父と子の故郷   作:邪水落

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『父親が“外”へ行ってから、小さな秘密が漏れ始めました。』


歯車狂いの赤銅の本

とある旅人が、空から落ちてきました。

 

その旅人は魔物と人間の見分け方の研究をしていました。

 

その途中、襲われたのだそうです。

 

旅人は本を授けた後、静かに息を引き取りました。

 

 

その本には…こう書いてありました。

 

『――大体の魔物は、人間に化ける事は出来ない。』

 

『だが、化けられるほど力の強い者も存在する。』

 

『魔族、と呼ばれる種族だ。』

 

『彼等は人に酷似した姿に変化でるが、一部だけ特徴が残る為、それを記す。』

 

その特徴は、あまりにも、二人の人間に似過ぎていた。

 

『その一、紅い目である事。真紅に近ければ近いほど、持つ力も強い。』

 

『その二、耳がとがっている事。』

 

それだけだった。

 

ただ、それだけの、情報で……彼等を見る目が変わった。

 

 

ある日、エイシスは外へ出かけた。

 

途中で、子供らに出会った。

 

子供らはちょっと見た後、直ぐに逃げだした。

 

エイシスは首をかしげつつ、修練場へ向かった。

 

 

修練を終えた後、おばさんに出会った。

 

挨拶をする前に

 

「よくも今まで騙してくれたね、この化けモノ!」

 

と叫ばれた。

 

エイシスは少し悲しそうな顔をすると、家へと戻った。

 

 

家に入る直前で、木こりに出会った。

 

木こりは顔をゆがめつつ

 

「よぉ…」

 

とだけ挨拶すると、そのままそそくさと帰って行った。

 

エイシスは首をかしげながら家に入った。

 

 

「ああ、お帰り!」

 

母親がいた。

 

その顔は何かに怯えている様だった。

 

「どうしたの?」

 

エイシスは気にせずに聞いた。

 

村の様子があまりにもおかし過ぎた。

 

「それがね…」

 

母親は語った。

 

「エイシス…貴方と、マスターさんはね……人間じゃ、ないの。」

 

「…?」

 

エイシスは、意味が分からない…という風に首を振った。

 

「嘘じゃ、ないのよ。貴方は、マスターさんの血を濃くついでるの。」

 

母親は、まるで幼い子供に言い聞かせるように、ユックリと言った。

 

「マスターさんは元々、タイムマスターって言う魔物でね…」

 

~それから数分程のろけばなしだったため略~

 

「…それでね、貴方が生まれた時、マスターさんは…」

 

とここで、母親はマスターの真似をした。

 

「『この子は私の血を濃くついでいる…気をつけねば』って言ったの。」

 

「………なんで…教えてくれなかったの?」

 

「この村が、魔物を嫌っていたからよ。…教えちゃったら…ね」

 

母親は俯いていると、顔をあげて言った。

 

「とにかく…早く出ていってちょうだい。」

 

「かあ、さ……」

 

「早くこれを持って、遠くに!」

 

何かの荷物を、エイシスは受け取った。

 

そしてせかされるままに、山の奥を駆けて行った。

 

 

 

「――マスター殿のお宅はこちらかな?」

 

エイシスが遠くへ行って見えなくなった頃、老人の声がした。

 

戸口には…紅い眼をした老人の集団が、立っていた。

 

「ええ。……ですが、主人は遠くにいます」

 

「分かっておりますとも。…彼が近くにいれば、妨げになるのでね…」

 

そして、老人は見回した。

 

「さて…マスター殿の子を迎えに来たのですが…」

 

「追い出しました。」

 

「…はい?」

 

老人は一瞬、耳を疑った。

 

「我が子を追い出すなど…」

 

「追い出しました。村の為にも。」

 

母親は、凛として答えた。

 

「そうですか……それなら、こんな村も、いりませんね。」

 

老人は笑顔で合図した。

 

すると、他の老人達が一斉に魔物の姿になり、村人の家を壊した。

 

悲鳴が響く。

       何かが折れる音。

                 重なる匂い。

 

老人は最期に、母親に聞いた。

 

「何故、我が子と別れられたのです?」

 

母親は、答えた。

 

生涯で、最初で最後の、嘘を。

 

「愛していなかったからです。」

 

 

 

――――そして、その村は一夜の内に、滅んだ。




少年は駆けていく。

遠くへ。

遠くへ。

誰も知らない場所へ。




そして、辿り着いたのは――

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