魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第二十四話

― クロノ・ハラオウン ―

 

「どういう事だ一樹!」

 

 一樹から連絡が来て何事かと思ったら案の定厄介事だった。

 

『どうもこうも、ジュエルシードを狙ってる阿呆がいるから艦内の警戒レベル引き上げとけって事だ』

 

「その情報は確かなのか?」

 

『ああ、信憑性は高い。けどアースラが襲われる可能性は低い。警戒レベルの引き上げはあくまでも念の為だ』

 

「……分かった、艦内のレベルは引き上げとく。一樹はどうするんだ?」

 

『今からその情報提供者を連れてアースラに行くので転送よろしく』

 

「まて、今そこにいるのか?」

 

『ああ、お前も知ってる人物?……あれ? アルフって人物でいいのか? 獣人か?』

 

「そんな事はどっちでもいい! とにかくアルフが一緒に来るんだな?」

 

『ん? ああ、こっちは準備出来てるからすぐに頼む。あと、取調室取っといてくれ』

 

「はあ、分かった、今から転送するちょっと待ってろ。あと、取調室は今使い放題だから安心しろ」

 

『おう、悪いな』

 

「気にするな」

 

 そう言ってから一旦通信を切ってエイミィにつなげる。

 

「エイミィ聞こえるか?」

 

『はいは~い、聞こえてますよ~』

 

「至急一樹とアルフの二人をアースラに転送してくれ。向こうの準備はもうできている」

 

『え? 何、また厄介事?』

 

「ああ、ジュエルシードの回収よりずっと厄介だ」

 

『はあ、了解』

 

 ため息をついてエイミィはすぐに準備に取り掛かる。それを見て僕は執務室から出て、取調室に向かった。

 僕が取調室に着くと同時に一樹も姿を現す。アルフも人型で一緒だった。

 

「おう、クロノ悪いな」

 

「で、どういう事なんだ? しっかり教えてもらうぞ」

 

「ああ、詳しい内容をアルフから聞かなきゃならないしな」

 

「分かってるよ、だからフェイトを必ず助けておくれよ」

 

「ああ、約束しよう。とりあえず中に入ってくれ」

 

「分かったよ」

 

 そう言って一樹とアルフが取調室に入っていく。

 取調室は四畳ほどの広さで、中には中央に机とその机を挟んで向かい合うように椅子が二つ置いてある。

 入口のすぐ横にもう一つ椅子と机があり、そこで会話の内容を記録できるように端末が置かれている。僕は入り口付近の椅子に座る。

 

「さてアルフ、聴取を始めるとするか。アルフ、ゆっくり思いだしながら起きた事を話してくれ」

 

「そうだね、あの後、ジュエルシードの事を鬼婆に報告しに行ったんだ。いつも通りフェイトが一人で報告しに行ったんだけど、今回はいつもより出てくるのが遅かったんだ。心配になって部屋に入るとフェイトがうつ伏せに倒れていたんだ。慌てて駆け寄ったら、バリアジャケットはボロボロになってて、体中あざだらけだったんだ」

 

「はあ、それはやっぱり……」

 

「そうだよ! 鬼婆がやったんだ! これが初めてじゃない!! 何度も何度もあったんだ!!」

 

「アルフ、興奮しすぎだ。落ちつけ」

 

 一樹はそう言って、アルフをなだめようとする。

 

「そんな事言ったって!」

 

「言いたい事は分かるが、いま重要なのはそこじゃないんだ。落ちつけ」

 

「~~~ッ! ……ハァ、すまないね」

 

「気にするな、で? その後何があった?」

 

「ああ、その後我慢できなくて鬼婆をぶん殴ってやるって思って、部屋の奥にあった扉を開けてその部屋に入ったんだ。そしたらその部屋の奥に鬼婆がいたから、駆け寄ってぶん殴ろうとしたんだけど……」

 

「プロテクションかなんかで弾かれたのか?」

 

「……そうだよ、よくわかったね」

 

「そりゃあ分かるよ、なあクロノ」

 

 そう言って一樹が話を振ってきた。

 

「まあ、会話の流れと君の性格を考えたら、自然と出る答えだな」

 

「……そうかい」

 

