ここはコテージのリビング。アイリさんとイリア姉、セイバーに途中合流した舞弥さんと舞弥さんの娘さんの五人が浴衣に着替えていた。
「うん、五人とも似合ってるよ」
デレデレしまくっているのは普段よりは明るい色合いの浴衣に身を包んだじーさん。顔緩みっぱなしだよ。イリア姉相手にはいつもそうだけど、今日は自重してないなぁ。
「そうですか、浴衣はあまり着慣れていないので不安でしたがそれを聞いて安心しました」
深い青色を基調にした花火模様の浴衣を着たセイバーが笑う。
「うんうん、セイバーかわいいわよ」
セイバーに声をかけたアイリさんは白に川を思わせる淡い黒の模様が入った浴衣を着てる。確か、じーさんと一緒に選んだんだよね。
「お母様も綺麗」
イリア姉はアイリさんと同じく白に波紋を思わせる水色の模様、それから金魚が描かれた浴衣だ。これ選ぶまでに何時間かかったことか。
「ありがとうございます。切嗣」
「……ありがとう、叔父さん」
舞弥さんは緑を基調としたシンプルな浴衣を、娘さんはピンクを基調としたかわいい浴衣をそれぞれ着ている。
そんな六人を眺めるのは、まあ。
「見事に蚊帳の外だねぇ」
僕たち野郎三人なんだよね。僕は自分で選んできた紺に黒の縦じまの浴衣に着替えていた。士郎を待ってるんだけど来ないなぁ。
「まあ、いいのではないか」
アーチャーは着替えていない。いつ切り出そうかなぁ。
「兄さん、あのさ」
肩を少し叩かれて振り向いてみたら困り顔の士郎だった。あ、もしかして。
「あー、ほら貸してみ。帯締めるの慣れてないんでしょ」
「ごめん」
やっぱりそうか、まあ昔は甚平は着てたけど浴衣は着てないよね。
「気にしなくていいよ。あ、そうそうアーチャー、あっちにアーチャーの分の浴衣あるから」
よし、どうにか切り出せた。じーさんと二人で買いにいったんだから無駄にするわけにいかないし。
「私はサーヴァントだぞ。ついでに言うなら「はいはい、屁理屈言わないの。アーチャー用に買ってきたやつだよ。ついでに言うならどうやったってあの体格に合うの我が家では君だけだし」
「………」
やっぱり、断ってくると思ったよ。しょうがない。最終兵器出すとしようかな。
「あーあー、アーチャーのためだけに
「………わかった。着ればいいのだろう?」
あ、すぐに折れた。
「いってらっしゃい」
さすがアーチャー、じーさんには甘いよね。その様子を眺めてから、僕は士郎の帯締めに取り掛かった。
☆
祭りの入り口にて、ぼくたち三人は人ごみを眺めていた。ちなみに桜ちゃんは家の人とお祭りを見るから分かれた。
「ふぅー、人多いわね」
トレードカラーともいえる赤の浴衣を着た凛がうんざりとした顔で人ごみを眺めた。気持ちは分からなくないんだけどね。
「ま、しょうがないでしょ。お祭りの醍醐味ってことで」
ぼくは苦笑いをして返した。ちなみにぼくは淡い青色に金魚の模様の入った浴衣。
「こんなに人が集まる理由が分かりません」
珍しく髪を結い上げて、白地に黒のトンボの模様の浴衣を着たカレン姉さんが首をかしげる。
「お嬢、なるべく俺らから離れないでくれよ」
「嬢ちゃん、お前もだぞ」
緑の浴衣を着たアサシンさんと濃い青色の浴衣を着たランサーさんが釘を刺してくる。ナンパの一件から二人とも妙に警戒してるなぁ。
「はいはい、お、輪投げ屋。何かほしいのあったら取るよ」
そんな二人の警告を軽く聞き流しながら視線を屋台の方に目を向ければ輪投げ屋があった。
「あらいいの?」
「こんなの楽勝だからね」
何かを投げて命中させるのは得意だからね。
「じゃあ、あそこのアレとか取れる?」
「んー? 大丈夫だよ」
凛が50点の景品を指差した。
「ワタシも一つ、あそこの奴を」
「いいよー」
カレン姉さんが別の方の景品を指差した。よし、これなら全部一回で取れるかな?
