青春と音楽と召喚獣   作:いくや

84 / 100


 前話で、ラブストーリーの方の話が、全員分終わっちゃいましたね。
 (竜也憂もカウントする)

 このままだとマンネリ化します。
 
 それを防ぐために、新たなスタートが今!!

 では、どうぞ!!





#84 従兄妹!

 

 「……ん……んー!! 朝か」

 カーテンの隙間から射して来る朝日でオレは目覚めた。

 

 

 

 「今日から新しい年のスタートだな」

 1月1日。早いな。もうすぐ3年生にでもなろうとしている。オレはカーテンを開け、大きく背伸びをした後に顔を洗いに行った。

 

 

 

 「あけましておめでとう」

 「あけましておめでとう、お母さん」

 「今年は年末はウチで過ごすの嫌だった?」

 「えっ?」

 そう、去年は大晦日から正月を平沢家で軽音部のみんなと過ごしていたのだが、今年は自宅。希望を言うのならば、梓ちゃんと過ごしたかったのだが、家族3人で居る日が滅多にないんだから、たまには家に居てくれとお父さんに頼まれたからそのようにした。梓ちゃんにそれを伝えると賛同してくれた。

 

 「はい、お年玉」

 「ありがとう」

 普段、お小遣いをもらっていないオレは毎年のお年玉というのが重要な収入源である。大切に使う所存だ。

 

 「お父さんももう準備出来ているから早く準備しなさい」

 「分かった」

 去年は、たまたま実家に帰るのが1月2日で正月遊べたんだが、今年は普通に1月1日に里帰り。そこまで遠い距離ではないが……

 

 

 

 「準備出来たよ~」

 Let's里帰り。そこまで楽しいものではないが。だって、従兄弟はもう半分以上独り立ちして、正月にすら帰ってこないからな。

 

 

 「弘志、軽音部は楽しいか」 

 「えっ? うん、楽しいよ。突然どうしたの?」

 「いや、お前と改まって話す機会が全然無いからな」

 「そうだね」

 お父さんは仕事が忙しくてなかなか会えない。

 

 「そういえば、誰と初詣に行くつもりだったの?」 

 「うぇっ!? う~ん…軽音部の先輩も今年受験だからな~」 

 「同級生が1人いたでしょう」

 「梓ちゃんでしょ。あちらも里帰りしているよ」

 向こうの家も今年は里帰りをするらしく、ある意味都合が良かった。

 

 「仲良いのね」

 「う、うん……そうだね」

 実を言うと、学校での出来事をほとんど両親に話していないため、付き合っていることすら話してもいない。家族が不和なわけではないけど、あんまり話さないんだよね~。オレからも話しに行こうとは思わないし。

 

 

 

 「ん~寒い」

 車から降りると、あたりは霜があった。それでどれくらい寒いのかをあらわしている。

 

 「いくぞ」

 実家の方へ向かう。既に祖父母はいないが、お父さんの兄弟その家族が集まって正月を祝うのが通例だ。

 

 

 

 

 「あけましておめでとうございま~す」

 勢いよく家のドアを開け、部屋の中にいる誰かに聞こえるように挨拶をする。

 

 「おめでと~」

 まず一番最初に玄関に駆けつけたのは、ちびっ子だった。この子は、ああ姪っ子だな。

 

 「久しぶり、ヒロ兄。早速勝負」

 新年の挨拶もなしに宣戦布告したこやつは、2つ下の従兄妹。やつは、スポーツ万能・容姿端麗と来た。頭の方は知らないが、モテること間違いなしだろう。しかし、こいつは小さい頃からオレの遊び相手。いや、オレがやつの遊び相手というべきなのか。オレが野球をすれば野球を。サッカーをすればサッカーをしていた。そのたびにオレに勝負を挑んで、負けていた。女子の中では上手いんだろうが、流石にオレも負けてはおられん。

 

 「おめでとうございます。そんなところに立っていないで早く入って頂戴」

 「ありがとうございます。義姉さん」

 父さんの兄の嫁。まあ、この正月を催している人ってわけだ。オレらが大広間に入ると、既にみんな来ていた。

 

 

 「おめでとう。大きくなったな~弘志」

 「ええ。まあ」

 そこまで大きくなってはないが、この言葉はおじさん・おばさんの社交辞令だ。変に抵抗するのもおかしい。

 

 「この優花はずっと弘志に会いたいって言ってうるさかったんだから」

 と、叔父さんがこういった。大変ですね……

 

