バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第九問

 

カルナに守ってもらいながら量子空間内を進んでいく。階層を進みに進み、ついに七階層まで到着した。一際デカい防壁が姿を現した。でかすぎだろあれ。何時ぞやのサクラのレリーフ並みだぞこれ、俺に解除できるか?

 

「ここでラストだな」

「結構強固な壁っぽい」

 

周囲の警戒と攻性エネミーの撃破はウミとカルナに任せて、俺は目の前にそびえたつ防壁の攻略にかかる。その途端にカルナから鋭い声が飛んだ。

 

「! 二人とも、下がれ」

 

俺たちが居たところに攻性エネミーの攻撃が飛んできた。寸でのところでかわすけど、これは厄介だな。

 

「っと」

「っ!」

 

防壁の周囲に攻性エネミーがずらっと並ぶ。その数はかなりのものだ。うわぁ、これ全部相手にするのってカルナ、大丈夫かよ。まあ、防壁へのアクセス自体は開始してるから離れても平気だけど。カルナの後ろに逃げ込んだ俺たちに無感情な声(システムボイス)が響き渡る。

 

『領域内への侵入を確認しました』

「! マジか」

 

音声を聞いて少しピンと来てしまった。まさか、いや、それは流石に無いよな? ついでに目の前に展開されたウィンドウの中身を見て辟易する。うわぁ、マジか。

 

「どうかしたのヒロ」

「これ、ムーンセルの防壁並みだ」

「へ?」

 

ウミが混乱しているところに生徒会室からの通信が入る。しめた!

 

『大丈夫? また映像に乱れが』

『大丈夫ですか、先輩』

 

リンとサクラの慌てた声が立て続けに聞こえる。サクラは俺のこと忘れてんのかなぁ。少し悲しい、まあ今はそんなところじゃないんだが。二人の声を少し無視して俺は叫んだ。

 

「誰かBB呼んで来い!」

『え、BBを?』

『何でですか』

 

ラニとレオが慌てて聞き返すが時間がない。なのでもう一回叫んだ。

 

「説明はあと! 急げ」

『はい、わかりまし……』

 

サクラの応答が聞こえた後、通信はまた切れた。あーあ

 

「チッ、切れたか」

「ヒロ、何でBBを?」

 

ウミが首を傾げる。まあ、ごもっともだよな。

 

「いや、まさかとは思うけどと言ったほうがいい感じ」

「は?」

 

ウミがぽかんと口を開ける。あー、やっぱその反応だよな。全然説明になってねーし。

 

「とりあえず、攻性エネミーが攻撃を始めた。こちらに集中してくれ」

「うん」

「了解」

 

                   ☆

 

その頃、Fクラス。バリケードを張り直して、警戒状態とはいえ、それほど緊張感のない空間が広がっていたわけだが、

 

「うわっ、何だ?!」

「バリケードが揺れた?!」

 

いきなりバリケードが凄い勢いで揺れた。揺れただけで崩れるようなこともなかったが、それでも教室に居た人間は慌てだす。それを落ち着けたのは一人の鋭い指示だった。

 

「みんな! 奥の方に避難して!!」

「わかった!」

「代表が言うなら大丈夫だな」

 

クラス代表の悠里だ。一喝でクラスの混乱を収めると次々に指示を飛ばして教室に居た面々を奥の方へと避難させた。少しほっと息を吐く悠里のところにパタパタと足音がした。

 

「悠里!」

「明乃」

 

ジナコや眠っている日向、日暮達のところに居た明乃だ。悠里に声をかけて、その横を通り過ぎ、明乃はバリケードに足をかけた。

 

「バリケードの外の召喚獣と戦ってくる」

「え?!」

 

悠里は驚く。当然だろう、生身で召喚獣と戦うのは危ないからだ。日向達があんな作戦を取ったのも明久や明乃の安全を守るためだ。悠里の驚く表情を見て、明乃は首を傾げた。

 

