「どうしてこうなるのかな」
『暗幕足りないぞ! 誰か先生に言って借りて来い!』
『ねぇ、ここの装飾って涸れ井戸だけでいいのー?』
現在、文月学園の新校舎・旧校舎の3階は肝試しのための改装作業で大いに賑わっていた。設置する小道具を受け取りに来た秀吉と南が周りの様子を見ながら呟く。
「それにしてもこれはまた、凄い騒ぎじゃな」
「だよな」
「でもさ、それ以上に女性陣のポテンシャルの高さが怖い」
見れば姉さんが重そうな木を素手で運んでるし、悠里さんはみんなに檄を飛ばしてる。神海さんは情報収集に駆け回っているのか姿が見えないし、普段なら何もしないはずの比奈丘さんは教室のセッティングのために小物を運んでいる。もちろん広夢も脅かし用の道具なのかなんなのか知らないけどトラップ設置に余念がない。
「こらぁぁ、そこ! ちんたらするな!」
何か悠里さんが女王様に見えてきたよ。とりあえず荷馬車のように働かされている級友の様子を見ながら僕も脅かし用の道具を準備していた。
小道具班はそれなりに人数は居るんだけど基本は設置担当で製作担当は各クラスから一人か二人出るくらいなんだよね。それぞれ注文どおりのを作るのに忙しくて何も話なんてしていない。
「それにしても、まさかAクラスまで協力してくれるとは思わなかったよ」
「Aクラスといっても私たちもあなた達と同じ高校生ですから。勉強ばっかりでは息がつまります。それに期末試験も終わったばかりなので、渡りに船と言ったところですね」
僕がぼそりと呟いていたのを聞いていたらしいAクラスの佐藤さんが答えてくれた。佐藤さんも小道具班だから一緒に行動することが多いんだ。
「そりゃそっか。遊びより勉強が好きな高校生なんてそうそういないか」
個人的にはあそこまでポテンシャルが上がるものなのかってびっくりしているんだけど。
「えっと、衛宮君これでいいでしょうか?」
「あ、これはこっちにつけたほうが効果的だよ」
そんなわけで脅かし用の小道具作るのをしている僕らだった。
「ありがとう、衛宮君ってこういうの作るの得意なんですか?」
「まあ、肉体労働よりは物作りの方が得意かな」
ガラクタ弄りが趣味だし。まあ、作業再開しようかとまた作業し始めたときにそれは起こった。
「「お前らうるせぇんだよ!!」」
何か大声出してハゲた人とモヒカンの人が入ってきた。あ、もしかしてあれか。中華料理屋やったときに麻婆に撃沈、そんでもって営業妨害で西村先生に引っぱられた人たちか。
「騒がしいと思ったらやっぱりまたお前らか!」
「お前らはつくづく目障りなヤツだな……!」
ひどい言いようだ。大体営業妨害やったのはそっちの方じゃないか。お前らって言うときにチラッと須川君と佐藤さんの事を見た辺りは因縁をつけたいのはその二人みたいだね。
「えーっと……誰だっけ?」
とりあえずいつの間にか近くに居た須川君に聞いてみる。
「衛宮、あの営業妨害だ」
「衛宮君、あの最高学年とは思えない幼稚な頭をした営業妨害ですよ」
あーやっぱりそれでいいんだ。
「二人ともそれは言いす……あ、大体間違いじゃないね」
「おい!? 今言い直そうとしたくせにおれ達の顔を確認して言い直すのをやめなかったか!? てか、もっと酷くなってないか!!?」
「お前等、おれ達を心の底から営業妨害だと思っているだろ! 常村と夏川だ! いい加減名前くらい覚えろ!」
いや、名前自体初耳だから。へぇ、割と普通だね。
「それで常夏先輩。どうしたんですか?」
「早く用件を言ってください。先輩方」
姉さんと悠里さんが応対に出た。まあ、そっか現場仕切ってるのは実質悠里さんだし。
「テメェ……個人を覚えられないからってまとめやがったな……」
「流石はあの観察処分者だ。脳の容量が小さすぎるな」
「いえ、始めから覚える気がないだけです」
「「そっちのほうが失礼じゃ!!」」
「あんたらの方がよっぽど失礼だろ」
須川君が横から口を挟む。すると先輩たちは須川君を睨みつけた。須川君もにらみ返す。
「須川君、どーどー」
「ん? 衛宮はむかつかないのか?」
え、なんでさ。
「あんな小物に対して怒ってもしょうがないでしょ」
「どんだけ侮辱する気だ!?」
は? そんなの当然、
「メンタルへし折るまで」
「おお、衛宮が意外と言うな」
「衛宮君どうかしたんですか?」
何か驚いてるみたいだけど普通のことじゃない?
