魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第十七話

― 斎藤一樹 ―

 

「ただいま戻りましたよ~っと」

 

 そう言って俺はブリッジに顔を出す。

 あの後フェイトちゃんに海鳴市に転移してもらってからそこで分かれ、アースラに連絡してそこからさらに転移して戻ってきたのだ。

 

「あ、お兄ちゃんお帰り」

 

「戻ったか」

 

 ブリッジにいたのは亜夜とクロノ。そして良く見ると亜夜が私服ではなく、道着姿だった。しかもいつもの剣道着と若干違いはあるけれど殆ど同じだった。

 白の道着に黒の袴、額当てや、籠手、更には胸当てに足袋(たび)、草鞋(わらじ)、御丁寧に道着の袖が邪魔にならないように襷掛けまでしてある。そして日本刀のアマテラスが腰にさしてある。髪は後ろで纏めてあり、これからどこかの戦(いくさ)に行くのかと聞きたくなるような格好だった。

 

「亜夜? どったのその格好?」

 

「あ! これ? ふっふ~、カッコいいでしょ! 私のバリアジャケット!」

 

 そう言ってその場でくるっと一回転する。そう言えば亜夜のバリアジャケットを見るのは初めてだ。

 

「まあ、似合ってはいるな。しかしずいぶんと和風だな?」

 

「うん、私デバイスが日本刀だからいつもの道着姿の方が慣れてるから良いかなって思ったんだ。それにこっちの方が気合いが入るし」

 

 亜夜が力瘤をつくるように腕を曲げ「ムン!」とポーズをとる。

 

「ふ~ん。で、何で今バリアジャケット姿になってんだ?」

 

「へっへ~、それはね~」

 

 亜夜はそう言うと日本刀の状態のアマテラスを鞘ごと腰から抜き、

 

「じゃ~ん! たった今クロノさんと一緒にジュエルシードを封印してきました!!」

 

 そう言ってアマテラスから出したジュエルシードを見せてきた。それを見た俺はギギギとクロノの方を向くと、

 

「一樹がテスタロッサと一緒に行って、少したったらもう一つ反応が出たんだ。丁度その時亜夜の訓練が終わったから実戦の空気を感じてもらおうと思って一緒に行ってきて、いましがた封印して戻ってきたところだ」

 

 と言ってきた。

 

「ちょ、ちょっと待て。訓練はもう終わったのか? いくらなんでも早すぎだろう!?」

 

 昨日の今日でいくらなんでも早すぎである。

 

「それについては嬉しい誤算だった。元々下地が出来ていたというのもあってどんどん覚えていったからな。戦闘についても問題なかったぞ。どっかの誰かさんは魔法習得にやたらと手間取っていたが」

 

 クロノがニヤニヤしながら言ってくる。何時もやられる側だから反撃できるときに反撃しようという魂胆の様だ。

 はあ、兄より優れた存在が目の前にいるよ。どうせ俺は魔法習得に年単位でかかりましたよ~だ!!

 と言うかあのころを思い出して若干涙目だ。あの時は結構不安だったもので、マジでこのまま魔法使えなかったらどうしようと真剣に悩んだ時期もあった。

 それもあってスサノオを使って魔法が使えた時はホントに嬉しかった。テストルームで魔力が無くなるまで使いまくったのだ。今思えばはしゃぎすぎたな~と思う。

 それは兎も角、言われっぱなしは癪に障るので、

 

「でも、魔法の使えない相手に模擬戦でずいぶんと手こずっていた人がいた気がするなぁ~」

 

「うっ!」

 

「しかも士官学校の時の戦績は負け越しだったよなぁ~、魔法が使えない人との戦績なのに」

 

「嘘を言うな嘘を! 五分だっただろ!」

 

「やっぱ覚えてたか」

 

「仕方ないだろ。模擬戦だと相手になるのがカズキしかいなかったんだから」

 

「まあ、確かにな。結局クラス内で賭けの対象になってたし」

 

 そうなのだ。士官学校時代は相手になるのがクロノしかおらずいつも模擬戦をしていた。

 しかも結構白熱した模擬戦になるもんだから、自然と賭けの対象になったりした。

 そこに五味教官が悪乗りしていつも訓練の最後のメインイベントとなってしまったのだ。

 その結果、勝敗が管理されどっちがどれだけ勝ったかを覚えているのだ。ちなみに学校最後試合は卒業式で学校生全員の前だった。そんな事を思い出していると亜夜が声をかけてきた。

 

