聖霊機IS   作:トベ

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とうとう、やってしまった…緊張のあまり手が震える。


プロローグ

 IS-インフィニット・ストラトス、一人の科学者によって開発された宇宙用のマルチフォーマルスーツ、開発当初はそのあまりにも突飛な性能により誰からも見向きもされなかった、がある事件をきっかけにその性能が示され、一気に世界に認められ兵器として取り入れられたもの、だが各国の様々な思惑の果てにスポーツとして落ち着いたものである。

 

 ただこのISには欠点がある、それは女性にしか使えないことである。既存の兵器を上回り、あらゆる攻撃を無力化するバリアーを持つISの登場により多くの兵器が役立たずとなり早急に各国は操縦者確保のための女性優遇措置を取り出した結果、女性=偉いという図式となり女尊男卑の社会が形成されていった。結果、多くの人間が人生を変えられた。

 

 だが、変わらないこともある。過剰なまでの女性優遇処置がとられた結果、男にはかなり住みにくくなっただろうが、人がやらなければならないことは同じだ。勉強し、働き、家族を養っていく。

 

 ここにいる一人の少年にとってもそれは同じ事、帰り支度を整えている黒髪の整った顔立ちの少年、彼の名は織斑一夏、この春から中学三年に進級した14歳、両親はおらず年の離れた姉が働き養ってもらっている以外は極々普通の少年だ。ただ、いつまでも養って貰っているのも心苦しいと中学に入ってからは今までやっていた剣道をやめ、アルバイトに精を出してきた。

 

 

 今日もこれからバイトに向かうため、帰り支度を整えている最中である。

 

「おーい、一夏」

 

 そんな中、彼に呼びかける少年が一人、長い赤毛の長髪にバンダナで纏めた少年。彼の名は五反田弾、中学に入ってからの一夏の友人であり、これまでも何人かの友人と一緒につるんできたものである。

 

「なんだ、弾か…どうかしたのか?」

「おいおい、なんかなきゃ話しかけちゃいけないのか? お前これからバイトだろ、途中まで一緒に行こうぜ」

 

 一夏はその言葉に頷くとカバンを肩にかけ、弾と連れ添い歩き出す、教室を出てしばらくすると弾が一夏に話しかける。

 

「で……一夏、前から言っていたけど、今度の日曜の予定、空いてるんだろ?」

「あぁ…特にないけど」

「だったら、御手洗達とか誘って遊びに行こうぜ、お前、受験のこと気にしているみたいだけど、たまの息抜きは必要だぜ」

「だけど…いまの俺の成績じゃあ」

 

 一夏が受けようとしている藍越学園は、今の一夏の成績では厳しく、一年間必死に勉強すれば何とかなると言われている。

 

 この学園は学費が安く、卒業後の就職先まで安定しているため、少しでも早く働き、姉に楽をさせたいと思っている一夏にとっては理想的な学校だった。

 

「だけど、まだ、そこまで気にしなくていいだろ。今からそんなんじゃ受験のころには力尽きちまうって、休みにしっかり休んで、また頑張ればいいじゃないか」

「それは……そうかもしれないけど」

「じゃあ、決まりでいいだろ…そうだ! ついでだから蘭も誘っておくぜ、あいつなら二つ返事でOKだろうし」

 

 五反田蘭は彼の一つ下の妹であり今は中学二年で有名私立中学に通っている。

 

「はぁ……いいのか、蘭の予定勝手に決めて?」

 

 少々あきれながら一夏は答える。

 

「大丈夫だって、お前が行くって言ったら、多少無理にでも予定開けるだろうし、じゃあ日曜の朝、お前んちまで行くぜ? すぐ出れるように準備しておけよ」

「わかったよ。それじゃ……!」

 

 渋々と言った感じで一夏は弾に答えようとしたが、突然のめまいを感じ、足を縺れさせるが、何とかその場に踏みとどまる。

 

 