代金を支払って輪投げをしていると何処からか大歓声と悲鳴が聞こえてきた。あ
「アキだ」
「毎年派手ねぇ」
夏祭り風物詩(冬木限定)のアキと切嗣さんのコンビ(黒い悪魔とかそんなあだ名だったはず)だろうなぁ。たぶん射的屋から景品がごっそり消えていることだろう。
「いや、本人は多分大真面目に打ってるだけだよ? 全弾命中しているだけで」
「そうかもしれないけどアレは異常よ。確か中学時代に弓道部のエースだったんでしょう。彼」
確かそうだったはず。中学校のときって学校違うから噂しか聞いてなかったんだよね。
「うん、百戦連勝。撃った矢は全て真ん中に命中、化け物とか呼ばれるくらいには」
「なのよね」
弓道部が戦々恐々していたって記憶があるなぁ。ぼくはといえばいろんなところの助っ人やってた。主にバスケとかサッカーとかゴールにシュートするタイプのスポーツの部活だけど。
「でもさ、それって士郎にも言えることなんだよね。あの子もアキに隠れてるけど命中精度半端ないし」
「ふぅん、あ、確かに桜が前に言ってたかも」
未だに弓道部の別の学校に行った友人がそんなことを言っていた。
「今じゃそっちの弓道部のエースは士郎だしね」
「それもそうよね」
凛と話していると浴衣の裾を引っぱられた。
「アキノ、次はあちらに行きましょう」
振り返って見てみれば、カレン姉さんが裾を引っぱっていた。
「はーい、凛、行こう」
「ええ、行くわよ。ランサー、アサシン」
後ろでぼくらを見ていた二人に凛が声をかける。
「へいへい」
「俺にまで命令すんなよな」
まあまあ、そんなこといわないで他の屋台見に行こうよ。ランサーさんにそう声をかけて、ぼくはさらに先へと進んだ。
☆
私たち十三人は屋台が並ぶ場所に来ていた。私らは大人数過ぎる気が。ついでに言うなら、男女比がおかしい。多分、周囲から見たら突っ込みどころの多い連中だよな。女性陣は軒並み浴衣だからさらに目立つし。私は浴衣は性に合わないので断った。
「うわぁ、人ばっかり」
「三咲も結構大きい町だけどここまでの活気は珍しいよね」
確かにこの場所の祭りはかなり活気がある。三咲って意外と田舎だったんだな。
「たこ焼き食べに行こう! たこ焼き!」
「おい、ハル派目外しすぎるなよな」
シズが妹に手を伸ばす。そんな二人を止めようとしたときにシャツの端が少しだけ引っぱられた。振り返ればさつきがシャツの端を握っていた。
「なんだかはぐれちゃいそう」
「だったら、手繋ぐ?」
「え、いいの?」
さつきが驚いたような顔をする。手を繋ぐのは意外な感じだったか。
「うん」
「じゃあ、一緒に行こう」
さつきの手を取って私は人ごみの中へと進んだ。
☆
「よっと」
僕は自分で取った射的屋の景品を持ち直した。重っ
「マスター、取りすぎだ」
アーチャーが呆れたような顔で僕を見る。だってさー
「うぅ、しょうがないじゃん。イリア姉さんがもっととか言うから。ついでに言うならどこかの誰かご所望の海の幸&お肉セット取ったし」
主に重い原因ってそれだよね。はぁ、調子に乗って取りすぎたかな?
じーさんは取ったものを置きに一旦コテージに戻った。イリア姉とアイリさんは一緒に戻ってる。セイバーと舞弥さん、それから舞弥さんの娘さんは屋台の食べ物の買い出し担当で屋台を回ってる。大丈夫かな? セイバーが勝手に食べそうで怖い。
僕とアーチャーと士郎はバーベキューのために食材を運ぶ担当なんだよね。
「はぁ、バーベキューをするというのになぜ食材を用意しなかった」
「してるって、分かりづらいところにあるだろうけど」
どう考えたってクーラーボックスとか面倒だからって、錬金術で作られた冷やさなくても安全に保存できるというとんでもタッパーをいくつ借りてきたから、ただタッパーがあるっていうおかしな状況になってるけど。
「兄さん、半分持とうか?」
士郎が心配そうに聞いてきた。士郎に迷惑かけるわけにはいかないし。
「ううん、大丈夫。自分で取った代物についてはちゃんと責任取るつもりだし」
「いや、前とか見えなくなってるから困ってるだろ」
あー、そこか。
「あはは、最悪アーチャーに助けてもらうよ」
「それを早く言いたまえ」
「あ」
海の幸とお肉セットが僕の腕からひょいと取り上げられた。
「別に私は持たないなどとは言っていないのだがね」
「……ありがと」
顔が有無を言わせない感じになってるよ。しょうがないし持っておいてもらおう。
「ん?」
足元に何か落ちてきた。なんだろう? 手に物持ってるから取れないし。
「なんだ?」
「えっと、何々? 浴衣美女コンテスト?」
士郎が拾って、読んでくれた。
「へぇ、そんなのまでやるんだ」
「まあ、なんにしても我々には関係のないことだがね」
ま、ウチには美人が五人もいるし当然だよね。あ、何かずれてる? 気にしない気にしない。
☆
はぁ、しつこい。いい加減にしてほしいよなぁ。
「お断りします。大体なんでそんな悪徳業者みたいなことしてるんですか?」
「そうよね。普通に出たい人だけ出ればいいじゃない」
なんか昼間のナンパと同じ感じで浴衣大会に誘われていた。ちなみにランサーさんたちは食べ物の買出し中。上手く隙をついてきたなぁ。
「そんなこといわずに、ぜひ参加してくださいよ」
その誘ってきた人はへらへらと笑ってる。それで了承する人っているのかな?