 「とうとうリベンジを果たすときが来た」

 若干中二病が入っている気がするのはオレだけだろうか。一刻も早くちゃんとした人間になれ。この先ほど宣戦布告をかましたやつの名は、「月野優花(つきのゆうか)」。黙ってりゃ日本女性といった感じで大人しく可愛らしいのに、口を開くとやんちゃ。そして、スポーツをするとまさにじゃじゃ馬。こいつの相手をするのは大変だぜ。

 

 「何のリベンジするんだよ……」

 「全部」

 贅沢言うな。そこまでオレは器用な人間じゃねえ。お前と違ってな。

 

 「じゃあ、バスケ」

 「ちょい待ち。やったこともないぞ」

 「冗談。まずは野球とサッカー」

 「まずはってそれ以外にもやる気かよ!」

 「当たり前。そのために正月まで今か今かと待っていた」 

 叔父さんの方に助けを求めようとするが、お手上げのようだ。どうやらこれの解決方法は実際に戦い負かすことのみのようだ。上等だ。分かりやすい。いくら軽音で体がなまってるからとはいえ、女子に負けるほど劣っちゃいねえ。スポーツテストだって未だに高得点だ。

 

 「ふふ。元気ね2人とも。いいわ。わたしが審判でいいでしょう」

 この発言をしたのは、オレの従姉弟のさや姉ちゃん。最初にお出迎えしてくれた姪っ子の母親だ。

 

 「若い者は元気だの~」

 「年寄りは先に頂いておく」

 と、おっさんらが酒を持ってオレたちにアピールした。十分遊んで来いという指示なのか。

 

 「ママ、行く」

 「あらついてくるの? いいわよ」

 「ヒロ兄、今年こそ負けない」

 「何年目だよ」

 少しでも油断したら負けるが、こいつの顔を立たせるために負けるようなことはしない。そんなことしたって嬉しいやつではないからな。

 

 

 

 「いつもの場所。ここでいいよね」

 「ああ。構わん」

 近くの神社の横の空き地で早速スタートするんだが……野球もサッカーも勝ってしまった。

 

 

 

 

 

 「な、何で……? 今年こそ勝てると思ったのに」

 「ははっ。オレには勝てないってことだ」

 「くやしい。もう一度」

 何度やったって無駄と言っても、再戦を希望している。が、これ以上やる意味は無い。

 

 「正直、野球とサッカーの練習あんまりしていないだろ」 

 「うっ……」

 「オレは現役から離れている。優花が真面目に取り組めば勝てるだろ。今度は何に挑戦してるんだ」

 一つのことを極めようとせず、さまざまなものに挑戦する。いいところでもあり悪いところでもある。

 

 

 「………まだ秘密」

 「何だそりゃ……バスケは無理だからな」

 「違う」

 さっき冗談って言ってごまかしていたが、それを練習していたらオレだって洒落にならない。素人だから。それに、よくよく考えればこいつの性格上、オレの苦手な土俵で勝負するなんてことしないと思う。

 

 「まあいい。とにかく帰ろうぜ」

 「2人とも、せっかくだから神社にお祈りして行きましょう」 

 「は~い」

 さや姉がそういうと、オレたちは素直に従った。

 

 

 「わたしは今年も健康第一にしないとね。2人ともお願いはちゃんとしないとダメだからね」

 「分かってる」

 4人(姪っ子も)はしっかりと祈る。

 

 (軽音部の先輩が全員同じ大学に行けますように)

 最初にコレを願った。コレは、梓ちゃんもオレも共通の願いだ。

 (梓ちゃんとずっといれますように)

 そして、もちろんこれも。

 

 「 ー ヒロ兄に今度こそ認めてもらえるように ー そして、1人前の女の子として ー 」

 隣でぶつぶつ言っている優花だが、祈りってそんなに声を上げるものだっけ。まあいいか。

 

 

 

 「2人ともちゃんと願ったわね」

 帰り際、さや姉が言ってくる。もちろんさ。

 

 「来年こそ、絶対にヒロ兄にリベンジできるように」

 勘弁してくれ。オレが勉強に専念したら勉強で勝とうとするのか?

