第一幕
それはある冬の日のことだった。特に意味は無いけれども弟が割とよく使っている実家の蔵の掃除をしていた。理由としては弟がかなり散らかしまくったのが原因なんだけれども、弟にしてみればどうでもいいらしく蔵の中は割と雑然としていた。ある程度掃除が終わった頃、僕は一つの古い本のようなものを見つけた。
「なにこれ」
紙が破れないように慎重に開いてみた。よく見てみれば何か文字のようなものが書かれている。日本語だし読めるとは思うけど無駄に達筆だなぁ。
「えっと、素に銀と鉄。礎に石と契約の大公?」
つっかえつっかえながらもとりあえず読んでみた。厨二な文章だなこれ
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ……なにこれ?」
最後の行を呟いた途端に蔵の屋根にものすごい衝撃音が走った。まるで何かが落下してきたようなそんな音だ。
「えっ、何事?!」
慌てて外へと出てみれば白い髪に赤い外套を纏った20代くらいの男がうつぶせになって倒れていた。
「え、ちょ なんでさ」
その倒れていた彼を揺すってみるけど、なにも反応がない。とりあえず、家まで引きずることにした。でもさ、今の家かなり遠いんだけど
☆
暖かな、穏やかな夢を見た。家族の声がした気がした。懐かしい声がした気がした。俺は……俺は……
「……ん?」
気が付けば知らない天井、ここは何処だ?
朝の陽ざしが差し込む部屋の中、俺はベットに寝かされていた。少し鈍った頭がはっきりとしだす。そうだ、私は聖杯戦争の場に呼ばれたのではなかったか?
「すぅ……すぅ……」
部屋を探してみればソファで丸くなって眠っている一人の少年を見つけた。毛布も何も掛けていない。とりあえずベットにかかっていた薄手の毛布を掛けてみる。ここは何処で彼は何者なのか、それを確認したくてしょうがなかったが眠っているのを起こすのは流石に無粋だろう。
「さて、どうしたものか」
☆
随分と美味しそうな匂いにつられて目が覚めた。そういえば今日は……
「うわぁぁぁ、学校ぅぅぅ」
ガバリと起き上ってから慌てて自分の制服に着替える。壁にかけた時計を見ればもうすでに遅刻ギリギリの時間、今日はもうしょうがない、朝ごはん抜きで行かないと。
「おはよう、ようやく起きたのだね」
「おはよう。士郎、今日の弁当は?」
「?! いや、ここにあるが」
差し出された弁当を持って鞄を背負って走り出す。
「さんきゅー、いってきまぁぁぁす」
全力投球でつっぱしって、チャイムが鳴り響く前に校門を通り過ぎてから違和感に気が付いた。
「あれ? 何で士郎がウチに居るの?」
高校が別になったから僕一人暮らししてるのに
「明久、おはようなのじゃ」
「あ、秀吉おはよう」
親友である木下秀吉と玄関で会って、話し始めたときにはもうその違和感は消え失せていたものの、お昼休みになって唐突に思い出す羽目になった。友人たちと屋上に上り、弁当を食べる。
「…………負けた」
思わず崩れ落ちそうな気分になる。何この美味しさ、常日頃から家事やってる身としては本気で何でって言いたくなるくらいに美味しいんだけど。
「?! 何事じゃ」
「アキヒサ? どうした」
もう一人の親友島田
「うん、料理に関しては一応自信があったんだけどさ。負けた」
「そんなにおいしいの?」
そう言った南が一口食べて目を見開く。
「何だよこの美味しさ」
「でしょ、ここまで美味しく作れるとか普通じゃないよね」
そういえば弁当渡してきたあの弟はなんだったのか、疑問がそこに集約されたのだった。
その日の夕方、念のために弟に電話を入れてみた。数回のコールの後に弟が電話に出た。
「あ、士郎? 今大丈夫?」
『ん、気にしないけどどうかしたのか?』
よかった。いつもの通りみたいだ。
「今日さ、僕の家来た?」
『いいや、あ そうだ。蔵掃除してくれたのか?』
「んー、やったよ」
『そっか、ところで蔵の屋根の一部が剥がれおちてんだけど心当たりある?』
それ、確実に拾ってきたあの人のせいだよね。あ、そうだった。人拾ったんだった。
「い、いや、無いけど」
『……そうか、とりあえずじーさんと二人で直すか』
「頑張ってね」
『おーう』
うん、とりあえずあの謎の弁当は拾った人ってことでいいか。あ
「今日セールの日じゃん」
まずいまずい、間に合わなかったら今週の食費がヤバいことになる。
「あれ、アキヒサ?」
校門のところで電話をかけていたので先に分かれたはずの南とまた会ってしまった。
「あ、南」
「どうかしたの?」
駆け出す寸前だった僕を見て驚いた表情をする。まあ、そうなるよね。
「今日セールの日というわけで急ぐね!!」
走り出すと南も並走してきた。
「あ、俺も行く。お母さんに頼まれたから」
「おk」