聖霊機IS   作:トベ

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 一年ぶりの更新となってしまいました。本当に久しぶりですが、よろしくお願いします。


九話

 

 マドカの踵落としによって目を覚ました一夏は動きやすい服に着替え、寝ているマドカを起こさない様に部屋を出た。フェインとのトレーニングの待ち合わせ場所に向かう為だ。本来なら、自身の携帯のアラームで起きる筈が、思わぬ一撃で目が覚めてしまった。

 

「さてと……行くか」

 

 幸い、今もぐっすり眠っているマドカを起こす事なく部屋を出る事が出来た一夏は其のことに安堵しながらそっと扉を閉め、足を踏み出した。

 

「痛って……あいつの寝相も何とかしないと」

 

 踏み出した瞬間にズキッと痛んだ腹部を摩りながら、フェインと約束した鍛錬を行う為、玄関へと向かい歩いて行く。

 

「えっと、待ち合わせの場所は……あれ?」

 

だが、階段を降り、歩き始めた所で肝心な事を確認していなかった事に気がつき、足を止めた。

 

「そういや。待ち合わせの場所って、どの辺りにあるんだ?」

 

 フェインが指定したのは聖地居住区にある運動場との事だったのだが、生憎、昨日来たばかりの一夏は聖地の地理を当然ながら把握していなかった。今更それに気づいた一夏は頭を掻きながら途方に暮れる。

 

「どうすれば―――」

「―――イチカ? 何やってるの? そんな所で……」

 

だが、その思考を遮る声が階上より聞こえ、一夏はそちらを振り向いた。其処にいたのは昨日、同居人となったシャルロットだ。

 

「シャルロット?」

「おはよう。随分早いんだね」

 

ジャージの様な運動着を着た彼女は一夏に話しかけながら階段を降りてきている所だ。そして階段を降ると一夏の前に立つ。

 

「ああ、おはよう。そっちこそ……あ、ちょっといいか?」

「なに?」

 

行き成り声をかけられた事に一瞬、驚いた一夏だったが、これ幸いと彼女に返答しながら問いかける。

 

「この辺りに運動場があるって聞いたんだけど、それってどこにあんだ?」

「あるにはあるけど。如何かしたの?」

「実は……」

 

 事情を知らないシャルロットだったが、一夏の説明を聞くと苦笑いしながら答える。

 

「ああ、そういう事。フェインさんらしいや」

「まあ、俺も確認し忘れていたし……」

「連絡すればよかったのに……あれ?」

 

 シャルロットの言葉に一夏も釈明するが、その時シャルロットは気づいたように声を上げる。

 

「もしかして、これ、まだ渡されてない?」

 

 そう言いながらシャルロットはポケットから携帯端末を取り出し一夏へと見せる。シャルロットの持っているのは一夏達の世界に有る様なスマートフォン型の通信端末である。シャルロット曰く、パイロットへは緊急時等の連絡の為に支給されているとの事だ。

 

「ああ、まだ渡されてないな」

「分った。それも含めて向こうに伝えておくよ。ここでこれ以上話していたら迷惑になるかも知れないから、外でね?」

「いいのか!?」

「しっ!」

 

 思わず喜色も露わに声を上げた一夏にシャルロットは口元に指を当て制す。流石にここで大声を出しては、まだ寝ている家人に迷惑がかかる。その意味が分かった一夏は、口を噤み、小声で話を続ける。

 

「悪い」

「じゃあ、行こう。私もこの時間は何時もトレーニングだからね」

「シャルロットもか?」

「うん。ああ、あと、時間がある時に簡単な地理とか、調べておいた方がいいよ。これから、ここで暮らす訳だしさ」

「そうだな。そうするよ」

 

 そう言うとシャルロットは歩き出し、一夏もそれに続いて行く。

 

「あっ、確認しておくけど、間違いなくやるんだよね?」

「ああ。それは間違いない。この時間に来てくれって、昨日言ってたからな」

「アバウトすぎだよ。もう」

「……ごもっともです」

 

一夏の言葉に小声ながらもシャルロットは呆れた様な声を上げる。その意味が分かっているから一夏も恥ずかしそうに頬を掻きながら答えていた。

 

そのまま二人揃って家を出るとまだ日の出には早いらしく、辺りはまだ薄暗く、二人は若干の肌寒さを感じている。

 

「まだ、結構暗いな」

「そうだね。明るくなるのは、もう少しかかるかな。じゃあ、ちょっと待ってて」

 

シャルロットはそう言うとすぐに端末を操作し、耳へと当てる。暫く呼び出し音が鳴り、その音が一夏の耳にも届く。辺りが静かな分、呼び出し音がいやに大きく感じる。

 

「あ、フェインさんですか? 朝早くからすいません。はい、イチカから鍛錬するって聞いて、その待ち合わせ場所についいての話なんですけど。はい……」

 

直ぐにフェインは出たようでシャルロットは話し始め、一夏はじっと二人の話が終わるのを待つ。

 

「はい、わかりました。じゃあ、そこまで案内します。はい、では……」

「何だって?」

 

 おずおずと聞いてくる一夏にシャルロットは携帯端末をズボンのポケットにしまいながら答える。

 

「うん、やっぱりそこでいいって。今回は私が案内するから。後、フェインさんに二人の分の携帯端末を手配してくれるように話しておいたから」

「悪いな」

「さ。じゃあ、行こうか」

 

そしてシャルロットに先導され、二人は歩き出した。暫く二人は無言のまま歩き続けていたが、やがてその沈黙を破る様に一夏がふと思っていた事を口にする。

 

「そういえば、シャルロットってさ」

「うん?」

 

 一夏の言葉にシャルロットが振り向き、視線を向ける。

 

「何で聖霊機の操者になったんだ? こう言っちゃなんだけどさ、地球人の召喚は飽く迄保護なんだろ? 他に選択肢は無かったのか?」

 

 彼にとっては何となく思った事なのだろうが、当のシャルロットは少々視線に呆れを滲ませながら答える。

 

「イチカって、けっこう、無神経なところあるよね?」

「……そうだな。悪い」

 

 流石に無遠慮に聞きすぎたかなと、バツの悪そうな顔をしながら一夏は謝罪する。

 

「まあ、いいよ。君の戦う理由だとか、私も聞いちゃったから」

 

 だが、怒っていると言うわけではなかったのだろう。すぐに表情を緩めると再び視線を前に戻し、話し出した。

 

「う~ん。最初の頃は、それ以外にやる事がなかったから、その次がカインへの対抗心かな……」

「えっと? それってどういう?」

 

 最初の理由は一夏も理解できる。だが、二番目の意味が分からず、一夏は首を捻っていたが、セリカの言葉を思いだし、ふと呟く。

 

「そういや、カインとは最初の頃は仲悪かったってセリカが言ってたけど、何か関係あるのか?」

「うえ!? セリカさん! 言わないでよ~」

 

 思いもよらない一夏の言葉に驚き、ここにはいないセリカに対し、シャルロットは抗議の声を上げる。先程、シャルロットに無神経な所あると言われたのをもう忘れたのか? 行き成りの爆弾を落とした様だ。数瞬、恥ずかしそうに俯き呻いていたが、顔を上げると再び話し始めた。

