わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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初めまして。就活やらなんやら忙しい時期にまさかの処女作投下。
現実から逃げ出したかったので書いてみました。
誤字脱字や知識違いがよくあると思いますので、勢いで読んでくれたら報われます。

それではどうぞ。。。


プロローグ

征歴1935年。ヨーロッパ大陸は東西2つの大国に分かれていた。

東に位置する専制君主国家、東ヨーロッパ帝国連合。通称『帝国』。西に位置する共和制連邦国家、大西洋連邦機構。通称『連邦』。この2大国は過去幾度となく武力衝突を繰り返してきた。

この2国にすり寄る小国は数多と存在していたが、そんな中で唯一、中立を宣言している国が存在した。

 

――ガリア公国。

東ヨーロッパ帝国連合と大西洋連邦機構の狭間に位置し、武装中立を国是とする国家である。

国土面積は小さかったが、安定した気候の豊かな土地に、燃料・医療・兵器などに使用される鉱物資源【ラグナイト】が大量に産出される。また、『ナジアル平原』『バリアス砂漠』『クローデンの森』など、小さな国土に反して多様な環境が広がっていた。

過去には帝国が起こした【一次大戦】と呼ばれる大戦争によって存立の危機が訪れたが、英雄ベルゲン・ギュンター将軍が率いるガリア機甲部隊の活躍によって九死に一生を得ている。

 

この大戦の最中、代々軍人の家系で、しかも公国内で強い発言力を持つボルグ侯爵家と縁続きであるダモン家から一人の男が軍人として戦場に立った。

その男はこう思った。

 

代々軍人の家系に生まれたのだから自分も軍人として有能であるはず。

 

その様な驕りを持って戦場に立ったが故に、彼の戦果は惨憺たるものであった。

敵が近づけば豚の奇声の如くただひたすら自身の部下を叱咤し、揚句に突撃命令を繰り返し行う。結果はただいたずらに味方の軍を消耗しただけであった。

 

当然このような状況はガリア上層部にも伝わり、彼は大戦の最中、後方への異動を命じられた。

もはや出世の道は閉ざされたといってもいい。一族の恥さらしとも言われるだろう。

だが、大戦後、ガリア上層部は彼に対し軽い処分しか行わなかった。その理由はボルグ家にあった。

彼ら貴族を始めとする特権階級は、この戦争で平民が成り上がってくる事を恐れたのだ。

この国は貴族の力が根強く残っており、ボルグ家も御多分に漏れず平民に対する差別意識を持っていた。

そして、ボルグ家のマウリッツ・ボルグ侯爵がガリア公国宰相に就任した際、その実績に反して階級をガリア軍最高位である『大将』昇進させた。

結果として彼は一族の恥さらしと言われる事もなく、それどころかかつてよりも高い地位を得るに至った。

 

そしていつしか彼は、ガリア軍全ての手綱を握るまでの地位に上った。

そんな無能極まりない男の名は「ゲオルグ・ダモン」。

軍人らしからぬ肥満体に自慢のなまず髭を生やし、帝国との玄関口と呼ばれるギルランダイオ要塞で胡坐をかき、一人ワインを嗜んでいるような男が、ガリア軍の頂点に君臨していた。

 

しかし、職務の最中に不幸にも彼は階段から転落してしまう。

一時は意識不明の重体となったが、奇跡的に彼は一命を取り留めた。

その際、彼の意識は別次元の人間と交わってしまったのである。

俗に【憑依】と呼ばれるものであろう。

 

それ以降、彼は部下を無意味に叱咤する事がなくなり、ガリア軍の近代化に難色を示していたそれまでの態度を改め、多くの部下の声を聞き入れてガリア軍を改革し始めた。

ガリア軍上層部は特権階級が要職を独占し、半ば公然と賄賂や物資の横領などが横行しており、そういった上層部の退廃はガリア正規軍の風紀を著しく低下させていた。

彼はそれを大いに嫌い、ガリア軍事警察にその証拠を提出し、逮捕を要請。

軍事警察は即座に行動に移り、ガリア公国内の多くの新聞社はこの汚職事件を大々的に報道した。

未だ正規軍の中に居る良識を持ち節度を保っていた者達とガリア国民は、この事件に驚愕すると共に、内部告発を行い汚れきっていたガリア軍を浄化した功労者として、彼=ゲオルグ・ダモン将軍を大いに称賛した。

