「あ、ギル様」
「ああ、小娘か」
「忘れてた。はい、これ」
「ふむ……ほう」
「前にギル様欲しがっていましたよね。知り合いが持ってたから貰ってきたんです」
「なるほどな」
「ただそれ、男女専用ペアチケットなんですよ。大丈夫ですか?」
「なに、当てはある」
☆
朝、日課になってるランニングをしていると急に悪寒が走った。なんだろう、凄い嫌な予感がする。
「……嫌な予感しかしない」
どうしたものだろう、今日はさつきと出かける予定なのに。久しぶりに服を買いに行くのに。
「うーん、こういう時の予感って大抵当たるんだよな」
月の裏側での記憶が脳裏をよぎった。色々とあったなぁ。主に拝金主義とかぱんつはかせないとか
「あー、バーサーカーが恋しい……」
そう呟いた時に背後に何か気配を感じた。
「!」
振り返ってみれば見覚えのある金色と赤を見たような気がした。そこでいきなり私の意識は途切れた。
「はっ」
「気が付いたか、雑種」
気が付いてみれば、知らない部屋の天井に見覚えのある顔が結構アップで見えた。
「ギ、ギル……」
とりあえず体を起こして周囲を見渡してみれば、本当に知らない部屋だ。私の家とも違うし、どこか古い洋館を思わせる家具や部屋は縁がない。
「というか、ここどこ?」
「冬木に決まっておろう」
なにをさっくりと言いやがりますか、このAUO
「ちょ、冬木って三咲からかなり離れてるのに、どうやってここまで来たんだ?」
「ん? 我が
ドヤ顔でそう言い切ったぞ。この慢心王、うわぁ神秘の秘匿とか大変なことになってるんじゃないか? それにまさかあのヴィマーナ使うとは……インドの英霊もこんなしょうもないことに使われるとは思ってなかっただろうな。
「そうか、おい、ギル 私に何か用なのか? 今日は友達と服買いに行く予定だったのに」
さつきと約束してたのに。凹んでるとそんな私の顔を見たギルガメッシュが見下したような顔で笑う。
「はっ、貴様は
「だぁぁぁ、相変わらずのギルガニズムかよ。おい」
思わず掴みかかってしまった。
「……ギ」
「あ、え?」
「む?」
部屋の扉から茶色の長い髪に茶色の目の女の子が顔を覗かせていた。思わず二人で彼女の方を見れば彼女がちょっと怯えたような顔をしてから叫びだした。
「ギル様がついに人拉致ってきたぁぁ?! うわぁぁぁ、カレン姉さーん!!」
彼女は大声を上げて何処かへ行ってしまった。とりあえず。
「……ギルガメッシュ」
「なんだ、
掴みかかった手にもっと力が入る。
「ついにってどういうこと?! まさか、どこかの誰かに迷惑かけてるの?! どこの誰か教えて、謝ってくるから!!」
「何を言うかと思えば、そのようなもの不要であろう」
もう、それこそ頭を抱えたくなる。てか、頭を抱えた。
「あるよ!! 大ありだよ、バカ! あああ、もうなんでこいつはこう他人に迷惑かけないと生きていかないの」
「雑種」
「あ」
殺気のこもった声に、ギルガメッシュを見てみれば背後にゴゴゴと何やら嫌な音をさせている。うわぁ、久方ぶりデスね。ゲート・オブ・バビロン。
「貴様はふぐぁ」
「?!」
なんか赤い布でギルガメッシュが絡み取られる。あっけにとられてると背後から声がした。
「……全く、ここは神聖なる教会です。それにこの場での宝具解放をしないことを条件にここに入ることを許したのに」
「えっと、どちら様?」
先ほど女の子が飛び出していった扉の方を見てみれば、また別の女の子が居た。白い髪のシスター服の女の子だ。
「こんにちは」
「えっと、あの……大丈夫ですか?」
「あ、さっきの ごめん、あのAUOが迷惑かけたみたいで」
ひょこっとさっきの女の子が入ってくる。こっちの子はカソック服だ。なんで? まあ、それはいいとしてこいつが日常的に迷惑かけてるっぽいし謝っておこう。
「いえ、こちらこそすみません。まさかよその人を拉致してくるとか」
「おい、花楠 我を王と呼ぶのは当然のことだが、英雄王の発音がおかしいのではないか」
もうギルガメッシュは復活していた。流石人類最古の英雄王、復活も早い、こういう時は誤魔化そう。
「さすが、復活早い。それから気のせい、気のせい」
「……ふんっ、ならいいが」
うん、意外とちょろいよなこいつ。懐かしさを感じていると女の子二人が驚いた声を出した。
「……えっと、マジ?」
「意外ですね」
「どうかした?」
なにがそんなに意外だったんだろう?