 

「うう。まあ、話を戻すよ。あ、その前に聞くけど、イチカはこの異常が解決したら、元の世界に帰るんだよね?」

「そりゃあ、そうだろ? シャルロットは違うのか?」

 

 何を当たり前の事をと、一夏は不思議そうな表情で返答する。

 

「うん。私はこっちに永住しようかと思ってる」

「え、家族とかは?」

「……イチカも私達がこっちに来ることになった原因は聞いてるよね?」

 

 一夏は当然の疑問を口にするが、その言葉に答える事は無く、シャルロットは表情を曇らせながら話しを続ける。

 

「ああ、因果律が狂って自分の存在までおかしくなったって、それで俺は別の世界に飛ばされたって聞いたけど」

「そう。因みに一夏が飛ばされた世界はどんな感じだったの?」

「う~ん。何というか、ありえない世界……かな?」

 

 シャルロットからの質問に今度は一夏が遠い目をしながら答える。あの世界の自分達がどういう生活をしてきたかは今の一夏には知る由もない。だが、ああいう可能性の世界もあったんだなと、しみじみ思うのだ。その一夏を見ながらシャルロットは静かに話し始めた。

 

「うん。私もそんな感じかな。私さ、母子家庭でね。ずっと母さんと二人で暮らしてきたんだけど、その母さんが、異変が起こる少し前、病気で死んじゃったんだ」

「え……」

 

 シャルロットの言葉に一夏はぽかんと口を開きながら、今更だが迂闊に聞くべきではなかったと悔やむ。

 

「……ゴメン。聞いていいことじゃなかったな」

「いいよ。話すと決めたのは私なんだし、それに、今更だよ」

 

 そして、シャルロットは尚も話し続ける。

 

「異変が起こったのは母さんが死んじゃった次の日の朝だった。その日の朝、私は母さんの呼ぶ声で目を覚ましたの」

「え? それって、つまり……」

「うん、その世界では……母さんは生きてた。それで、その声に驚いて飛び起きた私が見たのは元気だった頃と同じように朝食の支度をする母さんの姿と、その母さんとテーブルに座りながら仲良さげに話す、知らない男の人」

「お父さんか? ひょっとして」

「うん、母さんから『お父さんよ』って言われた時、凄い戸惑って、訳が分からなくて……でも、最後は嬉しくて泣いちゃったっけ。母さんが死んじゃったのは夢で、こっちが本当の私の暮らしだったんだって思ってね」

「それは……」

 

 シャルロットの言葉を聞き、一夏は言葉を詰まらせる。余りにも違い過ぎる境遇に言葉も出ない様だ。そんな一夏の目の前でシャルロットは言葉を続ける。

 

「それから、しばらくは本当に幸せだった。何のことは無い日常だったけどね。ただ、父さんは私が急によそよそしくなったって寂しがってた。話を聞いてみると、その世界の私は結構甘えたがりだったみたい。会社の社長らしくて、いつも忙しいみたいだけど、家にいる時は優しい父さんだったな」

「……」

「それで、次の異変はその世界で一か月程暮らした後だった。いつも忙しい父さんが久しぶりに休みが取れたからって旅行に行こうって言い出したんだ。その世界では何回も行っているみたいで何枚も写真があったけど、私には当然覚えがない事だから、私にとっては家族三人で初めての経験で凄く嬉しかった。だから、出発の当日は精一杯おしゃれして、母さんに教えてもらいながらお化粧して、張り切って家を出た……その時なの、フォルゼンさんが現れたのは」

「……何と言うか、最悪のタイミングだな」

 

 あまりの展開に一夏も少々、顔が引きつり気味だ。

 

「うん。正直、あの世界が私の世界じゃないって言われてもイマイチ良く分からなかった。だから、当然言ったよ『私は此処にいる!』って、でもその時には、もう母さんも父さんも消えてて……訳わかんなくて、もうどうしようもなかった」

「結局、フォルゼンについて行くしかなかったって事か?」

 

その時の事を思いだしているのか、シャルロットは若干、涙声で頷いている。だが、その世界に残ると固執したシャルロットの気持ちも良く分かる。失ったものが戻って来ただけでなく、それ以上の形で現れたのだから。

 

「何と言うか、ブレないな。あの人……」

 

もう少し、やり方を考えられなかったのかと一夏はフォルゼンに怒りを覚える。その感情が態度に出ていたのか、シャルロットが窘める様に声を上げた。

 

「言いたい事は分かるけど、フォルゼンさんはいい人だよ。まぁ、ちょっと強引な所あるけど……っていうか、イチカの方が怒ってどうするの」

「まあ、癖のある人だけど、悪い人じゃないよな」

 

 少なくとも裏表のない人物であることは確かだし、フォルゼンの子であるメルヴィが真っ直ぐに育っている事からも、悪人でない事は十分、理解できる。それはシャルロットも思っている様で「だよね」と同意を示す。

 

「だから、そんな感じでこっちに来ちゃったから、しばらくは家に馴染めなくて、研究棟でパリカールのテストを一日中やって、家には寝に帰る位でさ……」

「へ? そうなのか?」

 

 今はまるでそんな雰囲気は無く、仲の良い家族という感じである。その為、意外に思った一夏は思わず声を上げる。

 

「普通はそうだと思うけどな。イチカ達が馴染み過ぎなんだよ」

「……そう言われれば、そうかな?」

 

そのあたりはマドカにしろ、一夏にしろ、家族と認める相手がいる影響が大きいだろう。マドカに至っては明らかに来た当初より生き生きとしている。セシリアも最初はピリピリしていたと言うし、この辺りは一夏達のほうががおかしいだろう。順応性が高すぎる。

 

「パルディアさんにも、そっけない態度で。メルヴィにまで、強く当たっちゃってさ……正直、あの時の私はどうかしてたよ」

 

自分とは違い、幸せな家庭を持っている事に嫉妬してしまったと言う事だ。その時の事を思いだしているのか、シャルロットは自己嫌悪からか顔を歪めている。

 

「で、カインに会ったのがそんな時だよ。後から聞いたんだけど、カインね。私の話を聞いて心配して来てくれたんだって」

「はは、カインらしいな」

 

 シャルロットの言葉に一夏は思わず声を挙げる。リーボーフェンにいる間、カインはユミールや自身の事を気遣ってくれていたのだ。一夏がそう感じるのも当然である。

 

「あの時のカインの言葉は、今も忘れられないよ」

「何て言ったんだ?」

 

 当時を思いだしているのか、懐かしそうに話すシャルロットに一夏は思わず問いかける。そんな一夏に「ふふ」っとシャルロットは含んだような笑みを浮べる。

 

「えっとね『君さ、いつまでそうやって拗ねているつもりだい? ああ、もしかして、そうやって自分はかわいそうです、悲しんでますってアピールして誰かが慰めの言葉をかけてくれるのを待っているのかい?』だったな」

「本当にそれ、心配してきたのか!?」

 

 シャルロットから飛び出たあまりに辛辣な言葉に思わず声を挙げる。その言葉はどう聞いても慰めの言葉には聞こえない。

 