「おい。大丈夫か?」

「あぁ。大丈夫だ……ちょっとふらついただけ―――!!」

 

 

 心配そうに声を掛ける弾に答えながら一夏は顔を上げるが、その時、一夏は不思議なものを目にした。それは、青を基調とした見慣れない服装の長い銀色の髪の女性だ。少なくとも、日本の学校で着るには場違いな服であるにも拘らず、その女性を周囲の人間はまるで気にする様子もなく通り過ぎて行く。

 

「……」

 

 そんな中、その女性は一夏に視線を送り、佇んでいる。その様子に戸惑いながらも、一夏はその女性から視線を逸らす事が出来ず、その女性を真っ直ぐに言見詰める。どれくらいそうしていたのだろうか、やがて、一夏の耳に女性が放ったであろう言葉が響いた。

 

⦅やっと……見つけた……⦆

 

 女性の放った言葉は、その場の喧噪にかき消されることなく一夏の耳に届いた。少なくとも誰も振り返ることなく通り過ぎて行く事からも、その声を気にしているのが自身だけである事を一夏に認識させた。

 

「え? 今、なんて……」

「今度はどうした? 一夏」

 

 傍らにいる友人の事も忘れ、呟いた一夏の言葉を遮り、弾の言葉が一夏の耳に入る。其処でようやく一夏は我に帰った。

 

「え? いや、なんか……誰かいた様な気がして」

 

声を掛けられ振り向いた一夏だったが、まるで夢でも見ていたかのようにぼうっとした声を返す。その一夏のとぼけた様な返答に弾は呆れの交じった声で言葉を返した。

 

「そりゃ、人くらいいるだろだろ? まだ、こんな時間だし…」

「それもそうか…」

 

 多少の不思議さは感じるものの、弾のその言葉で一夏は自分を納得せせる。確かに新学期も始まったばかりであり、新入生、新任教師など聞きなれない声、見慣れない人間など大勢いるだろう。そう思い、一夏は周りを見渡したが、一夏はある事に気付いた。

 

「あれ? なんで、誰もいないんだ?」

「は……?」

 

 一夏が視線を向けた先には声をあげそうな人物は一人もおらず、別方向に視線を向けるも、やはり誰もいない。ここに来るまで何人もの生徒とすれ違っておきながら、今、この場には一夏と弾以外の誰もいなかったのだ。

 

「なんだよ? これ」

 

 弾が呆然とした声を上げつつ、近くの教室を覗いたが、そこにも誰の姿も確認できなかったようだ、その言葉と共に力なく扉を閉め、一夏の所へと戻って来た。

 

「弾……取りあえず学校から出ようぜ? もしかしたら、気付かないうちに皆、帰ったのかも知れない…」

 

 一瞬の内に人が消えるという状況に不思議さを覚える一夏であったが、無理にでも自身を納得させ、弾に学校から出ることを促す。

 

「あぁ…そうだな」

 

 弾も今の状況に気味の悪さを覚えたのか一夏の提案に同意し、足早に下駄箱へと歩き出す。

 

 下駄箱に向かうまでの間、誰にも合わなかったことをなるべく考えないようにし、靴に履き替えるとグラウンドへとでるが、そこにも誰の姿も見当たらない。自身の教室でも運動着に着替え部活に向かった生徒を何人も見ており、廊下でもグラウンドから聞こえてくる生徒の声も聞いている。 この短時間で生徒どころか教師も見当たらなくなるというのは明らかに変だ。必死で周囲を見回す二人であったが、その時、一夏の耳が何やら耳鳴りの様な音を拾った。

 

「……ん?」

「どうした? 一夏」

 

 その音に周囲を見回す一夏だったが、やがてそれがはるか空の彼方から聞こえてくるのだと認識した一夏はハッと空を見上げる。そして、それに釣られた弾も、その視線の先を弾も見上げる。その視線の先に見えるものは最初は唯の点だったが、徐々に降下してきているのか、やがてそれは明確なシルエットを露わにする。

