聖霊機IS   作:トベ

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 後編も近いうちに投稿できると思います。今回もよろしくお願いします。あと、タグを近いうちに追加します。


七話(前)

 

「分った。ああ、ご苦労様。戻ってきてくれ」

「セリカは、何と言っていますか?」

 

 現在、リーボーフェンはもう少しで聖地を望める位置を航行中であった。機関が本調子ではない事もあり、本来の性能で航行出来ないのも影響して、ここまで来るのにかなりの時間を要した。今もカインが機関室へと向かったセリカから報告を受けている所だ。

 

「機関の調子も良いみたいだ。このままならば、順調に航行出来そうだ」

 

 セリカから聞いた内容をユミールに話すとカインは艦長席から前方を見据え、息を吐く。隣でコンソールに目を向けるユミールも、ほっとした表情で同意しているが、それも一瞬、すぐに表情を引き締める。

 

「……聖地に着いたら、先ずはリーボーフェンをドックに入れて、それから聖霊機も順次にオーバーホールをした方がいいですね」

「そうだね。僕の方もこれまでの航行記録を提出して、艦長や乗組員への引継ぎ……ああ、そうだ。レーヴェの事について、レイフォンとも話さないと……」

 

 一時ほっとしたのも束の間、彼らの仕事は聖地に着いて終わりではない。技術者である二人には、まだまだやることがあるのだ。特に聖霊機が数日間にわたって作戦行動を行ったのは初めてだ。

 

「はぁ……相変らず、やらなければいけない事は山積みだね」

 

 皆の命に係わる事である為、ユミールの懸念も当然であるが、終わったと思ったら次々に湧いてくる仕事にカインも溜息を付いた。

 

「よお、カイン。 そろそろ聖地に着くんだってな?」

「ん?」

 

 そのカインの耳にブリッジの扉が開く音と明るいクロビスの声が届き、そちらを振り向く。

 

「ああ……クロビス、それに皆も。うん、もう少し、と言った所だね」

 

 入って来たのはクロビス、マドカ、一夏、セシリア、アーサーだ。入って来た五人は口々にカインに言葉をかける。

 

「言われた通り、荷物の整理も終わったぜ」

「……と言っても、それほど物は無いがな」

 

 そう言って皆はカインのいる艦長席の周囲に集まっていたが、そんな中一夏は一人、その輪を抜けると、ある人物のもとへ行き声を掛けた。

 

「デロック、ちょっと良いか?」

「なんなんだな……」

 

 話しかけられた人物、デロックはガボンより脂肪吸引手術が行われたのに、まるで変わった様子が無い。朝食時に脂肪吸引手術を受けさせられた事にやたら文句を言っていた。

 

 その事は完全にデロックの自業自得なのだが、ものすごく申し訳ない事をしたように感じてしまった一夏は甘味を差し入れる事にしたのだ。話しかけた当初、不機嫌そうだったデロックはその事を伝えられたら一転して嬉しそうに頷いている。

 

「うんうん。本当に一夏は気が利く良い奴なんだな! 分かったんだな! 後で食べてあげるんだな!」

「……むう」

「まあまあ、マドカさん」

 

 そんな二人の様子をデロックと仲の悪いマドカは不満そうに見つめていたが、アーサーに窘められ、少し表情を和らげている。この二人もいつの間にか仲良くなっていたようで、朝食時、また何か本を返していた。

 

「ただいま~」

「お帰り、セリカ。ご苦労様」

 

 そうこうしているうちに再び扉の開閉音が聞こえ、セリカの声がブリッジに響き、フェインを伴い入室してきた。

 

「あら、セリカさん。どちらへ……」

「ちょっと機関室まで、この調子なら後はなんとか……あ」

「……よう」

 

 皆に聞こえる様に機関の様子を話していたセリカだったが、一夏が遠慮気味に声を掛けた途端、口籠る。話しかけた一夏も何処か気まずそうな表情だ。

 

「セリカ、その、あのな……」

「ああ!! もう、あの事は気にしないでいいから!! 分析君の事もあったし、私も飼い犬に手を噛まれたと思って諦めるから!! て言うか忘れて! お願い!!」

 

 二人とも暫く気まずそうに話していたが、その雰囲気に耐えられなくなったセリカは気まずい雰囲気をかき消す様に声を張り上げた。

 

 

「う~ん、だけど……」

「いいから!」

 

 釈然としない一夏であったが、目の前で手を合わせ頼む様子を見せられては、さすがに強く言えなかった。それに、分析君の一件を考えれば、ある意味手打ちと言った所だろうか? そう思い、一夏は自分を納得させる。

 

 しばらくその様子を見ていた皆だったが、何処か面白くなさそうにその光景を見ていたセシリアが気づいたようにカインに話しかける。

 

「あの、カインさん。聖地に着いてからの事について確認しておきたいのですけど……」

「そうだね。じゃあ―――」

「―――あっ、そうだ。 フェイン、ちょっといいか?」

 

 聖地に到着した後、このリーボーフェンがドック入りしたら乗組員は聖地の宿泊施設に泊まる事になるのである。彼らの荷物整理もその為である。そのセシリアの声に一夏も声を上げるが、その内容はセシリアとは少々違う様だ。