「あれ? お兄ちゃん、フェイトちゃんは?」

 

「フェイトちゃんは家の都合で離脱した。これからは単独で行動するってさ。何かあったら連絡するようにって言っておいた」

 

「え~、そうなんだ。残念、一緒に回収できるかもって思ってたのに」

 

「残念だったな。でもどっかで一緒になるかも知れないぞ?」

 

「でもでも、その時に限って「興が乗らん!」とか言って離脱しちゃったらどうしよう?」

 

「何それ面白い。是非仮面をつけて登場してほしい!」

 

「何を言ってるんだ君達は」

 

 そう言ってクロノが突っ込んでくる。

 

「君達はいつもそんななのか?」

 

「いや、最近亜夜がネタを理解してきた。兄としては喜ばしい限りである」

 

 俺がそう言うとクロノは亜夜の方を向き、

 

「……良いのかそれで?」

 

 と、問いかけた。

 

「不本意だけど、日常になっちゃったんですよ。それにお兄ちゃんが進めてくる漫画とかアニメって面白いし」

 

「……そうか」

 

 クロノは、はあ~とため息をついた。

 クロノこの程度でため息なんかついてたら、はやてと会った時胃に穴が開くぞ。そんな会話をしていると、

 

「高町なのは! ただいま戻りました!」

 

 と元気よくなのちゃんが戻ってきた。

 

「よ、お帰りなのちゃん。怪我は無いか?」

 

「あ、一樹お兄ちゃん。うん、大丈夫だよ。ユーノ君も手伝ってくれたし」

 

「なのちゃんお帰り! 見て見て! 私も回収したよ!」

 

 亜夜はそう言ってなのちゃんにジュエルシードを見せている。

 

「えぇー! ホント! あ、亜夜ちゃんその服もしかしてバリアジャケット?」

 

「うん! そうだよ」

 

「わ~、凄い良く似合ってるの!」

 

「へへ、ありがとうなのちゃん」

 

 そう言いながら二人でキャッキャと騒いでいる。そんな二人を後目に人型形態のユーノに声をかける。

 

「ユーノお疲れ、どうだった?」

 

「あ、一樹戻ってたんだ。こっちは問題ないよ、なのはも順調に魔法覚えてるし、今回はジュエルシードも危なげなく封印出来たよ」

 

「そっか、しかし凄いななのちゃんは」

 

「うん、そうだね。此処まで才能を持っている人はそうはいないよ」

 

「まったくだ。高町家は化物ぞろいです」

 

「……ホントにそうだから何も言えないよ」

 

「そんなに凄いのか? なのはの家族は?」

 

 そう俺とユーノに聞いてきたのはクロノだ。そういや、クロノは会ってないもんな。

 

「ああ、今俺と亜夜も道場に通わせてもらってるけど魔法無しだとまず勝てない。多分一般局員が魔法ありで戦っても勝てないぞ?」

 

「そ、そんなにか?」

 

 まあそうだろうな。俺が魔法なしで平均的な局員と模擬戦してもまず負ける事はない。その俺が勝てないのだ。一般局員には絶対に無理だろう。

 

「ああ、この間なのちゃんが魔法ありで模擬戦したけど、なのちゃんのディバインシューター木刀で弾(はじ)いてた。流石にアレにはびびったわ~」

 

「そうだね、普通の木刀だったもんね。真剣だったら叩き斬ってたんじゃないかな?」

 

「……出鱈目だ」

 

 だよな~、なんつうか「公式チート?」俺の知ってる原作では全く関わってなかったから何とも言えないが、実際に関わってたらこのくらいはしてたのかも知れんね。

 

「そう言えばクロノ、亜夜はどうだったんだ? 初戦闘したんだろ?」

 

「ああ、訓練でした事は出来ているんだがあんまり魔法を使わなかったんだ」

 

「へ? そりゃぁなんでまた?」

 

「あ~、見せた方が早いか?」

 

 そう言ってクロノは目の前にウィンドウを開き操作してデータを呼び出し再生する。

 そこにはジュエルシードの異相体と対峙する亜夜が映し出されていた。異相体は鼠が元の様だ。巨大化+狂暴化。

 うん! 今までと同じだ。これが縮小化+穏和化したらそれはそれで面白いけど。

 亜夜はアマテラスを抜き正眼に構えている。しばらくすると戦闘が始まりその映像をみる。すると亜夜は魔力で身体能力の強化を行い、後はアマテラスでの攻撃を中心に戦っている。時折魔法を使用するがそれは避けられない攻撃を防御しているだけにとどまり、攻撃魔法の類はほとんど使っていない。

