バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第三幕

ここは冬木の衛宮邸、その玄関先で家主である和服の男性、衛宮切嗣とオレンジ色の髪をして紫の上着を羽織った青年、雨龍龍之介が喋っていた。

 

「それは本当かい?」

 

どうやら龍之介が切嗣に連絡を持ってきたらしい。切嗣が訊ねれば龍之介が首を縦に振った。

 

「うん、一応ケイネスさんが連絡入れたって言ってたけど見てないの?」

「見てないよ。連絡手段は?」

 

使い魔なら気が付かないということはないしと首を捻る切嗣に龍之介が爆弾発言をした。

 

「うーん、カモフラージュのためにエアメールを使って、宛名は明久君に送ったって」

「はぁ、なに考えているんだ。そんなことやったら明久が持ってく……あ」

 

どうして連絡が入らないのかについて分かったようだ。明久宛に来たエアメールは本来は切嗣宛だったらしい。龍之介が笑いながら頷く。

 

「多分それだね。いいよ。オレちょっと確認してくる」

「あ、雨龍!?」

 

走っていく龍之介の背中を切嗣は呆然と見ることしかできなかった。完全に背中が見えなくなってから切嗣は呟く。

 

「……どうしよう」

 

                     ☆

 

さて、教室は熱気に包まれていた。何故かって?

 

「よし、あんた達! 模擬戦だからといって、油断しちゃ駄目よ!」

「「「おおう!!」」」

 

悠里がみんなの士気を上げるために色々と頑張ったからだ。おかげで体感温度すら高くなりそうで怖い。人間って集まるとここまでの熱気を持てるんだ。暑苦しすぎてなんか息苦しく感じるんだけど。

 

「近藤と福村以下二十名は前線部隊よ! プランAをベースに出来るならCを加えてちょうだい」

「了解!」

「ただし、無茶は禁止よ。負けそうになったらすぐに戻ること」

「わかってる」

 

悠里が次々と檄を飛ばす。うん、気合入ってるなぁ。むしろ気合入りすぎだよね。ちょっと茶々入れてリラックスさせないと不味いかな?

 

「悠里、気合入ってるね。中堅は?」

「そこは日向と明乃に頼みたいの」

 

あれ?

 

「了解、でもぼくが遊撃じゃないって珍しい」

「まあ、色々と考えているのよ。頼んだわ」

 

ま、ここにぼくを配置するって言うのはなにか策があるってことだよね。悠里が無駄に何かをするってことは少ないし。

 

「はいはい、お任せくださいな」

 

さーて、頑張らないとなぁと心の中でだけ気合を入れていると悠里は別の場所でまた指示を出していた。頑張りすぎないでよ?

 

「明久と比奈丘、それから須川の三人は遊撃担当よ。メインはあんたたち三人、それから木下と島田も連れて行きなさい」

 

お、遊撃部隊は結構面白い人選だね。アキや彩夏はともかく須川君とか木下君とか島田君は珍しい。てか、遊撃部隊って言うんだから攻撃してすぐに逃げるとかでスピード重視だと思ったのに。

 

「ん、わかったよ」

「はぁー、めんど」

 

アキは普段通り……いや、ちょっと疲れてる? それに彩夏はいつものように面倒くさがってるなぁ。

 

「俺まで遊撃担当なのか?」

「むしろワシがおる意味が分からんのじゃが」

「大丈夫だろ、俺よりは」

 

あ、案の定三人が渋ってる。大丈夫かな? いきなり普段やらないことやるって言われても、困るよね。

 

「三人とも、気弱にならないで! あんたらも作戦の一部なんだから」

 

悠里も檄を飛ばす。語調も強いしみんな萎縮しないといいんだけど。ちょっと不安だなぁ。

 

「悠里さんが必要って言うんだから必要じゃないかな」

 

アキがフォロー入れてる。これは大丈夫だね。はぁ、悠里が気合入りすぎてて心配だよ。

 

「すまん」

「そうじゃの。悠里殿の作戦なのじゃから大丈夫じゃの」

「ゴメン、こっちが気弱になったらダメだよな」

 

じゃあ、がんばろー。とアキが言っているのを聞きながらちょっとにやけていると、作戦会議をしていた日向君がぎょっとした顔でこっちを見た。あ、しまった。変な奴って思われることこの上ないよね。

 

「日暮、夢路、鈴原の三人はあたしの近衛担当」

 

お、珍しく正統派に成績優秀者で近衛を固めてるんだ。でもあの夢路まで入ってるって……大丈夫かな? 何かあの一件もあるし心配だよ。

 

「あいよ、ずいぶんと厳重だな。俺を除き」

「……わかったわよぉ」

「分かってる」

 

まあ、心配しすぎてもしょうがないよね。頑張らないといけないのはいつものことだし、いざって時はぼくが悠里のところに行けばいいか。

 

「よし、絶対に勝たないと」

「……調査完了」

 

あ。神海来た。何か調査してたのかな?

 

「お疲れ、大丈夫そう?」

「………うん」

「とはいえ、相手はあの根本よね。気をつけないと」

 

今回は悠里が物凄く気合を入れている。ある意味ライバルとも言える根本さんが相手なら当然か。気合入るときって最後の最後でトラブルんだよなぁ。警戒しとこう。

つらつら考えてたら日向君にせっつかれた。あ、作戦会議忘れてた。

 

                    ☆

 

「…………これで、良し」

「………」

 

校舎の片隅で、黒いフードを被った謎の人物が何かクナイを設置していた。そこから漏れてくる魔力は妙に禍々しい。黒いフードを被った人物が立ち去るとクナイは地面にずぶりずぶりと沈み込み、取っ手の部分を残して刃の部分は地面に埋まってしまった。

 

 

――――運命の夜を待ちわびる異分子と平穏を望む人々の戦いが幕を開ける。

 





不穏な気配はじわりじわりとやってくる。
なんてね。

雨龍さん登場、最後の最後になっての登場です。

とりあえずBクラス戦はどうなるのか、フードの正体は? 次回へ続きます。

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