バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第九問

 

無事に保健室に先輩を運び終わた僕たちは教室に戻ってきた。比奈丘さんは飽きたと一言言って、本を読み始めてしまう。

 

「よー、おかえり」

 

広夢が何故かモニターの傍にいた。確かそこって神海さんがいたところじゃあ。

 

「あれ? 広夢、なんでここに居るの?」

「あ? とりあえず立ち直りそうに無い土屋に代わってモニター及び失格判定の仕事」

 

あ、なるほど。神海さんまだ戻ってないんだ。何処にいるのかなって探したら端の方に(うずくま)っていた。工藤さんが一生懸命励ましているみたいだ。

 

「そうなんだ。広夢は肝試し楽しんでないの?」

 

誰かとペア組んでいるようにも突入するつもりがあるようにも見えないし。

 

「いや、そっちに行くよりこっちで画面眺めてるほうがよっぽど楽しいぜ」

「そう? 実体験するのもいいことだと思うけど」

 

百の訓練より一の実践とか言わないかな?

 

「とりあえず、まあお疲れさん。ところでだが手で抑えたところで音声は聞こえるぞ」

「あ、やば」

 

まさかとは思うけどあの会話聞こえてた?!

 

「俺が適当に何とかしておいたから安心しとけ」

「あはは、ありがとう」

「どういたしましてっと。お、失格」

 

一組ペアが失格になったみたいだ。

 

「そういえばだけど聞いてたの?」

「まあ、俺は聞こえてたぞ」

 

誤魔化したのは俺なんだし聞いていて当然だろと広夢は言った。うわぁ、聞かれてたんだ。

 

「そっか……僕って歪んでんのかな」

 

うん、今の今まで感じていた穴がようやく判った気がする。あー、僕は歪んでいたんだって。

 

「歪んでるだろ。てか、歪まない人間の方が奇跡だぞ? 俺だって見事に歪みまくってるぜ?」

「そうかな、広夢はまともだと思うけど」

 

僕なんかに比べたらよっぽどまともだ。

 

「まともかまともじゃないかは、自分が決めていいと思うぞ? すくなくともお前みたいな歪みなんて普通にもってるもんだろ。お前はちょっと規模がでかいだけ」

「それでも僕はまともじゃないって言い切れると思うんだけど」

 

普通じゃないことくらい分かってるよ。まあ、歪んでいるって発想に行き着いたのはついさっきだけど。

 

「はぁ、歪んでる自覚あるだけマシだろ。思い返してみろ、ほとんど無自覚でサバイバーズギルド拗らせて正義の味方になったバカとかいるぞ」

「……バカは違うと思うよ」

 

アーチャーがバカとか広夢にだって言われたくない。

 

「突っ込みどころはそこかい」

「だって、彼だって……エミヤだし」

 

家族を馬鹿になんてされたくないよ。

 

「なるほどな。確かにそれは言えるな。ってそこじゃねーだろ」

「どっちにしても拗らせてるのは一緒ってことでしょ??」

「だがな、あいつも俺も生きようとした。ここが違うものだろ」

「うん、わかってる」

 

僕は生きようとすることは止めている。それが一番の違いだよね。広夢の顔が曇った。

 

「はぁ、ゴメン。俺に言えることは少ないな。同類(ひなおか)ならともかく俺はお前に説教しかできねーわ」

「あ、いや、別に何か言ってほしかったわけじゃ」

 

誰にも頼んだ覚えないし。

 

「俺が言いたかったんだよ。でも言えなかったか」

「でもまあ、ありがと。僕なんかのためにさ」

「ならいいか」

 

お前が自覚しただけマシだよなーと酷い一言を言われたのだった。

しばらくして、広夢がモニターを眺めながら呟いた。

 

「それにしてもあいつアホじゃね? どう考えたって」

「えっと、清水さん?」

 

何かDクラス戦とか、今日のペア決めとかで見かけたツインドリルの女の子、清水さんが何かどこかのクラスの男の子を引きずって歩いている。なんだろう、見ているだけで悪寒を感じるのって普通は無いよね。

 

「ああ、言峰と島田のペアを追いかけてチェックポイント突破してそのまま彷徨ってる」

「あれ、姉さんたち帰って」

 

ないよね。と言おうとしたら教室の扉が開いた。

 

「あ、来た」

「いやぁ、気絶するとは思わなかったよー」

 

姉さんが入ってきた。南を俵担ぎして。驚いていると、姉さんは座布団が何枚か敷かれているエリアに南を下ろした。

 

「南?!」

「南、お主 大丈夫かの」

 

姉さんが寝かした南の元へ、僕と秀吉が向かう。あれ? 秀吉??

 

「お、木下 復活した」

「秀吉も大丈夫?」

「大丈夫じゃ。それにしても南は無事かの?」

 

どうやら無事みたいだ。それにしても、気絶するほど怖いってどういうことだろう?

