先に進んだ2人は、普通のお化けに対してなんら臆することなく先へ先へと進んでいった。全然おびえてないや。
「順調だな。このままあの2人で全部突破できそうだけど、そう問屋が卸さないか?」
「そうだな。だが、あの二人にこれといった弱点はあるのか?」
広夢と比奈丘さんが互いに話し合っている。
「三年生は神海の名前は知らなくても『保健体育が異様に得意なスケベがいる』って勝手に思い込んでいるはずよね」
「あー、確かに。そうなると、神海が一番不味いよね」
そうこう話していると二人の持つカメラが薄明かりの下に佇む女の人の姿を捉えていた。恐らくあの人が『神海さん対策』だろうな。
『……』
『土屋ちゃん? なんでそんなに呆れて……え?』
徐々にその人の姿がはっきりと見えてくる。その女の人は髪を結い上げた切れ長の目の綺麗な美人が色っぽく着物を着崩していた。
「「「「「眼福じゃぁぁぁぁっ!」」」」」
後ろから男子の歓喜の声が上がる。クールな表情や長い手足。タイプで言うと霧島さんが一番近いかな。ついでに言うなら比奈丘さんとか。そんな人が着物を着崩して色っぽく立っているのだから、皆が叫ぶのも無理はないだろうね。
「……悠里」
「なによ、翔子。何が映っているの?」
「……私だって、着物を着たらあんな感じになる」
「えっと、言ってることの意味が分からないわよ。とにかく目隠しは外してくれない?!」
霧島さんが目隠しをしたまま、ムッとして膨れている。自分と同じタイプの人に対抗意識を燃やしているみたいだ。でもさ、なんで悠里さんの目をふさいでるの? まさかとは思うけどそういう趣味?
「……悠里、結婚式にどちらを着たほうが良い?」
「え? ドレスと着物? まぁ、誰と結婚するかはおいといて、悩むくらいなら両方着るって選択肢も………」
「……そうかな」
「まあ、結婚なんて今意識しなくてもいいでしょうに」
「……うん」
画面の向こうでは神海さんと工藤さんに着物の先輩が話しかけていた。
『ようこそいらっしゃいました、御二方。私、3年A組所属の小暮葵と申します』
『小暮先輩ですか。こんにちは。僕は2ーAの工藤愛子です。その着物似合ってますね』
『ありがとうございます。こう見えてもわたくし、茶道部に所属しておりますので』
『あ、そっか。茶道って着物でやるんだもんね。その服装はユニフォームみたいだもんだよね。ちょっと着方はエッチだけど』
普通着物って着崩すものだっけ? 爺さんとか雁夜さんとか思い出すけど、そんな感じには全然なってなかった。
『はい。ユニフォームを着ているのです』
『そうですか。それじゃ、ボクたち先を急ぐので』
『そして、実はわたくし……』
『?なんですか?まだ何か?』
着物に手をかけている。あ、もしかして。
『新体操部にも所属しておりますの。』
はだけだけられた着物は完全に脱ぎ捨てられ、その下からは、レオタードを身に纏う小暮先輩が現れた。
『………』
『土屋ちゃん? 大丈夫、凄い怖い顔してるけど』
『……帰る』
『え、ちょっと、土屋ちゃん?!』
土屋さんは踵を返して反対の方向へと行ってしまった。
『土屋が棄権した! 今度は俺が行ってくる!』
『一人じゃ危険だ! 俺も行く!』
『待て! 俺だって行くぞ!』
『俺も行くぜ! 仲間を見捨てるものか!』
男子の一部が独断専行を始めていた。
『『『『『うぉおおおぉぉっ! 新体操――っっ!!』』』』』
「………突入と同時に全員失格したようじゃな」
「何でうちの学校の男どもってこうもバカだらけなのかしらね……。あれ、衛宮はあの先輩見てなんとも思わないの?」
悠里さんがいきなり僕に話題を振ってきた?!
「僕? あー、あの先輩は普通に美人だと思うよ? あはは、うん。僕はもっと綺麗な人知ってるから」
……誰かは誰にもいう気はないけどね。
「……そうなの、それはお目にかかりたいわね」
「無理だと思うよ。会えるのはもっと先だし」
次々と失格になっていく仲間たち(男子のみ)。しかもそれはFクラス男子だけではなく他クラスの男子も大勢混ざっていた。
「はぁ、これは色々と不味いわよ」
「だね。ペアの男子が失格になった子も多いし」
「それから」
悠里さんが入り口の方を向いた。そこにはものすごく暗い表情をした神海さんがいた。
「あれ、どうにかしないとね」
「あー、神海 おいで」
「…………(コクリ」
神海さんは姉さんの傍に座った。それから姉さんが神海さんの頭を撫でる。
「……私は別に変態じゃない」
「知ってるよ。神海はただ単に人観察が好きなんだよね」
「……なんでみんな私のことおかしいって言う」
「神海は普通だよ。大丈夫、ね?」
姉さんはそのままひたすら神海さんの頭を撫でて慰めている。その様子を見ている悠里さんに話しかけた。
「神海さん、あれって?」
「まあ、神海の奴にも色々とあるのよ。あんまり触れないでやって、よしあの着物先輩どうにかしないと」
あ、そうだ。
「秀吉と木下さんのペアとかどう? 秀吉なら着物の先輩に動じないだろうし」
「あら、あの二人ペアなの?」
「だったよね。秀吉」
秀吉に確認するように笑いかければ、秀吉が目を丸くした。
「明久はなぜ知っておるのじゃ?」
「いや、何か秀吉にアタックかけてくるのって基本男でしょう?」
「不名誉なことを言うでない」
まあ、男に誘われるとか勘弁してほしいよね。
「それにキレたお姉さんがペアにするって強制的に決めたんでしょ?」
「まるで見て来たかのように言うのう」
「いや、偶然見かけただけだよ?」
内部把握用に放った使い魔が。おかげで実は内部把握できてたり。Aクラスのアレは卑怯だよ。
「見られておったのか」
「じゃあ、頑張りなさいね。木下姉妹」
「ワシは男じゃ!!」
「頑張れ、秀吉」
いろんな意味で。僕の目線から何かを把握したみたいで、秀吉はため息をついて言った。
「ワシを普通に男としてみてくれるのは明久と南のみかの」
何かちょっとショックを受けた様子で秀吉は去っていった。大丈夫かな?