 アルフが不機嫌そうに言う。まあ、そんな事言われたらあまりいい気はしないな。

 

「で、弾かれた後は勿論もう一回突っ込んだ訳だ」

 

「そうだよ! 悪かったね単純で!」

 

「あ~、すまん。でどうなったんだ?」

 

「……プロテクションにしがみついて両手で引き裂いてやったさ。その後胸倉をつかんで問い詰めたんだ。何で母親なのに、自分の子供にあんなひどい事が出来るんだって。でもあいつはそれに答えないであたしを攻撃しようとしたんだけど、」

 

「ど?」

 

「突然吐血したんだ。急に咳き込んだと思ったら口を押さえて蹲ってさ」

 

「吐血したのか? 別に殴ったりはしてないんだろ?」

 

「ああ、胸倉をつかんではいたけど殴ったりはしてないね」

 

「何か病気だったのか? フェイトから何か聞いてるか?」

 

「いや、そう言う事は何にも」

 

「……そうか、で吐血した後どうなったんだ?」

 

「急にそんな事になったもんだから、どうすればいいか分からなくなっちまってね。オロオロしてたらあいつが現れたんだ」

 

「その黒ずくめの奴か?」

 

「そうさ、全身真っ黒で覆面にサングラスをしてたよ。身長とか体格はちょうどあんたと同じぐらいだったね」

 

「ふ~ん、そうするとだいたい175㎝前後か、体格も中肉中背って感じか。でその後は?」

 

「そうだね、あたしが誰だいって聞いたら、カリウムって名乗ってるって言って、鬼婆の協力者だって言って来たんだよ」

 

「協力者?」

 

「そうだよ。そしたら、その後鬼婆が違うって言ったらあっさりそれを認めてね、しかも「娘を殺す」って脅してるって言ってきたんだ」

 

「何だって!」

 

 それを聞いて僕は立ち上がる。

 

「クロノ!」

 

 一樹に呼ばれてハッとする。そうだ、落ちつけ、まだ落ちついてなきゃいけない。まだ話は終わってないんだから。

 

「ふう、それで、その後は?」

 

「勿論、そんなこと出来る訳がないって言ってやったさ。あたしもいるし、フェイトだって強いんだ殺される訳がないって思ってた」

 

「思ってた?」

 

「ああ、そうだよ。その時フェイトを殺したかったらあたしを倒してからにしなって言ってそいつと戦う事になったんだけど、あいつが「お前を殺す」って言った瞬間あたしは三回死んだ」

 

「はあ? 何言ってんだ? 生きてんじゃんかよ」

 

「仕方ないだろ! 実際そういうのが見えたし、上手く説明何かできないんだからさ! 多分あたしはそいつから「殺気」を受けたんだと思う」

 

「一樹、そう言うの何か聞いた事ないか?」

 

 僕は一樹なら何か知ってるんじゃないかと思って聞いてみる。

 

「あるっちゃ、あるけど実際そんな事が起こるかどうかは知らん。条件とかもあるだろうしな」

 

「なんだい? その条件ってのは?」

 

「う~ん、まあ、「殺気」に慣れていなかったら影響を受けやすいと思うし、後はそいつとの実力の差が桁違いだったって事だな、多分なのちゃん達だったらその場で戦意喪失するぞ」

 

「そんな事出来るのか?」

 

「似たような事なら出来るし、された事もある」

 

「そうなのかい!?」

 

「ああ、高町道場に行けば経験出来ると思うぞ?」

 

「……なのはの家族は何者なんだ?」

 

「世の中には知らんでいい事が満ち満ちているんだよ」

 

「「そうか(い)」」

 

 それを聞いて僕とアルフが同時にため息をついた。

 

「っと、話がそれたな。で「殺気」を受けた後どうなったんだ?」

 

「そりゃあ、立ち上がってそいつを一発ぶん殴ってやったさ。返り討ちにあったけどね」

 

「お、そこから反撃できたのか」

 

「あいつも、あたしが立ちあがった時驚いてたよ。まだ立てるのかって。そこからそいつの顔面をぶん殴ってやったんだけど、額にあてられちゃってね、多分そんときに拳が壊れたんだと思う」

