クリスマスに続いて縁がないこちら。
というか、クラスや隣のクラスなどでそんなの見たことない。
義理チョコですら。
友チョコならよく見る。女子同士だな。
どうでもいいですね。
では、どうぞ!
「先輩方、受験お疲れ様でした! 日頃の感謝も込めてコレ、どうぞ!」
「おお……ヒロがわたしたちにプレゼントか」
「そういえば今日はバレンタインだったわね」
「ありがとうな!」
2月14日、オレは学校について早々雪の降る中、先輩達を待っていた。久しぶりの先輩の登校だ。予想通り、4人で揃ってきたため持って来ていたプレゼントを渡す。料理という苦手分野、ここは流石にお母さんに手伝ってもらった。作るって言ったときは相当驚かれたが、理由を伝えると快諾してくれた。そして、お母さんに助言をもらいながらの初めてのお菓子作り。
梓ちゃんと相談して決めた結果、梓ちゃんがチョコケーキをつくり、オレがクッキーをつくることになった。渡すのはバラバラでもいいって決めてたからオレは先に渡してたけど、この先輩の様子じゃ梓ちゃんはまだのようだ。
「それより~ヒロのほうはどうなの?」
「あずにゃんからもらった?」
「え?…………あ、そっか。今日バレンタインデーだっけ」
「おいおい、そのためにわたし達に渡してくれたんじゃないのか?」
そうなんだけど……バレンタインデーで梓ちゃんからもらえる可能性というのに全く気づいていなかった。去年までそういうのとは無縁でいたからさ、先輩に渡すのだけで精一杯になっていたな。そうかそうか。梓ちゃんからもらえるのか~期待しとこ。
「それじゃあ、また放課後部室でな~梓がヒロにどんなの渡すか楽しみだな~」
「って、りっちゃんが楽しまなくても」
「ふふ~……いいじゃんいいじゃん」
と言いながら昇降口の方に向かっていった。オレはその歩く姿をずっと立ち止まってみていた。もう受験は全部終わったんだよな~すぐに卒業か……オレがノスタルジックになってもダメだ。笑って先輩達と最後まで過ごさないと。…………あ、澪ちゃんまたファンの人にもらってるよ。凄い数……
「あれ、ヒロ…こんなとこで何やってんの?」
「おうアキ。先輩に日頃の感謝を込めてプレゼントをしたんだ」
「そうなんだ。今日は楽しみだね」
「ああ。楽しみだな」
校門前で立ち止まっていると、アキがやってきた。オレはアキと共に教室の方へ向かった。
「ヒロ君!!」
突然、後ろから呼び止められたが、オレはあえて無視と言う選択をとることにした。なぜならば。
「ちょっと、聞こえているよね」
どのみちすぐそばまでやってくるから。誰が? そんなの決まっているじゃないか。
「何か用か、優花」
何故か同じ学校に転校してきた従兄妹の優花である。
「コレ、作ってきた。だから食べて」
「お前、料理出来たのか」
「やったことない。でも、ヒロ君にプレゼントするから気合入れて」
通り過ぎていくやつの視線がとても痛いんだが……オレはこういう場合、どうすればいいのだろうか。受け取るべきなのか。梓ちゃんからもらうのが最優先だから受け取らないで置くべきなのか。
「本当に食べれるのか?」
「味見したから大丈夫」
「でも、今腹いっぱいだし、後で食べるぞ」
「感想聞かせてね」
「はいはい」
結局受け取ることにした。優花の顔見てると、ここで引き下がったらいろいろとやばい気がしてきたからね。もちろん、腹いっぱいっていうのは嘘。梓ちゃんのを一番最初に食べる。これだけは譲らない。
「ヒロ、人気だね」
「お前、オレの心の中の葛藤を知ってそれを言ってるか?」
「冗談だよ。僕だって今朝、姉さんにもらったし」
「おあいこだな」
そういえば、姉さんの不純異性交遊の厳禁についてはどうなったのだろうか。何も異変が見当たらないことから、オレはお咎めなしであろうという結論に至った。
「じゃあ、僕は教室に行くから」
「おう。またな」
Fクラスといえども、雄二やアキ・康太や秀吉・竜也と言った連中は来年Aクラス入りを目指すために必死に勉強しているらしい。それが、あまりにもクラスの温度差を生み出していて、先生も多少やりづらい感をだしているそうだ。雄二はほぼ確実にAクラス入りは確定している。他の5人は……今の様子じゃBが精一杯か。もしくは何かの運でAクラス入りをもぎ取るか。クラス替えが楽しみだ。
★
「あ~今日の授業一切集中できなかった」
