魔法少女の中の人   作:通天閣スパイス

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七話

『か、かずくんっ、どうしよう! わ、わたっ、私、もしかしたら……!』

 

 

 

 神宮寺数馬という少年に、高町なのはからそんな念話が届いたのは、彼が自宅でゲームをしている時だった。

 

 夕食や風呂、学校で出た宿題といったやらなければいけない用事を済ませた彼は、日々の楽しみの一つとも言える某3Dブロック建物建設ゲームに勤しんでいて。とあるアニメに登場する戦艦を再現しようと様々な材料を集めていた途中で、彼は念話を受けたのだ。

 作業の途中だったとはいえ、数馬にとってなのはは何よりも優先される存在である。

 彼は当然のようにゲームを中断すると、念話の方に注意を向けて。何やら慌てた様子の彼女に、念話を返した。

 

 

 

『どうどう、落ち着けなのは。いったいどうしたんだ、何が起きたんだ?』

 

『え、えっとね、その。なんかね、ジュエルシードのことがバレちゃったみたいなの。それで、お父さんがすっごく怒ってて。今、ユーノ君が私の代わりに説明してくれてるんだけど……』

 

『……ああ、オッケー。理解した。もしかしたらジュエルシードの捜索を止めさせられるかもしれないって、そういうこと?』

 

『……うん。分かんないけど、たぶん』

 

 

 

 悄気た声で肯定した彼女に対し、数馬はやはりそうなったかと、苦々しく表情を歪めた。

 

 尾崎雄一郎が、高町士郎を巻き込んでジュエルシードの捜索を始めたという情報を彼が得たのが、本日の夕方頃。

 どうすればいいかと彼の仲間に相談した結果、ひとまず静観しろとその仲間に言われて。しかしそれからすぐ、自分以外の誰かが雄一郎へと襲撃をかけた。

 後に聞いたところ、その犯人は彼の仲間の一人である、花咲葵という少女だったらしい。彼女は数馬と同様の思考をして、しかし誰かに相談することなく自分で判断を下した彼女は、雄一郎を強制的に排除しようとしたらしいのだ。

 

 ちょうど今頃、彼に静観しろと命じた仲間、羽場敏明が詳しい話を聞くついでに説教するため、彼女の家を訪れている頃だろう。

 先程数馬が念話で連絡した際、彼女のせいで事態が非常にめんどくさいことになってしまったと、敏明は苛々しく愚痴っていた。

 

 士郎がジュエルシードの存在を知ったことは、まだいい。数馬達の目的にとって致命的な事態ではないし、挽回のしようはあった。

 だが、士郎と親しい人物への襲撃、それによる負傷。これにより、士郎がなのはをジュエルシードに関わらせないようにする可能性が出てきてしまったのだという。

 

 そう敏明から聞かされていた数馬は、その最悪の可能性が現実になってしまったかと、思わず眉をしかめる。

 そもそもの原因である雄一郎に内心で呪詛を送りながら、どうすればいいのかと、彼は思考を巡らせて。

 

 

 

『――いや、大丈夫だ。俺にいい考えがある』

 

 

 

 ふと思い付いた打開策を、ニヤリと笑みを浮かべて話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下から場所を移し、士郎の部屋で会話を続けていた雄一郎とヘンリエッタの二人は、周囲の変化にすぐさま反応した。

 

 今は夜とはいえ、彼らがいるのは電気がある室内。灯りによって昼間以上に明るく照らされている、そんな空間のはずである。

 しかしその部屋の風景は、一瞬で色をなくして。雄一郎にとっては忘れもしない、この一日足らずの間に一度見た光景が、再び周囲に広がったのだ。

 

 

 

「これハ、結界魔法……。クソッ、魔導士の襲撃カ!」

 

 

 

 ヘンリエッタは部屋の窓を開けると、即座にそこから外に跳躍。

 体が完全に家の外に出た瞬間、彼女の体を光の粒子が包み込み、次の瞬間には彼女はパワードスーツを装着した状態で宙に浮かんでいた。

 

 まるで人型のロボットと航空機をごちゃ混ぜにしたようなその兵器こそ、彼女が言っていた『ストライカーユニット』という魔法技術が使われた兵器であり。

 何故かそれを装着すると同時に、ヘンリエッタは動物の耳が頭に現れ、下半身の衣服がパンツのようなものに変化していた。

 

