バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第十章

 

遠坂家の魔術工房、そこに遠坂凛が居た。中央に置かれたのはなんも変哲もないような木の枝、その周囲には宝石を溶かして書かれたと思われる魔法陣がある。

 

「――――告げる。」

 

彼女の目は真剣だ。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

魔法陣から光があふれ、消えた後、魔法陣の中央には緑のマントを纏った青年が居た。

 

「あんたが俺のマスターか?」

 

                   ☆

 

冬木教会の書斎にぼくは居た。親父に呼び出されたのだ。

 

「娘よ、最後のサーヴァント召喚が確認された」

「はぁー、いよいよですか。了解しました」

 

サーヴァントが全機揃った。つまり、聖杯戦争開幕の合図がもうすでに鳴ったことを示している。

 

「まあ、好きなようにするがいい。監査役代理殿」

「ギル様に参戦しないように釘刺しておいてくださいね。あなた方が下手に乱入するようなら……全力投球でボコりますので」

「フフフ、楽しみにしてるがいい」

 

人の悪そうな笑みを見せるな糞親父、これだから外道は……まあ、とりあえず

 

「だが断る」

 

                   ☆

 

僕はじーさんから借りたアインツベルンの聖杯戦争のデータを読んでいた。僕の耳が花火のような音を捕らえた。

 

「あ」

「どうしたマスター?」

 

この音って確か……思わず教会に使い魔を送り出す。

 

「教会から連絡みたいだ。マスターとサーヴァントは全員集合……ってマジ?」

「どういうことだ?」

 

使い魔から来たのは意外な内容だった。仮にも戦争中なのに全陣営集合って……

 

「顔合わせらしいね。どうするつもりなんだ」

「一応四次聖杯戦争は停戦しているのだろう? それを考えたら、なるべく穏便に済ませようとするのは当然の話ではないか?」

 

あ、それもそうだよね。

 

「あー、なるほどね。じゃあ支度してから行くか」

「了解した」

 

                   ☆

 

「今回の教会の監査役は無駄に迅速ね。行くわよ、アサシン」

「へいへい」

 

                   ☆

 

一方、間桐家 実は桜がライダーを召喚済みだったのだ。

 

「あの、おじさん行った方がいいんでしょうか?」

「うーん、監査役の明乃ちゃんのこと考えると行った方がいいね。多分停戦宣言か何かだろうし」

 

雁夜の意見を聞いた桜が立ち上がる。

 

「わかりました。行ってきます。ライダー行きましょう」

「はい、サクラ」

 

                   ☆

 

連絡用の花火を撃ち終えた後、ぼくは今回一番面倒なことを片付けることにした。

 

「ふぅ、よしキャスター迎えに行くか」

「は?」

 

ランサーさんが驚く。まあ、そうだよね。普通はそんなこと考えない。

 

「地味に使い魔に調べさせたんだけどキャスターが自分を召喚したマスターから令呪を奪取、一般人に保護されてることが判明したんだ。はぁ、先に気が付けたからマスターが死んでるなんてことは避けられたけど一応説明とかバックアップとかしておかないとヤバそうだからね」

「ほう」

 

ランサーさんの目が「どうしてそこまでするのか」と訴えかけているような気がした。

 

「今回のぼくの目標はいかに問題を出さずに聖杯戦争を停戦させるかなんだよね。というわけでとっとと終わらせようか、ランサー ついてきて」

 

いつものその人を呼ぶための呼称ではなく、主人(マスター)として従者(サーヴァント)に呼びかける呼称でぼくは彼に呼びかけた。ぼくの目を見た彼はにっと笑って……

 

「……了解」

 

それからは何も言わずについてきてくれた。

 

                   ☆

 

ぼくは中学時代の旧友である一成の下宿先に来ていた。マスターの元を離れたサーヴァントキャスターがここに身を寄せているからだ。一成に断りを入れておいたので割とすんなりキャスターに会うことができた。防音のルーン魔術をランサーに行使してもらい、早速事情説明に入る。

 

「と言うわけなので教会へご同行お願いできないでしょうか」

「なるほどね、でもそれが真実であるという証拠は?」

 

