バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第二問

 

山のふもとにある神社の神主(仮)である僕、雨下(うか)いなりの朝は割と早い。

 

「くぁー」

 

今日も今日とて襖越しの朝日を浴びて目が覚める。これが大体5時とか6時、それからいつもの巫女服に着替えて、顔を洗いに行く。

 

「ねむ……」

 

山から引いてきた冷たい水で顔を洗うと少しだけしゃきっとした。うん、やっぱり朝はこれだよね。

 

「よっと」

 

それから部屋に戻り、布団を片付けてからいつものように境内に向かう。

 

「うーん、よし」

 

ちょっと気合を入れたところで用具入れから竹ぼうきを取り出す。日課の朝の掃除だ。しばらく掃除に専念、参道を丁寧に掃き終えた僕は伸びをする。

 

「ふぅ、今日も一日頑張ろうかな」

 

よし、と気合が入ったところに神社の居住スペースの方からピンクの髪に狐の耳、それから青色の和装に割烹着を着た女の人がやってきた。

 

「おはようございます。ご主人様!」

「おはよう、タマモ」

 

彼女は僕の前世のサーヴァントにして、現世のご祭神にして眷属(笑)、玉藻の前。玉藻の前って普通に退治されたはずなのに、何故か僕の家の祭神(分霊)に収まっていた。うん、ツッコミどころは多いけど彼女だから仕方がないよね。

彼女お手製の朝食(完全手作り)を食べてから彼女に声をかける。

 

「ちょっとアジトに行ってくるから」

「そうですか、お早いおかえりを」

 

アジトという名の僕らが集まるいつもの場所に行ってみれば、珍しく誰も居なかった。あれー? 普段だったら、シズかハルが居るのに。

 

「あれ、みんな居ない?」

 

見渡してみれば僕の専用デバイスにメッセージが入っていた。シズとハルからで、今日はどこかに出かけるのでアジトには来れないとのこと。

 

「あー、そうなんだ。そういえばカナは?」

 

普段だったら二人が居なくても休みの日は普通にここに入り浸っているはずの幼馴染にして前世の相棒が居ない。気になってカナに電話をかけてみた。

 

「もしもし?」

『あ、いなりか! 頼む、助け……』

 

出たのはいいけど、なんかいきなりフェードアウトして行ってしまった。私には似合うわけない、とかそんなの趣味じゃないとか色々聞こえたけど最終的には電話が切れてしまった。どうしたんだろう?

 

「え、ちょ、カナ?!」

 

慌ててもう一回電話をかけてみるけど繋がらなかった。

 

「……切れたんだけど、どうしたらいいの」

 

こうなるとアジトに居る意味がなくなるんだけど。どうしよう

 

「うーん、今日は完ぺきにフリーか……そういえば、この前映画のチケット貰った気が……うん、たまにはいいよね」

 

普段の態度が態度だからしょうがないけど、久々に甘やかすことにしますか。そう考えて、僕は家である神社へと戻った。

 

「ただいまー」

「おかえりなさいませ。ご主人様」

 

割烹着は脱いだ彼女が出向かえてくれた。服の方は相変わらずの露出強だけど。丁寧に床に正座してお辞儀してくれる。本当にこういう時は大人しくてかわいいっていうか本当に良妻って感じなのに。

そんな考えを頭から消して、彼女に話しかけた。

 

「タマモ、今日暇?」

「へ、まあ、特に何かあるわけでも……ハッ、これはもしやデートのお誘い! いやん、ご主人様ったら」

 

うん、だからこれさえなければいいのに。後、R-18 籍入れるわけにいかないし。ついでに言うなら色んな意味で問題になるし。とりあえず、これは心を鬼にして伝えないと。

 

「……妄想垂れ流す暇があったらとっとと答えろ駄狐」

 

いつもの事だけどこれぐらい言わないと彼女反省してくれないところについては色々と呆れるか何かしたい気分だよ。

 

「うぅ、ご主人様が辛辣ですぅ。まあ、ご主人様のためならこのタマモどんな予定ああろうが即参りますけどね!」

「暇ならなんだけど、映画見に行かない?」

「映画ですか?」

「うん、知り合いの知り合いが映画好きらしくて最近よく見てるんだって。その関係で余ったチケットくれたんだけど……一緒に行ってくれる?」

 

ちなみに知り合いっていうのはカナの事だったり。うん、カナの映画好きの知り合いって誰だろう?