 う~ん、訓練では問題なく出来てたって聞いてるからこれは意図的に使っていないんだろう。攻撃魔法が必要ないと判断したかはたまた他の理由か、そんな事を考えていると動きがあった。

 徐々に亜夜が押し始めている。確実に相手の力を削いでいく。そして異相体が大きな隙を見せた瞬間、アマテラスに魔力が流れ光り出す。そして一気に間合いを詰めると、異相体を唐竹割りに真っ二つにしてしまった。

 そして亜夜がアマテラスを一振りしてから鞘に納める。「チン」と鞘に納まる音が聞こえたと思ったら、後ろの異相体が霧散しジュエルシードが浮かんでいた。

 

「クロノ」

 

「なんだ」

 

「何で爆発しないんだ!!」

 

「え! 突っ込むとこそこ!?」

 

 ユーノが反応した。

 

「当たり前だろ! 最後亜夜の後ろで爆発でもあれば良い絵がとれたのに、霧散するとは何事だ! ちょっと亜夜に説教してくる」

 

 そう言って俺は亜夜の方に歩いて行くと、

 

「やめんか」

 

 と声が聞こえると同時に、頭に「ゴッ!」と何かが当たる。あまりの痛さに床をゴロゴロと転がる。

 痛みが引いてきたので後を見るとデバイスを起動して肩に担ぐようにして持っているクロノがいた。

 

「何すんだよ」

 

「そんな理不尽な理由で説教なんかするな」

 

「そうだよね、流石にそれで説教されたら怒られるよ?」

 

「かー! 分かってない! 分かってないな! 二人とも!! あそこで異相体が爆発してその爆風でなびく髪! 炎で照らされるシルエット! それが王道ってもんだろ! だいたい倒された怪物は爆発と相場が決まっているもんだ! それが霧散だと!? 肩すかしにも程がある! 二人はもうs」

 

「何処の戦隊ものよ!」

 

ガン!

 

 再度頭に衝撃を受け、その場で後頭部を抑え再度床を転げまわる。

 後ろを見るとそこには亜夜となのちゃんが立っていて亜夜がアマテラス(納刀状態)を両手持ちで振りぬいた状態だった。

 

「亜夜、両手持ちで人の後頭部を強打するのは割とシャレにならん」

 

 後頭部をさすりながら亜夜に言う。

 

「お兄ちゃんが変な事言ってるからでしょ!!」

 

「む、聞いていたのか?」

 

「あんだけ大きな声で喋ってれば誰でも聞こえるわよ!!」

 

 それもそうか、周りを見てみるとみなさん「またか」と言う感じだ。

 

「なら、俺の言いたい事は分かっているな?」

 

「分かってるけど、爆発までは私にはどうにもならないよ?」

 

(((わかっちゃうんだ……)))

 

 その時三人の気持ちは言うまでもなく同じだった。

 

「それはほら、事前に準備しておけば何とかなるんじゃね?」

 

「なるか!」

 

「ですよね~」

 

 いつも通りの会話をしていると、そこにエイミィがブリッジに戻ってきた。

 

「あ、みんなお疲れ様。今日のところはジュエルシードの反応もないしゆっくり休んで良いって。それと明日一日は各人しっかり休息するようにだって。亜夜ちゃんも訓練終了したから帰っても良いって許可が出たよ。」

 

「ホントですか! やったー! 久しぶりに帰れる!!」

 

『ふん、良いのか小娘? 訓練を一日休むと三日遅れると言われているぞ?』

 

 アマテラスの一言に「ピク」と反応する亜夜。さっきまで喜んでいたがいきなりフリーズする。

 

「こら、アマテラスあまり無理をさせんな。ただでさえ詰め込み過ぎの内容なんだ。ここいらで身体休めとかないと身体壊す事になるぞ。因みにこれはなのちゃんにも言える事だからな」

 

「「うっ」」

 

「だから、二人は明日一日はゆっくり休め。何かあったら俺とクロノで対処します」

 

「そうだな、二人は明日一日休んで疲れを取るべきだな」

 

「でも、そしたら二人はどうするの? 二人も私達と同じくらい休んでないよね?」

 

 俺とクロノを心配したのかなのちゃんが聞いてくる。

 

「その点については大丈夫。士官学校時代に不眠不休で仕事をする耐久訓練受けてるから。俺とクロノは最低限水と食料があれば五日間は問題ない。それに比べれば睡眠も食事もとれる現状は全く問題ない」