 

「前足が腫れてたのはそれが原因か」

 

「その後、腹に一発もらってお終いだよ」

 

「一発? 腹にもらっただけでああなったのか?」

 

「悔しいけどそうだね」

 

「どういう事だ一樹?」

 

 不思議に思って声をかける。

 

「あ~クロノ、ボディーに一発もらうとどうなる?」

 

「どうなるって、もらい方にもよるだろ? 大抵の場合は呼吸困難になったり、全身が痺れたように動かなかったりするぐらいじゃないのか? まあ、当たり所が悪ければ内臓が損傷する事もあるけど鍛えていれば大丈夫だろ?」

 

「まあ、普通はそうだろうな。普通は」

 

「だからどういう事なんだ?」

 

「アルフはボディーに一発もらっただけで死にかけたんだよ」

 

「な!?」

 

「多分、普通に殴ればクロノが言った症状が出るだろう。例え内臓が損傷したとしても治療すれば十分間に合う程の時間があるはずだ。アルフ、海鳴市にきてどの位で気を失った?」

 

「う~ん、わりとすぐだった気がするよ。転移して地面に降りたとこまでは覚えてるから」

 

「どんな攻撃だった? 向こうは武器を持っていたか? 素手か?」

 

「武器らしい武器はもってなかったね。素手だったから。攻撃自体は拳を腰だめに構えてそこから一直線に打つ感じだったかな?」

 

 こうだったかな? といってアルフがその場で見よう見まねで動きを真似する。

 

「中段突きっぽいな」

 

「それで、その攻撃を受けたら動けなくなっちまってね、変な打撃だったよ。そんなに速い打撃でもないし、威力があった訳でもないのに、受けたら思いっきり吹き飛んで壁にめり込んでたからね」

 

 アルフがしきりに首をかしげている。しかし、それを聞いた一樹は盛大にため息をついていた。

 

「何か分かったのか?」

 

「ああ、多分「寸勁」って呼ばれるものかもしれない」

 

「「すんけい?」」

 

「ああ、「発勁」とも言われてるかな?」

 

「どういう技なんだ?」

 

「あ~説明か、う~ん、そうだ」

 

 何を思ったのか一樹は机の上に置いてあった紙コップを掴んでアルフの方に置く。

 

「アルフ、このコップの前にプロテクション張っててくれるか?」

 

「いいけど何するんだい?」

 

「ん、実演」

 

「は?」

 

「いいからいいから」

 

「わ、分かったよ」

 

 そう言ってアルフは紙コップの前にプロテクションを張る。

 一樹の方はさっきアルフがしていた構えをして準備している。

 

「ほら、これで良いかい」

 

「おう、じゃあ行くぞ?」

 

 その様子を見逃すまいとしっかり見る。

 

「ほっ!」

 

 一樹がそう言って軽くプロテクションを打つ。その拳はしっかりと阻まれて紙コップに届く事は無かった。が、

 

パカン!

 

 という音が鳴って紙コップが飛んでいく。紙コップはそのままアルフに当たって床に落ちる。

 

「「はあ!?」」

 

 僕とアルフが驚愕する。プロテクションでしっかり拳を止めていたはずなのに紙コップはいとも簡単に吹き飛んでしまったのだから。

 

「これがアルフが受けた攻撃の正体だと思うぞ」

 

「な、なんなんだいこれは!?」

 

「だからこれが「発勁」だって」

 

「一体どういう原理なんだ!?」

 

「原理って言われてもなあ~、う~ん「打点をずらす」感じか?」

 

「「打点をずらす?」」

 

 一樹は床に落ちた紙コップを拾って机の上に置く。

 

「ああ、普通だったらこの場合の打点はプロテクションになる訳だ」

 

 そう言って一樹はまだ張ってあるプロテクションに拳をあて、あたってる部分を指さす。

 

「その打点をこっちに持ってくるんだ」

 

 そう言って一樹が指さしたのは紙コップだった。

 

「そんな事出来るのか!?」

 

「実演したじゃん」

 

「「…………」」

 

