『ね、ねぇ……あの角、怪しくない?』
『そ、そうだな……何か出てきそうだよな……』
神海さんが設置した高性能モニターから、最初のチャレンジャーとして出撃していったDクラスの男女ペアの送ってくる映像と音声が流れてくる。
まず最初に向かうことになっているのは、Dクラスの教室のチェックポイント、どうやら古都をイメージした配置みたいだね。
『そ、それじゃ、俺が先に行くから』
『うん……』
カメラが見るからに怪しい曲がり角を中心に周囲を映していく。カメラを構えた二人は入念な警戒態勢を取りながらそちらへと歩みを進めていく。その様子を見ながら意識を部屋の中へと戻せば。
「ア、アキノ……あの陰、何かいるような」
「はいはい、居たとしても気にしない」
こわがりって大変なんだね。南がここまで怖がってるとは思わなかったけど。
「うぅ……」
「何か出るんだろ。うわ、嫌だ」
他の人も怖いらしい。大変だなぁ。
『行くぞ……っ!!』
『うんっ!』
カメラが曲がり角の向こう側を映し出す。そこには何がいるのだろうか? よく見てみるけど、そこには……何もなかった。あれ?
「な、なんだ」
「あれ、何も居ないんだ」
南が安心して胸をなでおろして、姉さんが拍子抜けだなぁとか呟いているときにそれは起こった。
『『ぎゃぁあああーっ!?!?』』
「「きゃぁあああーっ!!」」
カメラの向こうから大きな悲鳴が響いて、それを聞いた教室の人たちも同時に悲鳴を上げてしまった。耳にキーンとくるなぁ。
「ほら、島田君。単なる悲鳴じゃないか」
「いやだいやだ」
姉さんは抱きついてきた南の背中を撫でながらなぐさめる。
しかし、何があったんだろう? 画面じゃ何も映ってないし。
「……失格」
神海さんがカメラ①と表示されている画面の右隅を指差した。そこに映し出されているデジタルメーターは一瞬で跳ね上がり、赤い失格ラインを遥かに超えた音声レベルを示している。ここまで便利な機能あるんだ
「……悠里、何が怖いの?」
「あんたって昔からそうよね」
霧島さん全然動じてないなぁ。顔色一つ変わってないし。
「うわぁ、昔を思い出すぜ」
「ヒロ、昔って何時?」
「あー、リアルゾンビ?」
広夢、リアルゾンビってなにさ。しかも質問の回答になってないからそれ。日向君も呆れてるよ。
「一つ目の曲がり角でいきなり失格とは……驚かす役も本気だよ」
「そうね。流石は三年といったところかしら」
姉さんと悠里さんがうんうんと唸っていた。みんなの印象が凄すぎて気が付かなかったけど、姉さんも悠里さんも全然動じてないや。
「……二組目がスタートした」
神海さんがカメラ②と表示されている画面を指差した。 そちらにはEクラスの男女ペアが進んでいく姿が映し出されている。
「今度は向こうがどんなことをしてくるのかがはっきり映るといいね」
「そうだな」
一応コレは三年生との勝負だし、せめて何が来るのかぐらいは分かっておきたいところよねー。と比奈丘さんと喋っていると
「それは難しいだろ」
「え? 広夢、それってどういう……」
何かを知っている様な言い方の広夢にその真意を確認しようとしていると。
『『ひゃぁぁあああ―――――っ!?!?』』
「「きゃぁあああーっ!!」」
開始早々、またもやモニターの向こうから悲鳴が聞こえてきた。また画面には何も映っていない。
「……失格」
今度はさっきとは若干違って、まだ曲がり角が見えてきたばかりの地点だ。ポイントをずらすとは、油断しているときに襲い掛かってきたってことかぁ。
『ち、血塗れの顔が壁から突然でてきやがった……』
『上からいきなり女性が……』
そんな呟きが聞こえてくる。カメラには何も映らなかったのは死角に突然現れたからか。今回の召喚獣は今までと違って等身大になっている。どれもリアルな形で現れているだろうから、かなり怖いに違いない。
「なるほどね……」
「……あちらもカメラ使ってる可能性があるわね」
カメラを使っているのが僕達だけじゃないってことは……。
「三年生もこの映像を見ているってこと?」
「それはそうだろ。そうじゃなかったらカメラの使用なんて俺たちに有利すぎる。文句を言ってこなかったのは、向こうは向こうでメリットがあるからだ」
