元Aクラスの現Fクラス、そこには休憩用の仮眠室があってそこそこ広い空間がある。そこにノーパソとか神海さんが適当に持ってきたモニターなどが複数台繋がれている。モニターのほうを向いて作業をしていた広夢がこっちに向き直って真剣な顔で言った。
「んじゃ、もう一回作戦の説明な。明久と言峰が召喚獣を召喚、コードをつなぎ直す。それでつなぎ直したところで俺たちが侵入、バグがあるならバグの消去、もしくは原因の収拾を行う、
それだけ言うとまた広夢はモニターのほうに向きなおって誰かと通信し始めた。誰としゃべってるんだろう? その様子を横目に見て姉さんはどうしたのかなと姉さんのほうを向くと、姉さんは今回の作戦のナビゲーター二人と裏方の神海さんに笑って言った。
「りょーかい。悠里、彩夏、神海、よろしくね」
「ええ、任せなさい」
「はぁ、面倒だが仕方がないか」
「……了解」
南たちどうしたのかなとそっちを向いてみれば南は緊張した顔をしている。やっぱそうだよね。秀吉は結構涼しそうな顔だ。得意のポーカーフェイスかな?
「わ、わかった」
「任せるのじゃ」
「二人とも任せたよ? ところでだけど、
ふと気になったことを広夢に聞いてみた。すると広夢はニヤッと笑う。
「こっちにはこっちで超優秀なナビゲーターがいるから大丈夫だ。今回はふざけてられないからな。わかってるよな。特に会長と副会長」
いきなりモニターのほうをジト目で見だした。するとモニターのほうから誰かの声がする。
『当然ですよ。こんな事態ですからね』
『何でわたしまで混ぜるのよ。ヒロ』
男の子にしては妙に高い声かもしれないけどまあ男かなって感じの声とものすごく聞き覚えがある声がした。でも、声の感じがちょっと違う? 向こうのほうがはっちゃけてるかもしれない。
「会計と顧問ならともかくお前ら二人には一抹の不安を覚えるんだよ。主にRECの意味で」
「どういう意味さ、それ?!」
いやいや、なんかわけわかんないこと言ってるよ?! ツッコミ入れたら日向君がこっちを見てきた。
「人間知らなくていいこととかあるから」
「……なんか、よくわからないけどそういうことならいいか」
もうそれで納得しよう。僕の周りってそういうこと多いもんね!
「じゃあ、各自持ち場についてくれ」
広夢の指示で各自解散となった。バリケードのそばに向かうために仮眠室を出た僕らはそのちょっとの間に少しだけ話した。
「何て言うかこう、日暮ちゃんって頼れるリーダーって感じだよね」
「それは同感、よし姉さん準備はいい?」
「大丈夫、いくよ!!」
僕と姉さんが召喚獣を呼び出すために右手を前に向けた。あ、これって聖杯戦争の召喚っぽいかも……普通はこんな感じなんだよね。普通は
―――
☆
明久と言峰を送り出した後、ちょっとだけ仮眠室を出る。フィールドの処置はウミに任せた。主な理由は全員分のドリンク確保だったりするわけだけど。そんなわけでドリンクバーに歩いていたら夢路に肩を掴まれた。そしていきなり怒鳴られる。
「何で私がナビゲート役じゃないのよっ!」
「は? なんでだと、お前そこまで明久や言峰と仲いいのか?」
こいつが一緒にいることなんてあったのか? それに言峰はこいつに辟易してるみたいだしナビ役にしたところでいいことあるのか?
そう考えていると夢路は笑う。なんだろう、こう……下種な感じだ。うん、あれだよあれ。幼馴染に惚れた女が俺につっかかってくるときの感じの笑い方、ようは嫉妬とか慢心とかその辺が混ざった感じの。
「いいわよ! 当然じゃない。いつも一緒に居るわよぉ」
「俺はそう思えないな。ついでに言うならお前は成績がいいだけでこういったことには絶対に向いてないからな。お前、戦闘したことあるのかよ?」
「っ……」
俺が殺気を出せば夢路はすぐに怯んだ。奴が怯んでいる間に肩を掴んでいた手を外してその場を立ち去る。それでも追いすがる気配を感じて首だけ振り返って奴を睨みつけた。
「悪いけど、あそこにいるのはお互いのことを思いやれる『仲間』だ。お前みたいに自分の欲しか考えてない奴はお断りなんだよ」
普段だったら絶対にしないような舌打ちをして夢路は立ち去った。その様子を確認してからドリンクバーへと向かいなおす。
「……たく、なんかあいつ見てるとどこぞのエロ尼僧思い出すぜ」
☆
「よっと、うわ」
「酷いねこれは」
バリケードを越えた僕らの目に入ってきたのは召喚獣が暴れたせいか若干ボロボロになった校舎だった。僕と姉さんは召喚獣の頭に取り付けたカメラから流れる映像をゴーグルタイプの再生機器で見ていた。片耳に取り付けたイヤホンからナビゲーターの声が聞こえる。
『召喚獣の侵入を確認、アキヒサ、アキノ 聞こえている?』
『同じく確認したわ。サーバのある部屋まではしばらく一本道よ』
『ただし、暴走した召喚獣を数体確認、気を付けろ』
『召喚したら点数を確認しておくように日暮より言伝を預かっておる』
ナビも順調みたいだけどいきなりなんだろう?
