バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第九問

 

日暮は召喚獣を操りながら呆れた。目の前には日暮が操る剣で貫かれた召喚獣が居る。日暮が剣を抜けば召喚獣は消え失せた。

 

「全く、どんだけ来ればに気が済むんだよ」

 

呆れている広夢の背中に明乃が背中を合わせた。どうやら偶然らしい。そのまま、明乃の召喚獣は一斉に来た男子二人の召喚獣を槍で薙ぎ払う。そして戦いの喧騒にかき消されそうな声で呟いた。

 

「そうだよね。男子生徒の大半が来てるんじゃないの?」

「それは思ったぜ。これとっ捕まえる教員も大変じゃないか?」

 

聞こえてた日暮が答える。日暮がすこしだけ向こうを見れば教師の召喚獣が戦死になった生徒を捕まえてせっせと運んでいた。その様子を見て明乃は同意する。

 

「そうかも、でも西村先生がいないのは意外だね」

「あれだろ、西村先生は一番奥で待機」

 

あの人は教師で一番強いのだ。この状況を潜り抜けた猛者をどうにかするのは西村先生の担当だろう。日暮に言われた明乃が納得した。

 

「あ、それもそうか」

 

だいぶ人数は少なくなってきたが、それでもまだ居る覗き目的の男子を見て明乃が呆れた。日暮も同じように呆れる。

 

「さて、もうそろそろいい加減にしてほしいなぁ」

「はぁ、どんだけ来るんだよ」

 

                   ☆

 

一方その頃、最奥、風呂場のそばにて。

 

「はぁっ!!」

「ふっ」

 

西村先生の召喚獣と渡辺という男子生徒の召喚獣が戦っていた。アーチャーの姿を模した召喚獣は双剣を持って戦っている。あくまでアーチャー仕様ならしい。ちなみに外見はアーチャーそのもので、渡辺自身とは全く被っていない。

日向は戦いを見ながら呟く。

 

「あんな動きできるやつがいるんだな」

「確かにすごいね……彼、自分で操作してないみたいだけど」

 

明久が真剣なまなざしで召喚獣同士の戦いを見ながら言った。その目はずっと戦いを見ていて、そこからそれていない。

 

「え? そうなのか?」

 

日向が驚く。それもそうだろう、召喚獣を自分で操作しないとか普通は出来ないはずだ。日向の言葉に明久が少しだけ頷いて答えた。目線は相変わらず戦闘に固定されている。

 

「うん、操作しているなら何かしらの動きがあるはずだけど彼には何もない。たまにいるんだよね。ああいった感じの違法改造系、学園長が頭抱えてた」

「そうなのか、全然知らなかった」

 

日向がさらに驚いた。そんなことがあるとは。

 

「あー、一般生徒には知られてない分野だからねぇ。僕だって学園長の実験手伝ってなかったら知らなかったよ」

 

明久が目線を日向にちょっと向けて、フォローを入れる。しかし、日向は既に心あらずといった感じで考え込んでいた。

 

「ふぅん、改造ってありなんだな」

「いや、普通だめだからね?!」

「……わかった」

 

明久が日向に釘を刺しているそのときだった。拮抗状態だったバランスが崩れて西村先生の召喚獣が劣勢になる。

 

「っ」

「まだまだです!」

 

渡辺の召喚獣が一気に畳みかけた。どんどんと追い込まれていく西村先生の召喚獣、その様子を見て渡辺が笑う。

 

「アハハハハ、僕の召喚獣(サーヴァント)はだれにも負けるわけがない!!」

 

双剣を使って渡辺の召喚獣は西村先生の召喚獣をじわじわと攻めていく。その様子を見て、色々と突っ込みたくなる明久だったが何とかそれを留めて呟く。

 

「……アイツ、秘匿をなんだと思ってんだよ。一般人の前で堂々と言いやがって、それにアーチャーの実力がこんなもの? そんなわけないだろうに」

 

大体アーチャーが白兵戦を得意としていたところでところどころで弓を使うはずじゃないかと明久は言う。多分、マスターとして契約している間に過去の夢を見ていたのかもしれない。

 

「同感だ。俺の知っているあいつはもっと強いぞ。真面目にコンビ組まれるとえげつない連中だった」

 

日向は真面目にコンビを組んだ時の日暮とアーチャーを思い出していた。リソースもちゃんとしたアレに勝てとか……ムリゲーに近い、てかムリゲーだよ。そう思い出した内容にツッコミを入れた。