 

 今思えば士官学校時代で一番つらかった訓練かもしれない。

 不眠不休で五日間、二日目までは問題なかった。こっちに来るまではよくあることだったから大丈夫だったから。

 しかし三日目を過ぎたあたりから調子がおかしくなってきた、目がかすんできたり、自分で何を言ってるのか分からなくなったりとだんだんヤバくなってきた。

 四日目になると他に一緒にいた連中はほとんどダウン、何とか起きていたやつも見るからに顔色が悪くかなり狂暴になっていた。

 五日目になると俺とクロノ以外はダウンして、そう言う俺達も二人で言い争ったり、模擬戦したり、かなり好戦的になっていた。そして初回の耐久訓練が終了した。

 その後は二日間の休息ののち再度耐久訓練に入る。それを五回、全体で約一ヶ月弱行う。今まで行ってきた訓練の中で五指に入るほど辛かった。そんな事をクロノとしみじみ思いだす。

 

「あの訓練と比べたら今の状況なんて軽いもんだよ」

 

「だな、流石にアレはおかしくなるかと思ったよ」

 

「ただ起きてるだけじゃなくて、通常通り座学やら訓練もやるんだからホント困る。あのときばかりは本気で殺意を覚えたね」

 

「僕はそんな状況になってもいつも通り絡んでくる奴に殺意が湧いたよ」

 

「「「うわ~」」」

 

 それを聞いた三人がかなり引いていた。まあ、こんな話をすればそうなるだろう。

 

「ま、そんな訳で俺とクロノの事は気にしないで大丈夫だ。ゆっくり休んでおけ」

 

「それに、僕たちも休まない訳じゃないから大丈夫だ」

 

 俺とクロノはそう言ってなのちゃん達を納得させる。

 

「じゃあ、一旦解散だ。何かあったら連絡入れるから明日は存分に休んでくれ」

 

「「「は~い」」」

 

 三人が声をそろえて返事をする。

 

「あ、お兄ちゃん。晩御飯どうするの? こっちで食べてくの?」

 

「ん、こっちで食べてく。書類仕事とか少しやってかないといけないから」

 

「うん、分かった。お母さんに言っとくね」

 

「おう、よろしく頼む」

 

「じゃ、あんまり遅くならないようにね」

 

「はは、善処する」

 

 そう言うと亜夜達は転送ポートに行き転送されていった。

 そのを見て「ふう」とため息をつき、更にその場で伸びをする。

 

「んん~~~。」

 

「大分お疲れの様だな」

 

 その様子を見てクロノが言ってくる。

 

「あいつらが居る手前弱音は吐けねぇ~からな~。ああ言ったけど流石に特別訓練した直後は正直しんどい」

 

「確かにその通りだな」

 

 そう言うクロノも若干疲労の色がうかがえる。

 

「正直明日が休みになってくれてよかったよ。このまま続けてたらぶっ倒れてたかもわからんね」

 

「珍しいね。一樹がそこまで疲れるなんて」

 

 そう聞いてきたのはエイミィだ。

 

「そう言えばそうだな。いつも漂々としてたからな一樹は」

 

「ちょっと気になる事があってな」

 

「フェイトの事か?」

 

 それを聞いて俺は目を丸くした。

 

「何で分かった?」

 

「伊達に執務官をしてる訳じゃ無い。まあ、確信していたかと言えば嘘になるが、一樹がそういう反応をしてくれたおかげで助かったよ」

 

「……ガッデム! かまかけられた!」

 

「え? フェイトちゃん何かあるの?」

 

「……あんまり家庭の方が上手くいってないみたいなんだよ」

 

「そう言えば知り合い何だったな? どこで知り合ったんだ?」

 

「あれ? 話してなかったけ?」

 

「ああ、アースラに初めて来た時は知り合いの協力者ってだけだった」

 

「そうだっけ? まあ、隠すほどの事でもないから話すけどフェイトちゃんのお母さん、プレシアさんって言うんだけどその人の使い魔を助けて保護してたんだ。それでフェイトちゃんに連絡して来て貰ったって訳だ」

 

 ……まあ、嘘は言ってないよな。嘘は。

 

「そうだったのか。で、その家庭の事情とやらは解決できそうなのか?」

 

「あ~、今のところ六分ってところかな?」

 

「ずいぶん頼りない数字だな」

 

「過大評価はしない主義なもんで」

 

「まあ、僕達に出来る事なら協力するぞ」

 

「そうだね、少しだったけど一緒に手伝ってくれた仲間だもんね」

 