僕が彼女に尋ねれば彼女はにっこりと笑って。

 

「はい、もちろんでございます」

「そっか、ありがとう。服とか着替えるなら待ってるけど」

 

うん、幸せそうなかわいい顔ありがとうございました。それが見れただけでもいいよね。

女の子的にはそこらへん気にするのかなって思って彼女に言ってみたら、彼女は慌てた様子で立ち上がった。

 

「ありがとうございます。ご主人様! ちょぉっと、お待ちくださいまし」

 

部屋の奥へと消えて行った。それから彼女が別の服着てきたわけだけど、それは諸事情により僕のお古なわけで……彼シャツとかって威力抜群だよね。

 

                   ☆

 

自転車二人乗り(真似はしないように)で映画館へとやってきた。チケットを見てみれば最近はやりの恋愛ものの映画、これ見ようって思った理由を知り合いの知り合いに聞いてみたくなったよ。映画館を真正面に見据えてからふと、思い出したことを呟く。

 

「はー、そういえばまともに映画見に行ったのって多分シズとアニメ見に行った時以来かも」

「あれ、ご主人様ってアニメお好きでしたっけ?」

 

彼女がちょっと首を傾げる。あー、基本的に僕アニメとか見ないもんね。

 

「ううん、シズが好きだから付き合っただけ。露骨に男向けだったからハルのこと誘えなかったんだって」

「へぇ、そういえばあの二人って付き合っているんですよね」

 

あ、恋愛系には無駄に鋭い彼女が珍しく外した。そう思ったらちょっと嬉しくなったのでちょっと得意な気分を隠して、

 

「違うよ。アレで付き合っていないっていうんだからびっくりだよねー」

「え、そうだったんですか?! 私てっきり付き合ってるものと」

 

びっくりした顔も結構可愛いよね。

そんなこんなで中に入ろうとした矢先に金髪の美女と黒髪眼鏡の少年という微妙な組み合わせに遭遇した。突拍子もない組み合わせってわけじゃないけど、三咲の町自体に外国人があんまりいないから嫌でも目立つんだよね。それに、

 

「あれ、なんか見覚えが……」

「む、ご主人様。どちらをご覧になってるんですか?」

 

気のせいかな? 首をひねってると彼女がちょっと不機嫌そうに言った。慌てて訂正を入れる。

 

「いや、どっちも。あの学生服、カナのとこのだし。あの人……タマモ、覚えある? 僕、なんかうろ覚えで……」

「あー……あれじゃありませんか? カナンさんが戦った」

 

それを言われてカナが戦って言うサーヴァントを思い出す。ライダー、アーチャー、キャスター……あ。

 

「ああ! ガトーのサーヴァントだっけ。あれもバーサーカーじゃ」

「まあ、あそこは月ですからねー。見たところ真祖の吸血鬼で間違いないみたいですし、あれがマスターではねぇ……」

 

うん、表側に居た頃のログ見せてもらったけどあれは結構強烈だったよね。

 

「まあ、あの人肩の力さえ抜いちゃえば凄い人なんだけど」

 

一応フォローは入れておこう。あの人の『間が悪かった』は凄い理論だと思うよ。そんなことなんてお構いなしに彼女は僕の腕を引っ張る。

 

「ご主人様、映画見ましょう」

「それもそうだね。それにしてもあのバーサーカーも映画好きなんだね」

 

似たような感じで引っ張られていく学ラン君を見ながら彼女とあのバーサーカー似たようなところあるんじゃないのって首を傾げたくなった。

 

                    ☆

 

映画館を出てきた僕らの表情は正反対だった。

 

「うん、結構いい映画だったね」

「うぅ、ご主人様躊躇なんさすぎですよー」

 

満足げな僕と不満げな彼女、いや映画は普通に面白かったんだけど、暗がりの中で彼女が色々とやってきたのがきつかった。

 

「普通に手をつないだり、抱き着いてくるだけならいいけど、流石に……ねぇ?」

「せっかくの暗がりなのに……」

 

いや、普通はやらないから。まさか映画見ててキス迫られるとは思わなかったよ?!

