クラスのみんなに指示を出す悠里さんを見て、姉さんが呟いた。
「はぁー、気合入りすぎっしょ」
「……同感」
一緒に見ていた神海さんも頷く。
「ぼくも頑張るけどさー。頑張りすぎは体の毒でしょ」
「……(コクリ)」
人間頑張りすぎは毒になるか………耳が痛いです。そんなことを考えていると、僕宛のエアメールを読んでいた広夢と日向君がメールから顔を上げた。読み終わったかな?
「なるほどな。これは大騒動だな」
「でも、なんでこんなことを」
あ、読み終わったみたいだ。ああ、やっぱそこは気になるよね。
「……言いたくないけど僕が原因だよね。とにかく、みんなにバレないように、どうにかしよう」
「あいよ」
「うん、急がないと」
ちょっとでも被害が出てくる前にどうにかしないといけないと三人で頷きあっていると、後ろの方から声が聞こえた。
「ちょっとあんた達! こんなところで固まってないで持ち場について!」
「あ、うん……」
「おーう」
「わかってる」
振り向けば、鬼のような形相をした悠里さんがいた。その勢いに負けてつい返事をしてしまう。あ
「とりあえず目の前の戦争だな」
「うん」
「う、そうだね」
二人は頷きあってるけど、被害とか出さないためにも急ぎたいんだよなぁ。
「これで、騒動起こったらどうしろと」
「そのときはそのときだ。運命なんて油断してるときに来るぜ?」
「うん、トラブルを気にしていたら勝てるものにも勝てなくなるから」
二人の目は真剣だ。はぁー、そういうものかな? 僕としては不安でしょうがないんだけどなぁ。
「そうだね。頑張るだけ頑張ろっか」
とりあえず持ち場に着かないとということになって僕らは解散した。戦争中に起こるのだけは勘弁してほしいなぁ。
『これより、Bクラス対Fクラスの模擬試験召喚戦争を開始します。両者、準備はいいですね』
『『はいっ!』』
『それでは模擬試験召喚戦争、はじめっ!!』
廊下で両陣営がにらみ合っているのを僕たちは別のところから眺めていた。
「おー、やってるなぁ」
廊下が見える隣の校舎の屋上から双眼鏡で様子を覗く。神海さんの隠しスピーカーのおかげで音声情報までばっちりだ。神海さんっていつも思うけど何の趣味を持っててこんなことできるんだろう?
「こんなところからやるのか?」
信じらんないなと須川君が呟く。
「アキヒサ見えてるのか?」
あ、そっか。南は双眼鏡がないから見えないんだ。双眼鏡持ってきたの僕だけだから他のみんなはわからないんだ。
「スナイパーでも難しいと思うぞ。これ」
「ワシらはここにおるべきなのじゃろうか?」
他の二人の意見も聞きながら、僕は南に双眼鏡を渡した。
「これ使えば見えるよ」
「おお、凄い」
南がはしゃいでいると、比奈丘さんが少し思案顔で呟いた。
「あいつら大丈夫か?」
「あやつらならば無事じゃろう」
「そうだろ、俺らが信用しなくて誰が信用するんだ?」
比奈丘さん的にはFクラスのみんながBクラスに通用するのか気になるらしい。でも、その不安は秀吉と須川君が打ち消したみたいだ。双眼鏡を覗いていた南が振り向いて須川君に笑いかける。
「お、須川言うな!」
「お化け屋敷の一件から思ってたけど、須川君って意外と男前だよね」
言いたいことズバッというし、はっきりとしててかっこいいと思うなぁ。それに最近はあの嫉妬深さも改善されてるし。
「い、いや。そういった意味合いで言ったつもりは全くないぞ。人として当たり前のことを言ったまでで」
「??」
いや、何言ってるの? 何かいきなりアーチャーみたいなこと言われても分けわからないよ。
「これってどっちにツッコミを入れればいいんだ?」
「わからん」
「二人してなに話てるんだ?」
だよね。僕は何か変なことを言ってしまったのだろうか?
☆
中堅部隊の待機所にて、ぼくはというと……
「しっかし……暇だね」
絶賛暇を持て余していた。ぼくの呟きを聞きつけたようで、持ち込んできてた本を読んでいた日向君がこちらを向いてきた。
「そんなこと言わないほうがいいと思う。でも、前線部隊がいい活躍しているのは確か」
「これはこれで気が緩みそうだよ。悠里の気合入りっぷりが嘘みたいだ」
前線部隊がここまで仕事するとか悠里は全然考えてないわけないだろうけどさあ。
「逆に言ったらこれが作戦の内っていうのもありえる」
「そう?」
この暇さが作戦の内とかなんだろ?
「代表がなにを考えているかまでは予測できないけど、もしかしたらって言うのもありえるから」
「まあ、いっか。やることやるだけだよ」
悠里がどう考えていても、ぼくができることはここで普通に待機して、前線部隊のフォローに回ることだけだよね。
「言峰は凄い」
「え?」
日向君がいきなり呟いた。何事?!
「いや、なんていうか切り替えが上手いっていうべきか……」
「あはは、マイペースとも言えるけどね」
ほとんど自分のペースでやってるもんぁ。
「それはいいことだと思うけど」
「もっと酷いのだとあんまり一つに集中できないともいえる」
自分的にはこれでよしって思ったらもう興味なくなるし、どうも飽き性なんだよね。
「とりあえず、俺は言峰は凄いって思ってる。それは変わらない」
「えへへ、ありがとう。それにしてもまあ、暇だ」
喋ってて変わることと変わらないことがある。今回は全然何も変わることはなかった。
☆
文月学園の坂の頂上、校門のすぐ傍にて。
「おー、ここが明久君たちの通ってる学校かー」
「随分と高いところにあるようですね。リュウノスケ」
オレンジの髪に紫の上着を着たなんとも目立つ青年と背の高い外国人と思わしき男性の奇妙な二人組みが立っていた。
「ま、町の外れは土地が安くて広い土地が手に入るからじゃないかな? とりあえず、明久君に会いに行こう!」
おー、と気の抜けた感じで青年が笑えば。
「それもそうですね。行きましょう」
背の高い男性も穏やかに笑った。
「明乃ちゃん元気にしてるかなー。また絵のモデルやってもらえないかなぁ?」
明乃ちゃんってかわいいし、描きがいがある薄幸さって言うかさーと青年が笑顔で言う。それは本人には言わないようにしてくださいねと背の高い男性は嗜めた。
「はっくち」
その頃、中堅部隊の待機所にて。明乃がくしゃみをした。
「大丈夫?」
「うー? 風邪でも引いてたっけ?」
おっかしいなぁと首をかしげる明乃だった。
明乃の幸運は多分どこかにお出かけしているかなって思う。それから幸運Eの人を引き寄せそう。
雨龍龍之介はグロをメイン、たまにとても綺麗な風景画や人物画を描く異色のアーティストとして活躍中。旦那は助手、外見は綺麗な旦那を思い浮かべていただければ完璧かと。