 クロノとエイミィがそう言ってくれた。不覚にも「じ~ん」と来た。やっぱりもつべきものは友達である。

 

「分かった、そんときは頼む」

 

 そう言って俺は腕を伸ばし、拳をクロノに向ける。

 

「ああ、頼まれた」

 

 そう言ってクロノは俺の拳に自分の拳を軽くぶつけたのだった。

 

― 八神はやて ―

 

「はぁ~」

 

「どうしたんですか? ため息なんかついて」

 

 リニスがうちにそう聞いてくる。

 

「なんや最近、なのはちゃんと亜夜ちゃんがおかしい言うてアリサちゃんとすずかちゃんから相談されてしもたんよ」

 

「あ~、ため息の理由はそれですか」

 

「そうなんよ。アリサちゃんとすずがちゃんが心配しとるのも分かるんやけど、なのはちゃんと亜夜ちゃんが話してない事をうちが話してええもんか思ってな」

 

「確かにそうですね」

 

「せやから二人に聞こう思たんやけど、忙しいみたいで全然連絡つかないんよ」

 

「それでしたら私から連絡して見ましょうか?」

 

「ホンマ!? そやったらお願いしてもええか?」

 

「はい、ちょっと待っててください」

 

 リニスはそう言うて黙ってもうた。どうやら「念話」をしてるみたいや。

 一樹兄ちゃんから聞いとったけどつくづく便利やと思う。うちも使えたらええのに。

 そう考えているとリニスがうち話しかけてきた。

 

「はやてちゃん、亜夜ちゃん達は今家に居るみたいですよ。明日一日は休みだそうですので話してみたらどうでしょう?」

 

「そっか、明日は日曜日やし丸一日ある訳やな。ええ機会やし、魔法の事どうするのか聞いてみんとな」

 

「そうですね、確かに決めておいた方が良いでしょう」

 

「よっしゃ! そうときまれば明日家に押し掛けるで!」

 

「その必要はない!!」

 

「「ひゃあ!」」

 

 そう意気込んでいた所に不意に声をかけられビックリしてしもうた。リニスも予想してなかったみたいやし。

 声のした方をみるとそこには一樹兄ちゃんがおった。小脇に亜夜ちゃんとなのはちゃんを抱えて…………。ていうかなんでなのはちゃんはぐったりしとんのやろ? なんかあったんか?

 

「お兄ちゃんおろしてよ!」

 

「うっぷ、気持ち悪い~~」

 

「ちょ、なのちゃん大丈夫!?」

 

「う~~~、とりあえずおろして~~~」

 

 よわよわしい声でなのはちゃんが言うてくる。よほど気持ちが悪いみたいや。

 とりあえず説明してもらわなあかんな。

 

― 斎藤一樹 ―

 

「と、言う訳なんだ」

 

 そう言って俺は全員に説明し終わる。

 書類仕事を終えた俺はアースラから高町家に向かい、なのちゃんと魔法の事で話していた所にリニスから連絡が来たのだ。

 ちょうどその事でなのちゃんと話していた事もあって桃子さんに許可とりなのちゃんを小脇に抱え自宅までダッシュ、帰宅後バリアジャケット姿を家族に披露させていた亜夜を小脇に抱えはやての家にお邪魔したのだった。

 短時間とはいえ全力疾走状態で小脇に抱えられたなのちゃんはかなりシェイクされたようでリビングのソファーの上で休んでいる。見かねた亜夜が介抱している。

 

「その話をするために来ておいて、なのはちゃんダウンさせてどないすんねん!」

 

「いや~、いつも模擬戦やら実戦やらで、とんでも機動するもんだから大丈夫だと思ってつい」

 

「つい、じゃない!」

 

「ふははは、サーセン」

 

 正座させられ、亜夜とはやてに説教を食らう。

 

「まったく、他にいくらでも運び方はあったでしょう!」

 

「ん? 肩に担いだ方がよかったか?」

 

「違うよ!」

 

「一樹さん、女の子の運び方としてそれはどうかと……」

 

 それは無いだろうと言わんばかりにリニスが言ってきた。

 

「いやいや、古今東西、お姫様だっこやら、おんぶなんかの運び方だとフラグが立ちますよ?」

 

「なのちゃんは兎も角、私に立つ訳ないでしょ!!」

 

「HAHAHA! 当たり前だろ、今更「義理」なんてオプションが付いたら迷惑だ」

 

「わ、私にもたたないよ!」

 

「今、なのちゃんに振られた件」

 