「でしょう! どう考えても傷心の女の子に言う言葉じゃないよね~」

 

 一夏に対してシャルロットは笑いながら答えている。口では文句を言っているものの、今はもうあまり気にしていない様だ。

 

「ああ、だけど意外だな。カインって、そんな事を言う様には見えないけど……」

 

 一夏にしてみればカインは色々と気遣いの出来る人間という印象である為、正直信じられないと言った様子だ。それにシャルロットはカインの口調を真似していたのだが、その口調が妙に冷たい感じである為、一夏に更に違和感を与える。

 

「まあ、しょうがないよ。カインもあの頃は故郷と色々あって結構、頭に来てたみたいだから……」

「故郷って?」

「うん。それはね……」

 

 一夏の問い掛けに思わず応えそうになったシャルロットだったが、はっとした表情をすると言いよどんだ。どうやら、言っていいものかと悩んでいる様だ。そして、少し逡巡した後、口を開く。

 

「ごめん、これは私から言っていい事じゃないや」

「あ、いや、いいさ。カインの事だししょうがないよ」

 

 思わず聞いてしまったが、事がカイン個人の問題であるならば、ここで聞き出すべきではないと一夏も考える。

 

「でも、そっか。カインへの対抗心ってそういう事か……」

「うん。あんなこと言われて黙ってられなかったし『絶対、カインより強くなってやる! 』って思ってさ、それからは操縦訓練だけじゃなく色々と頑張ったんだよ。こんな風にね……ふっ!!」

 

 そう言ってシャルロットは足を踏み出すと共に進行方向に向かって裏拳を突き出す構えをとった。

 

「それって……シィウチェンさんの?」

 

 その動きに見覚えがあった一夏は問いかけた。シャルロットの動きはホンシェンコワンの繰り出す打撃攻撃、仁王拳に酷似している。

 

「うん、シィウチェンさんに習ってるの。手数は多い方がいいから。まっ、最初はこんな感じかな」

「成程……ん? 最初はって事は今は違うのか?」

「それはそうだよ。 今は―――」

「おーい!!」

 

 再び話し出そうとしたシャルロットだったが、その時、遠くから聞き覚えのある声が届き、二人はともにそちらへと視線を向けた。そして思った通り、フェインが凄い勢いでこちらに走ってきているのが見えた。

 

「話は此処までだね」

「ああ……フェイン!!」

 

 如何やら話は此処までの様だ。無事、合流出来た事に一夏はほっとした様子でフェインに向かって声を上げる。

 

「……あれ? フェインさん。さっき連絡した時はまだ中央にいるって」

 

 そんな一夏の横でシャルロットは怪訝そうな様子で呟いていたが、一夏はその言葉に気づく事なく、フェインへ向けて声を上げていた。フェインはすぐに一夏達の近くまで来ると、先ずは「ふうっ」と一息吐き、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すまない! 場所の事を伝え忘れていた!!」

「いやぁ。俺も聞き忘れてたし……」

 

 一夏の言葉で頭を上げたフェインは次いでシャルロットに話しかける。

 

「……シャルロットも済まなかったな」

「大したことはしてないですよ。というか……ここまで歩いてきたんですか?」

 

 声を掛けられたシャルロットは応えながらも、ふと思った事を口にした。フェインの泊まっている場所はセリカ達の護衛の意味もあるので、当然ながらローディス達のいる聖地中央だ。此処からかなり距離がある為、もうここまで来ていた事を疑問に思ったのだ。そんなシャルロットにフェインは笑いながら答える。

 

「何を言っている。勿論、走って来たに決まっているだろう!」

「そっ、そうですか。あっ、それで、通信端末の方は?」

 

 意気揚々と答えたフェインに対してシャルロットは的外れな返答を返した事か、それとも、その呆れた身体能力に対してか、引き攣った表情を浮かべながら言葉を続ける。

 

「そっちの方も話を付けて置いた。後で渡される」

 

 流石に時間も時間である為、携帯端末の引き渡しは今すぐと言う訳にはいかない様だ。だが、緊急の呼び出しにも使用する為、其れほど待たずに渡されるとの事だ。

 

「さて、では早速やるとするか!」

 

 まあ、今は何より鍛錬に励むべきだ。どうやら既に目的の場所に着いていた様で、意気揚々とフェインは宣言する。取りあえず、一夏はその場を見渡したが、自身の通っていた学校のそれと比べても充実している。これなら大抵の事は出来るだろうと考える一夏の横でシャルロットが声を上げる。

 

「じゃあ、イチカ、邪魔しちゃ悪いから、私は行くね?」

「ああ、悪い。また後で……」

「シャルロットも励むといい」

 

 シャルロットはシャルロットでやる事があるのだろう。そう言って走り去っていく彼女を見送り、一夏はフェインに向き直る。

 

「さてと、まずは―――」

「待ってくれ、フェイン。始める前に頼みがあるんだ」

「ん、なんだ?」

 

 何かを言おうとして口を開いたフェインだったが、それを一夏の決意に満ちた声が遮った。その視線に何かを感じたフェインは真剣な表情で一夏を見据える。

 

「フェインはアガルティアの騎士なんだろ?」

「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」

「なら、正式な鍛錬も積んでるよな?」

「勿論だ! 師匠の元で10歳の頃にはもう修行に入っていたな……」

 

 そう言うとフェインは何処か誇らしげな様子だ。腕を組みながら当時を思いだしているのか、うんうんと頷いている。そんなフェインを見て一夏は意を決して声を上げる。

 

「なら……その鍛錬を俺にもやってくれないか!?」

「どういう事だ?」

 

 一夏の言葉に手を降ろし真剣な表情で問いかける。

 

「……レイオードと戦って思った。いや、違う。何回も戦って思ったんだ。今までの様な鍛え方じゃ駄目だって、これから、あいつは全力で俺達を殺しに来る。今の俺じゃ誰かを守るどころか自分の身すら守れない」

 

 言いながら一夏は悔しそうに視線を伏せ、拳を握りしめる。再び相対する日がいつになるかは分からないが、その時の事を思うと一分一秒でも時間は無駄にできない。最早、四の五の言っていられない状況なのだ。やがて、ばっと顔を上げ、フェインの顔を真っ直ぐに見ながら声を上げた。

 

「俺は何が何でも強くなりたいんだ。だから、フェイン! 俺を徹底的に鍛えてくれ!!」

 

 それに何の考えなしにフェインにこんなことを言い出したわけではない。フェインはアガルティアの騎士である。装兵機、すなわち人型兵器を動かすための訓練は誰よりも受けて居る筈だと考えたからである。その為、一夏はフェインに強く懇願する。対するフェインは考えを整理しているのか、ぽかんと固まっていたが、その意味を悟ったフェインは狼狽しながら答える。

 

「まっ、待て!! つまり、それは……俺の弟子になる……と言う事か!?」

「え?……あ、そうだな。そういう事になるのか?」

 

 その言葉に一夏も今気づいたという様子の声で声を掛ける。フェインに鍛えてもらうと言う事はつまりはそういう事になるだろう。

 