いつもらえるのかとワクワクドキドキしながら待っていたが、放課後まで何もなし。どころか、梓ちゃんと一度も顔をあわせていない。偶然にもほどがあるが………それは放課後になれば終わるだろうと。そして、部活の時間。一緒に行こうと思って、梓ちゃんのほうの席を見てみるも姿は見あたらなかった。バックはあるも、本人の姿だけが見えなかった。
「憂ちゃん、梓ちゃん何処に行ったか知っている?」
「さあ…どこだろうね…わたしも知らない」
「そうなの……」
「さっきすれ違ったけど、何か用事があったわけじゃないの?」
「純ちゃん?」
Dクラスの純ちゃんがAクラスにわざわざやってきて伝えてくれた。まあ、本来の用件は別にあると思うが。
「急にどうしたの純ちゃん」
「梓がちょっと心配でさ~」
「それならば見つけたときに何で後を追わなかったの?」
「いや、バックも持ってなかったから直に戻ってくるだろうと思って」
確かにそうだ。純ちゃんを責めることは出来まい。
「でも、梓ちゃんが心配ってのは?」
「軽音部の先輩にバレンタインのプレゼントを渡せるかどうか。全然渡せなかったんだよ」
「そうなんだ。そりゃ心配になるわ」
直前まで来て照れちゃっているのかな。
「梓曰く、『みんな、いなくなっちゃうんだなあ』って呟いてたね」
目に浮かぶようだ。オレもそう思ったし。梓ちゃんが思うのも無理はない。
「その場はわたしと純ちゃんで慰めたけど」
「本来はヒロ君の役割だよね」
それはそうだ。オレがその場にいたならそうするよ。でもあいにくね。
「そういえば、そんな話を知らないってことは梓と話してないの?」
「今日一回も話すどころかお互いすれ違いもなかったよ」
「ええええええええっ!!! それはまずいでしょ。梓、ヒロ君にもあげてなかったの!!」
「純ちゃん落ち着いて。ココAクラス。みんなまだいる」
「あっ………」
周りの女の子がくすくす笑っているの見ると、オレも恥ずかしくなってきた。
「全然梓、帰ってこないね」
「うん。どこに行っているんだろう」
「そろそろ探しに行こうかな」
「わたしと純ちゃんは教室にいるから、帰ってきたらメールするね」
「うん。よろしく」
オレは2人を残し、梓ちゃんを探しに出かけた。
「何処にいるんだろう」
皆目見当もつかなかった。まず、部室にはいないはずだ。そのほかに梓ちゃんといって心当たりがある場所がなかなかない。自分から優花に決闘を申し込みに行ったとも考えにくい。まずは職員室だな。
「え? 来ていない?」
「ええ。今日は見てないわね」
「ありがとうございます」
さわちゃん先生や他の先生に聞くも、誰も行方を知らなかった。ふむ……何処だろう。
っ!!!!
まさか……な。
オレの脳裏に一瞬だけ嫌な思い出が流れた。
そう、あれは去年の学園祭のことだった。自分達の受験合格のためということで、ワルと協力してアキや雄二を追い落とそうとした件。その騒動に梓ちゃんたちも巻き込まれたんだよな。そう、誘拐という形で。少なくともひきずってはいないが、心のなかから一生消えない事件として彼女らに遺されていくだろう。
変なもの思い出してしまった。まさか……そんなはずはない。アレ以降、学園の警備は強化したと聞いているから。
そんなオレの悩みは一瞬で消し飛ばされた。梓ちゃんが1人で立っていたのだ。中庭の木陰で。
「こんなとこにいたら寒いよ」
悪い予感が本当じゃなくて非常に安堵した。オレはそう思って梓ちゃんのもとへ行った。
「ヒロ…君。どうしてここに?」
「全然教室に帰ってこないから探したんだよ」
「……そう…ゴメンね1人でこんなところに来ちゃって」
「謝ることは無いよ。でも、悩みを1人で抱え込んでいるってのはオレとしては嫌かな」
「え?」
「オレに悩みをぶつけてよ。オレが解決できるかは分からないけど、出来るだけ力になるからさ」
現在の悩みってのはさっき純ちゃんから聞いた先輩の卒業の件だろう。それに関しては、どう解決すればいいか分からないが、とにかく梓ちゃんを立ち直らせるのが先だ。
「もうすぐ先輩達卒業なんだよ。それを改めて考えるとね……」
「それはオレだって一緒。でも、先輩達はそんな寂しそうな顔の梓ちゃんと会いたくはないよ」
「……?」
「梓ちゃんは笑顔が一番いいよ。先輩達もそう思っているに決まってる」
「………………うん」
「オレたちが悲しんだって先輩達は卒業する。それならば、笑顔で送り出そうよ」
聞いた話によると、人間と言うのは別れ際の顔を覚えておくらしいからさ。これが本当かどうかは分からないけど、信じていい気もする。