 

「ただ単に九十九神に追いかけられて気絶しただけだよ。これくらいでびっくりするとは思わなかったよー」

 

何がなんだか分からないけど、南は相当怖い目に遭ったみたいだ。そうこうしているうちに、モニターがチェックポイントを映し出した。

 

「あ、清水さんたちが着いたみたい」

 

 

物理

Dクラス 清水 美晴 71点 & Aクラス 久遠(くどう) 太一 203点

 

 

清水さんたちの点数が表示された。清水さんはともかく巻き込まれたほうの男の子の方はそこそこ成績がいいみたいだ。流石にAクラスとはいえそんなにとんでもない点数なわけ………

 

 

Aクラス 常夏 勇作 412点 & Aクラス 夏川 俊平 408点

 

 

「嘘」

 

まさかのとんでもなく高い点数だった。

 

「うわっ、そういうことかよ」

「なんじゃあの点数は」

「Aクラスの中でもトップレベルじゃないか」

「あいつら得意分野を選択に持ってきやがった」

 

清水さんたちはあっさり倒された。主に清水さんが魂を抜けたようになったせいで召喚獣が動いていないからだ。巻き込まれたほうの男の子は二三回攻撃を加えて、召喚獣は姿を消した。減ったとしても、50点か60点くらいかな。それでも300点は下らないだろうし。うわぁ……

 

「どうするの?」

「……私と悠里ならどうにかなるとは思う」

「だったとしても多分、ペア引き離すことは出来るだろうし………」

 

たしかあそこのエリアは壁を動かして迷路の形状を変えることができるようになっていたから。

 

「え? どういうことよ」

「あ、ごめん口に出てた?」

「ええ、どういうことか説明しなさい」

 

ぐ、あんまり言うつもりなかったのになぁ。とりあえず魔術的なところは誤魔化して僕が調べたAクラスの仕掛けについて話す。

 

「うわ、卑怯」

「もしかして、今普通に楽しんでいる連中にほとんど召喚獣がけしかけられてないのはそれでか?」

 

広夢が推測を口にした。それかもしれないね。

 

「多分かな」

「だろうね。面倒だなぁ」

「まあ、しばらくは様子見かしら」

「そうだねー」

 

それからしばらく、妙な仕掛けが起こることも無く平穏な肝試しになっていた。ただ妙に迷う人間の数が多すぎる、ってだけで。

 

「どうだい様子は」

「あ、学園長」

 

学園長がやって来た。それからモニターを眺めてぶつぶつと呟いている。

 

「ふむ、それなりに……おや?」

「どうかしましたか?」

「うーん、妙にぐるぐる回ってないかい?」

「あはは、まあAクラスは広いですししょうがないんじゃ……」

 

画面を見てみたら誰かがチェックポイントにたどり着いたみたいだ。

 

『よう、後輩共。よく来たな』

『……はぁ、営業妨害共なんつー仕掛け作ってんだよ』

 

この声、須川君? 仕掛けに気が付いてるっぽい。

 

『おい、先輩に対してその口の聞き方はなんだ』

『申し訳ありませんが、貴方方を先輩と思えません』

 

この声って佐藤さんだよね。もしかして、須川君と佐藤さんがペアなの? その後も悪口の応酬が続く。

 

「ほう、このガキ共はずいぶんと口が悪いね」

「あー、こっちとしては色々と因縁つけられたからいい加減にしてほしいんだよなぁ」

「確かに、学園祭の営業妨害とかアレなんでだったんだっけ?」

「営業妨害?」

 

学園長が不思議そうに首を横に傾げた。あれ、もしかして知らないのかな?

 

「あ、多分西村先生なら知ってると思いますけど。ウチの中華料理屋、営業妨害が出たんです。それがあの先輩たち」

「そうだよねー。麻婆のおかげで追い出せたけど、アレ続いてたら不味かったよ」

「ふぅん、こいつらもずいぶんと派手にやらかしてんだねぇ」

 

『それにしてもお前らみたいなクズを率いてる代表なんざ、よっぽどのクズだろうな』

『……なんだと?』

 

あれ、画面の向こうからも。こっちからもブチっと何か音がした。何言ってるんだろうこの人たち。

 

『それはそうだろ。先輩への敬意も教えねぇような能無しだしな』

『……そうですか』

『お? 認めるか』

 

いや、佐藤さんどう考えても認めてないでしょう。あの口ぶり。

 

『ならば正直に言わせてもらいますが、貴方方のような品のない人たちを先輩などと呼ぶ気はありません。我々にそう呼ばせたいなら、まずは態度で表してください。貴方方なんかより、私の代表の方がよっぽど先輩と呼ぶに値する人物だと私は思いますから』

 

凄い、佐藤さんノンブレスで言い切ったよ。確かにあんなのが先輩とか止めてほしいよね。

 

『んだと?!』

『てめっ』

『だな。ウチの代表のほうがよっぽど尊敬できるな。頭ごなしに命令するような人じゃないし、有言実行の化身だぞ。キレたら怖えぇけど、それでも付いて行きたいって思うんだ。あんたらはそういう人間じゃないだろ』

 

須川君もノンブレスで言い切った。なんだろう、ノンブレスが流行ってるの?

 

『そういうわけです。それでは』

『じゃあな』

『お前ら!?』

『待ちやがれ?!』

 

そのまま須川君と佐藤さんは出て行ってしまった。唖然としていると、悠里さんと霧島さんが立ち上がった。なんで?!

 

「悠里……怒ってる?」

「あら、明乃。怒らないわけないでしょう?」

「……同意見」

 

怖い、怖いよ二人とも。

 

「いってらー」

「止めないの姉さん?!」

 

そうこうしているうちに悠里さんと霧島さんは出て行った。どうしたらいいのさ。

 

「止めるわけないじゃん。ぼくが代表だったら同じように怒ってたよ」

「そっか」

 





今回無駄にぐだぐだです。いや、いつものことなんですけどね。
それからややアンチ気味です。非常夏アンチってあるんですかね? 難しい気はしなくはない。

妙に脈略が無いんだ。



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