広夢が呆れたように言ってくる。僕としては、驚かす側が相手を待ってる間も楽しむためとか思ってたけどそういう使い方あるんだ。
「こっちのカメラの映像を見ていたら、標的がどこら辺に注意を払っているのかが分かるからな。驚かす側としてもタイミングが取り易いし、死角から襲いかかるのも簡単だ」
「あ、そっか」
位置の確認くらいなら他の方法でもできるけど、どこに注意を払っているのかはカメラを通した方が断然分かり易い。
「おまけに観察処分者の召喚獣以外は物に触れないから、障害物をすり抜けて急襲できる。相手の位置と方向が分かればいきなり背後に化け物を配置するなんてことも可能になるしな」
「なるほど。 何台もの固定カメラを設置しなくても僕達自身が相手に情報を与えているってことか。それは向こうも相当やり易いだろうね」
「召喚獣を使った肝試しならではってことか」
そんなことを言い合いながら画面を見ていればまた新しい組が入って行ったけど、また失格になった。
「とは言え、あまり切羽詰まってなくても勝負は勝負。一方的にやられたままって言うのも気に食わないわね」
ふん、と悠里さんが鼻を鳴らす。負けず嫌いな悠里らしいねぇと姉さんが苦笑いしながら言った。
「最初は様子見と思ってたけど、これはそうも言ってられないわね。あまり人が失格になりすぎるとあとが辛いから」
「そうだね。向こうもチェックポイントには成績の良い人を配置しているだろうからね。
あまり人を裂くと点数も減るし、後が持たない」
三年生側の召喚獣バトルをする人は大体がその科目の成績優秀者だ。こちらも成績の高い人を沢山送り込まないとチェックポイントのバトルで全滅なんていう可能性も充分にありえるわけで。
「それじゃあ、こっちも手を打ちましょう。皆!順番変更よ! Fクラスのペアを先行させて!」
悠里さんがその場に座ったまま声を上げると、しばらくして画面に見慣れた顔が映った。
『行ってくるぜ!』
『カメラは俺が持つぞ!』
朝倉&有動ペアがカメラを構え、2人は何の躊躇もなくスタスタと歩を進めていく
「うわぁ、本当にウチの男子は物怖じしないね」
「そうね。こっちの方がみんなにはいいみたい」
普通に警戒してる人のカメラワークより、こうやって無警戒でどんどん進んでいく方が怖くない。それにこうやってずんずん進まれると、脅かす側もタイミングが取りづらいみたいだいし。
『おっ、あそこだったか? 何かでるって場所』
『だな』
立て続けに3ペアがやられた曲がり角を映し出す。2人がカメラを構えたまま曲がり角を曲がり、何気なく横を移すと……
「「きゃああああーっ!」」
そこには、血みどろの生首が浮いていた。そしてそのままカメラはさらに動き、背後を映し出す。そこに居たのは、耳まで口が裂けている気味が悪い女の人が居る。
「「きゃあああああっ! きゃああああああっ!!」」
もう各クラスのほぼ全員が悲鳴をあげていた。けれど……。
『おっ、この人少し口は大きいけど美人じゃないか?』
『いやいや、こっちの方が美人だろ。首から下がないからスタイルはわからないけど、血を洗い流したらきれいな筈だ』
さすがFクラスというべきか冷静に相手を見定めていた。
「やっぱりね」
「さすがFクラスだな」
「こういう時は頼もしいな」
まあ、本当に物怖じしない人達だよなぁ。
「な、なんでアイツらあんなに平気そうなんだよ!? アキヒサ達も、怖くないのかよ!?」
「いや、だって……」
僕は比奈丘さんと広夢に目配せをして頷く。それに答える様に、二人は頷いた。
「別に命の危険がある訳じゃないからね。ついでに言うなら慣れてるし。FFF団に処刑されている人の悲惨さとか酷いよ」
「俺は割りとホラー好きだからな。あ、それは俺も見た」
「あたしにとってみれば、こんなもの子供だましだろ。昔取った杵柄って奴だ。まあ、この学園に来てからはさらに慣れた気がしなくはない」
今更流血程度で驚くような繊細な神経の持ち主などFクラスにはあんまり存在しないんだよね。
『それにしても暗いな・・・何かに躓いて転びそうだ。』
『それなら丁度良い物あった。あそこにある明かりを借りて行こうぜ』