一次大戦では義勇軍として参加し、そして生き延びた女性士官のエレノア・バーロット大尉をして「あのダモン将軍が!?」と言わしめた。

 

しかし、彼を知る人物はどうしてもその功績が信じられず、今だガリア軍部内の一部で彼は信頼されていなかった。

彼を称えている者の多くが何も知らない一兵卒達と国民であったのも、理由の1つであった。

彼におべっかを使っていた者達ですら怪しんでいるというのは皮肉である。

 

 

 

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◆征暦1935年某日~ガリア公国領内・ギルランダイオ要塞司令室~

 

 

「ダモン将軍。こちらの書類にサインをお願いします」

「うむ。いつも助かる。ワシはこういう作業が苦手でな……」

「いえ、将軍を思えばこそです。自分はこの書類を提出しに行ってまいります」

「うむ。気を付けてゆくのだぞ」

「ただ本部に届けるだけですから、心配には及びません。それでは失礼いたします」

 

そうは言うがなぁ、実際人生には何が起きるか分かったものではないのだ。

なんせこのわし自身がそうなのだからな…。

 

では改めて画面の前のお主に挨拶しようではないか。

わしの名はゲオルグ・ダモンである。階級はガリア軍唯一の大将であるぞ!

もっと言えば、先の汚職事件を解決せしめた本人である! 一部の奴はまだこの事を信じておらんがな!

だが今はそんな事はどうでもよい。

本題は、わしがわしであってわしではないと言う事にある! ……意味が分からんな。

簡単に言えば、わしはゲオルグ・ダモンではない『何か』と融合してしまったのだ。

初めは気が狂ってしまったのかと思っておったが、存外悪い気分ではない。

それよりも、過去に犯したわしの失態について、土下座をしてでも謝罪したいくらいである。

 

というのも、わしはこの世界のことについてあらかた知っておる。

その記憶と性格の全てがわしと一体化した時、わしは…知ってしまった。

わしがこの場所で「セルベリア」と呼ばれるヴァルキュリア人によって消し炭となってしまう未来を。

過去のわしであれば信じなかっただろう。だが、いまのわしは違う。

生まれ変わったと言ってもよいであろうな。そのお陰でわしは自らの愚かさを思い知ったのだ。

つくづく融合されたものに感謝である。

今のわしは、1人のガリア軍人としてこの頂点に君臨している。

 

手始めに、わしはガリア軍の装備…引いていえば戦車に手を付けた。だがこれは遅きに失していた。

もっと早くにわしが今のようになっていれば、今頃ガリア軍の主力戦車は『36式戦車』になっていたはず。

すでに【ネームレス戦車】という模範的量産型が存在しているので量産にはこぎつけられるだろう。

だが何もしない訳にはいかないので、わしは軍の研究開発部に無理を言って、全てのガリア主力軽戦車に追加装甲を施すように命令した。まぁ雀の涙程度ではあるが、やらないよりはマシであろう。

 

次に、わしは数が少ないガリア軍の中戦車の量産を命令したのだが、生まれ変わった軍の上層部の奴らですら「まずは数を揃えなければ話になりません」などとほざきおったので、残念な事に少数生産に留められてしまった。

このダモンの具申を蹴ったのだッ! ……だが確かに奴らの言い分も最もなので、わしは仕方なく了承した。

当面は出来上がった中戦車をエース級の部隊に随時配備していくつもりだ。

それにしても、一次大戦から既に中戦車の配備を要求していたテイマー技師にはほとほと驚かされる。

配備できなかった理由の1つに、彼の友人にしてガリアの英雄であるベルゲン・ギュンター将軍が軽戦車による機動戦術を行い活躍した事が挙げられるのは皮肉であるがな…。

 

次に…というより意外にも小火器についてはそれほど遅れてはいなかった。

問題は正規兵の規律が未だに正されていないという事だ。

この前は市場で乱闘騒ぎがあり、原因を調べてみると、なんと正規兵の奴らから先に手を出したのだ!