 僕とアルフは黙ってしまう。はっきり言ってこんな事はあり得ないからだ。

 通常プロテクションで防げば攻撃が通る事は無いからだ。勿論攻撃によっては、重いものもあるし、そういうものをプロテクション越しに感じる。でも、衝撃をそのまま通すなんてことは無かった。

 そういうときはプロテクションが割れたりするのが一般的だけど、今見たものはそうならなかった。

 

「アルフ、この攻撃を受けた時、腹の中と、背中の方になんか感じなかったか?」

 

「ああ、その通りだね」

 

「多分だけど、アルフの内臓相当ひどい事になってたと思うぞ? 衝撃を内部に通して背中から一気に抜けて言ったんだと思う」

 

「まったく非常識な奴だな」

 

「ああ、まったくだ」

 

「いや、あんたも入ってると思うよ?」

 

「……なん……だと」

 

「「当たり前だろ」」

 

 一樹は犯人だけ言われてると思ったのだろう。しかしここまでの情報で犯人を捜すと、

 

「なんかもう、僕は一樹が犯人に思えてきたぞ?」

 

「確かにそうだね、黒ずくめにしたらそっくりだね」

 

「いきなり何言っちゃってんの!?」

 

「一樹、悪い事は言わない自首しろ」

 

「そうだよ、あたしにした事は許してやるからさ」

 

「いきなり犯人扱いしてんじゃねーよ!! アルフ! だいたい犯人はオッドアイだったんだろ?」

 

「ああ、そうなんだよね残念な事に」

 

「残念扱いされた!? こういうときって普通犯人じゃ無くて良かったって言うはずじゃね?」

 

「一樹は普通じゃないからな」

 

「ガッデム!! なんて世の中だ!!」

 

 一樹が頭を抱えてしまった。

 

「で、アルフ。オッドアイって今言ってたが?」

 

「ああ、あたしが一発入れた時そいつのしてたサングラスが吹き飛んだんだよ。それで見えたんだ。赤と碧のオッドアイが」

 

「そう言う事か、で後他にはあるのか?」

 

「え~っと、あたしが蹲って動けないでいたら近寄って来て止めを刺そうとしてたんだ。であたしが何が目的なんだって言ったらジュエルシードを使って管理局を壊滅させるって言ったんだ。冥土の土産だって言ってたけどざまあみろさ、こうして生きてるんだからね」

 

「何だって!? 一樹!!」

 

「大丈夫だよ、もうエイミィ経由で地上本部には報告してある。ご丁寧にミッドチルダを御指名したからな」

 

「まあ、まだジュエルシードがこっちにあるから大丈夫だと思うけどな」

 

「そうか」

 

「ああ、後アルフはフェイトとプレシアさんの安全が確保できるまでじっとしててもらうぞ?」

 

「ああ、その方がいいだろう」

 

「ちょ、どういう事だい!?」

 

「アルフ、そのカリウムとかいうのが何て言った? 冥土の土産にって言ったんだろ? 多分そいつはアルフの事を「死んだ」と思っているはずだ。だから当然俺達はプレシアさんの背後にそいつがいるって事は知らないと思っているはずだ。そこでもしおまえの無事が確認されてみろ、最悪プレシアさんとフェイトが殺されるぞ?」

 

「なっ!」

 

「そうだな、人質を取って無理やり聞かせている時は、相手に何らかの要求をしているはずだからな。この場合「ジュエルシードを集めて来い」って言うのも要求だろうけど、「この事を管理局に知らせるな」っていうのも言われているはずだ。そして、管理局員の僕達と一緒にアルフがいるのがばれたら……」

 

「ジ・エンドだな」

 

「ど、どうにかなんないのかい?」

 

「気持ちは分からんでもないが今はじっとしててくれ。念には念を入れておきたい」

 

「~~ッ!」

 

「何かあったら、アルフにはフェイトだけでも助けてもらう。それまで待っててくれ」

 

「……分かったよ」

 

「よし、じゃあ、これから作戦会議だ。クロノ、リンディさんへの報告たのむ。俺はなのちゃん達に口止めの連絡しとくから」

 

「分かった、会議室で待ってるから早めに来いよ」

 

「了解、アルフはクロノについて行ってくれるか?」

 

「わかったよ」

 

そう言って僕たちはこれからの準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 


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