聖霊機IS   作:トベ

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 再開と言っておきながらかなり時間が空いてしまい申し訳ありません。


十話

 

 

 

 

 

 ここは聖地中央棟、会議室前の応接室だ。そこにいるのは4人、中央の机を挟んで向かい合わせで置かれたソファに座るイヴェルとローディス。そしてローディスの傍らに立つフェインと、イヴェルの傍らに立つ侍従だ。彼らは部屋に備えつけられたモニターを険しい表情で見つめていたが、扉を開ける音が室内に響くと視線はそちらに集中する。4人の視線の先にいるのはレイフォンと、彼に連れられてやって来た一夏達だ。

 

「レイフォン殿下!」

 

 まず声を上げたのはフェインである。服もいつもの騎士服で丁寧ではあるが、何処か咎める様な口調でレインフォンに詰め寄っていく。

 

「やあ、フェイン。ただいま」

「ただいま……では、ありません! 勝手に出歩かれては困ります!!」

「「「え?」」」

 

 レイフォンはそんなフェインの様子を気にせず相変わらずにこやかに答え、一夏達3人は揃って声を上げると視線をレイフォンへと集中させている。流石に勝手に出歩いているとは思っていなかったようだ。

 

「ちょっとした気晴らしだよ。国に帰れば堅苦しい生活が待っているんだから、少しは大目に見てくれてもいいんじゃないかい?」

「殿下!」

「まぁまぁ。少し落ち着いて……所で」

 

 レイフォンは尚も言いすがるフェインに肩を竦めつつ宥めると、苦い顔をしてモニターを見つめていたローディスに声をかける。

 

「如何したんだい? ローディス」

「まあ、見てもらえれば分る」

 

 そう言って再びモニターに視線を移した彼に続いて皆もモニターに視線を向ける。すると、ちょうど映像が切り替わった様だ。画面に赤黒と漆黒の二体の巨大な人型が映し出される。如何やら映像の内容は昨日のライブレードとレイオードの戦闘映像の様だ。

 

「ライブレード!」

「では、この映像は昨日の戦闘の……」

「一体どうやって……」

『―――この映像に映っている黒色の機体こそ、かつてゼ・オードに立ち向かったとされるライブレードです! 皆さんもご存じのとおり、政府の公式発表では現時点でこの機体の所在は不明とされてきました。ですがご覧のとおり、すでに発見、戦闘に耐えうるほどに整備され、事もあろうに聖地に隠されていたのです! ライブレードと戦っているこの機体が109年前の悲劇を引き起こしたゼ・オードではないかと―――』

 

 一夏達3人がそれぞれ驚愕の声を上げるなか、画面に赤毛のショートヘアーの活発そうな女性が映るとその女性の声が部屋に響いた。

 

「マキ姉か……」

 

 響く金属音や駆動音に負けないくらいに声を張り上げるその女性の姿を見るとフェインが珍しく声のトーン落とし、呆れたような声を上げた。

 

「フェインの知り合いか?」

「ああ、師匠の恋人なんだ。何というか、ゴシップ屋ってところだな」

「へえ……」

 

 こっちにもそう言うのがいるんだと思いながら、一夏はモニターに視線を戻した。映像の中ではマキと呼ばれた女性がライブレードの発見、それによるゼ・オード襲来の危険性を隠していた政府への批判等を話し続けており、その様子をフェインは呆れたような視線であるが、若干、心配そうな様子で見つめている。

 

「マキ姉らしいと言えばらしいけど……」

『―――この事は今後も引き続き追いかけて行きたいと思います。以上を聖地より、私、マキ・テオラ・トレスがお伝えしました』

 

 はあっとフェインが溜息をついたのと同時に画面の女性がカメラに向かって意気込みを語るとニューススタジオの様な場所へと映像が切り替わる。するともう用は無いのか、ローディスは侍従に命じモニターの電源を切らせた。

 

「まあ、今はこの事は置いておこう。レイフォン、議会の動きは?」

 

いずれライブレードの事が漏れるとは思っていたが、こうも早くばれるとは思っていなかったのだろう。ローディスは大きく溜息を溜息を吐きつつレイフォンに尋ねた。

 

「議会の方は『聖霊機とリーボーフェンをアガルティアの戦力として組み込むべきだ』そんな流れになってきているよ。アガルティアの王女であるセリカが設計した以上はアガルティアに所有する権利がある、そんな考えが出てきているみたいだね」

「そんな勝手な!」

 

 あくまで冷静に話すレイフォンだが、そんな彼の言葉に一夏は苛立ちを隠さず声を荒げる。

 

「そう、勝手だね。だが、それに対して軍出身の方が反発しているから、すぐさま動きが制限されるというわけではないようだね」

「成程ね……」

 

 軍だけでは頼りないと言われているようなものだから、軍出身者の反発も分からなくはない。ローディスはレイフォンの話を聞き終えると、しばし思案に耽る。

 

「なら、まだ猶予はあるか。なるべく早く策を講じよう……おっと」

 

 そして、ふと視線を傍らにある置時計へと向けるとローディスは何か気付いた様な表情を浮かべる。

 

「そろそろ時間だ。では頼むよ」

「大丈夫でしょうか? 今の話を聞くとあまり穏便に済む様には思えないのですが……」

「そうだな……」

 

 だが、そんなローディスへセシリアはレイフォンの話を聞いたからか、今まで平静だった様子から一転、表情を曇らせ声をかけた。その話を聞いていた一夏も同様に良い表情はしていない。

