第一問
文月学園学園長室、そこでは野暮ったいボブショートの髪をした黒縁メガネに白衣の女性、ジナコ=カリギリと学園長、藤堂カヲルと補講教員、西村宗香と二年生の学年主任、高橋教諭がとある召喚獣を囲んで会議していた。三人の前には宗香の姿をした手に経を持った等身大の召喚獣が居る。
「えー、これどうするっスか」
「まあ………夏だね」
「学園長、そういう問題ではありません」
高橋教諭のツッコミが入る。ジナコが頭を少しかきながら同意した。
「そうっうスよねー、これあの子らにバレたら多分殴り込みとか来るんじゃないっスか」
何かとトラブルに巻き込まれる面々の顔をジナコは思い浮かべた。すると宗香が首を振って言った。
「うーん、あの子達はともかく別の生徒が殴りこんで来そうよね」
「そうっスか?」
そこにノックもそこそこに入ってきたのは、思い浮かべていた顔ぶれではなく、妙に整った顔立ちの、しかし妙に幼すぎる目をした少年たちだった。
「……本当だったっスね」
☆
元Aクラスの現Fクラス、最近の工事のおかげで全クラスにクーラーが入った。ついでに隙間風があった部屋も補修されたんだよね。良かったよ
「それにしても補習って面倒だよね」
「まあ、あれだよ成績で補習とかじゃないだけマシじゃないかな」
それでもやっぱり面倒なものは面倒なんだよねー。何で夏休みになってまで学校に来なくちゃいけないんだろう。そんな感じで姉さんとだべってた。
「まあね。あれだよね学校の補修が原因で補習って……ギャグ?」
「寒いよ」
うん、正直自分でも寒いなぁっておもったよ。まあ、補修するのに結構時間食われたもんね。
「だよね。そういえばシステムの補修終わったのかな?」
個人的には大丈夫かどうか気になるんだけど。姉さんは凄く渋い顔をした。
「もうトラブルは勘弁してほしいよ」
「じゃあ、下手に何もしないってことで」
まあ、トラブル続きも勘弁だしね。期末のときはどうにか普通だったのにこれ以上何か起こったらもう嫌だよね。特に姉さんは色々と巻き添えくらいやすいし。
「アキヒサー」
「あれ、南どうしたの」
南が急にやって来た。何か慌てた様子だけどどうかしたのかな?
「Dクラスで召喚獣を召喚したんだって、そしたら……」
何か物が倒れる音がした。旧校舎の方からだ。
「何事?!」
「また召喚獣の暴走とか勘弁して!」
姉さんの魂からの叫びが聞こえた。またなんかトラブルかと南の方に視線を向けたら南が慌てた様子で言ってきた。
「何か等身大の召喚獣が出たんだって。しかも何かお化けらしくて、それでびっくりした他の人も召喚したら他の人のも化け物っぽいのが召喚されて」
「うん、わかった。とりあえずまたトラブルかい」
「もう勘弁してよ」
何でこの学園ってトラブルが絶えないのかな。もうそろそろ平穏な日常が欲しいよ。普段もFFF団とかで色々とロクでもない日常送ってる気が……。
☆
さて、お化け召喚獣が呼び出されたその後、ぼくと悠里は学長に呼び出された。ぼくたち何かやらかしたっけ? とか話ながら学園長室に入ってみれば、学長とジナコさんが居た。
「で? あたしたちに何か?」
「これを見ておくれ」
学長が何かプリント一枚を悠里に渡した。悠里が見ているのをぼくは横から覗き込む。そこに書かれていたのは、
「ふむ、お化け屋敷?」
お化け屋敷の一文字だった。一体これはなんなの?
「オカルトの方面が強く出てしまった召喚獣が原因で一部の生徒が暴走してね。それを収めるためにイベントごとを開こうっていうのさ」
「ま、その案出して来たのはその暴走してた生徒なのに、具体的なことがまーったくなってないお粗末な案だったんっスけどね」
うわ、何それ。せめて提案するなら少しくらい具体的なこと考えなよ。例えばどういったコンセプトのお化け屋敷にするとか、どういう形式のものにするとか、召喚獣使うならせっかくだし召喚獣勝負取り入れないと……あ、無駄に色々考えていた。学長たちの方を見てみれば、ちょっと苦虫を潰したような顔をしてる。何かまずいことあったのかな?
「でもまあ、この案を呑まないと訴えると煩くてねぇ」
「ウチは良くも悪くも世間様の目が厳しいっスからねぇ」
あー、確かにそうか。世間の注目を集めるからこそ、暴走召喚獣なんて騒動引き起こした夢路すら観察処分者にするだけに留まることになるし、集団覗きの騒動だって内々で処分するだけで済ませることになったんだよね。
「それでぼくらに協力しろと? でもなんで」
呼び出される理由が全く思いつかないや。ぼくたち何かやった?
「今年の学園祭の出し物の売り上げの一位があんたたちのクラスだったんだよ」
「ちなみに二位は2-Aの茶房っス」
へぇ、確かにAクラスの茶房は良かったよね。こう、全体的に和って感じで。あっちの企画って誰がやったんだろう?
「で、その企画力と演出力を買いたいってわけさ」
「はぁ、当然見返りは用意してもらえるんでしょうね」
さすが悠里、こういう時には報酬もきっちり取るつもりか。まあ、報酬もないのにやる気はないよね。学長が少しだけ考えてから口を開いた。
「そりゃもちろんさ。暴走の一件でも世話になったしね。そうさね、スポンサー企業の特別優待券ならどうだい?」
「うーん……裏でなんかまずいことやってる企業じゃないならいいですよ」
「それは大丈夫っスよ」
ジナコさんの情報網舐めないでほしいっスねぇと言われて安心した。ジナコさんが間に入ってくれるなら(多分)大丈夫だよね。
「ならあたしもそれでいいわ」
そんなわけで二年生全体を巻き込んだお化け屋敷計画がスタートすることになったのだった。
学園長室を出てから、定位置である悠里の左側をキープして、ぼくは悠里に歩きながら話しかけた。
「はぁ、悠里いいの? 引き受けちゃったけど」
報酬に釣られたとはいえ、こんな大事任されるなんて滅多にないよね。
「いいじゃない。ひと夏の思い出には最適でしょ? それにこういうのは腕が鳴るわね」
「あはは、悠里らしい。こういったお祭り系は悠里大好きだもんね」
基本的に楽しいことには全力投球だし、後は気に入らない奴に対する対応もすさまじいか。まあ、ぼくも人のこと全然言えないけどね。
「明乃も結構そうじゃない。で、協力してくれるのかしら?」
「もちろん、悠里が動くって言うならぼくが動かないわけないでしょ? 派手にやろうよ」
ぼくが右手を上に上げれば悠里は笑って左手を上げる。
「当然ね。じゃ、行くわよ!」
「おー!」
ぼくらはハイタッチをして、教室に戻った。よーし、がんばるか。夏休み入る前では多分一番楽しい行事になりそうだしね。
オカルト召喚獣スタートです。まさかの召喚獣判明せずにスタートした件。
西村先生の召喚獣のモデルは経凛々、取り憑いた人に無理やりお経を読ませる妖怪です。妖怪というより九十九神? 本質というよりは何か別物だけど気にしないことにしようかなと。服装は袈裟をイメージしてます。あえての男物は趣味とぶっちゃけ尼さんの服装似合わなさそうだから。