「じゃあ、これからは師匠って呼んだ方がいいか?」

「ぐは!!」

 

 思わずそう言った一夏であったが、その言葉を聞いたと同時にフェインは鼻血を噴き出し倒れる。行き成りのフェインの様子に一夏は焦りながら駆け寄った。

 

「ちょ、おい! 如何した!!」

「いや……何でも無い。今の俺には刺激が強すぎただけだ。呼び方は今まで構わない」

「そうか?」

 

 だが、フェインはすぐに起き上がるとそれを手で制止し、鼻をつまみながら、若干上を向きながら答える。しばらくフェインが落ち着くのを待っていた一夏だったが、やがて落ち着いたのか、こちらを振り向くと興奮気味に語り出した。

 

「だが、お前の覚悟は受け取った! しかし、やるとなったら手加減はしない。ビシバシ行くからそのつもりでいる様に!!」

「ああ、望むところだ!」

 

 そのフェインの言葉に一夏も力強く答える。もとより加減など望んでいなかった。

 

「よし! まずはお前の今の身体能力がどの程度か見極める。本格的な修行に入るのは其れからだ! 行くぞ!!」

「ああ!」

 

 

 

 

 やがて、日が上り、辺りが明るくなった頃、二人は鍛錬を終えた。暫く運動らしい運動からは遠ざかっていたものの、どうにかフェインの鍛錬に一夏はついて行った。だが、流石に万全の状態で終える事は敵わなかった為、今はフェインに肩を貸してもらっている状態だ。

 

「着いたぞ。大丈夫か?」

「ああ……」

 

 思った以上に一夏の能力が高かった事にフェインは鍛え甲斐があると思ったのか、かなりやる気になったようで、本当に容赦が無かった。クラシオ家の前まで一夏を送り届けるとフェインは肩を離し、一夏に告げる。

 

「アジャスターの効果もあるから肉体の回復も早いだろうが、しっかり休息をとっておけよ。午後の鍛錬は追って報告するから、そのつもりでいる様に……それでは、俺はこれで」

「ああ……」

「うむ! さーて、修行の計画をたてなければ……いや、まずは―――」

 

 その一夏の言葉に満足そうに頷くと何やらぶつぶつ言いながら歩き出した。どうやら修行計画を頭の中で練っている様で考える内に興奮しだしたのか、徐々に速度を上げ、その場から走り去って行った。それを見送った後、一夏は玄関へと向かいドアノブを捻るとドアを開け放った。

 

「ふう、ただいま」

 

そして後ろ手で扉を閉めた所で聞き慣れた声が響いた。

 

「やっと、帰って来たな……」

 

 帰宅した一夏を真先に迎えたのは、マドカであった。既に寝間着から普段の黒い地味な服に着替えていた彼女は、何処か不機嫌そうな表情で玄関に仁王立し、一夏を出迎えていた。

 

「ああ。マドカ、おはよう。どうした?」

「ふん……」

 

 一夏の問いかけに応えずに、マドカは鼻を鳴らすと黙って奥に引っ込んでいった。

 

「あら、イチカ君、帰って来た?」

 

 そんな彼女と入れ替わって姿を現したのはパルディアだ。マドカとすれ違う形で一夏の前に立つと言葉を発する。炊事の途中だったのか、エプロン姿だ。

 

「あらあら、凄い汗ね。まずはシャワーを浴びてらっしゃい」

「ああ、はい……あの?」

 

 パルディアは相変わらず温かい笑みで一夏に言葉に答える。そんなパルディアに一夏はマドカが引っ込んでいった廊下の奥を見ながら問いかけた。

 

「マドカ、どうしたんです?」

 

 そんな一夏の問いにパルディアは笑いをこらえるような様子を見せると口を開いた。

 

「ふふふ。マドカちゃんね『起きたらイチカがいないんだ!』って、朝方―――」

「言うな! パルディア!!」

 

 だが、一夏の問いかけにパルディアが何かを答えようとしたところで、それを遮るマドカの声が響く。見れば顔を赤くしたマドカが廊下の先から顔を見せていた。そんな彼女をパルディアは口元に手を当て上品に笑いながら微笑ましそうに見つめる。

 

「はいはい。ふふ……」

「ふん!」

 

その様子が面白くないのか、何処か拗ねた様子でマドカは再び奥へと引っ込んでいった。

 

「如何したんです? マドカの奴……」

 

 そんな彼女の様子を一夏は不思議そうに見つめていたが、そんな一夏にパルディアは窘める様に語り掛ける。

 

「駄目よ、勝手にいなくなっちゃ。マドカちゃん……心配してたわよ」

「……あ」

 

 そう言われ一夏も気がついた。トレーニングに出るとは言ったものの、その詳細をほとんど誰にも言っていなかった。唯一、知っているのはシャルロットであるが、それでは彼女が戻ってくるまで一夏は所在不明と言う事になるのだ。

 

「あんな事の後なんだから。ちゃんと、どこへ行くのか伝えておかなきゃ。皆、心配するから、ね?」

「はい。すみません」

 

 一夏は姉と二人暮らしであるとはいえ、唯一の家族であった姉がほとんど帰ってこない以上、ほぼ一人暮らし状態だったのだ。その為、少し出てくる程度なら出かける際に誰かに一言声を掛ける癖が無かったのも無理はない。パルディアの言わんとすることが分かり、一夏はその心に何処か温かいものを感じながら謝罪をする。

 

「ふふ。シャルも戻って来ているわ。早くシャワーを浴びてらっしゃい。そうしたら食事にしましょう」

「はい」

 

 何気ない日常のやり取りだったが、一夏にとってはその一つ一つがとても久しぶりに感じられ、自然と頬を緩ませる。そして先程まで感じた疲労もどこへやら、足取りも軽やかに着替えを取りに自室へと向かって行った。

 

 

 

 

「おはよう。お兄ちゃん!」

「おはよう、メルヴィ」

 

 シャワーを浴びた後、食堂に入った一夏をメルヴィとパルディアが迎える。メルヴィは朝から元気いっぱいな様子で一夏を出迎える。

 

「あの、何か手伝う事は?」

「ふふ、ありがとう。気にしなくていいから、イチカ君も席について」

 

 何もせずに食卓に座る事が何となく落ち着かない一夏は食器を並べるパルディアに問いかけるがやんわりと断られた。

 

「あ、お帰り。イチカ」

「ああ、ただいま。あれ?」

 

 その為、メルヴィに答えながら一夏も椅子に座る。その際、シャルロットも食堂に姿を現し、食卓に着いた。だが、その時、一夏がある事に気づいた。

 

「メルヴィ、マドカは?」

 

 あの後、汗を流す前に何とかマドカを宥め、その後、マドカは食堂に向かったはずなのだが、そのマドカの姿が此処にはなかったのだ。その為、不思議に思った一夏は一番近くにいたメルヴィに問いかける。

 

「マドカお姉ちゃんはあっちだよ」

「え?」

 

 そのメルヴィの視線の先を追い目にしたのはエプロンをつけ、食器を運んでくるマドカの姿だった。

 