「どうかしたの?」

「あんたが召喚獣を呼ぶんじゃなくって?」

「ああ、大丈夫だよ? 普通にぼく悪運強いし。こんな生半可なとこじゃ怪我しないって」

 

それ悪運関係ないから、という悠里のツッコミが行くよりも先に明乃はバリケードを飛び越え、教室の外へと消えた。止めようと伸ばしかけた悠里の手は(むな)しく(くう)を切る。

 

「ちょっ……あー、明乃っていつもこういうところあるわよね」

 

呆れているといきなり隣に神海が現れた。さながら忍者のようだ。彼女も少し呆れているらしく、少しため息をついてから言った。

 

「……援護に行ってくる。悠里は教室の混乱の収拾」

「わかったわ。明乃の事くれぐれもよろしく」

 

悠里と神海は軽く拳を合わせてからそれぞれの向かうべき場所へと急いだ。

 

                   ☆

 

さて、バリケードを越えて教室から出たぼくはかなりの数の暴走した召喚獣に出くわした。ここまで来ると壮観だね。

 

「ひゅー、かなりの数のお出ましだねぇ。ランサーさんとかだったらかなり楽しむんだろうなぁ」

 

あの人戦い好きだし。過去の夢とか見てもほとんど戦いか宴か女の人口説いて……いや、思い出すの止めよう。とりあえず、あの人がバトルジャンキーであることは事実だよね。ちょっと考え事にひたってたぼくに召喚獣が襲いかかる。

 

「まあでも、お生憎様。ぼくは戦いを楽しめるようなバトルジャンキーじゃないし」

 

いつも持ちあるている黒鍵を投げつけ、さらに近づいてきたのは切り裂けば、たちまち召喚獣は塵となった。あれ? 結構あっけない??

 

「よっと、全滅?」

 

ちょっと楽すぎて油断してしまった。傍にまだ点数の残った召喚獣がまだいた。

 

「!」

 

とっさに迎撃しようとするけど間に合わない! そう思った直後に召喚獣に何かが突き刺さる。どう見てもカッターナイフだ。

 

「……大丈夫?」

 

横にしゅたっと降りてきたのは神海だった。何でここに?

 

「神海?!」

「……心配だから助太刀に来た」

 

あーなるほどね。確かにいきなり飛び出したのはダメだったかな。あちゃー、とか呟いていると召喚獣が充てんされる。あ

 

「さんきゅ、とっとと終わるとかしてほしいなぁ」

「……同感」

 

目の前に広がる数十体の暴走召喚獣という光景にちょっと辟易したぼくたちだった。

 

                   ☆

 

俺たちがシステム内へのハッキングをはじめて早二十分が経過しようとしていた。最終地点直前に到達してからは五分、さっきと状況はほとんど変わっていない。

 

「っ、数が異様に増してきている。カルナ、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ」

「カルナがいるからどうにかなるとしても、この状況どうにかするには……」

 

ジリ貧状態の俺たちにノイズのかからないクリアな通信が来た。

 

『何か用事ですか? 広夢さん』

 

来た来た来た。これでどうにかできるようになるはず!!

 

「っしゃ、BB! この量子空間の構造調べてくれないか、俺の予想が正しければ多分アレのはずなんだが」

 

俺の指示にBBが少し困惑した感じで答える。

 

『量子空間の構造をですか? そんなの他の皆さんでもできると思いますけ……え、嘘』

 

BBが驚いているのがウミにも伝わったのか、ウミも少し不安そうな表情をした。

 

「え、どうかしたの?」

「やっぱか、一度でもムーンセルを侵食したことのあるBBじゃねーとわかんなかっただろうが、ここムーンセル並じゃなくってムーンセルなんじゃないか? って疑問に思って正解だったか」

『はぁ?! どういうことよ』

 

リンのツッコミはごもっとも、ここからは俺が立てた仮説だがご清聴いただこう。

 

「大体おかしいって思わないか。天才とはいえ、一介の研究者が疑似的にでも量子空間を現実に展開して、その中に出鱈目な力を持った使い魔(ファミリア)を呼び出せるような装置を作り上げるとか」

