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ピピピ……ピピピ……ピピピ……
いつもの時間に鳴る目覚まし時計で、まどろみの中から意識が浮上する。寝ぼけ眼をこすりつつ、耳障りな電子音を鳴らす目覚ましを探しその音を止める。
ベットから出て上着を羽織ると、二階の自室から下のリビングに向かい、すでに起きている両親に挨拶をする。
「おはよう、父さん、母さん」
朝食の準備をしていた母さんが、
「あら、今日は早いのね、何かあるの?」
と言ってきた。
「ん? そうかな? いつも通りだと思うけど?」
すると母さんがポカンとした顔をして
「何言ってるの。いつも時間ギリギリまで寝てる癖に。それならいつもこの時間に起きなさいな。いつも慌ただしいんだから」
……ん? 母さんは何を言っているのだろうか? 社会人になってからというもの遅刻ギリギリまで寝ていた事なんてない。
社会人になるとやることが多いのだ。朝は部屋の掃除から始まり、机の掃除、配布物、お茶くみ等々、しかもそれを最近入ってきた新人に教えなければいけないのだ。だからこそ遅刻ギリギリまで寝ていたらそれらの仕事は全部できず、俺が先輩から説教をくらってしまう。それは御免こうむりたい。
そんな事を思いつつ父さんを見てみると、そこには白髪混じりの初老の顔ではなく、黒い髪で皺の無い顔があった。
それを見てポカンとしていると、
「どうしたんだ、ポカンとして。早くご飯を食べて準備をしたらどうだ?」
そんな俺を見て、父さんが声をかけてきた。更にそんな俺の様子を変だと思ったのか、母さんが言ってくる。
「どしたの? いくら早く起きたからって、のんびりしてると『学校』に遅刻するわよ?」
…………は? 今母さんは何と言った? 『学校』? こちとら最後に学校に行ったのは9年前の高校の卒業式だ。しかもそのときは両親揃って卒業式に出ていただろうに。
からかっているのかと思い顔を見たが、からかっている様子なくいたってまじめだった。
いったい何が起きているのだ? と、混乱し始める。何かないかと思いキョロキョロしていると目に止まったものがあった。新聞だ。
そうだこんな時こそ情報だ。新聞を読んで現状を把握してこの異常を打開する。ああ素晴らしきかな紙媒体! ここで取り乱すのは馬鹿だ。冷静になれば道は開ける! そうなれば行動だ!
「と、父さん。新聞とってくれる?」
「ん? ああ、まだ父さんが読んでるから待ってくれ」
ガッデム!! 早々に道が閉ざされてしまった! なんてこった! どうすりゃいいんだ!
他に、他にないのか? 何か情報収集できるものは!?
と、さらに部屋を探すと見落としていたものがあった。
そうだ、テレビだ! ニュースを見れば何かわかるはず! そうすれば現状を打開できる! そう思いリモコンに手を伸ばしテレビの電源を入れニュースをつける。すると女子アナがにこやかにこう伝えてきた。
「おはようございます。3月1日6時のニュースをお伝えします。まず始めに…………」
日付だけ!? ガッデム! なんて世の中だ! 肝心の年号が分かんないじゃないか!
これじゃ意味ないじゃん! と頭を抱え悩んでいると、目の前に座る父さんが読んでいる新聞の一面に載っている日付が目に入った。
新暦60年3月1日
…………新暦? 平成じゃなくて? は? いつの間に変わったんだ?
いやいや、あり得ない。昨日今日変わったのであれば新暦元年とかになってるはず。
新暦60年。少なくとも新暦に代わってから60年が経過していることになる。平成がどっか行った!? 何だ!? いったい何が起きてんだ! 情報収集して状況を打開するどころか絶賛大混乱である。そんなふうに唸っていると母さんが父さんに言った。
「ほら、あなたも新聞読んでないで支度しないと遅刻しますよ。今日は『ミッド』に行くんでしょ?」
「ん? もうそんな時間か? じゃあ支度するか。ほれ一樹、新聞」
そういうと、父さんはおれの眼の前にポンと新聞を置き支度しに行った。
「あ、ありがとう……」
かろうじて言う事が出来たが、他のことで頭がいっぱいだった。
……『ミッド』? どこかで聞いた気がするが思い出せない。そもそもここは日本であり海外ではない。27年間日本で暮らしてきたが、ミッドなる名前の都道府県、市区町村なんて聞いたことがない。
いったい何がどうなってるんだ? 混乱を通り越してもはやパニックである。頭が働かないまま最後の手段として恐る恐る母さんに尋ねる。
「か、母さん。さっき言った『ミッド』って?」
すると母さんが「どしたんだ」と言わんばかりの顔で、
「何言ってるの? 『ミッド』っていったら『ミッドチルダ』の事でしょ? お父さんの仕事場がある。それにあんたも去年行ったでしょ?」
と言ってきた。
「ウン、ソウダッタネ」
そう言われて俺は考えるのをやめた。もう俺の理解力が天元突破です。わけわかめです。
「なんだが、分かってなさそうだけどまあ善いわ。早く食べて、『小学校』行ってきなさい」
「ウン、ソウダネ」
そう言われて俺は自分の部屋に戻った。
状況を整理すると、どうやら俺は『小学生』で父さんの職場である『ミッドチルダ』なる場所には行ったことがあるようだ。
部屋に戻ってから気がついたのだが、身長が縮んでいた。叫びそうなのをこらえつつ学校に行くための準備をする。
まず通学カバン。中身を確認し忘れ物がないか確認する。次に携帯電話。机の上にあったので、開けて確認したところ自分の携帯の様だ。最後に制服。白色がメインの制服だった。
つーか小学校で制服って、どっかの私立なのかな? しかし、上着はいいんだが、下が短パンって……なんか泣けてきた。
準備もできたので、下に向かい母さんに行ってきますと声をかけ、学校に向かうのだった。