バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第八問

 

部屋に戻ってきた明久は思わずため息をついてしまった。

 

「はぁ」

 

それもそうだろう。合宿に来てから色々とありすぎた。明久のため息を聞きつけた友人たちが心配そうにする。

 

「どうした衛宮」

「随分と憂鬱気じゃのう?」

「覗きとかいうバカやろうとしてるバカが大勢いるみたいでさー。さっき勧誘受けた」

 

全体が凍りついた。それもそうだろう、この期に及んでまだ覗きなんてことをしようとしているのだから。

 

「おいおい、まだ懲りてなかったのかよ」

「坂本にこってり絞られたのに?」

 

須川と日向が呆れる。まあ、それも当然だろう。あの殺気を受けてまで覗きをしようなんていうアホが出るとは思わなかったからだ。

 

「ううん、多分別のクラスの人」

「はぁ、何じゃそりゃ」

「同じ様なことを考える奴っているんだ」

「難儀じゃのう」

 

全員が呆れた。明久がさらに続ける。

 

「大体さ、覗きって犯罪じゃないか。何でみんなやろうとするわけ?」

「まあ、あれじゃないか『赤信号みんなで渡れば怖くない』」

 

須川が言った。

 

「……あー、なんてわかりやすい」

「なるほどのう」

「確かにそうかもな」

「えっと、どういう意味?」

 

日本在住民は全員納得したが、南だけが困惑する。確かにそこまで使わない慣用句だろう。

 

「つまり『悪いことや間違ったことも、大勢でやれば怖くない』まあ、あれだよ。FFF団が集団だと無駄に強気なくせにいざ一対一になると平謝りしてくるのと同じ」

「……なるほど、よくわかった」

 

南よ。それで納得でいいのか?

 

「明日最終日ってことは今日が正念場だし………大丈夫かなぁ」

 

Fクラスの女子も居ることだしやっぱり気になる明久だった。その様子を見た日向が明久に声をかける。

 

「気になるなら見に行こう」

「あ、それもそっか」

 

他に行く人いるー? と明久は尋ねたが他のメンバーは少し渋り顔だ。

 

「俺はパスだ。疑われんのも面倒」

「ワシも流石に冷やかしに行くのはどうかと思うのでパスじゃ」

「じゃあ、俺もパス」

 

他のメンバーは来ないらしい。明久はドアに手をかけた。日向も一緒についてくる。

 

「わかった。じゃあ行ってくるね」

「はぁ、ヒロ大丈夫かな……」

 

明久と日向は部屋を出た。

 

                   ☆

 

二人はもう一つの罰ゲームであるジュース買い出しへと向かっていた。明乃が呟く。

 

「それにしても疲れるね」

「そうだな。多分今日も覗きは来るんだろうし、正直面倒だ」

 

毎晩毎晩元気だなと日暮は続ける。それに明乃も同意した。

 

「そうだよね。ぼ……わたしも正直もう嫌だなぁ」

 

慌てて一人称を直す明乃をみて日暮が言った。

 

「別に俺しかいないし普段の口調でいいぜ?」

「あー、でもいいわ。下手ズルしてるのばれたくないし。一応罰ゲームだし」

 

明乃は根が真面目なようだ。

 

「言峰は真面目だな。さしずめSGは『ワーカーホリック』ってところか」

「エスジー?」

 

聞きなれない単語に明乃は首を傾げた。

 

「っと、何でもないぜ?」

「そう?」

「おう」

 

そんな二人の前を「裸ー」とか「つるぺたー」とか「おっぱいこそ至高!!」とか色々と変態発言をしながら男子の集団が通って行った。かなりの人数が軍隊のように走り抜けていく。

 

「……日暮ちゃん」

「オッケーだぜ。言峰」

 

二人はその後を追った。

 

                   ☆

 

追ってみれば案の定、戦いの真っ最中であった。女子側の有志もそれなりに居るらしく戦況は拮抗しているようだ。

 

「うわぁ、混戦真っ最中だね」

「てかこれどっかで取りこぼしが出るぞ」

 

日暮が冷静に呟いた。明乃が「あー」と言ってから真面目な顔になって日暮の方を見て告げた。

 

「奥、確認しに行こう」

「そうするか」

 

二人は戦場をすり抜けて奥へと向かった。そんな二人の後姿を見つけたのが二人。

 

「あれ、ヒロだ」

「あ、姉さんだ」

 

声をかける間もなく、二人は奥へと向かってしまった。

 

「「……」」

 

二人は顔を見合わせる。そして同時にため息をついてから日向が言った。

 

「行くか」

「おーう」

 

二人は奥へと向かった。

 

                   ☆

 

