バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第八問

「それは心配しないで、木下。向こうは向こうでこっちのメンバーのことをある程度は知っているようだけど、こっちには秘密兵器がいるわ。色香に惑わされることもないだろうし、恐らくはチェックポイントもクリアできるはずよ」

「え? そんな奴いたのか」

「女子だとしても、さっきのハゲの先輩の女装とモヒカンの先輩の心理攻撃に怯えきっていると思うんだけど」

「いえ、常夏コンビについてはもう大丈夫だと思うわ。ゴスロリはあそこまでやればもう出てこないだろうし、告白の方は対秀吉専用の作戦でしょうね」

 

悠里さんの言う通りだ。さっきのモヒカンの先輩の告白は演技ではなく、本気の本気だった、いやな事に。

悠里さんの常夏、という単語に秀吉が一瞬ビクンと身体を震わせる。軽いトラウマになっているみたいだ。

 

「そういうわけで頑張りなさい、明久」

「え? 僕」

「ええ、あんたならあの着物の先輩はどうにかなりそうだし。比奈丘がパートナーでしょ」

「あー、僕でいいの?」

 

僕が行ったところでどうにかなるとは思えないんだけど。

 

「ええ、あんたらじゃないと無理よ。一応保険も用意するつもりだけど、いざって時のためにだからなるべくあんたたちで突破してちょうだい」

「まあいいよ。行こうか、比奈丘さん」

「ああ、面倒には巻き込まれたくなかったんだがな」

 

僕らは教室を出て行こうとした。すると背後で何か話し声がする。

 

「悠里、ぼくに何か用?」

 

姉さんが悠里さんに呼びかけられたらしい。

 

「あんたたちも中に入ってほしいの」

「は? なんで、アキと彩夏入るのに?」

「ええ、頼んだわ」

「まあいいけど、行こうか。島田君」

「ひぃっ、ア、アキノ待って!」

 

意味は分からないけど、悠里さんのことだから何か作戦があるんだろうね。南、ご愁傷様。僕達はBクラスに入ると、バンッという音を立てて何かが飛び出してくる。

 

「へぇ」

「結構うまく出来てるな」

 

モニター越しでも思ったけど上手に作ってあるなぁ。あれは一反木綿だろうか。古いカーテンを上手く使ってそれっぽさを醸し出している。基本的にグロい物も怖いものも平気なんだけど、薄暗い雰囲気とマッチしていて結構迫力があるよ。

 

「ア、アァァァアアアア」

 

後から声がしたので振り向くと、血塗れで手足がおかしな方を向いている人影。あれは誰かの召喚獣だろうか。召喚獣が後ろから迫ってきているなんて、上手い演出だ。

 

「衛宮」

「えっと、どうかしたの比奈丘さん」

「こいつ殴って平気か?」

「どうしたの?!」

 

何か召喚獣睨みつけてるけど?!

 

「いや、ゾンビに恨みがあるだけだ」

「なんでさ」

 

そうこう話てると、問題地点にたどり着いた。

 

「始めまして、お二人方」

「どうも」

「始めまして」

 

レオタードを着た小暮先輩が優雅に一礼した。どっちかって言うと着物着ている姿の方が似合いそうな動作だなぁ。

 

「………」

「………」

「えっと?」

 

何か無言の空間が生まれたけどこれは一体?

 

「反応しないんですね」

「え?何がですか?」

「私は女だ」

 

あー、そういうことか。他の男子みたいに反応しないのかってこと。

 

「わかってますよ。しかし……魅力がないのでしょうか?」

「え?普通に美人だと思いますよ?」

 

すると小暮先輩は苦笑して、

 

「素で恥ずかしいことをさらりと言いますね」

「そりゃあ、アレの弟だし」

「?」

 

いや、なんでさ。

 

「まぁ意味がないみたいですし、先に行かれてもいいですよ」

 

先輩が道を譲ってくれたので先に行く。

 

「なあ衛宮」

「んー?」

 

比奈丘さんが話しかけてきた。手に指を当てて静かにするように仕草をする。あ、なんとなく読めたのでカメラの集音部分に手を当てる。

 

「で?」

「いや、衛宮ってさ。好きな奴いるか?」

「うーん……家族とか?」

 

僕のこと好きになってくれるのは家族ぐらいなんだろうなぁ。

 

「そういう意味じゃ……あ、もしかしてだけどお前って『自分に価値が見出せない』のか?」

「え? いやだなー。そんなわけな「あるんだろ。盛大に頬が引きつってるぞ?」

 

げ、表情筋がいつの間にか動いていたみたいだ。

 

「お前って明乃と本当に似てるよな。明乃も嘘つくときって大体そうするんだ」

「それで、それがどうかしたの?」

 

もう諦めよう。何言ったところで誤魔化せないだろうし。

 

「いや、お前もかって思ってさ」

「も?」

「ああ、私も似たような部類だ」

 

少し話なるがいいか? と比奈丘さんが聞いてきた。僕は黙って頷く。どうせ道中やることないんだし、人の話を聞くのもいいよね。

 

「私にはそれこそ親友とでも言うべき幼馴染が居たんだ。だがな、その幼馴染は幼いときにご両親が亡くなって施設に預けられるようになった。それからはずいぶんと疎遠になったよ。再会したのはその13年後、しかも敵同士。全くなんでああなったのやら」

 

皮肉なもんさと比奈丘さんの口元は笑った。でも、その目は今にも泣きそうな目に近かったのかもしれない。

 