「告白すらしてへんのに振られるとかうける」

 

 どうやらなのちゃんはメインヒロインではないようだ(笑)

 それは兎も角なのちゃんもそろそろ話が出来るぐらいには回復した様なので会議をする。

 

「そんじゃ、なのちゃんも回復してきた事だし会議と行きますか」

 

 そう言ってリビングのテーブルの周りに集まる。テーブルの上にはリニスの入れたお茶が置かれていた。

 ちなみにお子様達の前にははホットココアが置かれている。

 

「まずジュエルシードも順調に集まってもうすぐ回収完了というところまで来ているけど、はやてがすずかちゃんとアリサちゃんから、最近亜夜となのはちゃんの様子がおかしいと相談を受けたそうだ。その件に関して二人共何か心あたりは?」

 

「「う~ん」」

 

 二人して考え込む。

 

「私もなのちゃんも授業はちゃんと受けてたし……」

 

「そうだよね、訓練自体はマルチタスクでやってるから他の人にはわからないと思うし」

 

 そう言って二人は「何でだろう?」と首をかしげる。

 

「あ~、多分授業中にマルチタスクで訓練してるからだと思うぞ? それに最近訓練やら、回収やらであんまり余裕なかったからな。考えごとしてる雰囲気が出てたんじゃないか?」

 

「「え?」」

 

「俺から見ても考えごとしてるのがわかったぞ」

 

「そ、そうなの?」

 

「ああ、特になのちゃんは以前より笑わなくなってたからな」

 

「「「あ~、確かにそうかも」」」

 

「え? え? そ、そんなに違う?」

 

『うん』

 

 全会一致で肯定されたなのちゃん。

 

「何をそんなに考えとったん?」

 

 気になったのかはやてがなのちゃんに尋ねる。

 

「え、え~っと、魔法の訓練の事とか、フェイトちゃんの事とか、ジュエルシードの事とか……」

 

 指折り数えていくなのちゃん、おいおいそんなにあんのかよ……。そりゃあ余裕も無くなるわ。

 

「あかん、なのはちゃん。それ明らかに考えすぎや。もっと気楽にしたらええんちゃうん?」

 

「で、でも、もし失敗しちゃったらって思うともっと頑張んなきゃって思っちゃって……」

 

「今は前とは違うからな。管理局組もいるし亜夜も戦力に加わってるから大丈夫だぞ。頑張り過ぎてダウンでもされた方がよっぽど拙い。だからもっと気楽に構えて大丈夫だぞ?」

 

「そ、それはそうなんだけど……」

 

「何かほかに気になる事でもあんのか?」

 

「う~、だってフェイトちゃんにまだ一回も勝ててないから……」

 

「あ、そう言えばそうだな。今のところ二戦全敗って成績だっけ? 初戦は秒殺で」

 

「その原因をつくったのは一樹お兄ちゃんだよね!?」

 

「言いがかりデ~ス、なのちゃんの油断が負けに繋がったのデ~ス」

 

 有名な某カードゲームのキャラクターの真似をする。

 

「ううう~~~~~~!」

 

 そう唸りながらポカポカ叩いてくるなのちゃん、が、まったく痛くない。

 

「もう、お兄ちゃんあんまりなのちゃんをからかわないの!」

 

「了解。まあなのちゃんに色々悩み事があるのは分かったけど、結局すずかちゃんとアリサちゃんにはどうするんだ? 魔法の事話すのか?」

 

「「う~ん」」

 

 俺がそう聞くと二人とも考え出してしまった。

 

「なんだ? 話す気がないのか?」

 

「あ、そう言う事じゃないんだけど」

 

「話すつもりなんだけど、どのタイミングで話せば良いかわかんなくて……」

 

「でも、話さないでいるとそのままずるずる話せないままになっちまうぞ?」

 

「う~ん、何かきっかけでも有れば良いんだけど」

 

 そんなふうに二人が悩んでいると、

 

ガチャ、バン!

 

 と玄関から音がして、

 

ドドドドドドドドド

 

 と廊下を走る音が二つ程聞こえてきた。

 

バン!

