わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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お気に入りしてくださった方、ありがとうございます。
こんな小説に目を通して下さっただけで、もうご飯三杯いけます。。。


第一話 ギルランダイオ要塞からの撤退

◆1935年3月16日~ギルランダイオ要塞司令室~

 

「ダモン将軍! 敵は我らの倍以上でこの要塞に攻撃してきておりまァすッ!」

「ダモン将軍! 要塞防衛第1部隊が援軍要請をしておりますッ!ご指示をッ!」

 

ちぃ! 帝国軍め、ついに来おったな!

この要塞を力攻めで落とそうという魂胆が見え見えだ!

 

「狼狽えるな! 古今東西要塞攻めには大量の物資と兵士が必要なのだ! この程度で根を上げてどうするのだ!」

「し、しかし!敵は…」

「その様なへっぴり腰では勝てる戦いにも勝てんわッ!! 第1部隊には第2部隊・第3部隊を差し向けろ! 第4・第5部隊はそのまま右翼で迎撃態勢維持! 第6・第7部隊は固定武装を使って迎撃せよ!」

「は、ははッ!!」

 

うぬぅ……帝国軍め…やはり大国と呼ばれるだけはあるな。

兵士の行動を見れば、我が軍との練度の差は歴然だ。よくもまぁこんな敵相手に義勇軍が勝ったものだ。

いや……正規軍が腑抜けすぎたのか。

だが、この世界ではそうではないと言う事を見せてやる!

 

「わしの戦車を用意しろ。わしも打って出る!」

「何を申されますか将軍!? 将軍はこの要塞の司令であります! この場からご指示を!」

「いや、ここでわしが出て士気を上げねばならん。その為の戦車だ」

「それでは指揮系統がめちゃくちゃに――」

「うるさぁい!! わしが出るといえば出る! その方が前線の状況も確認でき、且つ直ぐに命令が出せる! 戦車を用意せよッ!」

 

言うや否や兵士は飛んで行ってしまった。もっと早くにそうしておけばよいのだ。ふんッ!

このわしが居る限り、このギルランダイオ、そう易々と落とさせてなるものか。

せめて1週間は持たせてやるぞ…。実際には3日もかからず落ちたらしいが、そうはさせん。

 

「皆の者ッ! 我らが踏ん張れば踏ん張るほど、ガリアの為になるのだッ! 奮起せよッッ!」

「「「「オオオオォォォーーー!!!」」」」

 

 

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3月23日◆~帝国軍臨時司令室~

 

「ふむ…。軟弱なガリア軍にもできる者が居たという訳だな。セルベリア?」

「はっ…。誠に申し訳ありません、殿下……」

 

帝国軍総司令官であるマクシミリアンは、その場に控えていたセルベリア・ブレス大佐に苦言を呈していた。

対するセルベリアも、まさかここまでガリア軍が抵抗するとは思ってもいなかったらしく、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「わりぃ。遅くなった」

 

そんな微妙な空気を破るように、一人の男が司令室に入ってきた。

『ラティ・イェーガー少将』と呼ばれる元フィラルド王国出身の軍人である。

彼の祖国は帝国によって完膚なきまでに叩きのめされ、以来フィラルド人は余り見られなくなっていた。

しかし、彼の持つ戦術眼に興味を持ったマクシミリアン準皇太子は、彼を帝国軍将校に引き立て、今に至る。

 

「貴様ッ! 殿下に対してその言い草!無礼であるぞッ!」

「よいセルベリア。で、イェーガーよ。首尾は順調か?」

 

そういってマクシミリアンはイェーガーを見つめた。

 

「あぁ。そっちの要塞に目を引かれていたのか、東部国境のブルールには自警団しかいなかったらしい。俺の部下に任せた所、少し抵抗があったが、無事占領した。これでバリアス砂漠に進軍できる。一部の機甲部隊は既にそこまで突出している。ついでにクローデンの森に補給基地を作っている。これが完成すれば南部の補給線は安泰だ。後はその要塞を落とせば、北部でのガリア軍は後退するだけでなく、俺たちはファウゼンまで一直線だ。敢えて問題を言わせて貰えるのであれば、南部に位置する【ガッセナール城】に手を焼いているが…これも時間の問題だろう」

 

そこでイェーガーは一呼吸置いた。

 