 

「ん?」

「聖地に着いた後、で思ったんだけど、トレーニング……聖地に着いた後も一緒にやらないか?」

「おお! そうか、やる気だな、イチカ! よし、じゃあ……」

 

 フェインに話しかけた一夏は聖地到着後のトレーニング計画について話し始めた。「朝早くおきて……」「待ち合わせ場所を……」等の声がカインの耳に届く。どうやら、かなり盛り上がっているようだ。だが、取りあえずセシリアの疑問に答える為にカインは話し始める。

 

「まあ、イチカにはマドカ辺りから話してもらえばいいかな? まず―――」

「―――ちょっといいか? よく話に出てくるが、聖地とは結局、何だ?」

 

 だが、再びそれは遮られた。声の主はマドカだ。どうやら聖地に関しての質問の様だ。考えてみればマドカはこの世界についての詳しい説明をされていなかった。

 

「そうか。そう言えば、ジグリムのヨーク侵攻は君が来てから直ぐだったね……」

「ああ、それに、な……」

「ああ、成程……」

 

 カインの言葉に頷きながらマドカは視線を伏せる。アーサーはその意味を察し、声をあげる。どうやら、こっちに来てから釣りやら料理やら、やってみたい事が増えすぎて自分で聞く、もしくは調べると言う事を完全に失念してしまっていたようだ。

 

「お前、器用かと思っていたけど、案外、不器用だな……」

「うぅぅ」

 

 笑いながら話すクロビスに、何処か恥ずかしそうにマドカは俯く。どうにも彼女はこれと決めると他の事には目もくれずに没頭するところがあるようだ。

 

「ふふ、そうだね。ここで一度、説明しておいた方がいいね。それなら、イチカも戻ってくれるかい?」

「あ、悪い! つい話し込んじゃって!! じゃあ、よろしくな、フェイン。 えっと、何の話だっけ?」

 

 カインに呼ばれ、話を切り上げた一夏は駆け寄ってくる。

 

「今は、聖地についての説明さ。ここで一度話しておこうと思ってね。イチカは、どの程度聞いているかい?」

「ええっと、錬金学士の養成機関だって事ぐらいかな……」

 

 カインの問いかけに以前、セシリアから受けた講義の内容を思い出し一夏は答える。流石に一日で事細かな、と言う所までは教わっていなかった様で表情を曇らせる。

 

「あんまり、詳しくは分からないな……」

「……イチカ達の世界の科学者の事をアガルティアでは錬金学士と言うんだけど、その錬金学士養成の総本山が聖地なんだ。此処までイチカも聞いているんだね? 皆もわかっているよね?」

「ああ」

 

 そう言ってカインは一夏に、そして皆に確認する様に話し始める。一夏達より早くこちらに来ていた。クロビス、アーサー、セシリアは当然分かっているようで頷き返す。カインが話しているのは一夏もセシリアから聞いた基本的な事だ。カインの問いかけに対して一夏も頷き返す。

 

「聖地とは、いかなる国家も干渉することも武力行使も許されない不可侵の聖域、それが共通の認識です」

「不可侵って? 学校みたいなものじゃないのか?」

 

 カインの話を補足する様にユミールが声を上げる。その話で疑問に思った事を一夏は聞き返した。国家さえも介入できない教育機関など、一夏にとっては一つぐらいしか覚えがない。

 

「本当は健全な技術開発ための協力を目的として設立された場所さ。だけど、考えてほしい。どの国家も共通して尤も技術力や資金を注ぎ込むものは何なのかを」

「それは―――」

「―――この世界なら装兵機だろうな」

「……だな」

 

 一瞬考え込んだ一夏に割って入る形でマドカが答える。どの国家も共通して尤も技術、資金をつぎ込むモノ、それは軍事関連だろう。この世界であるならば主力兵器である装兵機開発に力が注がれているであろう事は容易に想像できる。その答えを聞き頷くと、カインも話を続ける。

 

「そういう事、つまり優れた錬金学士を養成し、保有する聖地はこの世界における装兵機開発の最先端の場所でもあるって訳さ」

「……だから不可侵なのか」

 

 その言葉に一夏は納得する。聖地を手に入れれば、この世界最先端の装兵機技術を手に入れることが出来る。そのため各国が牽制しあい。結果、不可侵となったわけである。

 

「イチカさん、わたくし達の世界で言うならばIS学園の様な性質ですわ」

「……ああ」

 

 考え込む一夏にセシリアが声を掛ける。以前の一夏であれば『?』となっていたかもしれないが、アーサーの講義の御蔭でIS関連の事は大まかだが、わかる様になった為、一夏は自身の記憶と照らし合わせて思考する。IS学園とはIS、インフィニット・ストラトスの操縦者や技術者養成の為に誕生し、あらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対しての干渉が許されない場所である。そして聖地は優れた錬金学士養成の為に設立され、いかなる国家も干渉することも武力行使も許されない不可侵の場所。設立された理由等、多少の違いはあるが、性質はよく似ている。

 