西村先生の召喚獣がいよいよ追い込まれた。渡辺が笑った。

 

「とどめです! さようなら」

 

召喚獣の攻撃が西村先生()()に向かっていく。

 

「え?!」

 

西村先生は驚く。当然だろう戦死を覚悟はしていたが、直接攻撃が来るなんて考えていないはずだ。

攻撃を突如として現れたポスターがそれを防いだ。

 

「なっ」

 

それは明久の召喚獣だった。髪色は普段通り、服装は黒いコートに白のインナー、ズボンも黒だ。首に赤いマフラーを巻いているのが特徴ともいえるかもしれない。ポスターが攻撃を耐えきる。多分、強化を応用して盾代わりにしたのだろう。

 

「……秘匿に関してはまあいいとしても、人間狙うのはルール違反でしょ。それからどうやってフィードバックシステムによく似たものを手に入れたのかなんて知らないけど、後でじっくり聞かせてもらおうかな? 西村先生、この戦闘は僕が引き継ぎます」

 

明久は一連の戦いで渡辺の召喚獣にはフィードバック機能に似た現実干渉の力があると判断した。そして、明久の召喚獣が弓を構える。明久の目は完ぺきに戦う人間の目だった。明久の様子を見て西村先生が頷く。

 

「……頼んだわ。衛宮」

「りょーかいです。日向君」

「わかってるさ、試獣召喚(サモン)!!」

 

明久の呼びかけにすぐに日向は答えた。日向の召喚獣が呼び出される。赤と黒を基調にした上着に黒地のなんか顔の書かれたインナー、それに茶色の制服らしきズボンとかなり出鱈目な服装だ。武器は何やら紐の巻かれた小刀らしい。

日向が渡辺を見ながら言った。

 

「一対二なんかする気はないけど、人を狙ってくるような奴相手に用心に越したことはなし」

「ふん、そんなもので僕に勝てると思わないでください」

 

明久と日向の召喚獣を見下したような感じで見てから渡辺が叫ぶ。

 

「『UBW(アンリミテッドブレードワークス)』!!」

 

召喚獣が腕輪を掲げた。途端に世界は変わる。赤い空に黒の歯車、剣の突き刺さった丘、そんなところに明久はいた。

 

「お、何だこれ」

 

いきなり変わった風景に明久は戸惑った。それはアーチャーの夢にもたびたび出てくる光景だからだ。

 

「衛宮気をつけろ! 宝具だ!!」

 

正体を知っている日向が叫ぶ。明久は少しだけ驚いて呟いた。

 

「へぇ、これがアーチャーの……ねぇ」

「行けっ!!」

 

渡辺の召喚獣が明久に襲いかかってきた。しかし、その攻撃はことごとく外れていく。攻撃をかわしていきながら明久が首を傾げた。

 

「てかこれ具体的にはどういう作用があるのさ。普通に攻撃性能上がってるだけじゃ」

 

それくらいしか変化を感じられないんだけど。そのつぶやきを聞いて日向が何処か遠い目をしていった。

 

「そういう宝具だ」

「……しょぼ」

 

正直に思ったことを口に出す明久、多分どこかで錬鉄の英雄がくしゃみをした。ちなみにだが、召喚獣には基本に「EXTRA」のような電子的パターンが入っているからこそ、この操作性なのである。本家本元はまた違うので注意。

 

「何で当たらないんですか!」

「そんな三流操作で当たるわけないじゃん」

 

明久が呆れたように言った。それを侮辱と感じた渡辺がキレて、そして言った。

 

「これなら『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』!」

「……はぁ、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

音速をこえた矢は明久の召喚獣に刺さることも無く、神代の盾をベースにした投影された盾に阻まれた。

 

「なっ」

「あーあー、もう面倒だなぁ!」

 

明久が大声になる。明久の肩口辺りが淡く発光し、少しだけ魔力の流れが変わったのを感じたのは日向だけだった。そして明久の召喚獣の姿が一瞬ぶれる。

 

「え?」

 

渡辺の召喚獣が瞬きの間に倒された。明久が渡辺に告げる。

 

「悪いんだけど、他人のお遊びに付き合えるほど戦争舐めてないから」

「渡辺、色々と聞きたいことは山ほどあるわ。来なさい」

「え、な……」

 

西村先生に腕を掴まれた渡辺の表情が赤くなっていく。それはどちらかというと憤怒からくるような赤さだった。

 