 

「映画を楽しもうよ。全く……」

 

そんなこんなで自転車を押しながら僕らは歩いていった。

 

「お昼どうしようか」

「そうですねぇ。あ、あそことかどうですか?」

「あ、確かに良さそうかも」

 

普通に良さそうなファミレスを見つけたのでそこに入ることにした。

 

「すみません、二人分席開いてますか?」

「二名様ですね。こちらへどうぞ」

 

席に着いて、メニューを広げる。一通り見た後で僕は彼女に聞いた。

 

「うーん、何食べようか? タマモは決まった?」

「はい、こちらの稲荷寿司のセットにしようかと」

 

あー、やっぱり好きなんだ稲荷寿司、そういえば基本的にお揚げ入ってるもんねウチの食卓。

 

「そっか、僕はどうしようかな」

 

僕が一人で悩んでると後から青髪に眼鏡の女の人が入ってきた。一人で席に着くと、財布の中からお札二枚と小銭少しを取り出して机の上に置いた。何してるんだろう?

 

「すみません、カレーチャレンジで」

 

一気に店内の雰囲気が変わったよ?! いきなり戦場かっていうくらいの者になったんだけど何で?

 

「何だろう?」

「ふむ、こちらの品のようですね」

 

彼女がメニューの1か所を示してくれた。何々、超特大カレー、食べ切れたら無料、負けたら支払、横に写真が載ってるけど……

 

「うわぁ、富士山?」

「ていうか、これ食べきるって方が難しくないですか?」

 

どう見たって富士山みたいな物が載っていた。これを食べ切れとか絶対に無理。

 

「まあ、自信があるかよっぽどカレーが好きなんでしょ。僕は……うん、このネギトロ丼のセットにしようっと」

 

とりあえず注文をすることにした。僕と彼女の注文を言ってからふと思いついてもう一品頼むことにした。

 

「あ、すみません。後、あんみつ一つ」

「かしこまりました。稲荷セットが一つとネギトロ定食が一つとスペシャルあんみつが一つですね」

 

僕らの注文の品を待っている間にカレーがやってくる。恰幅のよさそうな男性が持ってきたのは写真で見るよりも数倍大きい富士山のごときカレーだった。

 

「うわぁ」

「アレは凄まじいですね。それに香辛料が強すぎます」

 

うわぁーとか言いながら彼女の顔色が少し悪そうだ。大丈夫かな?

 

「あ、タマモはきついの苦手だよね。お店出る?」

「いえ、大丈夫ですよ。それに注文しましたし」

「ならいいけど、無理しないでね?」

「はい! ふふふ、これで香辛料でくらぁとした私を心配してくれるご主人様、いやぁん」

「……うん」

 

見なかったことにしよう、そうした方が僕の身の安全が保たれる。あとでチョップかまそう、あんの脳内花畑狐は……

それにしてもあの青髪眼鏡の人、凄いスピードで食べてるなぁ。てか、もう真ん中ぐらいまで減ってるし。フードファイターも顔負けじゃないかな。

そんなこんなでお昼御飯も終わったことだし、服でも見に行こうかな。

 

                    ☆

 

店を出た後、歩きながら彼女に服を見に行こうと提案する。

 

「え、服……ですか?」

「うん、タマモの服見に行こうよ。今の服、僕のお古でしょ」

 

彼シャツ状態はもうそろそろ卒業していただきたい。

 

「別に構いませんよ? 神社の事もありますし」

「う、た、確かにウチは割と経営厳しいけど、タマモの服買えないくらい貧乏じゃありません! そりゃ、贅沢なの買えないだろうけど……」

 

ウチの神社結構貧乏なんだよね。まあ、そんなことで嘆くつもりなんてないけど。

 

「ふふふ、そのお気持ちだけで十分ですよ。それにしてもいいのですか? ご主人様のためならダキニ天法使うのもやぶさかではないのですが」

「はぁ、一応そういうの使う連中を叩く側の僕がそれに頼るわけにいかないでしょう。それに……タマモがいてくれたらそれで十分だし……」

 

あ、しまった。そう思った時には遅かった。彼女がちょっと固まってから僕の片方の手をしっかり握って顔をずずいと近づけてきた。

 