 

 とリビングのドアが開けられて、

 

「「はやて(ちゃん)! 大丈夫!?」」 

 

 そこに現れたのはアリサとすずかちゃんだった。

 

「な! ど、どないしたんや!? 二人とも?」

 

「何って、一樹が「はやてが腕を押さえて苦しみ出したからすぐ来てくれ」ってメールで」

 

 そう言って携帯の画面を見せる。

 

「「「え?」」」

 

「わ、私は「目を押さえて苦しみ出した」だったよ?」

 

 そう言ってすずかちゃんも携帯の画面を全員に見せ、それぞれを見たはやてが

 

「何処の中二病患者やねん!」

 

 と突っ込みを入れる。

 

「ん? 不治の病とかにした方が良かったか?」

 

「もっと悪いわよ!」

 

 アリサが突っ込んでくる。

 

「だ、駄目だよそんなことしちゃ! ホントになったらどうするの!?」

 

「オーストラリアに遺骨撒いてもらうから大丈夫や」

 

「「せかちゅう」ですね分かります」

 

「そうじゃないでしょ!」

 

 そんな会話を聞いてなのちゃんが首を傾げ聞いてきた。

 

「「せかちゅう」ってなに? ポケモン?」

 

「そうそう、ライチュウが究極進化するt「ナチュラルに嘘を教えるな!」」

 

ガゴン!

 

 と頭部に衝撃を受け転げまわる。

 

「ぬおぉぉぉーーー。あ、相変わらずの突っ込みだな……お?」

 

 涙目になり頭をさすりながら亜夜を見る。そこで一つ気になったので聞いてみる。

 

「ところでアヤノック」

 

「誰がアヤノックよ!」

 

「そんな装備で大丈夫か?」

 

「はあ? 何をいってr……あ」

 

 そこにはバリアジャケット姿の亜夜がいた。 

 はやては笑いをこらえており、なのちゃんはおろおろしている。アリサとすずかちゃんは「ポカ~ン」としながら亜夜みている。

 そりゃそうだろう、一瞬にして亜夜の姿が変わったのだ。手品で誤魔化すには少々無理がある。

 光りながら粒子みたいなのをまとって変身したし。まさに「魔法」の事がばれた瞬間である。亜夜はだらだらと冷や汗を流している。

 

「亜夜、ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」

 

 良い笑顔でアリサが亜夜に問いかける。

 

「……はい」

 

 アリサの問いに観念したようにうなだれる亜夜、犯人が自供を始める様な光景をちょっと懐かしく思ったのは内緒だ。

 

― 説明中 ―

 

「ふ~ん、で協力する事になったんだ」

 

「大変だね」

 

 二人にあらかた説明を終えて一息つく。

 亜夜は相変わらずバリアジャケット姿で、今はなのちゃんもバリアジャケットになっている。

 例によって二人に見せてと言われ変身した。

 

「そう言えば一樹のバリアジャケット姿ってどんななのよ?」

 

「あ、そうだね。まだ見せてもらってないです」

 

そう二人が俺に言ってくる。

 

「ん? もう二人は見てるはずだぞ? 誘拐された時の服装がそれだ」

 

「へ~、あの時のやつがそうなの」

 

「でも真っ黒だったね? いつもそうなの?」

 

「うんにゃ、状況に応じてカラーリングは変更してるよ。基本の白色、夜間迷彩、都市迷彩、ジャングル迷彩そんなもんかな? 他にも色々用意しておきたいんだけどね」

 

「ふ~ん、でも一樹お兄ちゃん何でそんなにあるの?」

 

 不思議に思ったのかなのちゃんが聞いてくる。

 

「そりゃあ、任務がいつも街って訳じゃないからな、砂漠にジャングル、夜間、まあ色々な場所や時間であるからな。更には偵察や潜入みたいに敵に見つかっちゃいけないものまである。そんな任務に例えばどっかの大尉みたいに金ピカの装備で潜入するか? 見つかってハチの巣にされるのがオチだ」

 

「当たらなければどうという事は無いんやろ?」

 

「そうそう、って違うから! 見つかっちゃいけないんだから見つかった時点でアウトだよ!」

 

 はやてにツッコミを入れ続ける。

 

「まあ、そんな理由でカラーリングが色々あるんだ。実際、誘拐の時は夜間迷彩が役に立ったしな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、実際二人がいた階の上に行く時闇に紛れる事が出来たからな」

 

「ふ~ん」

 

「ま、亜夜やなのちゃんには今んとこ必要無さそうだしそのままで良いんじゃないか? カラーリングの変更は割と簡単に出来るし、必要になってからでも問題ないし」

 

「そうだね、これ以外の色にしたら可愛くなさそう」

 

 …………やっぱ判断基準ってそれなのか? まあ、確かになのちゃんや亜夜のバリアジャケットに迷彩柄とかは微妙だろうけど。見てみたいというのはあるけどね! それはさておき、

 