 

「不安かね?」

「はい。正直、そう言った方々に良い思い出がないものですから」

「心配する事は無い。今日、参加されるデイ・ラクバル氏は人格者で知られている。なぁ、ユミール」

「ええ」

「へ? 如何いう事ですか?」

「あぁ、二人はちょっとした知り合いなのだよ。さあ、時間も迫っている事だし、そろそろいいかな?」

 

 一夏から疑問を投げかけられたものの時間も迫っていることもあり、ローディスはそれに一言答えると二人を促す。

 

「「はい」」

「では、此方へどうぞ」

 

 2人もそれ以上聞くことは無く、侍従によって開かれた扉から侍従に付いて応接室を出て正面の会議室へと入って行く。すると其処には既に設営された議席に着席している人物がいた。会議室内にいるのは4人だ。細見で髪が肩辺りまで伸びた目つきの鋭い、年の頃は40歳程の男性と傍らに連れ添うように立つ妖艶な雰囲気の長い金髪の20代後半の女性。

 

 そしてその男性を中心に右側に中年の太った女性の議員が、左側に頭頂部の禿げ上がった太目の中年の男性議員が席についていた。その4人の前に一夏達が立つと、先ず、ユミールが軽く会釈し中央の細身の男性に向けて声を発する。

 

「お久しぶりです。先生」

「ああ。今日はよろしく頼むよ」

 

 彼がデイ・ラクバル。アガルティアの評議会議長である。声を掛けられたユミールの懐かしそうな表情に顔見知りであることが伺え、彼も笑みを浮べつつ答えている。

 

「先生って、さっきの話の意味はそういう事だったのか?」

「ええ。昔、ここで教鞭をとっておられたの」

 

 先程のローディスの言葉の意味を理解した一夏はユミールに声を掛ける。

 

「へえ、それって……」

「何を話しているのかね! 我々は忙しい身なのだ。そんな中わざわざ時間を割いて此処に来ているのだよ!」

 

 

 だが、そんな彼の言葉を遮り、太目の男性議員が声を上げる。如何やらかなり苛立っている様だ。人目も憚らず声を荒げている。デイはその様子に顔を顰めているが、反対委側に座る無撮った女性議員はその物言いに同調している様で軽く頷いている。

 

「あ、いや、すみません……」

「っ! 申し訳ありません!」

 

 すっかり、いつもの調子で話し始めようとしてしまい。一夏はここがどんな場所であるか思いだし焦り謝罪、ユミールも同様に頭を下げている。だが、それでも腹の虫がおさまらない様で苛立ちを隠そうともせずに議員はまくしたてる。

 

「まったく、ここがどこか場所も弁えず!」

「まったくです! 異世界人というのは常識と言うものを知らないのでしょうか! 育てた人間の顔が見てみたいですね!」

「――!」

 

 やがて隣に座っている女性議員まで加わり、言いたい放題に暴言を吐き始めた。私語をした事は確かに自身に非がある。だが、その対象が家族にまで及ぶとなれば流石に一夏の心中も穏やかではいられない。その言葉に表情を歪め、身を硬くするが、ここで何かあってはまずいと思い、理性をフル活用し声を荒げそうになる自信を押し留める。だが、流石に一夏に非があるとはいえ好き勝手な事を言う議員に黙っていられないのは周囲も同じだ。流石に見かねたセシリアが口を開いた。

 

「貴方方もそこまで言う事は―――!!」

「何だね!君は……」

「―――君達、少し落ち着きなさい」

 

 そのセシリアの言葉に言い争う様な様相を呈してきた議場内であったが、その喧噪を遮り、声を上げた者がいた。デイ・ラクバルだ。いまだ声を荒げる議員に対し、低く良く通る声で言葉を続ける。

 

「議長! しかし!!」

「二人とも……我々は国の、ひいては国民の代表なのだ。その様に喚き散らしては我々を選出した国民の品位が疑われてしまう」

「「……う」」

「それに、きっかけとなったのは私やユミール君の会話だ。私達も彼と同様に責め立てるのかな?」

 

 確かに話をしていたのはユミールも同じであり、そのきっかけになったのはラクバルの言葉である。公私を分けるのならばここでは一議員、一錬金学士の立場であるべきであっただろう。

 

「それに君達がそうやって叫んでいる事も本来の事案からは外れている。攻めるべきは私語をしたと言う一点のみであって、ご家族の事まで攻める権利はないのではないかな?」

「そ、それは……」

「……非があるのは我ら全員だ。其処は認めなければいけないな」

「「はい」」

 

 怒鳴る事なく、窘める様な口調で喋るデイの言葉に頭が冷えてきたのだろう。一言声を発すると反論する事なく二人の議員は黙り込んだ。

 

「君もそれでいいかな。此処はこれで怒りを抑えて欲しい」

「……はい」

 

 そしてセシリアに声をかけるとこちらも落ち着いたのか静かに頷く。その言葉を最後に会議室内がもとの静けさを取り戻したのを確認すると、デイはその場にいる人物の顔を順当に見ていくと満足そうに頷いた。

 

「では、始めようか? 先ずは自己紹介からかな?」

 

 そしてふっと笑み浮かべると、デイは議会の開会を宣言した。

 

 




 今回から一話辺りを最高でも五千文字ぐらいまでにしてみようと思います。いつも結構な時数になってしまい、読むのも見直すのも大変なので。

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