「つまり、不干渉を掲げながら、この世界において尤も他国が積極的に干渉してくる場所か?」

 

 自分の記憶を整理しながら考える一夏の横で、マドカが声を上げる。確かにIS学園はいかなる国家の干渉も許されない場所ではあるが、それを真面目に守っている国家はいないだろう。どの国家も、隙あらば他の国を出し抜こうと思惑を巡らせている事は容易に想像できる。あんまりな言い方のマドカだが、それに答える様に口を開いたカインも表情が険しい。どうやら、こういう所も同じの様だ。

 

「そう、どの国も聖地の情報を得ようと諜報機関が躍起になってる。特に‟あれ„が発見されて聖地で管理されるようになってからは、余計にそれが激しくなったよ」

「あれって?」

「……僕たちの聖霊機の元になった機体、ライブレードさ。発見されて以降、ずっと聖地で封印されているんだけど、109年前の文献には単機でゼ・オードに立ち向かったと記されているから、相当強力な機体であると考えられているね」

「へぇ……つまり、最初の聖霊機って事か?」

「そういう事さ」

 

 感心した様に呟いた一夏はカインに声をかける。ゼ・オードに立ち向かった機体であると言う事は、そういう事だと一夏は認識する。その言葉に頷くとカインは言葉を続けた。

 

「だから、各国もその機体データは喉から手が出る程欲しい。だけど機体は29年まえに封印されてしまい詳細なデータは公開されなかった。故にその機体データを手に入れようとする者が、後を絶たないのさ」

 

そう言い終えるとカインは何故かセリカを睨む。何の事だか分からない一同はその視線の先を追ったのだが、カインに睨まれたセリカは頭を掻きながら何故か気まずそうに視線をそらしていた。

 

「い、いや~」

「如何したんだ? セリカ?」

 

 セリカの様子が気になった一夏は声を掛けるが、当のセリカはばつの悪そうな表情をして視線を合わせようとしない。

 

「そう言えば、今の話だと発見後に封印されましたのに、どうやって三年前に始まった聖霊機計画の機体にそのデータを使えましたの?」

「……ひょっとして、特例としてデータを提供してくれる事になったのか?」

 

 カインの話を聞き、セシリアはふと思い浮かんだ疑問を口にする。その言葉を聞いた皆も疑問に思った様で、一同の視線が再びカインに集中する。カインもあまり言いたくないのか、苦い顔をしているが、言わずに済ませられそうにないと観念したのか、大きく溜息を付きながら視線を落とした後、再びセリカを睨みつつ重い口を開いた。

 

「……ハッキングしたんだよ。セリカが」

「「「「「は?!」」」」」

「えへへ♪」

 

 だが、帰って来た余りの真実に一夏達は揃って呆けた声を上げてしまい、皆同様にセリカに視線を向ける。セリカは誤魔化そうとしているのか、可愛い笑顔を浮かべている。なんでも気づいた時には既に聖霊機にデータが使われていた上に、ユミール達まで共犯者にされてしまっていたそうだ。頭痛を覚えているのか、こめかみを抑えカインは話を続ける。

 

「……笑い事じゃないよ。確かにそのデータがあったからこそ、こんなに短期間で聖霊機を開発出来た。その事については確かに君の御蔭とも言えなくないよ……」

 

 カインの言う通り、セリカが入手したデータの御蔭で開発が驚異的な速さで進んだのも事実なのだろう。聖霊機計画が始まったのは三年前、実機演習が行われたのは二年前と言う事は実質、一年で機体が完成していたことになる。幾ら装兵機という下地があり、セリカやユミールなど優秀な人材を抱えていたとはいえ、驚異的な開発速度だ。ライブレードから得られるデータが有益なのが、実によく分かる事例だ。各国がデータを欲しがるのも無理はない。

 

「だってだって! 欲しかったんだもん!! データ……」

「だもん……じゃないよ!! 君のその行為の後始末の為に何人の人間が奔走したと思っているんだい! 陛下に! ローディスに! レイフォンに! イヴェル様! 挙げれば切りがないよ!」

 

 言い訳にもならない言い訳を言いながら弁明しようとするセリカだが、カインの様子にその声は徐々にしぼんでいく。対するカインは声を荒らげ、事態収束の為に奔走したであろう人物の名を上げながらセリカに見せつける様に指折り数えている。

 

 セリカはアガルティアの王女、他国から見ればアガルティアにまんまとしてやられたと言う見解だろう。聖霊機のみに使用すると言った所で信用されはしない。どうやってこの事態を収束させたかは分からないが、ローディス達は政治家としてかなり優秀なようだ。他国から聖地へのハッキングが激しくなったのも恐らく上記の理由の所為なのだろう。聖地所属のカインの苛立ちも分からなくはない。

 

「はぁ……これからは本当に、慎んで頂戴ね」

「は~い……」

 

 ユミールも額に手を当て当時の事を思い出しているのか、心底疲れた様子でセリカに言葉をかける。すっかり縮こまってしまった様子のセリカは渋々返事を返す。

 

「まったく、信じられませんわ」

「本当はテロリストじゃないだろうな? お前」

「まったく、本当に―――!!」

 