 

普通ムーンセルの演算処理能力とか使ってようやくできるような代物が地上の、しかもこんなネット環境はあの頃なんかと比べ物にならないような状態で出来るわけがない。

 

『確かに、それはあり得ませんね』

 

レオも納得してくれたみたいだ。調子に乗ってそのままべらべら喋る。

 

「この学園の装置は科学とオカルトとほんの少しの偶然でできてるとか言ってたけど、その偶然っていうのがムーンセルなんじゃないか?」

『確かに、その仮説はありかもしれません。ですがなぜムーンセルが? 我々の知っているムーンセルはミスター日向によって「人類への干渉」を止められたはずです』

 

うん、そこは三回戦で敗退するようなレベルのウィザードである俺にわかるわけがない。

 

「そこは不明、ムーンセルがまた起動したのかそれと―――「ヒロ!!」

 

喋っていた俺の意識がウミの声で外側へと向けられる。そこには攻性エネミーがすぐそこまで迫っていた。

 

「っ!」

 

どうにかエネミーを回避する。

 

「あっぶな」

 

驚いているとサクラの鋭い声が飛ぶ。

 

『広夢さん、四時の方向!』

 

その攻撃もかわすけど、そこであれって気が付いた。

 

「……もしかしてターゲット変更?」

 

もしかして俺、余計なこと言い過ぎた? ムーンセルに目つけられた?! 慌ててBBに指示を飛ばした。

 

「っ BB、この空間を書き換えられるなら書き換えてくれ! そうすれば多分この騒動終結できるはず」

『わかりました! BBちゃんに不可能なんてありませんよ!』

 

よし、このままBBが書き換えるまで時間を稼いで……。

 

「ヒロ!!」

 

ウミの声に振り向けば後ろの方からエネミーが迫っていた。あ、ヤベ これ、かわせな―――

 

 

 

―――― ふと、誰かの背中を思い出した。

それはあの世界で一番頼りにしていた相棒であり、

                 恐怖の権化であり

                 ……懐かしい友人の背中だった。

 

その背中を自分はもう二度と見ることはないと思ってた。

その背中が自分を守るために向けられるなんて思っていなかった。

 

「全く、お前は無茶をするのが趣味なのかよ?」

「………っ ばーか、そんなわけあるかよ」

 

ああ、やっぱりいつものように憎まれ口を叩いてしまう。目の前にいるのは、赤いマフラーを首に巻いた、黒コートに黒ズボンの白髪褐色の男、あの無駄に構造が謎な赤い礼装は何処へやったのだろうか。いや、そんなことなんてどうでもよかった。

 

「サーヴァント、セイヴァー。お前の呼び声に応じてここに参上した。アンタはオレのマスターだよな……ヒロ」

「………おう、シロウ」

 

もう一回、万感の思いを込めて、この名前を口にできただけでも幸せってもんだろうな。ああ、俺のよく知ってるあいつが返ってきた。それだけで十分すぎた。

 





さて、少々収集つかなくなってきた気がするけどまあいいや。分かりにくい設定を使ってごめんなさい。
この小説は基本的に誰得? 俺得! な話です。

日暮の態度が完全に軟化しているのは道場の一件でちょっと吹っ切れたからってことで、恐怖<<<友情になったからです。多分、道場騒動が無かったらこんな反応しなかったと思われます。


最後に閑話休題アンケート

※感想欄は集計しません。投票は活動報告にお願いします。

『ちょっとばかりお茶飲んで休憩といきたいと思います。
 じゃあ、何のお茶を飲みますか?

 ・魔法瓶使って、紅茶    ×2
 ・水入れ使って、水出し麦茶 ×1
 ・鍋を使って、煮出し麦茶  ×1
 ・急須を使って、緑茶    ×2

                           』

見事にばらけてる件、どうした良いんだよ。
一応締め切りは第十問更新までです。

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