「さて、今日はみんなはやての家に泊って行きなよ。幸い明日は休みだろうし」

 

「あ、でもお母さんに連絡「あ、大丈夫」……へ?」

 

「もう了解とってあるし、準備もしてあるから」

 

 そういって俺はなのちゃん、すずかちゃん、アリサの前にバッグを置く。

 その上にはそれぞれ手紙が置かれている。三人とも不思議そうにそれを見つめ、上に置いてある手紙を読み始めて…………。

 

「「「はあ~」」」

 

 とため息を一つ。

 

「なんで一樹お兄ちゃんはこう用意周到なんだろう?」

 

「ホントよね」

 

「出来れば事前に連絡してほしいです」

 

「いや~、基本的にサプライズ好きなもので」

 

 だってそうしないと面白くならないじゃないか。隣でははやてが嬉しそうに眼をキラキラさせていた。

 

「久しぶりやなお泊り会!」

 

「でも大丈夫なのはやてちゃん。布団の準備とかしてある?」

 

「フッフッフ、こんな事もあろうかと! 布団の準備はオールオッケーや! 今リニスが布団敷きに行っとるで!」

 

 俺に向けてグッとサムズアップするはやて。俺もそれにサムズアップで返す。

 

「あ、あんたらは……」

 

 そんな様子を見てため息をつくアリサだった。

 

 大部屋で五人全員が寝付いたのを確認して俺はリニスと話し始める。

 

「それでフェイトちゃんの様子は?」

 

「良くも悪くも無いですね、今のところは無茶はしていないようですけど」

 

「プレシアさんからも暴力は受けてないようだからな」

 

「ええ、この間プレシアの所から戻って来た時は問題なかったですし」

 

「プレシアさんがフェイトちゃんの事をちっとは気にしてくれてるってことなんだろうか?」

 

「そうですね。フェイトを人形と見てない感じは出てきました」

 

「そっか、会話したかいがあったかな?」

 

「それはどうですかね?」

 

「厳しいね、まあ実際引っ掻き回してる感じしかしないんだよね……。少しでも良い兆候がみられるならそれで良いけど」

 

「……本当に大丈夫ですか?」

 

 俺はテーブルの上に置いてあるお茶を飲み一息つく。

 

「プレシアさんを単純に「助ける」ってだけなら良かったんだけどな。フェイトちゃんにアリシアの件、更には今回の件で起こしそうな犯罪を止めるとなると難しいよね……。はあ~、厄介極りねぇな」

 

「でも、助けられるんですよね?」

 

「今のところは大丈夫だと思うけどな。フェイトちゃんとプレシアさんも今のところ犯罪を犯してる訳じゃないし。むしろこれからが大変だ」

 

「一樹さんなら大丈夫ですよ」

 

「……その根拠はどこから?」

 

「これまで一樹さんは出来ない事は出来ないって言ってたじゃないですか。そして私と始めて会った時助ける事が出来るって言ったじゃないですか。だからです」

 

「……期待されてんな」

 

「はい」

 

「じゃあ、期待にこたえないと男じゃないな」

 

 そう言って俺は苦笑する。

 

「そうですね、じゃあ、失敗したらちょん切っちゃいましょう」

 

「何を!?」

 

「さ~、ナニをでしょうかね?」

 

 リニスの言葉に冷や汗がだらだらと止まらない。冗談だと思うが若干見え隠れする黒いオーラが恐い。

 

「でも、一樹さんも無理しないでくださいね。今一番無理してるのは間違いなく一樹さんですよ?」

 

「いやいや、この程度なら大丈夫だよ。睡眠も食事もとれてるから」

 

「それでもですよ。今ここで倒れられても、この先で倒れられても困るんです。倒れるなら全部終わった後にしてください」

 

 …………なんだかリニスが冷たい気がするのは気のせいか?

 こういうときってそれなりに励まされるもんじゃないのか?

 

「なあ、リニス? なんか機嫌悪くないか?」

 

「そんな事ないですよ? 「庭園」に行った一樹さんがプレシアを困らせたり、フェイトを惑わせたりした事を怒ってなんかいないですよ?」

 

 …………怒っていらしゃる!

 この分じゃ失敗したらマジでちょん切られるやもしれん!

 こんな事で失敗できない理由が追加されるとは思わんかった!

 

「でも大丈夫ですよね。一樹さんは失敗なんかしないんですから」

 

 リニスの言い方に戦慄しつつ、渇いた喉に味が分からなくなったお茶を流し込むのだった。

 

 

 

 

 


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