「マドカ、如何したんだ?」

「マドカちゃんね、私に料理を教えて欲しいって。あ、イチカ君、パムは大丈夫?」

「パム?」

 

 一夏の問いかけに答えながらパルディアは食卓に料理を並べていく。その時、聞き慣れない料理に首を傾げる。

 

「アガルティアの料理でツナサンドみたいなものだ」

 

 戸惑う一夏の前にマドカが皿に乗ったサンドイッチの様な物を置いていく。ツナサンドと言われ、出された料理を見る一夏だが、確かにそんな感じだ。

 

「ええ、大丈夫です」

「ふふ、さあ、食べましょうか」

 

 配膳が終わり二人も食卓に着き皆揃っての食事が始まる。

 

「そう言えばイチカ君、今日の予定は?」

「フェインと鍛錬にすることになるかと、マドカは買い物に行くんだっけ?」

「ああ」

 

 朝食は終始和やかに進んでいく。大勢で囲む食卓はやはり格別の様で、運動後である事も相まって一夏はかなり早いペースで食べ進めて行った。

 

 

 

 

 食後、一夏は今のソファで寛いでいた。マドカとメルヴィは朝食の片付けをすると言ってパルディアと食器を持って出て行った為、今は此処には一夏一人であった。

 

「ふう。やっぱり食べすぎるな……」

 

 昨日もそうだったが、和やかな雰囲気からかどうにも食べ過ぎてしまい、一夏は若干の苦しさを感じつつ息を吐く。

 

「大丈夫、イチカ君? お茶をどうぞ」

 

 

 そんな一夏にパルディアがお茶を差し出す。如何やらひと段落ついたようだ。一足先に居間に戻って来ており、お茶の入ったポットからコップにそれを注ぐと一夏に差し出す。それを受け取りながら、一夏は恥ずかしそうに頭を掻きながら話しかける。

 

「すいません。昨日から食べてばっかりで……」

 

 この家に来てから家の事を何もせずに食べてばっかりでどうにも心苦しく思うのだ。

 

「ふふ、気にしないで、沢山食べてくれると作る側としても作り甲斐があるわ。それに……」

 

 そんな一夏に微笑みながら応えていたパルディアであったが、ふと表情を曇らせると声に寂しそうな色を滲ませながら呟いた。

 

「ユミールもあの人も普段は家を開けがちだし、シャルも最近は聖霊機の事で忙しいから……イチカ君達が来てくれて本当に嬉しいわ。家族が増えて急に賑やかになったわ」

「あっ……」

 

 パルディアの言葉の意味を一夏はすぐに悟った。ユミールは今までヨークにいた。フォルゼンも仕事柄、長期に家を空ける事が多い。シャルも彼女の話では最近は忙しい様だ。今も、パリカールの事で何か話があるようで呼び出され、もうここにいない。普段からこういう事が多いのだろう。この広めの家に二人と言うのはかなり寂しく感じる。

 

「そう言って貰えると、嬉しいです……」

 

 一夏にとってもパルディアの感じている事は他人事ではない為、その気持ちは良く分かった。彼も基本は一人暮らしも同然だったからだ。

 

『ただいま……さっ、あがって』

『では、失礼いたします』

 

だがそんな時、玄関の方か物音が聞こえ、次いで二人分の声が一夏達の耳に届いた。

 

「―――あら?」

 

 声の主はユミールの様であるが、誰かと一緒にいるのか、もう一人声が聞こえた。やがて、二人分の足音が徐々に近づくと居間の扉が開き、先ずは思った通りユミールが姿を現した。

 

「あら、ユミール。それにセシリアさんも……」

「お早うございます。パルディアさん、それにイチカさんも」

「ユミール、それにセシリア。おはよう」

 

 扉からユミールに続いて姿を見せたのはバッグを肩に掛けたセシリアだった。セシリアはパルディアに軽く頭を下げると居間へと入ってくる。

 

「ただいま、義姉さん」

「ユミール、仕事の方は良いの?」

「取りあえず着替えを取りに来ただけ。今日も研究棟の方へ詰めなければいけないの」

 

ユミールの方は如何やら荷物を取りに来ただけの様だ。寝ていないのか、声に元気が無く、何処か足元がふらついているようにも見える。

 

「おはよう、セシリア」

「お帰り、お姉ちゃん。セシリアお姉ちゃん、お早う!」

 

 やがて声を聞きつけたのか、マドカにメルヴィも戻って来た。二人はエプロンを畳みながら居間へと入ってくる。

 

「おはようございます。マドカさん、それにメルヴィさんも」

「セシリアは如何したんだ? こっちの方まで」

 

 ユミールはともかく、セシリアの宿泊先は聖地中央の宿泊施設であり、ここからは大分離れている。朝も早い時間にこちらまで来たのを一夏が不思議に思うのも当然だ。

 

「今日の事を伝えてほしいとローディス様から言われまして……」

「ひょっとして、ライブレードの事か?」

「ええ。ライブレードの事で査問委員会が開かれるとの事で、私とイチカさんは其れに出席する様に、とのことです」

「査問委員会か。大丈夫かな?」

 

 セシリアの話を聞き、不安気に声を上げる一夏だが、セシリアは胸を張ると自信ありげに声を上げる。

 

「大丈夫ですわ、イチカさん! 私がついておりますから!」

「ああ、ほんとに悪いな。セシリア」

 

昨日に続き世話になりっぱなしな状況に申し訳なさそうに一夏は応える。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

 

 そんな中、クイクイと服を引っ張られ、そちらに視線を移すとメルヴィが目を輝かせながら一夏を見詰めている。

 

「ん、何だ? メルヴィ」

「お兄ちゃんが、ライブレードを動かしていたの?」

「ああ。まあ、そうだけど」

「すごいなあ。メルヴィも、また、聖霊機に乗ってみたいなあ」

「何だ。聖霊機に興味があるのか……またって?」

 

 如何やら聖霊機に興味があるようだ。一夏の声に瞳を輝かせながら言葉を続けたが、その言葉に若干、引っかかる言葉を感じ、思わず問いかけた一夏にメルヴィは表情もそのままに口を開いた。

 

「うん! メルヴィも聖霊機に乗った事があるんだよ」

「「「「え!?」」」」

「メルヴィ! それ、どういう事なの!?」

 

 メルヴィの言葉に皆が驚愕し声を上げるが、一番驚いているのは当然、母親であるパルディアだ。思わず詰め寄るパルディアにメルヴィは変わらず自慢げに話し続ける。

 

「前にパパがフォルスティンって聖霊機に乗せてくれたの。皆『たかいきどうすうちだ』って驚いてたよ!」

 

 恐らく言っている意味も分かっていないのかも知れない。その証拠にその言葉だけ感情が籠っていない。

 

「何やってんだ? あの人……」

「そうか、メルヴィも動かせるのか」

「もったく、もう……」

 

そんなメルヴィの話を聞き、一夏は呆れた声を上げ、マドカは何か思う所があるのか考え込むようなしぐさを見せ、パルディアは夫の行動に額に手を当て渋い表情をしている。

 

「はあ……じゃあ、ユミール、私は荷物の準備をしてくるから、今は少しでも休みなさい」

「ありがとう。義姉さん」

「あ! メルヴィも手伝う!」

 