やっぱりそうなるよね。キャスタークラスで呼び出されるほどの魔術の使い手だ。これくらいは覚悟していた。

 

「これをご覧ください、第三次聖杯戦争から第四次までの霊脈の観測データです。それから、第四次聖杯戦争以降の霊脈のデータもどうぞ」

「これは……」

 

稀代の神童ロード・エルメロイを驚愕させ、「由緒正しい魔術師」遠坂時臣の顔を蒼白にしたデータ群をキャスターに見せる。

 

「魔術に関わるものであればすぐにこの危険性がわかるはずです」

「……了解したわ。それから先ほどの交換条件わかってるわよね」

 

魔術は等価交換が原則だ。それでなくても割に合わないことは人間誰だってしたくない。

 

「はい、キャスターさんの魔力維持はこちらが賄うことは可能です」

 

これがぼくが出した条件だった。彼女の仮マスターである人は魔術的なことには一切関わっていない。サーヴァントを維持するための魔力は無いんだ。だからこそ、この「仮マスターの代わりに魔力を用意する」この条件が可能になるのだ。ま、聖杯から直にもらえるように改造するわけですが。

 

「一つ付けたさせて頂戴」

「はい?」

 

キラキラした目で彼女はぼくを見た。一体なんなんだ?

 

「あなたに着てもらいたい衣装があるのよ。それで応じるわ」

「あ、はぁ……とりあえずありがとうございます」

 

                   ☆

 

衛宮邸の前にかなり大きな大男がいた。その肩には衛宮家長女イリヤが乗っている。

 

「バーサーカー行くわよ」

「grrrrrr」

 

その横には士郎とセイバーが居る。

 

「じゃあ、行ってくるぜ」

 

切嗣が見送りに来ていた。アイリスフィールはいざという時のために回復用魔法陣で横になっている。

 

「行ってらっしゃい。セイバー、士郎とイリヤをよろしく」

「はい、わかっています」

 

                   ☆

 

住宅街を魔術で一時的に染めた黒髪、黒シャツに黒スーツに黒い革靴、黒コートの黒尽くしの僕と赤い外套を纏ったアーチャーが歩いていた。

 

「はぁ、面倒だなぁ」

「ところでだがマスター、なぜその恰好なんだ?」

 

まあ、普通の学生がするような恰好ではないよね。一応意味はあるけど

 

「一応、吉井の家の魔術師の正装は『黒』って決まってるからね。それから昔じーさんがこういう格好してるのがなんとは無しにかっこいいって思ったから」

「それで、その一見すると煙草のようなものは?」

 

タバコは20過ぎてから。それは常識でしょうが、これは

 

「認識阻害用の魔術です」

「そうか」

 

僕の礼装にツッコミを入れてこなくなったアーチャーだった。まあ、認識阻害用って言うのは本当だし問題ないんだけどさー。最近アーチャーが順応しきってる気がする。

 

                   ☆

 

冬木教会に各マスターが集まったのはいいのだが………

 

「あれ? 遠坂?」

「衛宮君?! それにイリヤまで」

「あ、先輩、姉さん!」

「あら、サクラじゃない」

 

全員が知り合いという状況になっていた。

 

「よー、お忙しい所 集まりいただきありがとうございます」

「明乃?! って、後ろのは……?」

 

フードを被ったキャスターに注目が行く。

 

「マスターが事情で来れないので一人でお越しいただいたキャスターさんとぼくのサーヴァント ランサー。さて、セイバー、バーサーカー、アサシン、ライダー……後はアーチャーか」

 

そこで教会の扉が開いた。黒尽くしの明久が入ってきた。

 

「………え?」

「に、兄さん?!」

「アキヒサ?!」

「本当に?」

 

周囲の目線が明久にくぎ付けとなる。明久は少々困惑しながら言った。

 

「……えっと、アーチャーのマスターの衛宮明久です。本日は遅れてしまい申し訳ありませんでした?」

 

                   ☆

 

さて、意外なことがいろいろと判明したけどいいか、サーヴァントは全部そろった。

 

「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。各自家の方々から聞いているとは思いますが聖杯はバグってて使えません。そういうわけですので」

 

――― 聖杯戦争停戦しましょうか?

 







後0時間



――――聖杯戦争 停戦。

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