進んでみればそこには教員と複数の女子が居た。その中の一人、オレンジ色の髪をツインドリルにした少女が明乃の姿を見つけて、吐き捨てるかのように言った。

 

「おや、お兄様にまとわりつく雌猫じゃありませんか」

「……えっと、だれかな?」

 

明乃的にはここまで扱き下ろしてくるような知り合いは心当たりがない。強いて言うならどこぞの養父である麻婆神父なわけだが彼とはまた毛色の違った罵倒だ。

 

「なっ、み、美春のことを馬鹿にしているんですか!?」

「あー、そいつってあれじゃないか、Dクラス戦の時に島田だけを狙った」

 

日暮の言葉に明乃が思い出したかのように手を打った。

 

「あ、あのヤンデレストーカーちゃんか」

「ストっ?! 違います!! 美春はただ純粋にお兄様のことを愛しているだけで」

 

その言い分を聞いた明乃が薄ら笑って、一瞬だが菩薩のような笑みを見せた。

 

「……うん、大体のストーカーってそういうこと言うもんね。よーく知ってるよ」

 

養父の言い訳を思い出したらしい。それでどうにかなったら警察も真面目に注意する身内も必要なくなるよねと心の中で呟いた。

 

「このっ」

 

ポケットらしきところから何かを取り出して明乃に突きつけた。

 

「この写真が……ってあれ?」

 

清水は自分の手にあるものを見て目を丸くした。日暮と明乃も同じように驚く。

 

「なあ、言峰 どう見たって写真に見えねーんだけど」

「同じく、只の絵ハガキだよね。それ」

 

そう、清水の手元にあったのは絵葉書だ。しかも達筆な字で『負け犬の遠吠え』や『悪即断』などと書かれている。

 

「嘘、なぜですか? あ、画像データの方も消えてる?!」

 

慌ててデジカメを確認する清水、しかしデジカメはNO DATAと表示するばかりだ。

 

「まあ、いいか。美春だっけ? 男、来そうだぞ」

「あ!」

 

そこに数名の男子生徒がやってきた。男子生徒全員が浮足立ったようになっている。その様子を見ながら明乃は呆れたようにつぶやいた。

 

「はぁ、何で巻き込まれてるのかな」

「以下同文っと」

 

明乃と日暮はそろって召喚獣を召喚した。

 

                    ☆

 

女子風呂近く、通路の最奥に西村先生が立っていた。きょろきょろしながらやってきた明久たちを見て少しだけ疑わしげな視線を向ける。

 

「あら、衛宮じゃない。あなた達も覗きに加わってたのかしら?」

「あ、西村先生 いえ、覗きに関しては勧誘断ってるの見てますよね?」

 

明久がそう言えば途端に雰囲気が和らいだ。

 

「冗談よ。衛宮が参加するとしたらもっと手を焼かれそうだもの」

「どうも」

 

それって褒められているのかな、明久は内心考えていた。明久のことはさて置いてと日向が話始める。

 

「西村先生、すみません。こっちにヒロ……いや、日暮は来てませんか?」

「あら、日向も居たのね。見てないわよ」

「そうですか」

 

一体どこへ行ったのだろうか? そう考えているところに足音がした。

 

「「「!」」」

 

三人が振り向くとそこには金髪に緑色の目をしたやわらかい雰囲気の男子生徒が居た。明久の姿を見つけるとにこやかに笑っていった。

 

「おや、Fクラスの吉井君ではないですか」

「……は?」

 

吉井、という単語を聞いた途端に明久の雰囲気が変わった。何というか警戒していると言った方がいい。日向はその明久の変わり具合に驚いた。

 

「衛宮?」

「黙ってて」

「わ、わかった」

 

明久は殆ど無表情でいきなり現れた男子生徒を眺めている。それを内心、少し鼻で笑ってから男子生徒は話し始めた。

 

「怖い顔しないで下さいよ。もう鉄人倒したのでしょう」

 

その言葉を聞いて西村先生は呆れて肩をすくめて言った。

 

「はぁ、何を言ってるかしら。Cクラスの渡辺、衛宮と日向は偶然ここにきただけよ。貴方の方こそ覗きと判断していいのね。試獣召喚(サモン)っ!」

 

フィールドが展開されて、西村先生の召喚獣が姿を現した。

 

「! まさかそういう展開とは、いいですよ。僕が主役なのですね。試獣召喚(サモン)!」

 

そこに現れたのは褐色の肌、白い髪、赤い外套の……

 

「え?」

 

明久が思わず呟く。そう、そこに居たのは紛れもないアーチャーの姿をした召喚獣だった。渡辺は笑う。人のいい笑みだったがその裏には何かが隠れているようだ。

 

「僕の召喚獣が負けるわけありませんよ」





ここからが正念場


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