「点数?」
「なんで?」
総合科目
Fクラス 言峰明乃 3468点 & Fクラス 衛宮明久 2168点
「普通だよね?」
「うん」
二人して首をかしげていると通信が入った。
『明久、明乃! 11時の方角から召喚獣じゃ!』
「了解!」
「あいさ!」
攻撃してきた召喚獣をいなして相手の点数を確認する。
古典
Aクラス 斉藤和紗 365点 & Bクラス 萩原紫園 269点
「古典?」
「なんで?!」
驚いていると召喚獣が襲いかかってきた。
「姉さん!」
「はいよっ!」
姉さんの黒鍵が襲ってきた二体の召喚獣を貫いた。その隙に僕が連絡を入れる。
「えっと、広夢か日向君に誰か聞いてきてくれないかな。何でこうなってるの?」
『すでに聞き済みだ。お前らの召喚獣の周りにだけ特殊なフィールドを張ったそうだ』
『その中に居るあんたたちの召喚獣だけが総合科目の点数になってるの』
うん、理由は分かった。やっていることも理解した。
「うわぁチート」
その言葉しか出ないよ。うわぁとか思ってると比奈丘さんから通信が入る。
『そのフィールドを安定化させるのであいつらは手一杯らしいから後は全部実力で頼むぞ』
「わかったよ」
そのまま僕と姉さんの召喚獣を走らせる。走る道すがら姉さんがつぶやいた。
「日暮ちゃんと日向君凄いね」
「絶対他の人間じゃ考えつかないと思うよコレ」
普通はこんなの考えないから。まさか空間のほうを変えてチートするとはね。
☆
学園長や他の研究員がどうにか繋がった監視カメラのモニターから明久と明乃の召喚獣が廊下を走っていく様子を驚いた顔で見ていた。
「全く、どうなってるんだい。これは」
「我々にはどうにも」
「でもなんで彼らの召喚獣が」
「大方、あの外れているコードを物理干渉可能なあいつらの召喚獣で繋げようとしてるんだろうね。それはいいんだ。問題はこれをだれが指示したかってことさ。それからあの特殊な加工を施したフィールド、あたしですら実現不可能とあきらめた代物をあっさりと実現するとは」
それをただ一人少しだけ離れたところから見る一人の研究員がいた。茶色の野暮ったい髪に黄色のインナーにジーパン、上着は白衣、黒縁の大きなメガネをかけたかなり童顔の女性だ。
「……これはヤバいっスね」
彼女はジナコ=カリギリ、広夢や日向とは前世でも今世でも関わり合いのある一人だ。月海原学園卒業生で現在は文月学園研究部門所属している。なぜ所属しているのかというと学園長とは親が旧知の仲だったのだ。彼女の両親が交通事故で亡くなってしまった際に学園長が後見人を務める事となり、高校大学を経て彼女のお抱えの研究室に転がり込むこととなったのだ。ちなみに余談だが彼女の転身っぷりには月海原生徒会全員が驚いた。ついでに言うなら体重もきっちり減ったことも驚きの要因だったのかもしれない。とりあえず成人女性の平均並みになったとだけ言っておこう。
「大方ウミ君とヒロさんだろうけど、バレたらヤバいよ」
あわわわわと内心慌てていると学園長の校内用の端末がピリリと鳴った。学園長に知らせようかとふと見れば差出人は不明のメッセージだ。
「ん? これ絶対に怪しいっスよね……」
この状況でこれが送られてくるとかおかしいと感じたジナコはウィザード技術で学園長の端末から自分の端末にメールを移動、学園長の端末内の履歴もメールも削除した。サルベージできないようにするのも忘れない。下手にウィザードであることがばれるわけにはいかないからだ。それからメールの内容を確認する。
――― 今回のハッキング事件の犯人についてご連絡がございます。
その一文から始まったメールは広夢を犯人に仕立て上げようとする代物だった。それを見たジナコは盛大に頬を引きつらせる。
「……うわぁ、なんかボク陰謀に巻き込まれちゃった感じっスか。こういうのはウミ君やヒロさんの仕事っしょ」
文句を言ったところでしょうがないし、ここには味方はいない。居るのは確実にこんなメールを見たら信じるバカだけだ。生徒なんて実験のためのモルモットとしか考えない人間だっている。
「……しょうがないか」
ジナコは諦めて、端末操作を始めた。
ジナコさん登場……普通に生徒会顧問の予定だったのにどうしてこうなった。まあ、いいけど
生徒会顧問は多分ユリウス、ガトーさんは口調的に色々と無理があるので出番なしでお願いいたします。
ちなみに今回の作戦のチートの発想元はメルトリリスだったりします。
最後に閑話休題アンケート
※感想欄は集計しません。投票は活動報告にお願いします。
『ちょっとばかりお茶飲んで休憩といきたいと思います。
じゃあ、何のお茶を飲みますか?
・魔法瓶使って、紅茶 ×2
・水入れ使って、水出し麦茶 ×1
・鍋を使って、煮出し麦茶
・急須を使って、緑茶 ×1
』
紅茶独走中。このまま紅茶で決定かな?