「! ご、ご主人様 ワンモア、ワンモア!!」

「ひ、人通りが多いから断る!!」

 

それから開いてる方の手で思わずチョップをかましてしまった。あう

 

「きゃん、うぅ、相変わらずのチョップ無双ですねぇ?!」

 

うん、ごめん。思わず手が出ただけなんだ。言い訳しようかなって思ったところにポケットに入れておいたケータイが鳴った。

 

「……あれ? 電話」

 

とりあえず誰かを確認すれば、月に居るカナ大好きの後輩(白)だった。こっちに電話かけてくるなんて珍しい。

 

「はい、もしm『ギルガメッシュ―――――!!』  ?!」

 

いきなり電話口で恨みごとのように大声で叫ばれた。一体どうしたの?! というかこれって黒い方の後輩だよね?! 電話が切り替わった。

 

『あ、ごめんなさい。今、ちょっとあの子たち、荒れてて』

「えっと、サクラ一体何が?」

 

後輩(白)に戻ったらしい。状況を問いただしたら。

 

『あー、えっとこれ見ていただけますか?』

 

デバイスにメールが来た。添付ファイルを開けて見れば、やけくそと言わんばかりに盛大に笑った我が相棒と太古の金ぴか英雄王、ギルガメッシュが写ってた……ウェディングドレスと白タキシードで。

 

「へぇ……ついにカナンさんあの金ぴかとくっついたんですか」

「いや、カナに限ってそれは無いでしょ。確かタイプは後輩系女子かモブ系同級生女子だし」

 

前世でそんなこと言ってた記憶がある。

 

「そういえばカナンさんって元男でしたよね」

「うん、まあ僕としてはもう女の子でしょって言いたくなるけど、それはそうとこれは?」

 

話を写真の方に戻してみた。

 

『えっと、如月グランドパークってご存知ですか』

「まあ、現在タマモと行きたくないとこワースト1だけど」

 

確か強制結婚……あ、読めた。

 

『この画像五秒ほど前に出されたんです。あ、普通に全データ削除しましたよ。コピーとかカメラのフィルム含めて!』

 

ドヤァって感じがしなくはないけど生憎僕がこの後輩を褒めたところで意味はないよね。

 

「お疲れ様、まあカナの表情から見て悪乗りもしくは強制って感じだから心配はしなくていいだろうけど」

『どっちかって言うと悪乗りの線が強そうですけどまあ、そこはいいんです。とりあえず後で先輩に真相聞いてもらえませんか?』

 

あー、やっぱ気になってるんだ。まあ、普通に考えたらそうだよね。大好きな先輩によりにもよって金ぴかが寄ってくるとかいやんだろうし。

 

「まあ、それくらいならお安い御用だよ。じゃあね」

『はい、この調子で如月グランドパークのこの計画潰しますね』

 

うふふふふ、と黒くなった白い方の後輩の声を最後に電話が切れた。色々と思うところはあるけど、これは………

 

「……束縛系女子に好かれてるカナもカナだよねー。てか、ギルガメッシュ誑し込んだ実績もあるんだしこれくらいちょろいか」

 

むしろあれは人誑し:☆とかついてそうで怖い。通話が終わって彼女の方を見てみればちょっと不機嫌そうだった。

 

「この手のこと頼むならご主人様よりシズさんの方がよっぽど的確じゃないですか? なんでわざわざ電話してきたのやら」

「ま、まあ 気にしたら終わりでしょ。じゃあ、気を取り直して買い物行こっか」

「! はい」

 

僕らは無事に買い物を終えて家路についたのだった。

 





そんなわけで帰ってきました。一週間ぶりでしょうか?
諸事情+スランプでいきなり更新休止宣言すみませんでした。活動報告にコメントくださった方々、この場でお礼申し上げます。

えっと、そんなわけで『急須使って緑茶』でした。
急須=とりあえず日本 緑茶=キャス狐のED って感じです。無茶ぶりすみませんでした。とりあえず人の予想を裏切ることをしてみたかった。前回の紅茶然り、今回の緑茶然り

キャス狐さんのマスター登場、彼女には妙に辛辣かつ甘いのは仕様です。多分デレがちょっとだけ多めのツンデレ、SGとか探したら『ツンデレ』もしくは『デレツン』がもれなく1に出てきます。

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