「いえ、あの英雄王があそこまで素直になるとは」
「うん、意外というか奇跡?」
「え?」
そうなのか? あ、でも出会ってすぐは割と……むしろあれか、私の事なんて歯牙にもかけてませんでしたよね英雄王。
「まあいいや、迷惑かけたお詫びってわけじゃないけど朝ごはん一緒に食べませんか?」
「いい?」
「ええ、元々朝ごはんが出来たから呼びに来たので」
「じゃあ、いただいてもいい? ちょうどランニング中で朝飯食べていないから」
正確には食べる前に拉致されたといったほうが正しい。ああ、多分今日はハルお手製のオムレツ付きモーニングプレートだったのに。残念だ。
「大丈夫ですよ。基本的に来る人拒まずですから」
「ありがとう。そうだ、自己紹介を忘れていた。私は
全く名乗っていないことを思い出して、名乗ることにした。ついでにフォローも忘れない。下手にここで転生とか喋ったらヤバいことになることは嫌でもわかる。
「そうですか、よろしくお願いします。花楠さん、ぼくは言峰明乃、この教会に住んでいます。えっと、聖杯戦争の監査役兼ランサーのマスターを務めさせてもらっていて、えっと……」
「監査役ってごつい男のイメージが大きい……ん? 言峰?」
どもった茶色い方の髪の女の子こと明乃ちゃんの言葉を反芻させて、ふと気になる単語を見つけた。
「何か?」
「……なんでもない」
こんなかわいくていい人そうな子があの購買店員の娘とかないない。多分義理か何かだろう。
「ならいいですけど、じゃあ案内しますね」
食事は割愛、一応一言美味かった。それからすぐにギルガメッシュに引っ張られて出かけることになった。それにしても、ここでのこいつの服装いたってまともだよな。なんか黒っぽいジャージみたいなのに、白のインナーに黒のズボン……うん、ちゃんとした普段着持ってるなら着てほしかった。あの大阪のおばちゃんが着そうな代物は勘弁して欲しかった。
明乃ちゃんが見送りに来てくれた。本当にいい子だよな。
「はぁ、本当にうちの暴君がすみません」
「いやいや、私のほうこそこれがいつも迷惑かけているようで……」
全く、どんだけ余所様に迷惑かければ気が済むんだこの暴君。
「これとはなんだ。これとは、まあいい、行くぞ花楠」
「はいはい、じゃあ、朝ごはんごちそうさま」
とりあえず引きずられるようにして、私はその場を離れることになった。
「うん、おいしかった」
味を思い出して思わず呟く、ハルのオムレツ食べ逃したのは残念だったけど、朝飯は美味しかった。
「では参るぞ」
「どこにだ?」
いきなり連れてこられただけだから何処に行くのかも知らないんだけど。
「見よ」
「あー、如月グランドパークか、色々と話題になってる。それにしてもさすがギルガメッシュ。入手困難なチケット手に入れるとは、しかもプレミアム」
ギルガメッシュの手には如月グランドパークのチケット、しかもプレミアムバージョンが握られていた。
「当然であろう、王たる我が凡俗のチケットで行くと思うか」
「ま、それはそうだと思う」
こいつが普通のチケットでいくとか予想が付かないし。
「それにしても、いつもながらに貧相な恰好よの」
「元々朝のランニング中だった。普段だったらもう少し見れた格好する」
現在ランニング用のノースリーブにショートパンツにスニーカー、とりあえず遊園地に行くやつがする格好ではない。
「そのような姿で我の隣に並ぶなど愚かにも程がある。丁度よく店も開いたようだし行くぞ」
「え、ちょ は?!」
普通に歩いていたわけだが、いきなり手を引かれると目の前にある服飾店へと引きずり込まれた。
「……なんでこうなるんだ」
店内に連れて行かれた私は完全に着せ替え人形と化していた。現在は少し露出度が高めのスポーティーな服装。それをじろじろと上から下まで眺めたギルガメッシュが傍に控えていた店員さんに言いつける。
「ふむ、もう少し清楚なものを持ってこい」
「は、はい」
ご愁傷様です店員さん。心底同情します。開店直後にいきなり札束出されて無茶苦茶な注文を数多く言い渡されるとか……私が店員だったら心底嫌だ。
それでも店員さんは割と根性のある人だったみたいで別の物を持ってきた。フリルがちょっとだけ入った淡い黄色のブラウスにの黄緑カーディガン、それからこちらも淡いオレンジのロングスカート……何この清楚なお嬢様スタイル。
「こちらなどいかがでしょうか?」
「は? こんなの、着れるか!」
可愛いけど、可愛いけど、着られるわけがあるかぁぁぁ?! 慌てた私の表情を見てギルガメッシュはにやりと笑う。あ、楽しんでますね英雄王。
「ほう、良いではないか」
「え、ちょ タンマ!」
ポケットの外に出して、戸棚に置いていたケータイが光ってる。着信だ!
