世界中の女性達が、いや世界中の人間が、この日ほど絶望に陥った日はないだろう。
彼等の視線の先には、絶対防御も破壊され、ISの操縦者が無残にもその屍を宇宙に晒している姿と、何処と無く昆虫を思わせるフォルムを持つ無数の宇宙戦闘機、そして数十隻の巨大な宇宙船の姿があった。
ある惑星への侵攻作戦の為に編成されたTOKK‐1率いる強力な艦隊は、ハイパースペースの歪みによって、ある惑星の近くへと姿を表してしまったのである。
そのある惑星とは、あの<インフィニット・ストラトス>の世界の地球であった。
当然レーダーにその姿を捉えられた艦隊は、最初口封じの為に、この惑星への侵攻をも検討していた。
しかしいくら惑星侵攻の装備があるとはいえ、作戦目標の惑星ではなく、また味方との通信が取れるかも分からない状況の中で、おいそれと攻撃するのは好ましくない。
こうして各艦の艦長達との話し合いによって、当初は現地政府との『味方と連絡が取れるまで、我々をこの宙海に置いていてくれれば良い』『そちらに攻撃は仕掛けたりしない』等の事を含めた、不可侵条約を締結させようと考えていた。
だがいくら話し合いに持ち込もうとしても、条約の内容を信じてもらえず談合は難航した。
また何人かの国家代表―――全て女性だった―――が、TO‐KK1が男性プログラムを施されていると知った途端に、それまで下手だったのが、急に手のひらを返し強気になったのである。
まるで自分達が正しく、神のようになったかのように。
そしてあろうことか、例の何人かの国家代表がTOKK‐1や艦長達に、『お前達が保有している技術を全て寄越せ。さもないと攻撃する』とまで言ってきたのである。
これには世界各国から「いきなり宣戦布告紛いの事をするのは何事か」と、非難が相次いだ。
しかし強気に発言した国々は、いずれも核ミサイルを保有していた為に、この非難を無視した。
これが、国家代表がTO‐KK1達に強気に出ていた理由であった。
そして一方的に定めてきた期限を過ぎ、一つの某国が核ミサイルを数発、TO‐KK1率いる艦隊に発射した。
徐々に近づき。ミサイルが艦隊にぶつかると同時に爆発したのを見て、世界中の女性達が歓喜の声を挙げた。
しかし爆炎が消えた次の瞬間には、艦隊は一隻も欠ける事なく、無傷で存在していたのである。
そして艦隊は横っ腹を見せ、保有する全火力をこの某国に向けた。
某国は、自国の重要施設に施されているシールドを慌てて展開させた。しかし一発一発が原爆並の威力を持ち、尚且つシールドを貫いて敵艦の装甲を破壊したり、シールドを無効に出来る程の火力を受けた施設群は、軒並み破壊され、残ったのは残骸だけであった。
これを見た各国は、手持ちのIS部隊を全てこの艦隊に向けて投入したのである。しかし、鈍重そうな見掛けとは裏腹に機敏に反応する砲塔や、Aランクの者の攻撃を躱し、逆に無数に襲い掛かってくる宇宙戦闘機を前に、IS部隊は全滅した。
そうして、「IS」という虎の子を失い、戦艦やイージス艦等も軒並み退役させていた国々は、最早この艦隊の敵ではなかった。
そして瞬く間に世界各国は無条件降伏を受け入れていった。
だが、それだけであった。
これには流石に全世界が困惑した。核ミサイルを防ぎ切り、「最強」とされるISをも蹴散らした彼等は、金銭も人質も何も要求して来なかったのである。
というのも、それは至極簡単な事だった。実はTO‐KK1は、当初不可侵条約の中にあったように、艦隊を『味方と連絡が取れるまで、この宙海に置いていてくれれば良い』として、駐屯させておきたいだけだったからである。
これに世界各国の代表は腰砕けになっていた。
それはそうだろう。虎の子を失い、場合によっては自分の命と引き換えに、国民に手を出させないように考えていたのに、何もせず、本当にただ宇宙に艦隊を駐屯させておきたいだけだったと知ったのだから。
しばらくして、ヌート・ガンレイ総督や他の経営首脳陣と交信が可能になった時、この星の素晴らしさを等をTOKK‐1が全面に押し出す事によって、それを信じた経営首脳陣達はこの星を保養地の一つに定めたのである。
尤も、最寄りの星系からこの星に着くまでに、ハイパードライブを使っても最短で一週間弱掛かる為に、来るのは長期休暇の者だけであったが。
そして『IS最強伝説』が払拭され、男女平等になった地球では、何事も無く平常になりつつあった。
そしてISを開発したあの篠ノ之 束はというと…。
「やぁやぁ、君があの何もしなかったへたれのロボット君だね!私は篠ノ之 束だよ!宜しくねーーー!!」
「ね、姉さん…」
「あのバカ…」
「「「あ、アハハハ…」」」
「うわ、スッゴイ…。地球の技術なんか目じゃないわね」
「なんというか、凄まじいですわね…」
「ふむ…」
何故か色々な人物を引き連れ、<ワーカーズ・ボエジ>の第一艦橋にいた…。