 だが、すぐに表情を戻すとユミールに話しかける。そして。メルヴィを伴い居間を出て行った。残されたユミールは言われた通り手近な椅子に座ると一息つく。

 

「大丈夫か? ユミール」

「ええ、ありがとう」

「あぁ、そうですわ。今のうちにこれを……」

 

 一夏は疲労で項垂れるユミールに近づき声をかけるが、その時、セシリアは思いだした様にバッグを開き、中から手のひらサイズの箱を二つ取り出した。皆の見ている前で箱を開くと出てきたのはシャルロットの持っていた様な携帯端末だった。

 

「これって……」

「イチカさん達へ渡す様にと、朝、フェインさんから」

「ああ、もう用意してくれたのか!」

「如何いう事だ? 一人だけ納得してないで説明してくれ」

 

 一人納得する一夏にマドカは説明しろとジトっとした視線を向ける。

 

「ああ、悪い。実はな……」

 

 一夏は今朝、連絡用の通信端末を用意してくれるようにフェインへ話をしていたのを説明する。

 

「成程」

 

 話を聞いたマドカと一夏はそれぞれ端末を受け取り、ユミールの説明を受けながら、それを起動させた……のだが。

 

「えっと……読めないんだけど」

「え?」

 

 立ち上がった画面に映し出されたのはアガルティアの文字であった。流石のアジャスターも文字まで翻訳できないのか、一夏には読めなかった。隣のマドカも同様らしく眉間に皺をよせている。フェインが入手してくれたのだろうが、誰が使用するか伝え忘れていた様で言語設定が初期設定のままセシリアに渡してしまったようだ。やはりどこかフェインは抜けている。

 

「ちょっといいかしら」

「ああ」

 

 それを聞いたユミールは声を上げ、一夏の側によると手に持った端末を覗き込み、そのまま操作し始める。

 

「えっと、確か……」

「へえ……ん?」

 

 次々に切り替わっていく画面を見ていた一夏であったが、ユミールから漂ってきた花の様な香りが一夏の鼻腔をくすぐり、ユミールへ視線を向ける。優しく、落ち着く香りに思わず一夏は声を上げ、それに気づいたユミールは一瞬、一夏へと視線を送り、問いかける。

 

「どうかした?」

 

 ユミールはこういったに無頓着だと思っていたので、一夏は意外に思い、言葉を続ける。

 

「この香り……香水か?」

「ええ。以前、イヴェル様から頂いたの。この香りはなんだか落ち着くの」

「そうか。いい香りだな」

 

 そう言いながらユミールを見ると、徹夜明けであるが、長い銀色の髪はしっかりといつもの様に後ろで纏め得られており、衣類にも乱れはない。流石に衣類に関しては無頓着である物の、身嗜みはしっかりしている様だ。

 

「ふふ、ありがと……よし、これで良し。やっぱり言語データは入っていたわ」

 

 そう一夏は思いつつ声を掛けるとユミールは操作を終え、次にマドカの端末に取り掛かった。その様子を見やると一夏は自身の携帯端末を見る。其処にはもう見慣れた文字が並んでおり、思わず笑みを漏らす。やはり見慣れた文字があると落ち着くものである。流石に細部までは無理みたいだが、通信機能を使用するだけならこれだけでも十分だそうだ。満足そうに笑う一夏だったが、その時、若干、不機嫌な様子のセシリアが声を掛ける。

 

「一晩で随分と仲良くなりましたのね?」

「え?」

 

 どうやら先ほどの一夏とユミールの仲良さ気な様子が気になったようだ。まあ、一晩たって急に敬語も無くなり、親しそうな二人の様子を見れば仲が急接近した様にも見えるだろう。

 

「如何したんだ? セシリア」

「いえ、ずいぶんと親しげに話されるようになられたと思いまして……」

 

口を尖らせ拗ねたような様子で語り掛けているが、一夏はその意味が分からず首を捻っている。

 

「そうか? 口調以外はあまり変わってないと思うけど?」

「……まあ、ユミールさんなら大丈夫ですわね」

 

 そんな一夏とユミールを交互に見ると、表情を緩める。お互い色恋沙汰には疎いし、何より歳が離れすぎている。14歳と29歳では万が一にもそんな事は有りえないだろうと、セシリアは結論づける。

 

「はい、これで良いわ。セシリア、如何かしたの?」

 

 そうこうしているうちにマドカの端末の設定も終わったようで、此方に視線を向けたユミールは一人、納得した様に頷くセシリアを見て一夏に問いかける。

 

「さあ? 行き成りこんな感じなんだ」

「大丈夫かしら?」

 

 そんなセシリアを見ながらユミールと一夏の二人は其れって首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、マドカちゃん。 家の事が終わったら行くからそのつもりで戻って来てね?何かあったら、それに連絡するわ」

「ああ、分った」

 

 セシリアが元に戻った後、準備を終えた四人はパルディアに見送られ家を出た。パルディアの声にマドカは手に持った端末を弄りながら答える。これで連絡は随分と楽になるだろうと一夏も自身の通信端末をズボンのポケットにしまいながら考える。

 

「じゃあ、行ってきます」

「ええ。行ってらっしゃい」

 

 そして、クラシオ家を後にした四人が連れ添って歩いていると一夏がふと声を上げる。

 

「そういえば、聖霊機って、まだ、あったんだな?」

「ええ。航空支援型のフォルスティンと後方支援用のオルベストがまだ乗り手が決まっていないわ」

「フォルスティン。それに、オルベストか」

 

ユミールの言葉にマドカは確認する様に呟く。何故か付いて来ているマドカの様子を見て、セシリアが声を掛ける。

 

「そう言えばよろしいんですの? 買い物に行かれるのでは?」

「そうだが、家の事もあるから終わり次第、と言う事だ。それに私が行きたいのは格納庫エリアだ。だから今日はついて行くわけではない」

「ひょっとして、適正を確認しに行くのか?」

「ああ」

 

 先ほどのメルヴィの言葉に触発されたのだろう。以前、マドカは聖霊機があればと思っていた事を思いだし、自分の適性を確認しておこうと行動に至ったのだ。当のマドカは結果が不安なのか、緊張気味に話している。そうこうしているうちに停留所に付いていた様で4人はバスを待ちながら会話を続ける。

 

「それなら、セリカを探すといいわ。まだライブレードの調査をしていると思うけど、話せばすぐにやってくれるわ」

「分った」

「道は大丈夫なのか?」

「心配するな、一夏。それの確認も兼ねてだ」

 

 そう言って今度はポケットから取り出した小さな冊子状の地図を見せる。開かれたその地図にはマドカ自身の字でメモ書きがしてある為、如何やら一夏とは違い、しっかりと準備をした様だ。

 

「そっか、じゃあ、気を付けろよ?」

「ああ、お前の方こそな」

 

 そして最後に一言一夏が声を掛けると、ちょうど格納庫方面へと向かうバスがやって来た。マドカがそれに乗り込むと、バスは程なくして発車する。

 

「じゃあ、私達も行きましょうか」

「ああ」

 