「ところで、あいつの姿が見えないが…。何処にいるんだ?」

「あぁ。グレゴールは後詰としてまだ後ろの方にいる。本来であれば、今頃ガリア北部方面の指揮を執って居ただろうがな」

「なるほどなぁ。まぁ敵も国の危機なんだ。そりゃ粘るだろうよ。俺も粘ったしな」

 

苦笑いをしてイェーガーは自分の過去を皮肉った。

だが、そんな事を気にする様子もなく、マクシミリアンは話を続けた。

 

「だが、ブルールが落ちたのであれば、この要塞もじきに落ちるであろう。そうだな?セルベリア?」

 

いきなり問いかけられたセルベリアは、一瞬反応が遅れたが直ぐに反応した。

 

「はい。ブルールが落ちたという事は、ガリア公国の首都であるランドグリーズと、この要塞を分断できます。流石に奴らもそんな最悪な事態は避けるでしょう」

 

そういった矢先、前線に出ていた帝国軍の偵察兵が司令室に入ってきた。

 

「報告します! 要塞に籠っていたガリア軍が撤退の準備に入った模様です! 既に我が軍の一部が要塞内に突入しております!」

「報告ご苦労であった。下がっていい」

 

そう言うとセルベリアは、先程までの苦い顔から一転、口角を挙げて喜びの表情になっていた。

そんな変化を気にせず、マクシミリアンはセルベリアに命令を告げた。

 

「ではセルベリアよ。早々にギルランダイオを落とし、中部方面攻略の準備をせよ。只でさえ本来進軍には向かないルートからブルール占領達成報告がきている。敗北は許されぬ」

「はッ! 殿下の為に、一層励ませていただきます!」

 

そう言うや否や、セルベリアは司令室から退出した。

残ったイェーガーとマクシミリアンは、これからの作戦行動について話し合おうとしていた。

 

 

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同日◆~ギルランダイオ要塞・戦車格納庫にて~

 

「ブルールが陥落しただとぉ!!?」

 

わしは文字通り1週間要塞に籠り、この愛車と共に帝国軍を撃滅していた。

そんな中、再び出撃しようとした所、思いもよらぬ報告がわしの元へやってきたのだ!

 

「はいッ! 現在東部国境のブルールから帝国軍が雪崩込んで来ており、既にガリア南部方面軍及びブルール自警団は撤退しましたッ!」

「中部は!? 中部方面軍はどうしたのだ!?」

「中部方面軍は現在バリアス砂漠において帝国軍の機甲部隊と交戦中ですが、押されている一方だそうです! 壊滅も時間の問題かと!」

 

うぬぅ…! うぬぬぬぅ……!! 帝国軍めぇ…!

このわしがおる要塞を無視して先にブルールを落としたかッ!

兵力が少ない我らを無視したというのか…何たる侮辱!

しかし、周りを先に落としているという事は、逆に言えばこの要塞をそれ程重要視していないのか?

……いやそれはありえん。この要塞が落ちれば帝国本土からの補給が滞りなく届くのだ。

やはり周りを抑えてからこの要塞を落とすつもりなのだろう。

しかし中部方面軍も南部方面軍も何をしていたのだ! わしよりも多くの兵を抱えておきながら無様に負けおって!

 

「このままでは、この要塞とランドグリーズが分断されてしまいます! 将軍、撤退命令を!」

「……背に腹は代えられぬか。致し方なし…」

 

このまま首都と分断されては孤立してしまう。

この要塞には多くのガリア軍精鋭が居るのだ。こいつらを無駄にはできん!

こいつらは後々の作戦で必要なのだ。

わしは格納庫の端にある電話機を使って要塞中に命令を下した。

 

「ギルランダイオ要塞にいる全部隊に告ぐッ! 本時刻をもって、このギルランダイオ要塞を放棄して、ナジアル平原まで後退するッ! その後、首都防衛大隊とガリア義勇軍の協力を得て帝国軍を迎撃するッ! 各自撤退の準備に取り掛かるのだッ!」

 