『もしもし?』
「あ、いなりか! 頼む、助けてく」
れを言うよりも先にギルガメッシュにケータイを取り上げられる。
「なに電話なぞしている。行くぞ」
「ちょ、まて こんなのが似合うわけないだろ」
食い下がればギルガメッシュがにやりと笑う。そんでもって、私のケータイの電源は切られてしまった。
「我が良いと言っているのだ。それでよかろう」
相変わらずのギルガニズムですね。そんなわけで渋々それに着替えた後、タクシーを拾って件の如月グランドパークへと着いた。
「いらっしゃいマセ! 如月ハイランドへようこソ!」
「これでお願いします」
この人なにとは言わないけどエセすぎるだろとか内心ツッコミを入れながら、係員にチケットを見せる。
「拝見しマース」
「?」
チケットを確認した後、エセ係員が小声でマイクに何かしゃべりだした。
「―――私だ。例の連中が来た。ウエディングシフトの用意をはじめろ。確実に仕留める」
そういえば忘れてた。ここのキナ臭い噂。
「……ギル、無性に帰りたくなった。帰っていい?」
「ならん」
即答ですか。
「ですよねー。私は絶賛帰りたい」
「ならんと言っておろう」
二度目も即拒否られた。
「帰らせろくださいお願いします」
「ほう、王たる我に意見すると」
「っ」
顔がぐっと近づけられて、首元に手が伸びてくる。やば、首絞められる?! かと思ったらすぐにギルガメッシュの手の感触は無くなった。代わりにあるのは若干の違和感。
「ちょ、なにした?!」
「うむ、丁度良い首輪だ」
実に満足げにしないでほしいんだけど。状況を見てみたら唖然としたくなった。
「……マジで首輪付けたんかい」
その辺にあった鏡っぽいところで確認してみれば、首には多分首輪をモチーフにしただろうチョーカーが付いていた。うわぁ……さっきの店で何かを熱心に見てたみたいだけどこれか。
「あー……悪趣味な首輪だな」
カリカリと取ってみようとするけど外れない。それに外そうとしたらその手をギルガメッシュに抑え込まれた。
「これあとではずすよな?」
「外すなどという選択肢があるとでも思ったか?」
おい……おい。
「……BBに言いつけてお前の今後編纂させる」
うん決めた。今決めた。今後もこの調子だったらそうしよう。私が口にした名前にギルガメッシュは眉をひそめる。
「………BBだと?」
どうやらこいつはBBが居るとは思っていなかったらしい。
「私のかわいい後輩に文句があるならご自由に、あれはあれで健気だと思えば健気」
たまに愛が重いけど。
「アノー」
エセ係員は私たちの会話に実に入りづらそうにしていた。あ、忘れてたわ。
「うるさい道化は黙っておれ」
「は、はい……」
ギルガメッシュの睨みつける。効果は絶大だ。まあ、冗談はそれまでにして係員がかわいそうだったので、ギルガメッシュの服の袖を少し引っ張った。
「しょうがない、ギル行くぞ」
「まあ、良い貴様が案内するというなら我を興じさせることだな」
ま、ついでにウェディングシフトも回避ってことで。
「つまらん」
「さいで、まあ一通りは回った」
それから二時間ぐらいで、絶叫マシンに迷路、メリーゴーランド、月並みっちゃ月並みだけど普通のところは回った。あ、一つだけ残ってる。
「お化け屋敷行くか」
「? お化け屋敷、なんだそれは」
「え、知らないの?」
まさかの英雄王がお化け屋敷をしらないとか、驚いてるとちょっと目をつぶっていたギルガメッシュが目を開けてにやっと笑った。
「……ああ、なるほど。魍魎共の巣穴を模した屋敷ということか」