「我々が嫌がっているのが分からないのですか? その頭は蛆虫以下なのでしょうか?」
うわ、さすがカレン姉さん毒舌だね。
「カレン姉さん言いすぎだよ。そういう時はからっぽかって聞かないと」
「あんたも言いすぎじゃない?」
そうかな?
☆
人ごみの中、私たちは花火を見た。鮮やかな光と轟音、周りにいる人たちの足が止まる。
「お、花火だな」
シズが眩しそうに花火を見上げた。
「綺麗……あれ? 遠野君は?」
さつきがいるはずの遠野を探す。大方、彼女と二人きりって所……それにしては不在率高くないか? 私たち、いつもの面子以外の面々が居ない。人数は一気に減って五人だ。
「さあ? それよりも凄い」
「うん、綺麗だね」
私とハルが呟いた。
「あ、色が変わった」
「凄いよねー」
のん気に花火を見やる友人四人を一歩引いて私は見た。
ああ、この日々が愛おしい。
どうか、こんな日々が、続けと願いながら花火を見上げた。
☆
どぉんと花火の音がした。ここは神社の境内、買出しに出たランサーさんが見つけた花火を見るためのお勧めスポットなんだ。そこに買ってきたたこ焼きや焼きそばなどなど屋台料理とラムネを持ち込んで花火を眺めている。
「あ、たまやー」
思わずそう言ってしまう。
「かぎやー……だったかしら」
「うん、あってるあってる」
ぼくが言っても分かってくれない人多いんだよなぁ。
「それは一体どういうものですか? アキノはよく打ち上げ花火を見ると言っていますけど」
カレン姉さんが不思議そうに首をかしげた。
「んー、江戸時代にあった花火屋さんの名前だよ。花火が上がったときにその屋号……お店の名前を呼ぶんだ。その名残で今でも花火が上がると『たまや、かぎや』って言うわけ」
「そうですか」
「明乃よく知ってるわね」
えー?
「割と常識かなって思ってたんだけど」
「まあ、いいか。それにしても綺麗ね」
「ええ」
「だね……」
隣で花火に魅入っている友だちと姉を見ながら思った。
こんな穏やかな時間を過ごせることこそ幸せだよね。
花火は儚く消えるものだけど、できることならみんなとのこの日々がまだ続きますように。
☆
バーベキューをやっていると、大きな音がした。音の方を見てみれば花火が上がってる。もうそんな時間なんだ。
「お、上がった上がった」
ちゃっかり時間を知っていたらしいじーさんが椅子に座ったまま嬉しそうに言う。
「綺麗……」
「すごーい」
じーさんの隣に座ってるアイリさんが嬉しそうに笑ってる。イリア姉は立ち上がって楽しそうに花火を見上げていた。
「美しいです」
セイバーが手にバーベキューのお皿を持ったまま花火を見てる。食べるか花火見るかどっちかにしようよ。
「そうですね。マダム」
「……綺麗です」
舞弥さんたちも見入っているみたいだ。
「凄いな」
「………」
士郎は花火を見上げながら呟いているし、アーチャーは無言だけど嬉しそうに見ている。
「本当に凄いなぁ」
花火が上がるのを僕達は見ていた。セイバーが食べるから、僕と士郎はバーベキューもどうにかしないといけなかったんだけどね。
「後で手持ち花火でもしようか」
じーさんが花火の上がる中、急に思いついたと言わんばかりに笑顔で言う。
「あ、それいいね。確か車に積んでたはずだよ」
「それも楽しそう!」
僕が返事をすればイリア姉が乗っかる。うん、バケツあったよね。
「バケツはあるのか?」
「大丈夫だよ。持ってきてる」
花火持ってくるって話したときにバケツ持ってこないといけないなって思ったからちゃんと持ってきたんだよね。
「兄さん、花火は俺が取ってこようか」
「ん? 後でいいよ。今は花火見よっか」
わいわいと花火を背景に騒ぐ僕の家族を見て思った。
……どうか、どうか、大切な人たちとの平穏な日々が終わらないでほしい。
そう、上がっては消えていく花火に願った。
別に最終回ではないです。不穏すぎるオチになってますけど。
基本ほのぼのがモットーです。バトル描写なんて無理。
それから一部謝罪、花楠における急展開及び月姫キャラの扱いの雑さとか色々とすみませんでした。
ついでに言うなら更新の遅れも申し訳ございません。