんな父さんを見ているとクロノが話しかけてきた。

 

「一樹も士官学校に行くのかい?」

 

「ああ、さっきその話を聞いて受けたとこ。クロノも行くんだろ? これから厄介になる、よろしく」

 

「こちらこそよろしく、同い年だし何かあったら遠慮なく言ってくれ」

 

 おや? クロノが俺と同い年とな?

 確か無印の時のクロノが十四だったけ? そうすると今九歳だからあと五年か~。

 時間があるのはいいことだけど、これで二年つぶれて実質三年か~。

 特に用意するものってあるのかな? プレシアさんとアリシア助けられれば良いんだけど死者蘇生何ぞ出来ないぞ?

 それを考えると三年は短いな。まあ頑張ってみますかね。

 

「そういえば、あと一人はどしたの?」

 

 ロッテの事だ。まだ姿が見当たらないので気になって聞いてみた。するとクロノが、

 

「ああ、ロッテの事か。目は覚めてるんだけど、どうも頭痛がひどいらしくてベットの上でうなってるよ。まあ自業自得だ。それと、紹介が遅れたがこっちにいるのがアリアで、君と戦ったのがロッテになる。二人が僕の魔法の師匠だよ」

 

「自己紹介遅れちゃったね、私がアリアです。ロッテとは双子なんだ。よろしくね」

 

「斎藤一樹です。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 そう言って自己紹介をする。

 まあ後五年もすれば嫌でも関わるのだろうし。それまでに手の内でも分かれば儲けものである。

 

「じゃあ、そろそろ診察しましょうか右足と右腕。医務官の人も待たせてるし」

 

 とリンディさんが言ってくる。そういえばそうだった。すっかり忘れてた。

 

「分かりました」

 

 そう答え体を起こした。幸いそのぐらいの体力は戻ってきたみたいだ。

 しかし足と腕が痛いのは変わらずヒョコヒョコと歩く。今後体力強化は必須だな。入校までにどれだけ鍛えられるかだな。

 そう思っていたが、この後それが出来なくなるなんてこれっぽっちも思っていなかったのだが。

 

『全治三週間!?』

 

 俺は父さんにおんぶされながら医務室に運ばれ、担当医の診察を受けた。診察を終え、診察結果を聞くために父さんと一緒に医務官の人のところに行ったら返ってきた答えがこれである。

 ちょ、何でまたそんなにかかるんだ?

 

「えー、説明させてもらうと、まず腕。手首の筋肉に炎症が見られるね。これ自体は湿布でも貼って安静にしておけば一週間ぐらいで治るね。でも前腕の骨にひびが入っててね。大したことはないけど骨だからね。完治までには三週間ぐらいかかちゃうかな。足も似たような感じだね、幸い骨は大丈夫みたいだけど足首に炎症があるかな。これは手首と同じで湿布を貼って1週間ぐらいだね。以上が診察結果だよ。何か質問はあるかな?」

 

 うぁちゃ~、こりゃあやっちまったなぁ~。入校までなんも出来ないじゃん。あでもでも魔法で何とかなるのでは?

 

「え~と、治癒魔法とかなんかないんですか?」

 

「うーん、あるにはあるけど君くらいの年だったら自然治癒した方が良いんだよね。その方が骨なんかも前より丈夫になるし。どうしても早い方がいいなら治癒魔法かけるけど?」

 

 う、どうすっかなぁ~、また同じように怪我すんのも勘弁だし。

 仕方ないこのままでいいか。ため息を吐きつつ答える。

 

「このままでいいです」

 

「はいわかりました。もし必要だったら松葉杖も貸し出してるけどどうする?」

 

「お願いします」

 

「分かった持ってくるから待っててね」

 

 そう言い医務官の人は席を立つ、どうしようと思いつつ父さんをみると、父さんもこっちを見ていた。

 視線がぶつかり二人で「母さんになんて言うか」とため息をつくのだった。

 診察も終わり廊下に出るとハラオウン親子とリーゼ姉妹が待っていた。ロッテの方は若干気分が悪そうだ。クロノが心配そうに聞いてきた。

 

「松葉杖を借りたのか? そんなに悪かったのか?」

 

「いや、足首の炎症だって。松葉杖は一日でも早く治すために借りてきた(キリッ」

 

「そうなのか。腕のほうは?」

 

 やっぱりというかネタは通じなかった。

 

「どっちかつうと腕のほうが重傷。骨にひびが入って全治三週間だって」

 

「入校直前だな。士官学校の訓練はハードらしい。前もって体力をつけておいた方が良いんだけどそれじゃ無理そうだな」

 

 げ! やっぱりか。筋トレにランニング、それにこの分だと模擬戦なんかもメニューにありそうだな。

 あー、まさかこんな怪我するとは思わなかったからなー。実際、寮に入ってからの一週間しかないもんなぁー。

 

「しかたねぇよ、寮に入ってからの一週間で何とかするしかないよ」

 

「流石にそれは無茶だろ」

 

「ですよねー」

 

 実際その一週間しかないのだから悪あがきぐらいはするべきだろう。病み上りだと言って手加減してくれるとは思えないし。

 出来ることとしたら家と古本屋で格闘系の漫画を読みあさるぐらいか。なんか良い技があったら良いんだけどな。そう思いこれからの事を考えていくのだった。

 

 

 


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