「正解、さーて気合い入れていくか」
「ん? 何か貴様に意気込む要素でもあるのか?」
これは重要なことだ。
「うっかり攻撃しないように、勘違いして普通の人に攻撃とかシャレにならない」
「はははは、それは見物だな」
「いうだけ言えばいい」
そんなわけで、廃病院を改造して作ったという、噂のお化け屋敷に向かうことにした。入ろうとする直前に係員が声をかけてきて、誓約書を書かされそうになった。誓約書が要るレベルのお化け屋敷ってどんだけこわいんだよとかツッコミを入れながら誓約書を手に取れば、とりあえずツッコミしかない内容の文が書かれていた。
「……」
「ふむ」
ギルガメッシュが内容を読んで真剣な顔になる。何を考えているのかはよくわからない。誓約書を係員に突っ返す。
「とりあえずお断りします。大体お前に戸籍ある?」
「戸籍はあるぞ。十年この時代に現界してるからな」
「そっか、とりあえず中に入るか」
そういうわけで雑談をしながら中に入ることにした。
「うーん、結構雰囲気はあるか、最近の技術は侮れ……」
ふと前を見れば、目の前に信じられない光景が広がっていた。
「どうかしたか、雑種」
「……」
無言で指を前に向ければギルガメッシュも前を見る。それから言った。
「実に恐ろしいのは女ということだな」
「そこじゃないと思うのは私だけ?」
それ以上に色々とツッコミどころあるからね?!
「他に何があるというのだ」
「なんであんな状況になってるのかを考えたほうが……いや、他人だし気にしないほうが……」
何が起こっているんだろう。片や見覚えのある黒髪碧眼の美少女とそれから赤い髪のアイドル、片や確実に見覚えしかない没個性な男女のコンビが何やら喧嘩してた。どっちかっていうと男の子が一方的に責められている感じだけど。シズが女の子誑し込むとかありえないし、誰かと勘違いしてるのか?
「あやつめ。これでは主共々共倒れになると思わんのか?」
「逃げよう。ギル」
怒りに任せて槍を取り出した赤い髪のアイドルを見て、私はギルガメッシュの腕を取って走り出した。一直線に入口へと戻る。
「はーはー、死ぬかと思った」
「お疲れサマでシタ。どうでシたカ? 結婚したくなりまシタか?」
まだいたのかよこの係員。
「……どう頑張っても無理」
「大体、この雑種を妾にすることすらありえんだろう」
うん、それは前に聞いた。というか、無いでしょ。
「私の方から願い下げ、大体こいつ相手に吊り橋効果なんて無理」
あったとしたら首刎ねられそうになってそれが助かったぐらいだろうけど、処刑人と恋する相手が同一とかありえない。
「ま、まア、気を取り直シテ。デハ、豪華なランチを用意してありマスので、こちらにいらして下サイ」
「へぇ、それはいいかも」
流石プレミアムチケット、この辺は徹底してるな。
「この我の食事を用意するというのであれば全て一級品でなければならんぞ」
「つくづく思うけどギルほどのクレーマーはあんまり居ない」
「何だと」
くだらない話をしながら私たちはランチの会場へと案内された。
そんなわけで続きます。ここまで長くなるとは正直思っていませんでした。
見事に長すぎて一昨日、昨日は更新できませんでした。
一応ベースは如月グランドパーク編、うっかりずっとハイランドだと思い込んでいたのでそれは訂正します。
見事にバカの出番がなかったんだ。どうしよう、それからシズハルコンビと対峙していたのは月海原の方のリンとランサーでした。暗がりなんでウミとシズを間違えただけです。四人とも普通な方のチケットで来たので企業の陰謀は知らない。