魔法少女の中の人   作:通天閣スパイス

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ちょっと短め。


六話

 ユーノ・スクライアは、考古学者の少年である。

 

 

 彼はある遺跡の発掘作業の現場指揮を執っていて、その遺跡で『ジュエルシード』と呼ばれる古代の魔法文明の遺産を発掘。

 下手をすれば大災害を引き起こすジュエルシードは直ぐ様厳重に封印され、ジュエルシードのような危険物を保管、管理する場所へと移送をした。現場責任者であり、ジュエルシードを発掘した張本人でもあるユーノは、その移送に同行したらしい。

 

 宇宙を航行する輸送船を使っての移送であり、海賊などが現れないコースをきちんと選んだ、出来る限り安全に勤めた移送だったそうだ。

 実際行程の半ばを過ぎるまでは、非常に順調だったとのことである。

 

 しかし、突如その輸送船を、何者かが襲撃した。

 攻撃を受けた輸送船は破壊され、運んでいたジュエルシードがなんと船外に流出。宇宙に放り出されたジュエルシードは襲撃場所の近くの惑星、つまり太陽系第三番惑星の地球に落下してしまったのだ。

 

 輸送船の船員で生存者がユーノのみであり、ジュエルシードを発掘した人間として、発掘の責任を負っている人間として、彼はこの事態に対処しなければならないと考えて。

 時空管理局という組織に救助要請を送った後、彼は大破している輸送船を操縦すると、ジュエルシードを追って地球への降下を開始。輸送船は降下中に燃え尽きてしまったそうだが、彼自体は必死に魔法を駆使することで無事に地球へ、ジュエルシードが落ちたであろう箇所の付近に降り立ったそうだ。

 

 

 それから彼はジュエルシードの捜索を開始し、首尾よく一個目のジュエルシードを発見。なんとかそれの封印に成功した。

 が、その封印に大量の魔力を費やしてしまい、彼はガス欠状態になってしまう。さらに地球上の空気が彼に合わないのか、彼の魔力の回復速度は大幅に低下していた。故に、彼は魔力の消費を少しでも抑えるため、戦闘能力が低いものの省エネな、動物の体へと自身を変身させる。

 

 なんとその状態でジュエルシード捜索を強行した彼は、やはりというか、二個目のジュエルシードを発見するも封印できず、思念体として具現化し暴れていたジュエルシードにより、逆に怪我を負ってしまう。

 最早進退窮まった彼は、『念話』という魔力があるものには聞こえる特殊なテレパシーを無差別に広範囲で送信、誰かの助けを求めた。

 

 

 その声に答えてやってきたのは、高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングスの仲良し三人娘。そして彼女達の友人であり、しばしば行動を共にしている、神宮寺数馬、羽場敏明、花咲葵、ジョージ・スピードワゴンの、合計七名の少年少女達だった。

 

 彼らの手によって動物病院へと運ばれ、傷の手当てを受けたユーノは、怪我が治るまでその動物病院で過ごそうと考える。

 しかし、なんとジュエルシードの思念体がその病院を夜半に急襲。ユーノは慌てて逃げ出したものの、建物に大きな被害をもたらしてしまった。

 

 彼は思念体に対しもう一度封印を試みるも、あえなく敗退。彼が逃走しようとした時に現れたのは、脱走した彼を探しにやってきた、先の少年少女達のうち数人、高町なのはと神宮寺数馬、花咲葵、ジョージ・スピードワゴンの四人であった。

 なんとなのは以外の三人は現地にいた魔導士、ユーノが暮らす次元世界群のものである魔法技術を使用する魔法使い、そしてそれに比する異能を持った人間達だったのだ。

 

 彼らは共闘してジュエルシードを抑え込み、その様子を見たなのはは、自分にも何か出来ることがないかとユーノに尋ねる。

 なのはは地球人には珍しい魔力保持者であり、その総量はなんとユーノが知る次元世界の中でも上位に入るほど巨大なものだった。

 これを奇貨としたユーノは自身が所有していたデバイス、魔法使いにとっての杖のようなものをなのはに譲ると、その使用方法を彼女に伝えた。

 