 

「なんだよ、あれ!!」

 

 思わず声を張り上げた一夏の視線の先に見えたものは、落下してくる一体の鉄色のロボットであった。そのロボットが轟音をたててグラウンドへと着地する。すると即座に緑色のツインアイで空を睨むように見上げる。

 

 その視線の先にいたのは機体各所のブースターを吹かせながらゆっくりと降りてくる漆黒のロボット。そのロボットは赤い二つの目で鉄色のロボットから視線を外さず、ゆっくりと地面へと降りたった。二体の巨人は距離を置き、それぞれの剣を構え対峙する。そして、どちらからというでもなく動き出すと剣を打ち合い二人の見ている前で戦闘を開始する。

 

 二体の巨人が空から降り立ち目の前で轟音をあげながら剣戟を始めるというありえない状況の中、その場にいる二人は完全にパニック状態だった。

 

「一夏、なんなんだよ! あれ!!」

「俺が知るか!! 俺だって見たことねえよ、あんなの!!」

 

 二人は逃げることも忘れ、目の前の状況について応答を繰り返すものの、あまりの事態にあまり意味のある会話はされてはいない。

 

 

 言い合う二人の前で2体のロボットは構わず互いの剣をぶつけあっている。全高はどちらも23、4m程で一体は両肩から伸びたアームで長大なショルダーガードを保持した鉄色の巨人だ。手にした剣は幅が広い両刃の剣、赤いアームガードが水平に伸びている以外は目立った装飾はなく武骨な印象を受ける。

 

 対する黒色の巨人は胸部や手甲、前頭部は赤く頭頂部からブレードアンテナが後方へ伸び、自身よりも長大な背部ユニットを二基、背中から伸びたアームで保持している。そのユニットの一基一基には外側の側面に放熱板のようなパーツが四枚展開し、自身より長大なそれが接地しないように常に持ち上げていた。

 

 その手に持つ剣は、剣身に向かってアームガードがハの字型に開き、剣身部分にも紋章が施されるなど豪奢なつくりをしている。

 

 二体の巨人の戦いは完全に膠着状態に陥っていたが、事態は動いた。鉄色の巨人が相手の攻撃を受けきれず大きく後ろによろめくと、一夏たちの近くに砂埃と衝撃をあげながら倒れこんだのだ。

 

「うわーー!!」

 

 一夏は思いもよらない事態に思わず声をあげ、衝撃と風圧に飛ばされないよう足に力を入れるが。その際、飛ばされてきた何かで切ったのだろう、一夏の頬に一筋の赤い線が走り、そこから血が滲む。頬から伝わる痛みがこれが夢ではない事をいやがおうにも一夏に伝えるが、そんな事態であるにも関わらず、彼は隣にいるであろう弾の身を案じ、声を掛けた。

 

 「おい!! 弾、大丈夫か……弾?」

 

 帰ってこない返答にそれまで彼が居た方向へと視線を向ける。そして、そこに誰もいない事を確認すると、一夏は最悪の事態を想像し顔を青ざめさせる。

 

「おい冗談だろ? まさか、今のに巻き込まれて?……!!」

 

 

 呆然と呟く一夏であったが、今もなお続く振動が否応なく彼を現実へと引き戻した。

 

「な!?」

 

 振動に気づいた一夏がその方向へ目を向けると漆黒の巨人が徐々一夏に向かってに迫ってきているのに気がついた。周囲を再び見回すが、やはり自身以外には誰もいない状況である。自分に向かってきていると思わせるのは十分な状況であった。

 

「なんだよ。なんで俺の方に、どうすりゃ?」

 

 そうつぶやき視線をめぐらすと仰向けに倒れる鉄色の巨人の首元の部分にハッチらしきものが開いているのが見える。微動だにしないその機体を見据えると一夏の頭に考えがよぎった。

 