 

 「帰りにコンビニに寄っていくから」 

 「酒もう飲んでしまったのかよ」

 運転をしない組がじゃんじゃん飲んでいるのだろうなあ。泥酔するぞ。

 

 

 

 

 「ありがと~ございました~」

 さや姉が早速酒を購入して帰ろうとしたとき。偶然にも1人の少女と遭遇してしまった。

 

 

 

 「ひ、ヒロ君? 何やってるの?」

 「あえ……あ、梓ちゃん!?」

 「そんな………信じていたのに!!」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ梓ちゃん!!」

 店を出たところに梓ちゃんが1人でいた。それでオレたちのほうを見るなり、走って逃げる。今のオレたちの状況は…左から姪っ子・さや姉・オレ・優花といった順で手を繋いで歩いていた。

 

 「誤解だよ梓ちゃん!! 待ってくれ!!」

 この状況を端から見ると、冗談じゃ済まされないようなことだ。しかも、梓ちゃんだぞ。付き合っている相手だ。付き合っている相手が見知らぬ女性と手を繋いでいたら、そういう反応も自然だ。

 だが、だからといってこのままでいい訳が無い。確実に誤解を解いておかないとダメだ。急いで、荷物をその場に下ろし、梓ちゃんを追いかけていった。

 

 「話を聞いてくれ!!」

 「もういいよ! ヒロ君なんて!」

 走りは断然オレの方が早いため、逃げ出したところで追いつく。そこで手を捕まえると、無慈悲にも振り払われた。

 

 「聞いてくれ。あれは、いとこだ。今日帰省するって言った ー 」

 「 ー えっ?」

 「いとこの姉ちゃんにその子ども、あとはいとこの妹だ。梓ちゃんが勘違いしたような人じゃない」

 「そうなのっ!?」

 「ああ。断じて。オレには梓ちゃん1人だ」

 誤解が解けてなによりだ。このままだと次会うのがとてつもなくまずい雰囲気になるからな。

 

 「ゴメンねヒロ君。勝手に誤解しちゃって」

 「ううん。あんなことしてたオレも悪い。毎年いつもの癖で」

 「毎年やってたんだね……」

 「ああっ! 気にしたらゴメン!」

 女の子って難しい。機嫌を損ねないようにするってのは至難の業だ。それに比べて ー

 

 

 

 

 

 「あなた何者?」

 優花は ー って、何でお前までここに来ているのだ。

 

 「へ? あなたこそ誰?」

 「わたしは月野優花。正真正銘ヒロ兄の従兄妹!」

 どこが正真正銘だ。オレとお前が似ているところなど見当たらんわ。

 

 「はじめまして。中野梓です。ヒロ君とは同じ軽音部で ー 」

 「それだけじゃないでしょ」

 「って、優花。ちょっとキレているのはどういうことだ?」

 「…………別に。そんなつもりじゃない」

 キレているじゃないか。お前は考えていることがすぐに態度に出るから分かりやすいんだよ。

 

 

 

 「あ、電話! 早く買ってこないと」

 「何か頼まれていたんだね」

 「うん。っていうか、ヒロ君の実家もこの近くなんだね」

 「そうだよ。梓ちゃんもなんだね」

 「そうなんだ。って、いとこって言えば竜也君もだったよね」

 「あれは、母親のほう。今日は父親のほう」

 「なるほどね~じゃあ、わたしは買い物していかないといけないから」

 「うん。じゃあまた明日ね」

 「また明日~」

 梓ちゃんはさきほど逃げ出したコンビニの方へ走っていった。

 

 

 

 「ヒロ兄」

 梓ちゃんが立ち去ると、優花がらしくない顔でオレに質問攻めを浴びせる。

 

 「何処の女?」

 「何敵対心むき出しにしてるんだよ。さっき紹介しただろ。部活の ー 」

 「それ以上の関係にあるでしょ」

 「ぐっ……」

 「そうなんだ。……………」

 「べ、別にお前なんかに関係ないだろ」

 「関係ない!? そこまで言う……」

 あ、落ち込ませた。何でだ。こいつが落ち込むところなんてオレは想像できないぞ。あらゆるもので負けたところで闘争心は失わないのに………今回の件ばっかりは何だ?

 

 

 

 

 「お~い、そろそろ持ってくれ~」

 「あ、ゴメンさや姉」

 後ろから重い荷物を抱えたさや姉が歩いてきた。荷物をほっぽり出していったから、負担掛けたな。

 

 「あの子、軽音の子なの?」

 「そうだよ。ギターがとても上手いんだ。両親がジャズバンドやってたらしくて小学生の頃からギター弾いてたらしい」

 「へ~そりゃすごいね。それならば弘志のお父さんもすごかったって聞いたことあるけど」

 え? そなの?