装飾品として飾られている提灯が映し出される。
二人が拝借しようと近づいて行くと。
「「「きゃぁあああーっ!!」」」
突如、提灯に鬼のような顔が現れて、寸法のおかしな手足が生えた。あれは提灯お化けだね。なるほど、セットの中に召喚獣を紛れ込ませていたのか。上手い演出だなぁ。
『ん?これ掴めないぞ?』
『召喚獣なら掴めるでだろ。サモン。』
そんな向こうの粋な演出も意に介さず、
一人の喚びだした召喚獣に提灯お化けを持たせて先に進み始めた……。しかもその召喚獣はゾンビだ。手足をバタバタと動かしている提灯お化けがちょっとだけ可哀想な気がしてきた。
「な、なんか…かなりシュールな光景ね……」
「そ、そうだね………」
悠里さんも姉さんも呆れているや。
「……悠里。怖いから手をつないで欲しい」
「あらどうしたのよ、翔子。あんたはは全然怖がってないでしょう」
そういいながらしょうがないわねーと霧島さんの手を握る。霧島さんは驚いたみたいで目をぱちくりさせた。
「……本当に握ってくれるとは思わなかった。ちなみに冗談」
「あら、冗談だったの?」
冗談言うなんて珍しいわねと悠里さんが霧島さんの頭を撫でた。その光景を何かちょっとよだれをたらしながら見ている秀吉のお姉さんについては無視しよう。そんな空気をガン無視して姉さんが悠里さんに話しかける。
「悠里、二人のおかげで相手の仕掛けが分かったね」
「そうよね。あいつ等がチェックポイントまで行くのも時間の問題かしら」
そして、ついに二人のカメラが開けた場所を映し出した。その場所の中心には二年生の二人と、現代国語の寺井先生が待ち構えている。
『どうやら、チェックポイントみたいだな。』
『ま、順調だな』
『『『『サモン!!』』』』
僕達がモニター越しに見守る中、先生の許可の下でそれぞれの召喚獣が喚びだされ、その点数が表示された。 まずは三年生側の点数が明らかになる。
現代国語
3ーA 室井 貴志 232点 & 鎌田 敦子 264点
「やはりAクラスの人が来たね」
「三年は予備校に通っている人達も多いだろうから、きっちり成績優秀な人を用意してきたな」
普段は悠里さんとか霧島さんとかの点数をよく見るせいで勘違いするけど、普通は200点を超えるだけでも胸を張れるくらい凄い成績なんだよね。つまり、画面に映っている先輩たちは成績の良い人達ってことだよね。そして、対するこちら、二年生側の成績は……
2-F 朝倉正弘 44点 & 有働住吉 49点
ものすごく低い点数だった。やはりFクラスだけあって、一瞬でやられるかと思ったけど一撃を上手くかわす。
『え、嘘でしょ?!』
『かわした?!』
懐に上手く入り込むと、二人ともが召喚獣に一撃を食らわせた。それからすぐになぎ払われた武器によって二人の召喚獣は消えてしまった。でも二人の顔は清々しい。
『代表たちに扱かれてんだ。これぐらいは出来て当然だぜ!』
『ああ、もちろん!』
凄いや。あの一回目の試験召喚戦争からずっと召喚獣のトレーニングはやっていたけど、こんなところで役に立つなんて。ちょっと感動してたら、悠里さんと姉さんが互いにハイタッチしているのが目の端に映った。
「やったわね」
「一矢を報いたね」
姉さんも悠里さんも嬉しそうだなぁ。
たまには一矢報いたかった。それだけの話。
珍しく番外編
※キャラ同士の掛け合い注意
※全編台本形式
明久「それにしても広夢も比奈丘さんもグロ系平気なの?」
広夢「え? まあ、いろいろとなー(言えない。まさか前世で本物の戦場に行っていたとか、死徒化した集団と戦ったとか、うわぁ前世が意外とロクでもない)」
彩夏「私も一緒だな(流石の衛宮も突飛過ぎて信じないだろうな。明乃も信じないだろうし、ああ思い出しただけでむかつくなあの四谷のゾンビは)」
明久「あ、そうなんだ」
広夢「そういう明久はどうなんだよ? なんで平気なんだ」
彩夏「ああ、確かに明乃ならともかく衛宮が平気なのは気になるな」
明久「あはは……色々?(言えるわけがないよね。あんな地獄、それにアーチャーの過去夢とか言ってもわからないだろうし)」
須川「俺にはお前ら全員凄すぎだよ。何事も色々で片付けるな」
閑話休題でした。