 呆れたようにセシリアは声を上げ、マドカがあんまりな言葉をかける。それに続いて声を掛けようとした一夏だが、突如襲った異変に体を震わせる。聞こえるのは以前も聞いたあの音、一夏は再び鳴り始めた音を確かめる様に胸ポケットを抑える。

 

「どうしたんですか?」

 

 そんな一夏の様子を訝しむようにセシリアが声を掛ける。一夏にはうるさい程響く音もどうやら皆には聞こえていないようだ。

 

「……え? 皆には聞こえないのか?」

 

 その事に驚きながら一夏はそれを取り出すと、内部に青い光を灯した共鳴結晶へ皆の視線が集まる。だが、それと同時にフッと光と音が止み、結晶体は普段の様子を取り戻した。

 

「共鳴結晶!? 何で、君が?」

「一夏、話していなかったのか?」

「ああ、悪い。機会が無くて言いそびれてた」

 

 一夏が手に持ったそれを見てカインの目が驚愕に見開かれる。ユミールも声こそ発していないが、同様の様子だ。

 

「しかし、何故あの女王は一夏にこれを渡したのだ?」

 

 マドカはふと頭によぎった疑問を口にする。カインやユミールの様子、一夏の身に起こる不可解な現象。彼女には、これが唯の装飾品の類とは思えないのだ。

 

「アルフォリナ……もしかして、こうなることが、分かって?」

 

 すると、セシリアが何か思い当たる節があるのか考え込むそぶりを見せる。

 

「どういう事なんだ?」

「あの子から、よく相談された事があるんです。予知夢を見ることがあると……その事でかなり、悩んでいましたから」

「予知夢って……そんな事あるかのか?」

「ええ、アガルティアでは稀に不可思議な力を持って生まれる人も少なくありません」

「現に、何件かの記録が残っているよ」

 

 セシリアの言葉に半信半疑の様子で一夏は呟いた。それに答える様に話し出したにユミールやカインの真剣な表情を見ると、彼も信用するしかなかった。

 

「自身の事より、他人の為に……アルフォリナ女王らしいですね」

「ええ、本当に……」

 

 未来の事が分かると言う事は自身の身に起こる事も分かるかも知れないのだ。それにも拘らず彼女は逃げることなく立ち向かい、皆を、聖霊機を守って見せたのだ。彼女の強い覚悟と決意を改めて思い知らされた皆は沈痛な表情だ。特にセシリアはかなり複雑な表情だった。親友としての立場で考えれば、生き延びて欲しかったと思っているのだろうが、それでこそアルフォリナだとも思っているのだ。故にそれを口にする事はせず、唯一言呟くのみに留めた。

 

「自身の命と引き換えに、聖霊機と共鳴結晶を守り通すなんてね……」

「やはり、これはそれほどの物なのか?」

「共鳴結晶は、ライブレードの封印解除の為の鍵の役割を持っているんです」

「封印のキーとなる共鳴結晶を聖地ではなくヨークに置く事で、聖地がライブレードを使う意思は無いと言う意思表示でもあったのですが」

「成程……な」

 

 納得した様に声を上げたマドカだったが、また新たな疑問が浮かんでしまった。なぜ、共鳴結晶を託したのが一夏だったのか。なぜ、共鳴結晶の音が一夏にしか聞こえないのか。マドカは思考に耽る。

 

⦅……だめだ、今ある情報では分からないことだらけだ⦆

 

 だが、少ない情報では答えを得ることが出来ず、堂々巡りになる思考にマドカは溜息を付く。そうこうしている内に聖地を視認できる位置に来ていたのかミヤスコより声が掛った。

 

「皆さん、そろそろ聖地が見え……え!?」

「如何したんだい?」

 

だが、突如声を上げたミヤスコに皆の視線が集中、ブリッジ内の空気も張りつめたものに変わっていく。

 

「はっ、はい! 聖地にて砲声が確認されました! 聖地が、攻撃されています!!」

「え!」

「そんな……映像を出してくれ!!」

 

 カインの指示により作業を始めたものの、本来観測士ではない為か、ミヤスコは多少手間取る様子をみせる。だが、すぐに前面のモニターに聖地の様子が最大望遠で映し出される。そこに映し出されたのは、無数の緑色の装兵器とそれに囲まれながらも果敢に応戦する紅と黄色の機体だ。

 

「あの赤と黄色の機体が聖霊機か?」

 

 どちらも見慣れぬ機体ではあるが、緑色の装兵器は聖地の施設へも攻撃を行っている様子が見て取れる為、一夏は紅と黄色の機体が聖霊機であると推測し、隣にいたアーサーに問いかける。

 

「ええ、赤い機体が聖霊機ホンシェンコワン(紅閃光)、操者はコォウ(郭)・シィウチェン(秀健)さん。黄色い方が聖霊機パリカール、操者はシャルロット・ジニア・クラシオさんです」

 

 簡単ながらもアーサーは機体とパイロットの紹介を始めた。名前からして前者は中国人、後者の苗字は何故か、ユミールと同じものだった。引っかかるものを感じた一夏はアーサーの言葉を遮り声を掛けた。