 そうして魔導士の仲間入りを果たしたなのはは、その強大な魔力を活かして眼前のジュエルシードの暴走体を一蹴。

 無事封印を成功させた彼女の手際に惚れ込んだユーノは、是非ジュエルシードの封印作業を一緒に手伝ってほしいとなのは、そして共に戦っていた三人に申し出る。

 

 ジュエルシードの思念体には物理攻撃が効かないため、対処できるのは魔力を持った人間のみであること、故におそらくこの地球上の人間の殆どが頼りにならないこと、そしてジュエルシードを放っておけばどんな災害が起きてしまうか分からないことを彼らに説明して。

 それを聞いた彼らは、地球を守るためならと、快くその申し出を受けたのである。

 

 

 余計な心配をかけないために、彼らはその事は誰にも言わず、彼らだけでジュエルシードの捜索と封印を行って。

 神社、プール、学校といった町の各地で新たなジュエルシードを発見した彼らは、それらを無事に封印。順調に、何事の危険もないほどに、作業を遂行していたのだった。

 

 

 

「――――以上が。僕からの、説明です」

 

 

 

 高町家の、リビング。

 その中央にあるテーブル上に座る一匹のフェレットのような動物、本人曰く『ユーノ・スクライア』という年齢はなのはとそう変わらないくらいの少年が変身した姿らしいそれは、自身が知る限りの今回の事件について、その説明を終えた。

 

 なのはが帰宅し、早速彼女を士郎が問い詰めたところ、彼女を庇うように矢面に立ったのがこのユーノである。

 説明なら自分がする、彼女は巻き込まれただけだから責めるなら自分を責めてくれと士郎に懇願した彼を見て、士郎はそこまで言うならとひとまず彼一人から話を聞くことにした。

 

 その際動物の姿をしていたユーノが突然喋りだしたことで一悶着あり、彼が実は人間だとカミングアウトしたことでさらに一騒動あったりしたのだが、それは省略して。

 桃子には台所でご飯の準備をさせ、恭也、美由希、そして当事者であるなのはにはそれぞれ部屋で休ませたり風呂に行かせたりなどをして――ヘンリエッタは、外で本社と連絡を取った後に雄一郎の様子を見に行くと、自分からリビングを離れた――士郎は誰もいなくなったリビングで、ユーノと二人きりで話を聞いていたのだ。

 

 黙ってユーノの話を聞いていた士郎は、彼の話が終わっても、暫くは言葉を発することはなく。両手を前で組み、それに顎を乗せて肘は足へ乗せるというポーズをとったまま、何かを考えているかのように目を閉じていた。

 数分後。ようやく考えが纏まったのか、士郎は目を静かに見開くと、眼前のユーノをじっと見据えて。彼に向け、その口を開いた。

 

 

 

「……君の言うことは、分かった。その上で君には、幾つか言いたいことがある」

 

 

 

 士郎のその言葉に、ユーノはビクリと体を震わせて。しかし気丈に士郎の視線に耐え、彼の目を見つめたまま、次の言葉を待つ。

 

 おそらくユーノ自身も、自身がしていることは誉められることばかりじゃないと理解しているのだろう。

 それでも彼はジュエルシードを封印するために、多少のことには目を瞑っており。そのツケが今来たのだと、彼は責めを甘んじて受けようとする覚悟を決めているようだった。

 

 それを士郎は感じ取ったものの、やはり言葉に出さないわけにはいかないと、言葉を続けることを止めず。

 

 

 

「いくら危機的状態とはいえ、勝手に他人、それも責任能力のない子供を巻き込んだこと。才能があるからと、子供が危険な事態に足を踏み入れることを良しとしたこと。あまつさえ、それを保護者である親に隠蔽していたこと。

 ジュエルシードとやらの紛失は君のせいではないかもしれないが、以上のことは全て君の責任だ。……そして、大事な娘が巻き込まれた僕としては、正直君にあまりいい印象を抱いていない」

 

 

 

 士郎がそう口にすると、予想していたとはいえ堪えたのだろう、ユーノは涙を溢しながら「ごめんなさい」と呟いた。

 

 

 