「っていうかお前らうるせぇんだよ! 俺達への当てつけかコラ!」
「夏期講習に集中できねぇだろうが!!」
なんだか殺気だっているようにも見える。受験勉強でピリピリしてるのかな? とはいえ酷い言いがかりだなぁ。
「先輩方、そいつは酷い言いがかりじゃないの?」
「だよね」
うん、確かにそうだよね。
「大体ここは旧校舎だけど、この前耐久性に対する工事はしたわ」
「うん、そのせいで補習なかったはずのぼくらにも特別補習が付いたんだし」
「それに、本来あんたらが居るのは新校舎よ。それもAクラス、よっぽどのことがない限り音が響くわけないじゃない」
姉さんと悠里さんの正論が難癖つけてきた先輩たちに突き刺さる。
「「うっ……」」
ああ、なるほど。
「先輩方は……勉強に飽きてフラフラしているところでぼく達が何かやってるのに気がついて、八つ当たりをしにきたってところですね」
姉さんが笑って言うとハゲの先輩はバツが悪そうに目を逸らした。ハゲの先輩がこちらを向いて噛み付いてくる。
「それじゃあ言わせてもらうがよ。お前らは迷惑極まりないんだよ! 学年全体での覗き騒ぎに、挙句の果てには二年生男子が全員停学だぞ!? この学校の評判が落ちて俺たち三年までバカだと思われたらどうしてくれんだ! 内申に響くじゃねぇか!」
「学年全体? そんなわけないじゃないですか。ウチのクラスは三人だけですよ」
「ま、やらかした人数は多かったけど、そこまで騒動になりませんでしたよ。学園側がもみ消し頑張ったし」
これ結構疲れたっスよーとかジナコさん言ってたよなぁ。つらつら別の事を考えていると悠里さんが先輩に言った。
「確かに文月学園のイメージが落ちたのは事実だけど。それが直接的に内申に響くわけじゃないわ? 内申とは先生方がその人の学習活動や学校生活についてを書く文書のことなんだからね。だから、貴方たち三年生がしっかりしてれば内申には響かないことになる。それに文月学園のイメージはこの肝試しが成功すれば上がるわよ。それとも、ただ単に二年生に難癖つけたいだけかしら?」
「逆にこんなことしてる暇があるのなら準備をしたらどうですか? 内申が微妙なら実力で取るしかないんでしょ?」
あ、悠里さんも姉さんも怒ってる。
「テッメぇら上等じゃねぇか
ハゲの方の先輩が召喚獣を呼び出そうとする。フィールドは物を持てる召喚獣のためにはってあったんだった。あ、
「全く……3年生はどうしてこうも厄介なことしようとするかね」
学園長が来て呆れながらそう言った。
「「学園長!?」」
この場にいた全員が驚きの声をあげた。うん、まあウチの学園長ってそこまで気軽に会うことないし。
「ストレス発散したいなら、あんたらも肝試しに参加すればいいじゃないか、ここで小競り合いをしているよりは有意義さね」
そう言って学園長はハゲの先輩とモヒカンの先輩達を見た。当然先輩たちはキレる。
「じょ、冗談じゃねぇ。こんなクズどもと……」
「黙りな。ちなみにアンタ等に拒否権はないさね」
淡々と学園長はそう告げた。それからちょっとだけ考えるような仕草をして
「そうだ。明日の夏期講習・補習の最終日は全員参加の肝試しにしちゃったらどうッスか?」
いつの間にか居たジナコさんが学園長に提案しだした。本当に何時の間にそこに居たの?
「ふむ…その方がいいかもしれないねぇ」
学園長はその意見を聞いて楽しそうにニヤッと笑った。なんだろう、こう、心底楽しんでますね学園長。
「「な……っ!?」」
ハゲの先輩は驚いて目を白黒させる。
「ただし、これはあくまでも補習と夏期講習の仕上げだからね。補習と講習の参加者は余すことなく全員参加すること。いいね」
学園長はジナコさんと一緒にそれだけ言うと出て行った。うわぁ、面倒なことになった。
「あーあ、面倒だけど。そういうワケだからセンパイ。楽しくやりましょう?」
「お、お前らなんざと仲良くやるつもりはねぇ……」
「だよねー。ぼくもアンタらは気にくわないし……っていうことで、こういうのはどうですか?」
「あぁ?」
モヒカンの先輩に姉さんがなにやら紙を渡した。
「驚かす側と脅かされる側にわかれて勝負をする」
「二年と三年でわかれて、ってことか」
「ええ、それなら仲良くやる必要は全くないでしょう?」
「悪かねぇな。当然俺たち三年が驚かす側だよな?俺たちはお前らにお灸を据えてやる必要があるんだからな」
「ふむ、本当にそれでいいのね?」
あれ、悠里さんもしかして何か考えてる?