それを見送った後、すぐやって来たバスに三人は乗車し、その場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めなさい! ライル」

 

 場面は変わり、とある薄暗い場所で何かを叩きつける大きな音と若い女性の叫び声がその場所に響いた。

 

その場にいるのは男が二人に女が一人。声を上げたのは、腰まで伸ばした長髪と閉じられた目が特徴的なこの場にいる唯一の女性だ。その目は常に閉じられているが、周囲の情景が分からない訳ではないのだろう。正確にその方向へ声を発している。そして、その声の先にあるのはバイザーを付けた男、ライルである。そして、そのライルに胸元を掴まれ壁に叩きつけられているのは銀髪の細見の男、ベルンストだ。怒りに燃えるライルとは対照的にベルンストは眉一つ動かさずにライルを見ている。

 

「……」

「黙ってねえで何とか言え、ベルンスト!! なんで、あいつの事を黙っていた!!」

 

 女性の制止する声さえ耳に入れず、ライルは胸元を掴む手に更に力を込め、声を荒らげる。

 

「言っていたら、あなたは如何していましたか?」

「殺しに行ったに決まってんだろ!! 俺が、どれだけアイツに―――」

「貴方がライブレードにこだわり過ぎるから黙っていたのです! その所為で危うく……それにあの時、あなたが私情を優先して飛び出さなければ、我々の計画は……その所為で博士が!」

 

 彼女にとってそれは余程、許されない事なのだろう。その目は常に閉じられたままであるが、眉間にしわを寄せ、声を荒げている事から彼女がいかに怒っているかが分かる。

 

「シャールも少し落ち着いて下さい。ライル、それに、彼はレニスではありません。イチカ・オリムラ君です」

 

 ベルンストはレニスと一夏を混同してしまっているライルに手を離させ、乱れた服装を整えながら諭す様に話す。シャールも如何せん熱くなり始めている為、同様に制する。それに対し二人はそれぞれ反応を示す。

 

「俺にとっては、レニスだ」

「すいません。つい……」

 

シャールは自嘲する様に呟いたが、ライルは納得した様子は無く、ふてくされた様にベルンストの言葉を否定する。どうにも割り切れていない様だ。その様子に溜息を吐きつつ、ベルンストは話す。

 

「いずれ、また戦う時は来ます。今はその時の為に耐えてください。今はレイオードの整備もありますし、ジグリムの方もそろそろでは?」

「……ちっ!」

 

 ベルンストの言葉にライルは二人に背を向けると部屋を出て行った。だが、納得した訳ではないのだろう。その証拠に背を向ける際に聞こえるぐらいに大きく舌打ちしており、それを聞いた二人は大きく溜息を吐いた。

 

「ふう。仕方ないとはいえ、彼にも困ったものです。そう言えば、博士の件は?」

「アレからの報告では、其れらしい人物を見つけたと」

 

 アレが何を示すかは分からないが、そこには何処か侮蔑の籠った声でシャールが呟く。

 

「そうですか、アレにもまだ使い道があったようで何よりです。しかし、本人ではなかったと?」

「なかなか、面倒な事になっているようで……」

「そうですか。では、暫く様子を見る様に言って下さい。私はまた暫くここを離れますので」

「分りました」

 

 その言葉を最後にシャールもその部屋を出て行った。

 

「……さて、私も行きましょうか」

 

そして、一人残ったベルンストも一言呟くと、すうっと、掻き消える様にその場から姿を消していた。

 

 

 

 

 

「そう言えば、ユミールも査問委員会に出るのか?」

 

 場面は変わり、再び聖地のバス停留所。三人はやって来たバスの乗降口が開いたのを確認すると話をしながら乗り込んでいく。まず口を開いたのは一夏だ。バッグを持って目の前を歩くユミールに声をかける。

 

「ええ、あの時、機体を観測していたのは私だから、その関係でね。……あら?」

 

 そんな一夏に振り返りつつ答えていたユミールだったが、視線を戻した彼女が何かに気づき声を上げた。何事かとユミールの視線の先を見たセシリアもそこにいた思いもよらない人物を目にし、同様に声を上げた。

 

「え? あ、レイフォン様!?」

 

其処にいたのは赤毛の青年、ローディス達の従兄に当たるレイフォンである。仮にも王族である彼が、こんな所に護衛もつけずにいる事が意外であったようだ。

 

「ん、ああ、君達か。おはよう。すまないが、今日はよろしく頼むよ」

 

レイフォンはこちら気付くとバツが悪そうにしながらも爽やかに挨拶する。今の恰好は普段着ている仕立ての良い服では無く、色も茶色や黄土色を主体とした地味なものだ。が、整った彼の容姿からせてみればあまり似合っていない印象を受ける。

 

「レイフォン様、この様な所で何を?」

「ああ。気晴らしと、後は格納庫の方に用があってね」

「格納庫へ? ああ……ひょっとして、レーヴェの調整ですか?」

 

 レイフォンの言葉でそれを察したのはユミールである。

 

「ああ、カインの方から話があってね。さて、こんな所で会うとは思わなかったけど、ちょうどいいね。セシリアさん、ユミール君、彼を借りるよ?」

「「「え?」」」

 

 思いもよらない問いかけに三人とも声をあげるが、その中でも特に大きな声をあげたのは一夏である。

 

「えと、何ですか?」

「まあ、いいから、ちょっとこっちへ」

 

そう言って立ち上がると一夏を奥の方の座席へと促す。断り切れずレインフォンについて二人とは離れた場所の座席まで向かい、そして両サイドに二席づつある席の片方の席、その窓側の席にレイフォンが座り、隣に座る様に促された一夏はそれに従い、席に着いた。

 

「えっと、俺に何の用が?」

 

 思いもよらない展開に一夏は身を硬くしながら問いかける。レイフォンはそんな一夏の緊張を解す様に微笑みながら答える。

 

「そんなに硬くならなくてもいいよ。難しい話じゃないしね」

「はあ……」

 

 何処か要領を得ない返答に一夏も返答に困ったような声をだす。その様子を見てレイフォンは一言謝罪し、真剣な表情で一夏を見据えると本題に入った。

 

「話と言うのはティックスとカインの事さ」

「ティックスとカインの?」

 

 その言葉に一夏は二人を思い浮かべる。何かあったかなと考える一夏であったが、特にこれと言って思い当たる事が無いため首を捻った。真剣な面持ちで考え込む一夏を見て、レイフォンは表情を崩すと優しげに語り掛ける。

 

「ティックスが新しい友達ができたって嬉しそうに言っていたからね。カイン共々、兄としてよろしく頼むよ」

「ああ、それはもちろん!」

 

 一夏の返答にレイフォンは満足そうに頷く。身内の新しい友人がどんな人物なの気になるのは当然の事だ。故に自分に声を掛け、その人となりを見極めようとしたのだろうと考える。どうやら一夏の様子をみて好意的に判断した様だ。

 

「そう言えば、カインが言ってましたけど。カインの乗っている機体を設計したのってレイフォンさんなんでしたっけ? 前に『レイフォンが僕の為に設計してくれた』って、凄い嬉しそうでした」