「……一応、僕も異世界の魔法については知っている。魔力を持たない人間は今回の事件には無力だと君は言ったが、成程、そうだろうね。それは信じよう」

 

 

 

 士郎が思い浮かべるのは、襲撃された年の離れた友人。

 

 ヘンリエッタ曰く、彼を襲ったのは異世界の魔法を使う人間で。異世界の魔法には自分も魔力を持っているか、もしくはそういった類いのオカルト的な異能を持っていなければ、対抗すら不可能に近いと彼女も言っていた。

 事実、襲撃の際の美由希は蚊帳の外にいて。何が起きたのかにも気づかず、ヘンリエッタが接触するまで雄一郎が現実世界に戻ってきたことすら知らなかったのだから、それを聞いた士郎も通常の人間の無力さは理解している。

 

 だが、と彼は言葉を続けて。

 

 

 

「それでも親は、子供を守りたいと思うものだ。例え役に立てないとしても、せめて支えたいと思うものなんだよ。

 余計な心配をかけるだけ? 馬鹿にしないで欲しいね、親の仕事は我が子を心配することさ。君だけじゃない、今回の件に関わった子供全てに言えることだが……君達のやったことは、心配を余計に増やしただけだ」

 

 

 

 バッサリ、と。本人達の善意からの行動を、余計なことだったと切り捨てた。

 

 

 

「……そもそも、君達が独自だけでやらなくたって、色々とやりようはあったんだ。

 知ってるかい? この地球には異世界からの移住者が結構いるようでね、君の言う魔法技術を保有する組織もあるのさ」

 

「えっ!? そんな、だって資料には、地球に魔法文化はないって……!」

 

「現に、とある組織がこの海鳴に人員を派遣しているよ。魔法技術が使われた新兵器のテストパイロットだそうでね、その人もジュエルシードとやらの封印と回収を目的にしているようだ」

 

 

 

 士郎の言葉に、思わず愕然とするユーノ。

 

 そもそも彼の行動は、地球上に魔法技術を有する有力な存在がいない、ということを大前提にしている。もしそんな存在があることを知っていたならば、彼は地球に到着したと同時に、何としてでも協力を依頼したはずだ。

 しかし、そんな前情報は彼には与えられておらず。地球に魔法文明はない、という彼にとって信頼出来る筋からの情報を信じて、自分が動くしかないと思って行動を開始したのだ。

 

 なら、それなら。自分のやったことはただ民間人の子供を巻き込んだだけじゃないか、と。

 思わずショックを受けるユーノに対し、士郎は真剣な表情で暫し思考を巡らせる。やがて時計の秒針が一巡した頃になって、ようやく士郎は顔をあげて。ユーノに視線を戻すと、彼はその口を開いた。

 

 

 

「ユーノ君。これだけは言っておくが、僕は家族や友人を危険から出来る限り守りたい。君も反省しているようだし、もう君を責めるつもりはないが、なのはをこれからも事件に関わらせるのは反対だ」

 

「……はい」

 

「まあ、最終的な意思はあの子に委ねるけどね。それでもあの子一人で現場には出さない、もし出る時は僕が信頼出来る人間と一緒にだ。これは僕も譲れない」

 

「その人間というのは……話に出てきた組織の方、ですか?」

 

「おそらく、そうなると思う。雄一郎君――ああ、僕の友人でこの事件に巻き込まれた人間なんだが、彼の面倒も見たいと言ってくれてね。

 断定は出来ないが、信用できる人間だと思っている。僕が見る限り、あれは戦闘のプロだしね。頼りにはなるだろうさ」

 

 

 

 それでもいいなら、僕は認めよう。

 

 士郎がそう言葉を続けようとした、瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎の視界から、ユーノが一瞬で姿を消した。

 

 

 

 

 




Q.主人公はシュテルんの体を好き勝手に出来る、ということか!

A.R-18じゃないので、TS展開はソフトな感じが精々だとは思いますが。でもシュテルの小悪魔な笑みとか私、気になります!

Q.風呂敷注意

A.これくらいならまだ畳める、と思います。きっと。メイビー。

Q.ズボンはいてますよね?

A.ヘンリエッタ「パンツじゃないカラ、恥ずかしくないモン!」

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