「ああ、当然だろ。で、ルールは?」
「決まりね。これよ」
そう言って悠里さんが取り出したのはA4サイズのプリント。どれだけの数のプリントがあるんだろう? 様子を見ていたら悠里さんがこっちに気が付いてプリントを渡してくれた。須川君と佐藤さんが横から覗き込んできたけど、それを気にせずに項目を確認する。
・二人一組での行動が必須。 一人だけになった場合のチェックポイント通過は認めない。
※一人になっても失格ではない。
・二人のうちのどちらかが悲鳴をあげてしまったら、両者とも失格とする。
・チェックポイントはA~Eの各クラスに一つずつ。 合計五ヶ所とする。
・チェックポイントでは各ポイントを守る代表者二名(クラス代表でなくても可)と召喚獣で勝負する。 撃破でチェックポイント通過扱いとなる。
・一組でもチェックポイントを全て通過できれば驚かされる側、通過者を一組も出さなければ驚かす側の勝利とする。
・驚かす側の一般生徒は召喚獣でのバトルは認めない。 あくまでも驚かすだけとする。
・召喚時に必要となる教師は各クラスに一名ずつ配置する。
・通過の確認用として驚かされる側はカメラを携帯する。
・設備への手出しを禁止する。
「後はこれに物理による攻撃の禁止を盛り込む予定よ。それからペアを引き剥がすような行為は禁止もね」
ペアのほうはFFF団対策でもあるかな。多分あまり意味ないだろうけど……FFF団って世間とかルールとかガン無視していくもんね。
「この悲鳴の定義はどうなっている?」
モヒカンの方の先輩がプリントを見ながら尋ねる。
「そこは声の大きさで判別するつもり。カメラを携帯させるわけだし、そこから拾う音声が一定値を超えたら失格ってところかしら」
「そんな事ができんのか?」
「……問題ない」
「うわっ」
いつの間にか来ていた神海さんが親指を立ててサムズアップする。カメラに関しては得意だもんね。
「チェックポイントの勝負科目はどう決める?」
「それについてはお互いに一つずつ科目を指定ってことでどう?」
「一つずつ? 二つずつじゃないのか」
「もう既に化学と現国と数学の教師には話をしたから。受験で選択され易いその二つならそこまで有利不利もないし問題ないでしょう?」
A~Eクラスなので、チェックポイントは全部で五つか。そのうち二つは現代国語と化学と数学で決定済みで、残り二つをそれぞれが選ぶことになる。
「坂本よぉ。それなら……」
「何よ」
「ただ勝負するだけじゃつまらねぇから……罰ゲームを決めようぜ」
うわ、何かさらに面倒なことになってきた。
「やるわけないでしょう」
「おいおい……坂本。さては、勝つ自信がねぇな?」
「そもそもなんであんたたちに因縁つけられるのかすら不明だわ。正直、勝負事は面倒よ。それにもうちょっと頭働かせたら分かることでしょう?」
「なんだと!?」
さすが悠里さん、先輩相手でも容赦ない。まあ、わけが分からない言いがかりっていうのは合ってるか。
「大体、この勝負は皆はまだ知らない。それなのに、罰ゲームを相談なしに決めたら学年全体から非難されるに決まってますよね?」
「そんなことも考えられないのかしら?」
「……ちっ」
こうして気がつけば肝試しは三年生を巻き込んだ大規模な催しになっていた。どうするんだこれ。
「ああ、ちなみにだけど」
悠里さんが振り返ってみんなの方を向いてパンパンと手を叩いた。
「みんな、急で悪いんだけどこっち側で作った小道具は片付けて頂戴。大丈夫、一般公開のときに使えば平気よ」
「なっ」
「どういうことだよ」
突然妙なこと言い出した悠里さんに先輩たちは食って掛かる。
「勝負ってものは準備からやるもでしょう? それともあんたたちは後輩に塩でも送られたいの?」
悠里さんのことだし何か考えそうな気がしてたけどまさかここまでとはね。悠里さんの隣で姉さんはげらげら笑っていた。
ちょっと酷くてすみません。この小説は主に悪ノリでできてます。
常夏の扱いが酷くてすみません。