「やっぱり、誰か乗ってんのか? それなら!!」

 

 そう呟くと一夏は鉄色の巨人に向かって走り出す。思い出すのは二年前、IS世界大会に出場する姉に招待されていった世界大会決勝の日だ。何者かに誘拐され、姉に助け出されるまで、ただ、無力感を味わったあの時のように何もできないのは嫌だ。自分の身位は自分で守って見せると……根拠は無かった、だが、その意地だけが、今の一夏を走らせていた。

 

「とにかく、ここで戦うのを止めさせないと!」

 

 もともと、そう距離は離れていなかったためすぐに機体までたどりつき、すぐに機体をり、機体の中を覗き込むと同時に声を上げる。

 

「おい! あんたら此処をどこだと思って!……あれ?」

 

 覗き込んだ内部は思っていたよりも広く、壁一面、360度がモニターになっており、外の景色を映し出している。そして、やはりパイロットは存在し、コクピット中央のシートに着座しているが、気絶しているのか動く様子はない。だが、その思いもよらぬ人物像に一夏は声を詰らせた。

 

「女の子………」

 

 パイロットスーツであろうその服はかなり体にフィットしたデザインになっており、その服が彼女のボディラインを浮き上がらせていた、均整の取れたボディラインに鮮やかな金色の髪にわずかにロールがかかり、その顔立ちにはどこか高貴さを感じさせる。武骨な機体の予想外のパイロットにボーっとしていた一夏だったが、すぐに状況を思い出す。目の前の少女が自身に危害を加えないとは限らないが、ようやく見つけた自分以外の人間に一心不乱に声をかける。

 

「……っと、おい!!君、大丈夫か!!」

「う……ん……」

 

 先程声を荒げていたというのに、取りあえず相手の心配と言うのは性分なのだろうか? そんな一夏の視線の先で一夏の声に若干の不快さを感じたのか、眉間に皺をよせつつも、瞼を動かすと、やがて眼を開き、驚いたように一夏を見詰める。

 

「あなた!! そこでなにを!! それに、どうやってハッチを!?」

「どうやっても何もハッチは開いていたし、動かないから、どうしたかと思って……それより、大丈夫なんだよな!?」

「え? えぇ、大丈夫です……って、そんな簡単に開くわけが!!」

「って、そんな事よりここは学校だぞ、こんな所で戦ってんじゃ……」

 

 詳しい事は今はいいとばかりに詰め寄った一夏であったが、再度の振動が機体を揺らすと、耐え切れずコクピット内に落ちる。痛みに顔をしかめる一夏であったが、すぐに起き上がると再び声を上げる。

 

「痛……くぅ、ここは? あっ、きみは大丈夫だった!! って、何であの子までいなくなっているんだよ!!」

 

 相変らず自身より他人の心配をする一夏であったが、すぐにそんな場合ではないことに気づく。モニターを見ると黒色の巨人がすぐそこまで迫ってきている。

 

「くそ!! どうすりゃ?」

 

 何とか向こう側にも呼び掛けてやめさせなければと改めてコクピットを見回す。すると、ちょうど、シートの肘掛部分に赤い球体が明滅しているのに気付く。

 

「ひょっとして…これが…操縦桿なのか?」

 

 そう思い手を触れた瞬間、球体が強く光を放つと周囲の状況、機体の情報が頭の中に流れ込んでくる。

 

「……!! なんだ?頭の中に……これは機体情報? とにかく、立ち上がらせて……」

 

 何とかできるかも? そう思い一夏はシートへと着座すると思考を巡らせる。すると、一夏が思考した瞬間、鉄色の巨人はハッチを閉じながら立ち上がり、その情報を機体が一夏に伝えてくる。

 

「こいつ……頭で考えただけで動かくのか? それなら!!」

 

 一夏は即座に乗り込んだ鉄巨人を黒色の巨人に向き直らせると、落ちていた剣を取るが、その前に一夏は目の前の機体に呼びかけようとする。その一夏の意思を機体がくみ取ったのか、機体外部に一夏の声が響き渡る。