 

「クラシオ……地球人じゃないのか?」

「ええ、その事なんですが、シャルロットさんは……」

「おいおい! 今はそれを言っている場合じゃないぜ!! 俺達も行こうぜ!!」

「あ、悪い! 確かにそうだ!」

「すみません……」

「カイン、俺達も出撃でいいんだな!?」

 

 つい話し込み始めてしまっていた一夏はクロビスに声を掛けられ現状を思い出す。アーサーも、つい癖が出てしまったのだろう。見れば恥ずかし気に額に手を当てている。

 

「ああ! 聖霊機装者は各自の機体で待機! 聖地に着き次第、順次発艦する。セリカ、後は頼むよ」

 

 一通り情報を整理するとカインはセリカに声を掛ける。どうやら今回はカインも出る様だ。

 

「カインも出るのか?」

「ああ、レーヴェも戦闘を行えるまでには修復されている。遅れは取らないつもりさ」

「それに、彼女の事も心配なんだ……だろ?」

 

 意気込むカインの肩に手を回しながら、クロビス意味深な笑みを浮べながら話しかける。話しかけられたカインは焦りながら声をあげる。

 

「な! べ、別に……ぼ、僕とシャルは、そんなんじゃ!」

「へえ? その割には昨日は随分、必死に追いかけていたじゃないか。カイン君?」

 

 顔を真っ赤にしながら返答するカインの頬を指でつつきながらクロビスはおどけた調子で話し続けている。

 

「僕のシャルは誰にも渡さないってか? お兄さん、君がそんなに独占欲強いなんて知らなかったよ」

 

 カインの様子を意にも介さず、クロビスは尚も語り続ける。そのクロビスの様子にいい加減、我慢の限界なのか、カインは声を張り上げる。

 

「もう! うるさいな! そんな事言っている場合じゃないよ! 早く行くよ!!」

 

 ひとしきり叫んだ後、怒りと羞恥で顔を真っ赤に染めながら、カインはクロビスの手を振り払うと肩を怒らせながらブリッジを足早に出て行ってしまった。その背中を見送りながらアーサーは溜息を付き、クロビスに話しかけた。

 

「話している場合ではないと言ったのはあなたですよ。クロビス……」

「分かった、分かった。んじゃ、終わってからにするか」

 

 言いながらクロビスもカインの後を追うようにブリッジから出ていく。その顔は面白そうなものを見つけた子供の様であり、今後もからかわれ続けるだろうカインに若干の憐れみを感じながら、アーサーもその後に付いて格納庫に向かって行った。

 

「俺達も行くか。じゃあ、言ってくる!」

「では、姫!! 俺も行ってきます!!」

「あ、フェインは無理よ」

 

 クロビス達に続き一夏もセシリアと共にブリッジを出て行ったが、その後に続こうとしたフェインをセリカが呼び止めた。

 

「えっ? なっ、何故ですか!? 姫!!」

 

 あまりに衝撃の事だったのか、数秒は固まった後、セリカに問いかける。

 

「昨日も言ったでしょ! 貴方のミレオンは修理中、あの機体はここじゃ直せないのよ。ここにはミレオンに使えるパーツのストックは無いのよ」

「そんな……」

 

 告げられた言葉にフェインはガクッと膝を突き項垂れてしまう。だが、その様子を見ていたマドカが気づいたように言葉をかける。

 

「セリカ、それなら、ミレオンじゃなくて聖霊機に乗せた方がいいのではないか? 聖地には機体があるのだろう?」

「え?!」

 

 マドカの言葉にハッと顔を上げ、途端に目を輝かせ何かに期待するような目をセリカに向けるが、当のセリカの表情は険しい。

 

「う~ん。それは、難しいわ。フェインはアガルティアの騎士だし。聖霊機は飽く迄、中立……だからこそ、各国がその所属を黙認しているようなものだし」

「それに、ハッキングの件もあるから、か?」

「……言わないでよ」

 

 愉快そうに笑うマドカの言葉に、がっくりとセリカは肩を落としながら答えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、格納庫のビシャールのコックピットにてセシリアは思考に耽る。相手が誰かは分らないが、やって見せる。そう固く誓ってセシリアはビシャールに乗り込んだのだが、矢張り手が震える。気持ちを落ち着ける為に目を瞑り、息を整えていたが、その時通信の着信を知らせる電子音が響き、顔を上げる。モニターに映る顔は一夏であった。

 

『セシリア?』

「……イチカさん?」

 

 モニターに映る一夏は不安気にセシリアを見ている。昨日の一件から彼女の様子を案じていたようだ。戸惑うセシリアに一夏は優しく声を掛ける。

 

『大丈夫、なのか?』

「ええ、やって見せますわ。必ず……」

 

 セシリアはモニターの一夏に笑顔を向け、心配させまいと努める。

 

『……無理はしないでくれよ』

「ふふ、ご心配は無用ですわ。イチカさんこそ、お気をつけて」

『ああ、それじゃあ……』

 