「それで、どうにか和解した私たちだったけどそこで最悪の悪夢が襲ったんだ。互いに命を懸けなくてはいけない大仕事が待ってた」

 

いや、片方は無事に戻ることも出来るような仕事で、もう片方の仕事は死が確実な仕事だな。比奈丘さんは何処か遠くを見るように前だけを見据えてる。僕の事なんて目に入っていないみたいだ。

 

「奴は死んでしまう方の仕事を取った。私はそれまで知らなかったが、奴の寿命は尽きかけていたんだ。それで私も奴も仕事はきっちりこなした。それから奴の姿を見た奴は誰もいなかったんだ」

 

それからもう魂が抜けたような日々だったよ。そう呟いて、比奈丘さんは足を止めてうつむいた。その親友の事を思い出しているの? そう聞くことすら僕にはできない。

 

「それがあるとき急に奴……いや、意識がもうズタボロになって奴じゃなくなった奴が見つかったって知らせが入ったんだ。それはもう夢中になって奴の住処を探したよ」

「親友は見つかったの?」

「ああ、見つけたさ。話の通り、意識がズタボロになってて。もう私を私だって認識できないくらいな。それ見て思った。ああ、もう私がこの世界にいる理由なんてないんだって」

「…………」

 

僕はその発言に驚くことはなかった。だって、それは僕があそこ(じごく)で感じたことと同じことだから。

 

「でさ、じゃあこいつだけでも道ずれにして死んでやろうとか思ったわけだ」

「え?」

 

なんだろう、これじゃあまるで……

 

「見事に成功、奴と私は相打ち。薄れていく意識の中、これでよかったんだって思ったんだ。でも違った。さらに奥では生きていたいって思っていたんだよな。そのせいで私は転生したと」

「………」

 

なーんてな。そう比奈丘さんは笑った。転生は冗談だぞと彼女が笑う。でもそれは多分嘘だなって思った。なんでかはよくわからないけど。

 

「だからさ、そんな生き方していたら絶対後悔するぞ。それは言えるんだ」

「……」

 

僕はそれに頷くことは出来なかった。だって、頷くだけならできるけどそれは僕の心の中を埋めることが出来たら頷けることで、今できることじゃない。

 

「それじゃあ、先に進もうか」

「うん」

 

僕らは歩きながら話し続ける。

 

「あ、そうだ。好きな奴教えてくれよ」

「まだ言うの?」

「あ、じゃあこうするか、好きな奴に似合う色をお互いに教えるっていうのは?」

 

似合う色か。まあ、

 

「それなら、まあいいかな? 比奈丘さんは?」

「私は青だな。深い青、私が好きだった奴らはみんな青が似合ってた」

「そっか、僕は赤かな」

 

凛の色、アーチャーの色、うん、僕は赤が似合う人が好きだ。

 

「それは反対だな」

「あれ? 補色は別でしょ?」

「ほしょく?」

 

そんなわけで僕らは歩きながら話を続けて、どうにかチェックポイントまでたどり着いた。

だけど、

 

「イヤ、来ないで 怖い怖い怖い」

「あたしはお兄様なんて知らないから」

 

……チェックポイントの担当の先輩たちがしゃがみこんでガクガク震えている。どうなってるのこれ? 気になった僕らはまだ待機していた教科の先生に尋ねた。

 

「どうなってるんですか、これ」

「ああ、衛宮君と比奈丘さんですか。チェックポイントについてはもう終わってますよ」

「そうなんですか。ならいいかな?」

 

この先輩たちは一体どうしたんだろう? 不安になって眺めていると、比奈丘さんがすたすた先輩たちの方に歩み寄って。一撃! 手とうで先輩たちを気絶させた。

 

「比奈丘さん?!」

「衛宮、こっちの先輩担げ。保健室まで運ぶぞ」

「ごめん、人を担ぐ腕力無いよ」

 

比奈丘さんはさくっと横抱きしてるけど僕はそんなに腕力無いからね? 多分どこかで落とすだろうし。

 

「しょうがない。先生、召喚獣召喚の許可を」

「え、あ」

「あ、僕からもお願いします。この先輩放っておくわけにはいかないんで」

「……わかりました。許可します」

 

先生がフィールドを張ってくれた。よし、召喚……あ、忘れてた。

 

「僕何の召喚獣なんだろう?」

 

幽霊とかだった場合、運べないんだけど。

 

「衛宮?」

「あ、うん。今から召喚するよ、試獣召喚(サモン)!!」

 

魔方陣が現れて、召喚獣が姿を現した。なんだろう、全体的に騎士の格好をしてる? セイバーに見せてもらった概念礼装みたいな感じで。まあ、あれはドレス姿だったけど。こっちは普通に騎士のような格好だ。しっかりとした胸当てに白い羽のようなものが付いた豪華なマント、腰にはちゃんと剣が刺してある。それから一つだけ気になることが

 

「この髪飾りなんだろう?」

 

女の子がするみたいな、ヘアピンとリボンが付いている。しかも召喚獣の髪は普段の僕なんかより数段長くなっていた。

 

「そんなの後でいいだろ。運ぶぞ」

「あ、うん」

 

比奈丘さんが担いでいないほうの先輩を僕の召喚獣に担いでもらって、僕らはBクラスを後にした。

 





さて、終盤戦。多分、Bクラスの先輩方は某化け物を超えたストーカーの餌食になりました。

ちなみに比奈丘の幼馴染兼親友は人類戦士です。話のベースは2020のつもり。分かる方は分かるかと。

明久の召喚獣の正体は分かりやすいでしょうかね?

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