要塞中に大音量のわしの声が届いた。

後はヴァーゼルまで上手く後退できれば、首都にいる義勇軍と防衛大隊で迎撃できるはず。

その為に、わしは、無能な戦術を取らず、粘り耐えてきたのだ。

そして、ブルールが陥落したという事は、あのベルゲン・ギュンター将軍の遺児、『ウェルキン・ギュンター』が首都の義勇軍に徴兵されているはずだ。

史実とは違い、この要塞で多くの時間を稼いだのだ。今頃は準備万端でナジアル平原とヴァーゼル橋に防衛線を築いているだろう。

問題は、中部のバリアス砂漠に帝国軍が現れた事によって、北部に存在するラグナイト産出地帯であり一大拠点である【ファウゼン工業地帯】と首都を含めた南部ガリアとの連携が崩れてしまうかもしれないという事だ。

 

わしが北部ファウゼンに陣取って南部ガリア軍と共に帝国軍を挟み撃ちにしてもよいのだが、なんせ現在の帝国軍の数が多すぎてガリア全軍をもってしても対処できていないのが現状である。

史実では各地に散らばった帝国軍を各個撃破してガリアは勝利したのは事実である。

だが、今の段階では圧倒的物量に押されているだけだ。まだもう少し、耐えねばなるまい。

そんな事を考えていると向こうから1人の兵士が走ってきた。

 

「ダモン将軍。各部隊の撤退が開始いたしました」

「うむ。わしは後から行く。お前達は先んじてナジアルで防衛線を構築せよ」

「将軍はどうなされるおつもりですか!?」

「勿論わしも撤退するぞ。その前に地雷を仕掛けていくがな」

「了解しました。では各部隊に通達しておきます」

 

さらばギルランダイオ要塞。

また…必ず此処に戻ってくるぞ!

 

 

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3月23日。ギルランダイオ要塞陥落す。

 

この事はガリア国内を大きく揺るがした。

既に上層部では、和平派と徹底抗戦派に分かれて議論が紛糾していた。

その中の一人、バルドレン・ガッセナール大佐が吼えた。

 

「アイスラー閣下! 敵は直ぐにでも此処、ランドグリーズにまで迫るでしょう! 速やかに防衛線を構築すべきです!」

「まぁ待ちたまえガッセナール大佐。義勇軍と少ない正規軍で防衛線を構築した所で、1日も持つまいよ。それよりもダモン将軍が率いる主力軍が来るまで首都で籠城したほうが、味方の被害も少なくなる。私としてはヴァーゼル橋に集中して防衛線を張るべきだと思うがね?」

「ッ! しかし、それではファウゼンにいる友軍との連携が取れません! 彼らは未だ援軍を待ち続けているのです!それを見殺しにするおつもりですか!?」

 

そう。紛糾している議論というのは、どこに防衛線を構築するかという議論であった。

ダモンが命を懸けて作った貴重な時間を使って軍上層部はどこを防衛するかを話し合っており、『未だに』防衛線を構築していなかったのである。

しかも、ガリア軍最後の希望となっているのはダモン率いるギルランダイオ防衛大隊という有様であった。

ガリア軍は北部国境のギルランダイオ要塞に固執した為に、満足に中部・南部の方面軍に補給を行き渡らせていなかったのである。要塞でダモンが驚愕していたのはその為であった。

彼の中では、要塞の兵力は方面軍よりも劣っていると考えていたのだが、実際にはむしろ中部・南部方面軍の方が兵力不足に陥っていたのである。

簡単に言えば、ファウゼンを含めた北部方面軍だけに兵力が傾いていた。

 

慌てた上層部は、祖国防衛のために、国内にいる即戦力になりうる全ての国民を義勇軍として強制的に徴兵。

その後ダモン将軍が帰還次第、すぐに方面軍を再編成し、攻勢への作戦を計画していたのだった。

 

「大佐。敵は帝国なのだ。どの戦線でも兵士が足りん。ならば、捨てる所は捨て、守るべき所は守らねばならん」

「ではファウゼンは守らなくてよいと?! あそこは我等ガリア軍の生命線とも呼べるラグナイト鉱石があるのですよ!?」

「ファウゼンは落ちんよ。君も知っているだろう? あの土地は守りに適しているのだ。いくら相手が帝国といえどもそう易々と落とせんよ。それよりも首都が問題だ」

 

既にガッセナールとアイスラーの会話は何週もしており、周りも良い案が浮かばず、議論は一旦棚上げとなり、とりあえず義勇軍にヴァーゼル橋を任せる事になったのであった。

 

 

 

 


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