「それが、オレたち後輩として先輩達に出来ることなんじゃないかな」
オレがそう言うと、梓ちゃんは涙を流していた。逆効果だった? まずいな。オレは梓ちゃんの側に寄り、頭を撫でた。すると、涙を流しながら抱きついてきた。寂しいよな。2年間随分長い時間を過ごしてきた最高の仲間だもんな。
「ありがとう、ヒロ君。これで決心ついたよ」
「それならよかった。やっぱり梓ちゃんは笑顔が一番だよ」
「ありがと。ヒロ君、コレ」
「どうしたの?」
「ヒロ君にバレンタインデーのプレゼント」
あっ……そうだった。またしてもすっかり忘れていた。自覚してないと不意打ちに感じるよ。
「ありがとうね梓ちゃん。オレの分まで」
「じゃあ先輩達に渡しに行こう」
「そうだね」
教室に2人で帰ると、純ちゃんと憂ちゃんがそのまま待っていた。オレたちを見るなり笑顔になり、別れを告げられた。オレがいるからいいと判断したのだろうか。純ちゃんは部活があっただろうに本当に申し訳ない。
「開けよう」
部室の前まで着くと梓ちゃんがドアノブに手を掛けて気張っていた。そんなに気張らなくてもいいんじゃないかと思うが……梓ちゃんがドアを思いっきり開けると中から悲鳴が。
「唯先輩、こんなところで何を」
ドアの近くにいた唯先輩、どうやらオレたちの気配がしたからココに来たらしかった。
「あ、梓、こっちこっち」
「ヒロも早く」
既にティータイムの準備はしているらしく、他の3人は席についていた。
「今日はとっておきのお茶にしてみたの」
「そうなんですか」
「ムギ~お菓子は?」
「ゴメンね。今日は持ってきていないの。その代わり梓ちゃんが用意してくれたそうよ」
「え?」
何で知っているかは疑問だが……梓ちゃんも渡せるいい機会じゃないか。
「わたしの分、残しておきなさいよ。だって」
さわちゃん先生の席を見ながら、りっちゃんが言う。なるほど流石は先生。お見通しというわけか。梓ちゃんは流れでバレンタインのプレゼントを開け、みんなで取って分ける。
「優花ちゃんは?」
「今日は三者面談みたいだから遅れるみたいよ」
「そうなんだ」
バックはあるから、一度ココに来て再び教室の方に戻ったのだろう。優花には悪いが先にいただくとするか。
「おいしい~」
みんな舌鼓をうちながら梓ちゃんのケーキをいただく。本当に美味しいんだこれが。
「あ、ヒロ。クッキー上手かったぞ」
「もう食べたんですか!?」
「昼休みに腹減ってな」
「お粗末さまでした」
美味しかったといわれると嬉しいな。……だからといって料理をまたしたいかと言われたらNoだけど。作らないといけないときは作るけど、自分から進んでは……
「みんなでこうして一緒にいるっていいですね」
「梓……」
オレもそう思うよ。本当に……
「そういえば、ヒロ~梓からもらったか~」
「あ、はい。さっき」
「どんなのどんなの?」
「え、オレもまだじっくり見てないですよ。帰ってから開けます」
先輩達の質問攻めにあっていたから、オレは他の人より部室に入ってきた人がいるとは思わなかった。
さわちゃん先生と優花だった。優花は三者面談終わってきたんだろう。さわちゃん先生はケーキを食べに来たんだろうな。その後も楽しい話をしながら今日1日が終わった。
もちろん、寝る前ながら、梓ちゃんのチョコレートはいただいたよ。ちょっとビターだけどまろやかっていうか何ていうか。オレはグルメリポーターになれそうにねえな。
次の日の朝、優花からもらったチョコレートはいただいた。まあ、初めてにしてはよく作れているよ。流石は女子というべきか? オレはダメダメだったからな。
★
「マジか!!」
オレは授業中にもかかわらず、思わず声を出しそうになった。危うく寸前で止めたからよかったものの…
何をそんなに驚かせたかと言うと、メールが届いたのだ。内容見てみると、
『VVVVVやったぜ!!』
とのことだ。送信主りっちゃんだ。この意味は、第一志望の大学にみんな揃って受かったということなのだろう。オレはそれを見て思わず飛び上がりそうになったが理性で止めた。梓ちゃんや憂ちゃんも同じ反応をしている。あちらには、唯先輩や澪ちゃん・ムギ先輩が送ったんだろう。
本当によかった。これで安心だ。
梓の寂しがりやがパワーアップしている気がするのは気にしない。
そして、とうとう先輩の受験合格。
いよいよ、別れの季節に突入するのか。
どうしよう……
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