深い森を、エイシスは彷徨っていた。
あても無い。
行きたい場所も無い。
知っているのは…村の中だけだった。
それでも…知らない土地を、ずっと進む。
数日ほど経過して、もうすぐ食料も尽きそうな時…エイシスは村を見つけた。
名も無い、小さな村だった。
エイシスは用心深くフードを被ると、PUBへと向かった。
PUBは…一言で言うと、にぎわっていた。
ワイワイと騒がしく、酔い潰れた人間もちらほらと見える。
エイシスはカウンターのいすに座り、数日分の食料を注文した。
――…お金は、一応稼いでいるから安心してほしい…な。
MS「お客さん、どちらから?」
バーテンに聞かれ、エイシスは一瞬だけ考え込んだ。
そして…呟く。
エイ「…遠くから。」
バーテンはやや肩を竦めたものの、深くは追求しなかった。
エイシスは食料を受け取り、また進んだ。
遠くへ。
追手が、来れない場所まで。
一年ほど経った。
エイシスは、少しだけ大きくなった。
エイ「…父さん、元気かなぁ…」
小さく独り言を言いながら、パンをかじる。
エイシスはこの一年の間で、沢山の“魔法”を考え付いていた。
例えば相手の周りを爆発させる“イオ系統”や…一切の攻撃を受け付けない“アストロン”等だ。
彼が発明して一番嬉しかったのは…“モシャス”という変化魔法だ。
モシャスはどんなモノにも姿を変えられ、これによってエイシスは顔を隠す必要が無くなった。
堂々と、村に出入りする事が出来る様になったのだ。
ある日、エイシスがいつもの様にPUBで注文した時…話し声がした。
それは、単なる噂話だった。
男「なぁ、知ってるか?」
女「何を…?」
男「何か、バラモス…とか言う魔物が…魔王になろうとしているらしい…」
女「それって…大丈夫なの…?」
男「心配ないさ!勇者オルテガ様が向かって行って下さってるんだ!」
エイシスはそこまで聞いて、興味を無くした様に壁を見つめた。
人か魔物か…どちらが王になろうと、関係無いからだった。
彼は食料を受け取ると、そのまま外に立ち去った。
数日後…彼は、魔物に襲われていた。
相手は…緑色で首が五本あるドラゴン…やまたのおろちだ。
五つの首はそれぞれ、別々の声で話した。
※同時に喋っていると考えて下さい
首1「絶望セヨ!絶望セヨ!!」
首2「我をあがめよ今すぐ!」
首3「喰らう…お前を喰らう…」
首4「焼き殺してくれようぞ!」
首5「若い女を生贄にせよ!」
とても騒がしい…。
エイ「……マホ、トーン!」
エイシスは傷だらけの腕をあげながら、呪文を封じた。
ついでに、口も封じた。
それに怒ったのか…やまたのおろちは一斉に口を開け、炎を放った。
エイシスは避ける事が出来ない!
ただ、目を閉じた。
だが、衝撃は来なかった。
何かに、守られている様な…そんな感じがした。
眼を開けると…やまたのおろちが走り去っていく姿。
上から…大きな何かの影が、落ちている。
上を見ようとしたエイシスは…そのまま、気を失った。
??「わわっ、どうしよう!…そうだ、あの村なら…!」
巨大な影が、エイシスを抱え込んで何処かへ連れて行った。
場所は人の世界では無い何処か。
何処か――遠く。