 

「おい! 何なんだよ、お前は!! 俺に何の用なんだよ!!」

 

 だが、その一夏の声に返答する事なく、黒の巨人はその手に持つ剣に力を込めると一夏に向けて駆け出した。

 

「くそ! もう…どうにでもなれ!!」

 

 問答無用な様子に、一夏はそう叫ぶと相手に対し、構えを取る。そして相手が振り下ろした剣を受けると力任せに押し返した。だが、相手は転倒する事なく、機体各所のブースターを吹かせると一夏から距離を取り、再び此方に向かい構えをとった。

 

「やれるか? なら、今度はこっちから……」

 

 だが、その数手で手応えを感じた一夏は今度は此方から攻勢に出ようと意識を向ける。そして、相手に向かい駆け出そうとしたが、彼の焦りが伝わってしまったのか、背部のスラスターが点火し、機体は高速で敵機に向かい突進していく。

 

「うわ、わわわわ!!」

 

 自身が想定していた以上の機体の挙動に焦りの声を上げながらも相手を見据え、迫る機体に向かって剣を振りおろすが、そんな状態の一撃が当たる訳も無く、相手は難なく回避する。

 

「くそ! てっ、なあああ!!」

 

 すれ違った相手を振り返りながら相手を一瞥し、悔し気に声を上げた一夏だったが、視線を戻した途端、驚愕の声を上げた。彼等が戦っている場所は学校の校庭、生徒達が運動を行うのに十分な広さが確保されている場所だが、二十メートル以上のロボットが縦横無尽に機動し、戦闘を行うにはハッキリ言って狭すぎるのだ。高速移動した事により、あっという間にグラウンドの端から端まで到達してしまい、学外の景色が既に目の前に迫っている。

 

「とっ、止まれ! 止まれ!!」

 

 このまま外に飛び出しては被害を広げかねない。焦る一夏は必死に機体を静止させようと思考する。その一夏の思考に反応し、機体はスラスターを停止させ、両足を地面につけ、必死に停止させようとしたが、加速した機体はすぐには止まらず、一度、地面をはねると大きな土煙を上げながら制止する。無理な止まり方をした為、コックピットにも大きな衝撃が伝わり一夏は顔を顰める。

 

「止まった……はぁ。……! なっ!!」

 

 ギリギリのところで静止した事で安堵の息を漏らした一夏であったが、黒い機体が手にした剣を振りかぶりながら背後から迫っている事を機体のアラームが知らせる。

 

「やべ! って、わああ!!」

 

 急ぎ旋回し、受け止めようとしたが、過敏に反応した機体は腰部スラスターを点火、高速で旋回し、横薙ぎに黒い機体の剣を弾くが、勢いがついた機体は止まらず、高速で回転する。その間、敵は体制を立て直す為、足裏のブースターを吹かせ距離取った。

 

「言う事を……聞けっての!!」

 

 対する一夏は足をもたつかせながらも、機体を静止させると機体を相手に向け、構え直した。そして、コックピット内で気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐き、相手を見据える。

 

⦅落ち着け! 冷静になれ、冷静に……⦆

 

 敵は幸いにも動く様子も無くこちらを見ていた為、その間に一夏は幾分か平静を取り戻す。そして今度はこちらの番だと言わんばかりに相手に向かって機体を駆け出させた。

 

 今度はスラスターが点火する事なく一夏の機体は相手に迫り、迎え撃つかのように片手で剣を構えた敵機目掛け、全力で剣を振り下ろした。

 

「はあああああ!!」

 

 一夏は裂帛の気合いと共に剣を振り下ろしたが、敵機は全力で振り下ろされた一撃を難なく剣で受け止め、力任せに押し返す。

 

「くそっ!!」

 