 何処か釈然としないと言った様子を見せながらも、時間が迫っていることもあり、一夏も通信を切る。再び静かになったコックピット内でセシリアは一夏の心遣いを嬉しく思い暫く微笑むも、すぐに表情を引き締める。

 

「やって見せます。でないと、あの子の思いは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かな? セシリア……」

 

 コックピットシートに身を沈め、一夏はセシリアの事を案じる。まだ、吹っ切れてはいない様子の彼女を見て、無理をしている様に彼には感じられた。一夏自身にも同様の経験があるので、やはり心配なのだ。

 

『オリムラさん、聞こえますか?』

 

 だが、その時ユミールより通信が入り一夏は意識を現実に引き戻す。

 

「ユミール?」

 

 思えば、一夏自身も余裕があるわけではない。思考を切り替え、モニターに映るユミールを見る。

 

『今、敵機の観測データを送ります。確認を』

「わかった……何だ、これ?」

 

 モニターに映った機体を見て一夏は思わず声を上げた。移っている機体は今までの装兵機とはまるで装いが違っていた。まず、手足が無い。装兵機は基本人型である。だが、映し出された敵機は人型をしておらず、近い形を挙げるならエイに似た形であった。それが浮遊して聖地を攻撃しているのだ。

 

 当然、その様な機体である為、武装は内蔵式のようで、機首に当たる部分からレーザーソードを針の様に展開、そのまま機体ごと突撃し攻撃。もしくは機体前面に搭載されているミサイルを発射し攻撃していた。

 

「これも、装兵機なのですか?」

「見た事のない機体ですね……」

「ああ、俺もだ」

「セリカは何か……如何したんだ? フェイン」

 

 こういった事はセリカが一番だろうとモニター越しに問いかけた一夏だが、様子が可笑しいフェインを見つけ。眉を顰める。

 

『ああ、何でもないわ。病気の様な物だから』

「そうか?」

『皆さん! 聖地上空に到達しました。出撃を!』

「了解。じゃあ、先に行くよ!」

 

 ミヤスコからの通達を聞くとカインは通信を切った。暫くすると第一格納庫から発艦したレーヴェがもたらす振動が僅かながら伝わる。それが鎮まった後、クロビスが皆に声を掛けた。

 

「……じゃあ、俺達も行くか?」

「「「ああ!!(ええ!!)」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで……6機目!」

 

 宙を舞う緑色の敵機を右前腕に装備されたライフルで撃墜すると、聖霊機パリカールはレーダーに示された方角へ向き直りライフルを向ける。機動性を重視した設計の様で、細見の流線型のボディに黄色い装甲を持ったその機体は、新たに現れた反応に滑らかな動きで反応する。

 

「増援、まだ距離はあるか……」

 

 そしてパリカールに背を向ける形で腰を落とし、右拳を突き出した姿勢から構えを解き、その緑色のデュアルアイでその方角を睨むのは真紅の聖霊機ホンシェンコワン。こちらは武器らしい物を持っていないが、すこし離れた所には、機首の部分が大きく陥没した敵機が墜落していた。どうやら、主な武器はその両の拳の様だ。背中から伸びた弁髪の様な物が特徴的だ。

 

「ふう、まだ来るの?」

 

 聖霊機パリカールのコックピット内で長い金髪をリボンで纏めた快活そうな少女、シャルロットはうんざりしたように溜息を吐くが、その様子は疲労しているようには見えず、まだまだ余力を残しているようだ。

 

『シャルロット、まだやれるか?』

「勿論!」

 

 その時、パリカールの通信機から男の声が響いた。こちらは聖霊機ホンシェンコワンの操者、コォウ・シィウチェンだ。灰色の長髪にクールな印象を受ける青年だ。

 

「ふっ……む?」

 

 シャルロットの返答にシィウチェンは僅かに微笑むと、何かに気づいたようにホンシェンコワンの視線を上げる。その視線の先には何もない、いや……徐々に空間に色が付き、何かが形を成していく。二機のレーダーに映し出される反応に、シャルロットは嬉しそうに声を上げる。

 

「この反応……リーボーフェン!」

「帰って来たのか」

 

 シィウチェンは格納庫から降下してくる聖霊機達を見ながら、表情こそ変えないものの、その声色に安堵の色を滲ませながら呟いていた。すると降下してきたドライデスから通信が入る。

 

「ご無事の様ですね。シィウチェンさん」

「ああ、そちらもな」

 

 降下したアーサーはシィウチェンと言葉を交わしあい互いの無事を確認し合う。その傍らでは同じように降下してきた。レーヴェに寄り添うようにパリカールが立ち、シャルロットとカインが言葉を交わし合っていた。

 

「……お帰り、カイン」

「ああ、ただいま」

 

 そんな場合ではないと分かっている二人だが、離れていた間に思いが募っていたのだろう。我慢しろと言うのは若い二人には酷な事だ。それぞれのコックピットにて頬を染め、微笑み会う二人は実に初々しい。

 

「クロビス! 来たぜ!」

 

 だが、そんな二人をよそに敵機が視認できる位置まで接近してきていた。降下したと同時にそれを確認した一夏は外部スピーカーで語り掛ける。見れば目の前の敵機とは別に更に敵機の接近がレーダーで確認出来る。