 彼女を目で追っていた雄一郎は、思わず色んな意味で呆気にとられてしまって。

 彼女の頭の狐耳がピコピコと動きを見せた瞬間、何やら不思議な、燃え上がるような感情が彼の心を満たし。今まで抱いたこともなかったその感情につい動揺したのか、それを振り払うように彼は頭を左右に振る。

 

 そんな彼の様子は知らずに、キョロキョロと周囲の確認を行っていたヘンリエッタは、ふと一点に視線を固定して。

 

 

 

「一時方向カラ、誰かがこちらに走ってきていマス。おそらくこの結界を張った人間でショウ、状況的に襲撃目的の可能性が高いデス。

 ワタシが対応、場合によっては追い返しますノデ、アナタは家の中で隠れていてくだサイ」

 

 

 

 そう言って彼女が雄一郎に振り向くと、彼は何故かあたふたと慌てながら、ブンブンと首を縦に振り。その様子を多少訝しみながらも、彼が肯定したことを見た彼女は、発見した人影へと急行していった。

 

 

 高町家に近づくその人物と、それに向かう彼女がちょうど鉢合わせしたのは、高町家から数百メートル離れた辺り。

 普通の住宅街、コンクリートで舗装された道路の両側に洒落たデザインの一軒家が立ち並ぶその場所を、二人は戦闘の場所に選んだ。

 

 ヘンリエッタは空中に浮かんだまま、人影を見下ろす位置で静止し。右手に持った銃器を人影に向け、左手に装着された円形の盾を前方に向ける。

 対する人影は、とある住宅の屋根の上に跳躍して登ると、短刀を構えながら上空のヘンリエッタを見上げて。

 

 

 

「おいおい、ストパンかよ。……リアルで見たらなんか、そこまで興奮しねぇなー」

 

 

 

 その人影――頭に額宛を着け、漫画に登場するような派手な忍び衣装に身を包んだ、小学校中学年くらいの少年は、彼女を見るとそんなことを言った。

 

 

 

「ストパン? ……意味は分からないガ、何となく馬鹿にされたのは分かル。オマエが結界を展開した理由を言エ、言わねば敵対行動と見なすゾ」

 

 

 

 ヘンリエッタにとって、その少年の言葉の意味は理解できなかった。

 が、そのニュアンスから彼女にとっては嬉しくない感情を感じ取ったことから、彼女の機嫌は少々マイナスになって。険しい表情を少年に向けながら、彼女がやって来た目的を果たそうとする。

 

 明らかに不機嫌な雰囲気を彼女が纏い出したにも関わらず、少年はそれを気にしていないのか分からないのか、彼女の声を聞いた瞬間に「うおお」と半ば興奮気味な叫び声をあげて。

 

 

 

「すっげ、大橋ボイスだ大橋ボイス! 言葉も棒読み気味だし、髪も金髪ロングだし、よく見たら顔もなんかエイラに似てる気がする! エイラだ、ガチレズヘタレ受けM娘のエイラちゃんじゃねーか!」

 

 

 

 何やら意味不明な言葉を叫び出した少年に、ヘンリエッタは思わず怒りで口の端をひくつかせていた。

 

 まず、彼女の名誉のために言っておくと、彼女はレズビアンではない。ちゃんと異性に恋愛的興味を持つ、年頃の少女だ。

 そして彼女はエイラという名前ではないし、ヘタレでも、ましてやマゾヒストでもない。潜在的な素質がどうかは知らないが、少なくとも現時点の彼女にその気は全くなかった。

 

 つまり彼女にとって、今の少年の言葉はただの謂れのない罵倒に等しいものであり。それも感情を激しく逆撫でする部類の、そこらの人間ならば今すぐ手袋を投げつけているような罵詈雑言だった。

 

 

 

「……もう一度、聞ク。オマエがこの結界を張リ、タカマチ家に近づいていた理由を言エ。言わねば躊躇なくオマエに引き金を引かせてもらウ」

 

 

 