秀吉と木下さんのペアはどんどんと進んで行って、ついにあの着物の先輩、小暮先輩のところにまでたどり着いた。
『あら? あなた方は……そうですか。女の子同士の組み合わせできましたか。それでしたら、わたくしにはできることはありませんね。どうぞお通り下さい』
『納得いかぬのじゃ。ワシは男じゃというのに』
言葉の通り、何の抵抗もなく小暮先輩は脇に避けて道を譲ってくれた。そして秀吉達は小暮先輩を抜けて進んでいく。
「何だか随分あっさりと通過さてくれたね」
「そうだな」
「あとはチェックポイントだけか?」
画面を見ている。とモヒカンの先輩は普通に突っ立っていた。見たところ何もおかしな道具はないように見えるけど何をしに来たんだろう?
「……何が目的だ?」
「わからないね。さっさと抜けたほうがいいと思うけど大丈夫かな?」
秀吉達も同じようなことを考えているみたいで、すり抜けようとしていた。モヒカンの先輩は秀吉の腕を取ろうとして、秀吉はその腕を逆手にとって関節技を仕掛けた。あれ? 秀吉ってあんなことできた?!
『いででででででで』
『それで、何用かの? あいにくじゃが男からの告白はお断りじゃ。行くぞ姉上』
『え、ええ』
秀吉はすぐに関節技を止めてその場を立ち去った。え?
『秀吉、あんたなんであんなこと出来るようになったのよ』
それ、それが気になってたよ。
『姉上知っておるか。ワシを女子と勘違いして告白してくる阿呆はともかくじゃが、告白を断ることによって付いてくるような阿呆がおることを』
『嘘、ストーカーってこと?!』
もしかしてこの前一緒に帰ったときの視線ってこれ?
『そうじゃ。ワシとしては穏便に済ませたいわけじゃが、下手に手出ししてくるような輩には実力行使も辞さないことにしたのじゃ』
『そ、そうなの…………』
秀吉、そのこといってほしかったよ? 普通に社会的地位くらいなくすことできるのに。
「衛宮、怖えぇよ」
「あ、ごめん。聞こえてた?」
「ああ、ばっちりとな」
「ごめんごめん」
そんな雑談をしていると、画面の方から「木下ぁぁぁぁぁ」という叫び声が聞こえた。驚いて画面を見直せば、カメラの手元が狂ったように画面が荒れていた。どうしたんだろう? それからしばらくして、誰のかはわからないけど叫び声が聞こえた。
「「「?!」」」
それからちょっとして、ものすごく髪の毛とか振り乱した秀吉が木下さんに肩を支えられて帰ってきた。心配になった僕は秀吉に駆け寄る。見れば南も秀吉に走り寄っていた。
「秀吉、大丈夫?」
「大丈夫か? ヒデヨシ、あの先輩に何かされたか?」
先輩という単語を聞いて、秀吉がびくっとした。やっぱ何かあったのか。
「何かあったの?」
「う、うん………実は」
木下さんによると、あの後モヒカン先輩が秀吉に追いついたらしい。秀吉の肩を掴んで、告白したのだそう。秀吉的にはそこは普通にあるから平気だったらしい。そこから後、自作のポエムを披露されたそう。それはもうSAN値はガリガリと削られていく。さらにはポエムの後に「俺の太陽」とか言われてもう駄目になったらしい、さっきの叫び声は秀吉だったんだ。
「秀吉、大変だったんだね」
「うぅ、すまぬ。姉上の力でどうにか突破したかったのじゃが」
「そんなこといわないで、むしろその状況でよく頑張ったよ」
「だよな。オレだったらそれこそ発狂してたかも」
「姉上すら口元押さえておったのう」
まず、秀吉の目が遠い?! 木下さんの方を見れば、同じような感じに目が遠くなってた。
お疲れ様でした。あいもかわらず若干矛盾気味ですが、その辺は少し目をつぶってください。
たまには告白自力で回避するのもいいのかなぁと思ったのですがどう考えてもうまい展開が思いつかなかったのでこんなこといなてしまいました。ごめんよ秀吉