そして、迎えた当日。僕たちFクラスのいつもの面々は出来上がったお化け屋敷を見て驚いた。
「うわぁ、気合入りまくってるよ」
「そうじゃな…ここまでやるとなれば、学園側もかなりの投資が必要じゃったんじゃろうに……」
お化け屋敷と化した教室を覗いて見て、正直驚いた。薄暗い雰囲気といい、外観からでも伝わってくるほどに複雑そうな構造といい、まさかここまでなるとはね。しかも大まかなところはともかく、小道具系は全部撤収したのにこのクオリティーは流石だ。
「とりあえず、これは三年側も結構本気ね。相手も講習最終日くらいはハメを外したかったってところかしら?」
「ここまで頑張る必要はないのに、これマジモンが引き寄せられたらどうするつもりだろう」
「……正直頑張りすぎ」
女性陣はあんまり怖がってないっぽい?
「だよな!」
「あれ、南テンパってる?」
「そ、そんなわけないだろ」
うん、テンパりまくりでしょ。南が怖いもの嫌いって言うのは予想外だなぁ。海外の人って慣れていそうなイメージがあるのに。
「代表、確か俺達はFクラスに集合だったよな?」
少しケータイと睨めっこをしていた広夢が顔を上げて、悠里さんに聞いた。
「ええ。三年はA~Dクラスの教室、あたし達はFクラスでそれぞれ準備。開始時刻になったら1組目のメンバーから順次Dクラスに入っていく寸法よ」
「……カメラの準備もできている」
神海さんが大きな鞄を掲げてみせた。あの中には何台かのカメラが入っているそうで、僕達はそのカメラを持って中を進んでいくらしい。不正チェックと通過の証拠、あとは待っている人を退屈させないためだとか、色々と理由があってカメラを使うことになっている。
「俺達の準備はカメラとモニターの用意と……組み合せ作りだな」
「そっか。組み合わせを決めてなかったよね」
僕達は話をしながら旧校舎の空き教室へと入る。
「で、代表。ペアはどうするんだ?」
「組み合わせは折角だから、極力男女のペアになるようにしましょう。その方が盛り上がるだろうし」
「………男女ペア?」
「ええ、やっぱりこういうときはそういうほうが面白いでしょ」
悠里さんは悪戯っぽくウインクした。粋な計らいだね。さて、僕は誰と組もうかな? 姉さんとか広夢とか? 悩んでいると、肩を叩かれた。
「あれ?」
「衛宮、組んでくれないか? 正直ペア探すのも面倒だ」
まさかの比奈丘さんだった。緑色の綺麗な髪をガシガシと掻いている。あー、これは渡りに船かな。そう考えていると背後で声がした。
『会長。我等の意に反し女子と組もうとする輩が……』
『『『異端者に死を!』』』
やっぱりソレを嗅ぎつけない程甘くはない。それがFFF団こと、異端審問会のメンバーだよね。本当に休日にまで出張ってくるほどのしつこさだ。でも対策はある。
「ねえみんな………もし僕を処刑しようとしたら、それこそ女子から評判が地に落ちるんじゃない?」
「どういう意味だ?」
「大体、女の子はそんな暴力的な人と組みたいって思う?」
「私なら断るな。面倒ごとは避けたい」
比奈丘さんに同意を求めてみれば即同意してくれた。僕が言ったところで何の効果もないだろうし、こういうときは女の子を味方につけるのが一番早いよね。
「よしっ!今回の件は不問とする。皆もいいな!」
『『『意義なし』』』
よし、これで暴力沙汰はもうないよね。と安心しきった。そこでふと気になることがあって、覆面を取った近藤君を見つけて話しかける。
「ねえ、近藤君」
「なんだ? 衛宮」
「須川君はFFF団に参加してないの?」
確かFFF団のリーダーって須川君だったような……。
「ああ、須川か。あいつは抜けたよ」
「え、抜けた?」
一体どうして、創立から係わったようなものなのに?
「清涼祭終わった頃か、突然抜けると言い出してな。当然俺たちは異端者になったことを疑って、徹底的に調査をしたのだが証拠を掴む事はできなかったんだ」
「そうなんだ」
「何かいきなり槍術習いだしたらしいがなんでだ?」
「槍って珍しいね。まあ、武道系やってるって男磨いてるねぇ」
やっぱ男は武道系やってるとかっこいいとかあるのかな?
「男を磨く?」
「武道やってる男はかっこいいんじゃない?」
軽口言っていると、別の方から絶叫が聞こえてきた。まだお化け屋敷始まってないよね? そう驚いてそっちを見てみれば、南とオレンジ色の髪をドリルにした女の子が言い争っていた。
「げ、美春!?」
「さぁ、お兄さま! 美春とペアを!!」
あー、思い出した。Dクラス戦のときにやたら召喚獣の操作がうまかった人だ。確か……清水美晴だっけ?
その清水さんは南の腰にまとわり付いた。
「もうっ!離れろ美春!オレはお前と組む気なんてなくて……」
そこで南の目線が姉さんに向いた。姉さんと組みたいのかな? 視線を感じた姉さんが振り向いてから、現状を理解したらしくため息をついてから南達の方へとやって来た。
「ごめんね清水さん。島田君、ぼくと組むことになってるから。だから、またの機会にしてあげて?」
そう言って、姉さんは南と清水さんを引き剥がした。怒った清水さんが姉さんに噛み付くような勢いで迫った。
「なんなんですか、この泥棒猫!!」
「相変わらず酷いねぇ。でも島田君ぼくと組むんだよねー?」
「あ、え、あ、うん」
南がものすごくしどろもどろになりながら返事をした。清水さんが追いすがるように言い出す。
「ですがお兄様!そんな泥棒猫が一緒では……」
南がちょっと決意したかのようにキリッとした表情になる。それから清水さんに向かって言った。
「美晴。お前はオレが約束を破るのが大嫌いってこと、知っているよな? それなのに、まだそんなことを言うのか?」
南がそう言うと、清水さんは悔しげに下唇を噛み締めて小さく頷いて下を向いたまま言った。
「……分かりました、お兄様。そういうことなら、この場は引きます」
「うん。分かってくれてありがとうな、美春」
そこでガバっと顔を上げた。
「ですが、万が一そこの泥棒猫が参加できなくなったら、その時は美春と……」
「ごめんな、美春。その時は、オレはお腹が痛くなってる予定だから」
「お兄様は冷たいですっ!」
いろいろとおかしいよ。南にそう言われると、清水さんは涙を流しながら走っていった。腹痛の予定って、この前某教育番組でやってたデートの断り方みたいだね。確かあれは髪を洗わないといけないだっけ? いや、あれよりも斬新か。
「島田って大変なんだな」
「そうだね」
こうして、学年肝試し勝負が幕を開けた。
波乱の幕開け? とりあえずそんな感じで
いい加減にここに書くことなくなってきた気がする。
腹痛の予定って本当に斬新ですよね。