 それでも彼女が我慢し、少年ともう一度コミュニケーションを試みようとしたのは、彼女の優れた忍耐力の賜物だった。

 軍事会社のテストパイロット、つまり軍人に近い存在として訓練や教育を受けた彼女である。簡単に怒りに身を任せるほど、彼女の精神は柔ではない。

 

 すると、ようやく彼女が怒っていることに気がついたのか、少年は「悪い悪い」と軽く謝罪をして。

 

 

 

「……ん? 待てよ、なんでリリなのにストパンが出てくるんだ? しかもこいつ、見た感じなのはの家から出てきたよな。ってことは原作に関わってる、っていうことだ」

 

 

 

 何やらぶつぶつと、少年は顔を俯かせて一人呟き始める。

 

 十秒ほど経った後、無視された形になったヘンリエッタが再三の問いかけをしようとした時に、彼は勢いよく頭をあげて。

 先程とはうって変わった睨むような視線を彼女に向けると、腰に差していた短刀を抜いて構えをとった少年は、口を開くよりも前に彼女に襲いかかった。

 

 高く跳び上がり、自分へと突然向かってきた少年にヘンリエッタは多少驚きながらも、すぐさま高度を上げて上空に離脱。

 攻撃が届かないと悟ったのか、少年は悔しげに表情を歪めて、

 

 

 

「くそっ、降りてこい変態TS野郎ッ! 大学生の男がエイラになってんじゃねーよ、俺のちょっとしたときめきを返しやがれーーーーーッ!」

 

 

 

そんなことを叫びながら地面に着地。今度は腰に着けているポーチから無数の手裏剣を取り出すと、彼女に向けて続けざまに投擲し始めた。

 

 

 

「……イヤ、オマエ、さっきからホントに何言ってるんダ? 会話はキャッチボールしろヨ、言葉の半分もワタシは理解出来ないんだガ」

 

 

 

 対するヘンリエッタは、攻撃されたことへの怒りよりも、少年の意味不明な言葉に対する困惑が強かった。

 

 手裏剣の弾幕をひょいひょいと軽やかに避けながら、彼女は目の前の会話が通じない、まるで宇宙人や異世界人のような少年ともう一度コミュニケーションを試みる。

 しかし、それへの少年の返答は、最早言葉ですらなく。

 

 

 

「火遁、豪火球の術ッ!!」

 

 

 

 少年が両手を何やら素早く動かすと、彼の口から特大の火球が飛び出し。それが幾つも襲いかかってきたのをもって、彼女は先の言葉の返事だと判断した。

 

 その攻撃に魔力を使った様子がない、つまり少年が魔法以外の手段で摩訶不思議な事象を起こしたことに少々驚いたものの、彼女はその攻撃も難なく避け続ける。

 そして少年に対話の意思なし、と判断を下したヘンリエッタは一つ溜め息を吐くと、右手のアサルトライフルに似た銃の引き金を引いて。

 

 

 

「火とっ――――うおおおおおっ!?」

 

 

 

 幾つもの魔力弾をその銃から発射して、逆に少年へと攻撃を加えた。

 

 慌ててそれに反応した少年は、攻撃をしていた隙を突かれたためか、最初の数発に被弾してしまう。

 が、その後の弾丸は素早く移動することで避けきると、少年は別の家屋の屋根に立ち。反撃しようとしたのか、再び両手を素早く動かして、

 

 

 

「くそっ、よくもやりやがったな! もう許さねえ、木と――――」

 

 

 

右手を歩兵携行用対戦車砲に似た兵器に持ち変えたヘンリエッタが、その下の家ごと少年を吹き飛ばした。

 

 

 

「――――どうわーーーーーっ!?」

 

「……オー、よく飛ぶナー。ゴルフボールみたいダ」

 

 

 

 その衝撃によって空中に打ち上げられ、その後重力に従って悲鳴をあげながら落ちていく少年の姿を見て、彼女はそんなことを呟く。

 

 ここは結界の中であり、建築物等を破壊しても現実に影響を及ぼさないことを彼女は知っている。

 そうは言ってもああも簡単に住宅を吹き飛ばすことを決断し、それをあまり気にかけた様子もないのは、彼女が軍人気質であるからか。それとも少年にただムカついていたからか。