「まあね、カインの聖霊機計画参加が決まった時、彼の力になればと思ってね。まあ、本当なら、いけないんだけどね」

 

 一夏にとっては何気ない一言であったが、その言葉でレイフォンは不意に表情を曇らせる。

 

「えっと、如何いう事です?」

「……一国の王族が一個人に肩入れするのは、本来はよくないんだよ。やっかみを生む原因になりかねないからね」

「ああ、成程……」

「でも、カインならそんな事には負けないと信じている。だから僕はレーヴェを贈ったのさ」

「信じてるんですね。カインの事……」

 

 その言葉を受けて納得が言った様子の一夏を見てレイフォンは頷くと言葉を続ける。レイフォンの様子を見れば二人がどれ程お互いを信頼しあっているのかは、詳しい事情を知らない一夏でもよく分かる。それほどまでにレイフォンの言葉は信頼と確信が感じられるものだった。王族と言う関係は分からないが、(兄弟)姉弟と言う関係は一夏自身にも分かる為、自身も姉を、そしてマドカを思い、声を掛けていた。

 

「それはそうさ。それが兄ってものだろう? たとえ血のつながりは無くとも僕はカインの兄であるつもりだからね……」

「そうですね」

「まぁ、最近、カインとは昔ほど一緒にはいられなくなったね。立場的にも、それ以外の面でもね」

 

 そう言ってレイフォンは若干表情を曇らせながら言葉を続ける。

 

「立場以外の問題っていうのは?」

「弟の成長が嬉しくもあり、寂しくもありって事さ。さて、それはそれとして、君の方はセシリアくんとはどうなんだい?」

「セシリアとですか?」

 

そういってレイフォンは表情を戻すと座席前方に視線を向ける。その視線の先にいるのはセシリアだ。此方が気になるのか、振り向くような姿勢でこちらを見ていたセシリアの視線がレイフォンのそれと重なる。

 

「ああ。こっちは単純に興味かな」

 

 そのセシリアに微笑みつつレイフォンは一夏に返答する。目の前のセシリアは焦りながら視線を戻したが、それでも気になるのか、こちらを気にする様子が見て取れる。そんな中、二人は会話を続ける。

 

「セシリアさんとは、どこまでいっているのかと思ってね」

 

 今度の話の内容は如何やら一夏とセシリアの関係についての様だ。恐らく先日のローディスの言葉に興味をもって、ここで話しかけたのだろう。先程とは違い、実に興味津々と言った風に一夏の返答を待っている。

 

「いや、別に何処にも行ってませんよ。そんな暇も、場合でもなかったんで」

「……成程、これは苦労しそうだね」

 

 

 そして帰って来た一夏の言葉にレイフォンは表情を曇らせた。

 

「まあ、しょうがないと言えば、しょうがないか」

「レイフォンさん?」

 

 少なくとも、レイフォンも一夏にはそんな暇も、その様な場合でも無かったのも理解している。だが、一夏とセシリアの間に有る認識の違いにセシリアの恋路を案じずにはいられない様だ。一夏はそんな思案も分からず声を掛けるとレイフォンは顔を上げる。

 

「では、君個人としてはセシリアさんの事をどう思っているんだい?」

「えっと、何でそんな事を?」

 

 そして、今度はストレートに聞いてみる事にした様だ。不躾な質問に流石に一夏も眉を顰める。

 

「言っただろう? 単純な興味さ。で、如何なのかな?」

 

 だが、レイフォンの穏やかな視線に負け、程なくして口を開く。

 

「何と言うか、結構、苦労させていますね」

 

 そして呟くように語り始める。来た当初のテロリストとの戦闘では役に立ったかもしれないが、その後は余り自信を持って何かできたとは言えない。フラムエルク城の落城のさいのやり取り、ライブレード起動の時にはむしろ身を挺して守られた事を考えると自分のした事が帳消しになる様な事ばかりである。セシリア自身はそんな事を気にする様な人物ではないだろうが、やはり、しっかり謝罪と礼をしておきたいとレイフォンに話す一夏であった。

 

「うん。成程……」

 

 その一夏の言葉を聞き、何やらレイフォンは顎に手を当て考え込む。彼にしてみればセシリア自身が一夏に好意を抱いているので一夏自身はセシリアをどう思っているかを聞きたかったのだが、若干、想定外の返答が帰って来た為、外の景色を眺めつつ少々考えこむ。

 

「まだまだ、これからって事か……」

「はい。これから謝らなければいけないんですよ」

 

 レイフォンの呟きにも的外れな返答をする一夏にレイフォンは何か決心したように向き直り口を開く。前途多難な恋路にレイフォンも少し、背中を押してあげたくなったのだ。

 

「じゃあ、二人でゆっくり何処かに行ってみるのはどうだい」

「え?」

「ちゃんと謝らなきゃいけないって言ったろう? まさか、普段の会話の中でさり気なく言うつもりじゃないだろう?」

「それは、勿論……」

「だったら、ちゃんとした場を用意して、しっかりセシリアさんに伝えなきゃいけないよ」

「そうですか。う~ん……」

 

 そう言われ、一夏は腕を組み考え込んだ。気軽に言うつもりは無かったが、しっかり場所を整えなければいけないと言われ首を捻る。少なくとも自分でそう言う計画を立てた事は皆無であったからだ。

 

「なに、そんなに考え込まなくてもいいよ。さっきも言ったけど、二人で何処にも行った事が無いなら、ちょっと二人で出かけてみるのもいい。今まで慌ただしかっただろうから、何気ない日常をゆっくり過ごすのも良いものだよ。そんな時なら機会もあるさ」

「成程……」

 

 レイフォンの言葉に一夏も同意する。リーボーフェンがしばらくここに居るのならば確かに良い機会である。

 

「そして、さり気ない贈り物も忘れずにね?」

「贈り物……?」

「ああ、女性と会うのなら、心からの贈り物を忘れちゃいけない。少なくともローディスは忘れないよ」

「いや、あの人と一緒にされても……でも、まあそうですね」

 

 流石に百戦錬磨のローディスと比較されても困るだろう。経験も何もかも違い過ぎる。レイフォンの言葉に渋い顔をする一夏だが、言っている事には納得できるので少々考えてみる。

 

(贈り物……贈り物……すぐには思いつかな……あっ)

 

 流石にすぐには思いつかないだろうと思っていた一夏だったが、一つ閃いたものがあった。その為、思わず顔を綻ばせる。

 

「何か思いついたようだね?」

 

難しい表情をしていた一夏がはっとした表情を浮かべたのを見てレイフォンも表情を緩める。

 

「ええ。ちょっとやってみます。アドバイス、ありがとうございます」

「ああ、頑張るといいよ。さあ、そろそろ着くよ。行こうか? 先ずは査問委員会を乗り切らないと」

「はい!」

 

 

 その言葉と共に目的地に着いたことを知らせるアナウンスが流れる。その声を聞き一夏はレイフォンに伴われバスを降りた。色々思いついたことはあるが、今は査問委員会を終わらせるのが先だと気持ちを切り替え、引き締めつつ、中央棟へと降り立つと待ち合わせの場所へと向かって行くのであった。

 


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