 

 「よくは知らないから、本人から聞けば?」

 「そうする。 ー って、優花元気ないな。大丈夫か」

 「…………」

 完全に機嫌を損ねている。こりゃ、帰ったら何か話さないとな。

 

 

 

 

 

 

 

    ★

 

 

 「はっはっは……優花はまた負けたか」

 「……うるさい」

 「弘志もすごいな~」

 家に帰って酒を届けると、酔っ払いながらもおっさんらがこんなことを述べてきた。

 

 

 

 

 「ヒロ兄、ちょっと来て」 

 「んあ? どうしたんだ。まあいいけど」

 優花に呼び出されたために、部屋を出る。

 

 「勝負はまだ終わってない」

 「はあっ!? 何をする気だ」

 「キーボード」

 「何って言った?」

 「キーボードで勝負して欲しい」

 この1年、オレにキーボードで勝つために練習してきたのかよ。だから野球とサッカーのレベルがそんなに上がって無かったってか?

 

 「何が目的だ」

 「ヒロ兄の土俵で、ヒロ兄を倒す」

 いい度胸じゃねえか。オレのほうがキーボード歴は長いんだ。

 

 「知ってると思うけど、わたしはピアノ習ってない」

 「ああ。お前が有利にはならないな」 

 この確認をしておかないと、優花は気に食わないらしい。自分が有利な立場でスタートするってのがそれほどまでに嫌か。

 

 「去年の正月、ヒロ兄がキーボードをやっているって聞いたその日から練習しようと決めた」

 その意識を何か1つのものに傾けてくれたら、今頃はものすごい選手になっているんだろうにな。

 

 「しかし、キーボードの優劣ってどうつけるんだよ」

 「親戚の人に判断してもらう」 

 「酔っ払いに?」

 「酒を飲んでない人もいる」

 至極もっともな意見だ。この家にはキーボードがあるし、出来ないことは無い。

 

 「逃げるなよ」

 「逃げるか」

 この自信満々な優花の態度を見ると少し恐ろしい。ただオレにもプライドがある。

 

 「早速やろう」

 ゲームの説明は優花があらかた行ってくれた。そして、先攻を選びやつは先に演奏をしだした。

 

 「ほぉ~優花ちゃんがキーボードを」 

 「昨年、弘志君がしていると聞いてからすぐに練習し始めまして」

 「1年でなかなかのものじゃないか」

 オレもその意見には大いに賛同する。何事にも器用だな……お前。うらやましいぜ。

 

 

 

 

 

 

 「ふ~終わったよヒロ兄。勝負は一回限りだからね」

 「ああ」

 と言ってオレは今更ながらに気づく。バンドでのキーボードと、1人でやるキーボードの違いだ。バンドでのKey.はバンドって中で存在感あるけど、それを1人でやると曲として分からないんだよな。

 

 

 

 

 「ふむ。困った」

 とはいえ、優花にこのまま何もせずに負けるのは許しがたい。『ふわふわ時間』でも自分なりにアレンジするか。

 

 「よしっ」

 今までで一番練習した曲だ。それにメロディーやギターの部分だってほとんど頭に入っている。後は指が動いてくれるか。その練習をしたことが無いから不安なんだが。

 

 Eのコードから始まるこの曲。最初は本来Key.は無いけど、今日は1人。全部自分で弾かないといけない。もちろん、ボーカルラインもそうだ。左でベース音弾きながらも、右でメロディーを。

 

 

 

 

 

 「………負けた……」

 オレが引き終わると同時に真後ろで見ていた優花からの呟き。それと同時に拍手が鳴り響く。

 

 「優花ちゃん、残念だが ー 」

 「弘志君のほうが上手い」

 「……はいっ! 今回は納得がいってます」

 うん、意外だ。今日は何かとおかしい。オレは生まれてこのかたやつが涙を流しているのを初めて見たかも。

 

 「今日は、お邪魔しました~」

 「ありがとうございました」

 夕方になり、そろそろ実家をお暇する時間。

 

 

 

 

 

 

 「優花、またな。1年後、勝負はもう勘弁してくれ」

 「そんなに待たないかもね。バイバイ」

 オレは、その言葉の意味が分かるのはもう少し経ってからのことだった。

 

 

 

 






 この新キャラ、月野優花。
 今後、どう動くのか。
 予定では準~正レギュラーレベルです。

 梓と順調な交際をしていた弘志に暗雲が!?

 一層カオスになる、「青春と音楽と召喚獣」
 をお楽しみください。
 
 コメント・感想・評価、
 お願いしますね♪


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。