「何で! これは僕の物語なんでしょう? 僕が鉄人を倒して、男子の中ではヒーローになってそれで校内でも噂になって、注目されて! それなのになんで!?」

 

渡辺は引きずられていく間もそう叫んでいた。その様子を見ていた明久たちは同時に呆れたようにため息をついた。

 

「……こんな騒動で噂になったとしても内容は最悪だろうに」

「夢を見てる奴みたいな感じだ」

 

自分が主人公で世界を変えていって、自分が世界の絶対になるんだーみたいなアレ、と日向は続けた。明久はそれに同意する。

 

「あー、それは確かにそうかも」

「はぁ、見ている夢がもうちょっと普通だったら普通に応援するのにな。例えば青春真っ只中な生徒会とか」

 

ちょっと不思議な答えに明久が困惑した。

 

「へ? なにそれ」

「ウチの優秀だけどバカな生徒会長の話、それまで家の規則とかに縛られてた反動か斜め上に突っ切った発想の持ち主になった」

 

明久の顔がちょっとひきつる。どういう意味だそれ、顔が如実に語っていた。

 

「そうなんだ。ちなみに青春送れてる?」

 

どうにか考え出せた質問を日向に聞いてみれば、日向は少しだけ考えるようなしぐさをしてから言った。

 

「おう、俺たちが主な巻き添えを食らうが青春はしてると思う」

「そ、そうなんだ」

 

青春なんて人それぞれだからいいのかなぁ? 明久は内心首を傾げつつも、日向と雑談するのであった。

 

                    ☆

 

目の前に居た連中はとりあえずは居なくなった。それはそうだろう、明乃や日暮、他の女子たちがどうにか駆逐していったのだから。

 

「ふむ、こんなものだよね」

「だな」

 

明乃と日暮が満足げになる。どうにか覗きなどという変態行動を取ろうとしたバカを止めることができたのだ。それだけでもう十分だろう。

でも、それに納得できない奴らも居るわけで。教師の拘束を振り切って一人の男子生徒が走ってきた。

 

「ふっざけんなよ」

 

その時一番無防備だった日暮に拳を振りかぶろうとして、

 

「アンタの方がふざけないでよ」

 

横から飛んできた赤い狼……いや、坂本悠里に殴り飛ばされた。

 

「悠里?!」

 

明乃が驚く。まあそうだろういきなり部屋に居るはずの親友が現れたのだから。

 

「全く、ジュース買いに行って何やってんのよ」

「それよりもぶん殴った男子がかなり飛んで行ったのは?」

 

男子生徒は三回転して壁に激突した。人間業じゃねーだろこれと日暮は呟く。その言葉に悠里が笑って答えた。

 

「あたし、喧嘩得意なのよ」

「……そっか」

 

もう、それで納得するしかなかった。他に説明しようがないし、他の面々それで納得しているし。

 

                    ☆

 

それで、覗きの男子生徒も全部回収して、女子風呂の入浴時間も終了してから。奥の方から明久と日向がやってきた。

 

「あ、姉さん!」

「ヒロ!」

 

二人が現れたことにその場で警戒をしていた明乃と日暮と悠里が驚く。

 

「あれ? アキと日向君?」

「よ、明久 ウミも一緒か」

「なんで二人がここに居るのよ?」

 

アハハと苦笑いする二人、代表して明久が答えた。

 

「ちょっとねー。不安だから見回りしに来たの。そしたら電波に遭遇したってわけ」

 

かなり内容は捏造されている。まあ、それでも明久の言いたいことはわかったらしく明乃がうんうんと頷く。

 

「電波かぁ、最近冬木に増えたよね。こっちにも『吉井が何でこんなところに』とかさー」

「……そう、なんだ」

 

明久がちょっとだけ警戒した顔になるがすぐにそれは止めた。

 

「……(ふむ)」

 

その場に居たほとんどがその様子には気が付かなかったが、日暮だけは気が付いていた。明久の様子を少しだけ不安げに見つめる日暮だった。

 





かっこいい踏み台ってどうやれば作れますかね(´・ω・)ドウスリャイイノサ

UBWのあの設定は個人的な考えです。剣の丘ばぁっと出して、投影の攻撃力が上がっても避けられたら終わりな気がする。まあ、EXTRAは避けられませんけどねww
個人的には赤セイバーのあの派手な宝具が好きです。ばぁっとなる感じとかかっこいいって思う


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