これは由々しき事態である。

国家を守る兵士が国民に信用されていないというのは問題だ。

わしは直ちにその兵士を重罰に処…そうとしたのだが、バーロットを始めとする士官共に止められてしまった。

特に名門ガッセナール伯爵家の長男であるバルドレン・ガッセナール大佐に「一兵卒と言えども同じガリア人です。どうか平に御容赦を!」と言われてしまっては流石のわしとて手がだせんではないか。

命拾いしたな、あの二等兵め…。

それ以降、わしは今まで以上に軍規を厳しく指導した。

結果として、それ以降の乱闘騒ぎや正規兵がバカな事をするという話は聞かなくなった。

まったく、特権階級の貴族の坊っちゃんには呆れ果てる。

 

そして最後に、わしは帝国からの侵略の際に採る戦術についてボルグ宰相とガリア軍本部に通達した。

簡単に内容を言えば、『もし帝国からの侵攻があった場合、このギルランダイオ要塞で時間稼ぎを行い、その間に本土防衛の為に直ちに義勇軍徴兵及び防衛線の構築、迎撃の準備が整い次第遅滞戦術を行いギルランダイオ要塞を放棄して後退する』というものである。

この要塞以外にも中部方面のバリアス砂漠、南部方面のクローデンからも帝国軍は来るのだ。

要塞に固執して首都ランドグリーズと分断されてしまえば、いくらこの要塞が堅牢鉄壁を誇るとしても必ず落とされてしまうし、ただでさえ人的資源の乏しいガリア軍をみすみす消耗させかねない。

 

手紙では中々内容が伝わらなかったので、この事を軍の会議場で大演説した結果、見事に拍手喝采の大賛成を獲得したのである!

その際カール・アイスラー少将から「流石ダモン閣下です。広い視野を持っておられる」とのコメントを貰った。

わしは知っておるぞ。貴様が帝国…いやユグド教のボルジア枢機卿と繋がっている事を…。

そして間違いなくガリア軍の為になるであろう将来有望なクルト・アーヴィング少尉に反逆罪を濡れ衣を着せ、あの【ネームレス】に送ることもな!

そもそもネームレス自体、元々ガリア軍特殊部隊が発祥で、懲罰部隊などでは決して無い!

本来であれば、憧れこそすれ蔑まれるべき部隊などでは断じてないのだッ!

だが、奴がネームレスに配属された事によって、奴自身の意識、そして隊員達の意識が大きく成長し、消耗率の高かったネームレスを世界に誇れるレベルの練度にまで叩き直した。これは事実である。

なので、奴には申し訳ないがそのままネームレスに行ってもらう事にした。

でないとネームレスの隊員達が可哀想であるからな。それにあそこには奴の嫁になる女隊員もおる。

そもそもの出会いの場を、わしが奪っては余りにも惨すぎる。結末的に。

だが何もしないままでは胸糞悪いので、なるべく諜報部の奴らには色々融通するつもりだ。

これが今のわしにできる精一杯のお詫びである…。強く生きるのだクルト・アーヴィング少尉よ。

 

さて、長くなってしまったが、これが今までのわしの成果である。

因みに、軍部のわしへの一般的な評価は、『あの人おかしくなったのか?』というものだ。

実に失礼極まりない奴らだッ! 恥を知れッ! わしは至ってまともであるッ!

今に見ておれ…わしが生まれ変わったという事を思い知らせてやる……。

 

 

 

 

 

征歴1935年3月15日。

東ヨーロッパ帝国連合がガリア公国に対し宣戦を布告。

この時をもって、ガリアの歴史に長く伝わる戦争、通称【ガリア戦役】が開戦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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