 その理由は定かではないが、この時の彼女の表情にどこかスッキリしたものがあったのは、確かな事実であった。

 

 とは言え、別に彼女も殺す気があるわけではない。

 もしそのまま落下するようなら、寸前で助けてやろうと少年の姿をずっと目で追っていて。彼がなんとか姿勢を立て直し、無事に地面に着地したことを確認した彼女は、そこまでやってやる必要もなかったかと思い直した。

 

 

 

「……てめぇ。いい加減俺もプッツン来たぜ、この野郎」

 

 

 

 着地した少年は先程よりも遥かに鋭さを増した視線を彼女に向け、殺気をその視線に混ぜてぶつけてくる。

 

 話を“聞かせてもらう”にしても、この場から退かせるにしても、とりあえず動けないくらいには痛め付ける必要があるか、と。

 彼女とコミュニケーションしようとする気配もなく、むしろさらに攻撃的な態度を強めた少年に対し、彼女は再び持ち変えたアサルトライフルを黙って向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ディバイーーン…………バスターーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間。背後から、桃色の閃光が彼女に迫る。

 

 眼前の少年にほぼ注意を向けていた彼女は、不意打ち気味に突然放たれたその砲撃魔法に、素早い反応を返すことが出来なかった。

 急いで斜線軸から移動し、それでも閃光の範囲から逃れきれないと判断した彼女は、左手の盾を前面に押し出す。その直後、彼女の左半身を桃色の光が呑み込んで――――

 

 

 

「――――アアアアアアーーーーーーッ!?」

 

 

 

 盾で防ぎきれなかった光線が、彼女の体を光が収まるまで連続的に痛め付け。

 非殺傷設定の魔法だったため、目立った外傷は残らなかったものの。数秒間の連続したダメージを負った彼女は、堪らず後方へと吹き飛ばされてしまった。

 

 その砲撃魔法を撃った、犯人。白いバリアジャケットを纏い、栗色の髪を小さなツインテールにした高町なのはという少女は、吹き飛んだヘンリエッタなど目もくれずに少年へと近づいて。

 

 

 

「かずくん、大丈夫だった!? なんか、今の人に襲われてたみたいだったけど……!」

 

「なのはか! ……ありがとな、お前のお蔭で助かったぜ!」

 

 

 

 かずくんと呼ばれた少年、もとい、神宮寺数馬は心配そうな表情をしたなのはに、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

「チ、イ――――ッ! 味方を撃つとはやってくれるナ、ナノハ・タカマチッ!」

 

 

 

 痛みを耐えながら空中で姿勢を立て直し、数十メートル後方で静止したヘンリエッタは、なのはに向けてそう叫ぶ。

 しかしなのはの方もまた、彼女を睨み付け。両手に持ったデバイスを構え、表情に怒りを滲ませながら言葉を返した。

 

 

 

「かずくんをこんなに痛めつけといて、何が味方なの!? かずくんはただ、私を迎えに来てくれただけなのに!」

 

「……迎エ?」

 

「そう! 私、これから家出するの! ジュエルシードを全部封印するまで、家には帰らない!」

 

「ンナッ――――!?」

 

 

 

 なのはのその言葉に、思わず絶句するヘンリエッタ。

 彼女が何か言おうと開きかけると、それを妨害するように数馬が無数の手裏剣を投擲して。その弾幕を彼女が避ける僅かな隙をついて、数馬となのはの二人は素早くその場を離れていった。

 

 

 

「じゃあ、そういうことだから! なのはは俺が守るって士郎に伝えといてくれよー!」

 

 

 

 数馬のそんな台詞を残して、二人は姿を消して。

 

 待て、とヘンリエッタが伸ばした手も虚しく、二人は戦場を離脱。そのまま行方を眩ませたのだった。

 

 

 

 

 




さあ事態がめんどくさくなってまいりました。三つ巴確定だよ!やったねたえちゃん!

ちなみに主人公は変身する前になのはにバインドでぐるぐる巻にされ、身動きとれませんでした。まあ、いても結果は変えませんけどね。

Q.主人公がまだ変身を残している可能性がある……。この意味が分かるな……?

A.え? シュテルとレヴィとディアーチェのメダルでテルヴィーチェコンボ?(難聴)

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