 先程押し返されたのは油断していたからであったのか、難なく押し返された事に吐き捨てる様に言葉を吐いた一夏に敵機は剣を振り下ろした。それを一夏は全力で剣を振り上げ、切り払うと、即座に振り上げた剣を上段で構え、振り下ろそうとする。

 

「これで……!! がっ!!」

 

 その時、一夏を衝撃が襲った。剣を上段で構えた為、がら空きになった腹部を敵機が蹴り入れたのだ。大きく吹き飛ばされた機体を立て直した一夏の目に、映るのは剣を水平に構え迫る敵機の姿だ。

 

「避け……いや! だめだ!!」

 

 一瞬浮かんだ思考を一夏は振り払った。なぜなら、今の一夏の背後には校舎があるのだ。

 

「俺が分からなかっただけで、誰かが残っていたら……」

 

 そう考えた一夏は避けると言う選択肢を即座に切り捨てた。

 

「だから、ここで……止める!!」

 

 そう思い至った一夏は敵機と同様に剣を水平に構え、敵を見据える。正面から迎え撃つつもりだ。その瞬間、敵機は期待のぶーすたを一瞬吹かせると一夏に向けて一気に踏み込む。だが、敵機の手にした剣より早く、一夏の操る鉄色の巨人の手に持つ剣が相手の首筋に突き刺さった。

 

「あああああ!!」

 

 気合いの声と共に一夏の剣が相手に深く突き刺さって行く。そんな中、少しでも被害が及ばない様に踏み込み、一夏は剣を押し入れる。

 

「止まれ! 止まれよ!!」

 

 一夏の剣を受けた敵機は幾つもの破片をまき散らしがら、大きく機体を震わせた。すると、駆動音が徐々に弱まっていき、赤い眼から光が失われる。

 

「どう……だ」

 

 あれ程響いていた轟音が止んだ事で一夏にはコックピット内が一層静かに感じた。しばらく警戒し、様子を見ていた一夏だったが、相手が動かない事を見ると大きく息を吐き、コックピットシートにドカッと背を預けると胸をなでおろした。

 

「はぁぁ。終わった、んだよな? くそ!……なんだったんだ、一体?」

 

 一夏は息を整えるために深呼吸を繰り返すが、流石にすぐに落ち着きを取り戻す事は出来なかった。今も一夏の心臓はうるさい位に鳴っており、一夏にその鼓動を感じさせた。

 

「ハァ……もっと、運動しないとダメかな? これは…」

 

 そう呟き、一夏は自分の運動力不足を自嘲気味に呟きながら、目を閉じ大きく息を吸う……が、再度機体に衝撃が走り、一夏は眼を見開き、前方を見つめた。

 

「なに、が……な!」

 

 視線の先にあったのは、先ほど動きを止めたはずの漆黒の巨人の姿。自身が与えたはずの傷は消え、まるで何事もなかったようにその場に立っていた。

 

「どうして!?」

 

 当然ながら、その疑問に応えてくれも相手はいない。轟音とともに彼の乗る機体は背中から校舎に倒れこみ、瓦礫と粉塵をまき散らした。一夏は衝撃の痛みを耐え、即座に相手を見る。

 

「痛った……ん?」

 

 そこにいたのは背部ユニットの先端を自機より高く上げ、ちょうどおアームの付け根部分を自分に向ける相手の姿だった。

 

「何やって……」

 

 そう、一夏が思ったのも束の間、その部分が四方に開き、内部から二枚の板が光を迸らせながら、せり出してくる。

 

「まさか、それって……ビーム砲なのか!!」

 

 一夏は焦り、機体を動かそうと思考するが、先ほどの衝撃か、それ以外の要因か。あれほど動かせていた機体が今度はピクリとも動かなかった。

 

「動け!! 動けよ!!!」

 

 一夏の必死の思いも虚しくエネルギーの収束が終わり……。

 

「うわぁーーーーーーーー!!」

 

 閃光が、一夏の視界を埋め尽くしていった。

 


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