 

「ああ。お二人さん! イチャつくのは後にしな。あれを片付けるのが先だ」

「いいい、いちゃつくだなんて!!―――」

「―――うん、そうする」

「シャル!?」

 

 からかうようなクロビスの言葉に焦るカインとは対照的なシャルロット。レーザーソードを展開し、突っ込んできた敵機を機体を逸らし回避、すれ違いざまに逆手に持ったレーザーブレードを叩き込む余裕すら見せている。

 

 まぁ、カインも発射されたミサイルを左手の盾で防御すると敵機に向けて一気に加速。一突きで仕留めると突き刺さった敵機をランスを振るう事で他の機体へ叩きつけ、まとめて肩のキャノンで撃ち抜くと言う早業を見せているのだから、余裕はあるのだろう。二人によって先行してきた機体が撃破されたのを確認すると、ゼイフォンの姿を確認したシィウチェンが一夏へ通信を送る。

 

「……お前が新人だな? どの程度の実力か見せてもらおう」

「あ、はい」

 

 自分を見極めるかのような視線を送るシィウチェンに一瞬、気圧される一夏だが、それをフォローする様にシャルロットの明るい声が響いた。

 

「そう、硬くならなくて大丈夫だよ! こう見えて、シィウチェンさんは優しいから」

「……行くぞ」

 

 あまり、言われ慣れてないのだろうか、眉を顰め、誤魔化す様に我先にと敵に向かって駆け出していく。それを合図にするかのように敵機もその武装を起動し、攻撃に移る。

 

「はあ!!

 

 発射されたミサイルをかいくぐり、一気に敵機に接近すると、ホンシェンコワンは腰を落とし、裏拳による打撃を叩き込む。

 周囲にいた機体はその一撃で標的を定めたのか、何機かがホンシェンコワンへと向き直る。

 

「させませんよ!」

「これで!」

 

 だが、その機体が攻撃に移る前にパリカールとドライデスが撃ち落としていく。バルドックが肩のキャノンにエネルギーを収束、数機を纏めて消し去り、撃ち漏らした敵機はバルドックが肩のキャノンにエネルギーを収束、回避したと同時に数機を纏めて消し去った。

 

「しかし、何だ? こいつら動きが妙だな」

「確かに。なんというか、人の気配を感じない……」

 

 カインやクロビスの言う通り、目の前の敵は何処か様子が違う。仲間がやられても、まるで気にした様子はない。だが、話している最中にも敵機はミサイルを発射し、放たれたミサイルは聖霊機に迫る。

 

「っ!……考えてる暇は無いか!」

 

 カインは発射されたミサイルを滑る様に回避しながらレーヴェのロングキャノンを展開し、発射。何機かは散開する事で回避したが、僅かに遅れた一機に砲撃が命中、爆散する。回避した敵機もパリカールとドライデスがすかさず撃ち落としていく。何処か奇妙な敵を訝しみながらも、各機は再び現れた敵に照準を合わせると、各々の武器を叩き込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミヤスコ、機体の解析は如何!?」

「申し訳ありません! もう少し……」

 

 本来の彼女の仕事は通信士であるが、解析の仕事が出来ないわけではないようで、着実に仕事をこなしていくミヤスコではあったが、矢張り作業の手際が悪い事は否めない。

 

「急いで! あれ? フェインは何処へ行ったのかしら?」

 

 その様子にセリカは少し焦りながらミヤスコに発破をかけるが、ふと辺りを見回したとき異変に気付いた。今まで自分の側で控えていたフェインの姿が見当たらなかったのだ。

 

「フェインなら、さっきブリッジを出て行ったぞ」

 

 そんなセリカの疑問に答えたのは聖霊機のステータスが映るコンソールを見つつ、皆の戦いを眺めるマドカだった。その言葉を聞き、セリカは急に不安にかられる。

 

 

「……あいつ、まさか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆から少し遅れて降下したセシリアだったが、やはり、前回の戦いで生まれた迷いがぬぐえていないのか、以前のビシャールに比べて明らかに動きが悪い。それを分かってか、ビシャールに狙いを定めた数機がミサイルを発射、何発ものミサイルが周囲に降り注いだ。それをぎこちないながらも回避するセシリアだが、数発は命中し、セシリアは衝撃に苦悶の声を上げる。

 

「くう!!」

 

 そんなビシャールの周囲を飛び回る敵機は一斉にビシャールに向けて再度ミサイルを発射。それに気づき身構えるセシリアだが、その間にゼイフォンが割って入る。ゼイフォンは飛来するミサイルへ向けて両肩のラウクルスを乱射する事で迎撃するとセシリアへ問いかける。

 

「セシリア! 大丈夫か!?」

「え、ええ! 申し訳ありません!!」

 

 セシリアの返答に安堵した一夏だが、更に敵機がミサイルを乱射、動けないセシリアを背後に抱えているため避けられず、ゼウレアーを構え、ゼイフォンをあえて盾にする。

 

「イチカさん!!」

 

 煙に包まれるゼイフォンに思わず声を上げるセシリアだが、この程度の攻撃ではゼイフォンは揺るがない。一夏は敵機へ向けて跳躍すると、まず上空にいた一機をゼウレアーによる斬撃で両断。もう一機を着地すると同時にスラスターを吹かせ接近し一突きにする。そして無事であることをセシリアに伝え……。

 

「大丈夫だ!! この程度―――」

『―――ふっ、今行くぞ、皆!! とう!』

 

―――ようとした所で、いささか場違いなフェインの声が辺り一帯に響く。

 

「「はっ?」」

 

 

 いきなりの事で声を上げる二人をよそにリーボーフェンからミレオンが自由落下にて降下、凄い音を立てて着地すると、迷いなく手近な格納庫にかけていく。兵器である以上、大切に使えと言う言葉は間違っているが、本当に可愛そうなミレオンだ。

 

 そして、そのミレオンが入って行った格納庫から怒号と悲鳴が聞こえるのを、一同はできれば聞き流したい衝動に駆られる。だが、その最中にも敵機は飛来する。ミサイルを一斉射した後、高度を落としレーザーソードを展開。一夏達目掛け高速で突っ込んでくる。

 

「ちっ! また来たか!!」

『ふっ! 問題ない!!』 

 

 迎撃しようと身構える一夏だが、その時、格納庫内からフェインの声が響く。それと同時に格納庫内部で高まるプラーナ反応。そして、それが視認できる程強く発光し、格納庫外まであふれ出したのと同時に弾丸の如く飛び出してきた一機の聖霊機。一夏達に接近する敵機の横腹を突く形でまとめて粉砕、射線外にいる敵機も直角に曲がると言うありえない機動で粉砕する。それが通過した後の地面がことごとく舗装が剥がされ、地肌が剥き出しになり、放たれたミサイルさえも余波で爆散してしまっている事からも、その一撃がいかに強力なものだったかを皆に想像させた。そんな中、その機体から得意げなフェインの笑い声が響く。

 

「ふっふっふっ……」

 

 その声が聞こえる中、その姿が皆の視線に晒される。それは西洋鎧の様な丸みを帯びたフォルムを持った山吹色の機体で、円系のシールドを装備、右前腕に装備された両刃のランスを突き出した状態で停止している。ちなみにレーヴェの基礎フレームはこの機体を基にしたのであるが、レーヴェはランスが装着式から手持ち式に変更され、使用した装兵機の意匠が合わさった結果、基になったこの機体より鋭角的になっているという違いがある。唖然とする一同の視線の先で、目の前の聖霊機はランスを一振りすると自身の存在を主張する様に高々と掲げた。

 

「悪党ども! このフェイン・ジン・バリオンとデュッセルドフを恐れぬのなら……かかってこい!!」

 

 響いたのは実に生き生きとしたフェインの声。デュッセルドフと呼ばれた機体もフェインの操縦に問題なくついていってるようだ。まさに水を得た魚ならぬ、聖霊機を得たフェイン。ミレオンはこの時の為に尊い犠牲となったのだろう。その声に反応するかのように残った敵機がデュッセルドフ目掛け殺到する。

 

「おいおい」

「なんとも……」

「あはは」

「はぁ……」

 

フ ェインの行動に呆れ半分、感心半分と言った声が皆の機体から漏れる。本来なら即座に迎撃に移るべきなのだが、殺到した敵機をデュッセルドフは額から照射したレーザーで全て貫いている。因みにフェインは「輝け! 閃光!! ヴァイアル・ジェイドォォォ!!」とお約束の様に武器の名前を叫んでいた。そして、すべての敵を迎撃し終えたデュッセルドフから意気揚々としたフェインの声が響いた。

 

「ふっ、他愛もない。さぁ、束になって掛ってこい!!」

 

 そして皆の見ている前でフェインは見得を切り、大声で宣言する。だが、敵は待てども一向に現れない。どうやら、今ので最後だったようだ。先ほどの事で静まりかえっていたのもあり、瓦礫の崩れる音がやけに大きく聞こえる。

 

「むぅ……まだまだ、これからだと言うのに―――」

『フェイン!!』

 

 コックピット内で不満そうに呟いたフェインの耳に通信機からセリカの怒声が届く。声色と声量から察するに、かなりご立腹の様だ。

 

「ひ、姫」

『これからだ! じゃないでしょう! リーボーフェンはこれからドックに向かうから、格納庫に戻って来なさい!! いいわね!!』

「は、はい!!」

 

 今のフェインの心情に反応したのか、デュッセルドフは姿勢を正す。『気を付け』の姿勢になっている聖霊機と言うのは何とも恰好がつかない。

 

「……取りあえず、ドックへと案内する。付いて来い」

 

 だが、いつまでもこうしているわけにもいかず、シィウチェンが話を切り出す。そして、先導する為、先頭に立って歩き出したホンシェンコワンに続き移動を始めた皆の後を、戦々恐々とついて行くフェインであった。

 




 このSSではカイン×シャルで行きます。 ISも新刊が発売されるようで実に楽しみですが、どんな展開を迎えるかと思うと怖くもありますね。

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