技師の力は何が故に   作:幻想の投影物

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一年近く経ってた(喀血


case34 Trans

「やっと、倒した……!」

 

 小さく、とても小さなつぶやき。唇からこぼれた音の波を拾ったものはいなかったが、その脅威の撤退に大きな達成感というものがあふれていたのは、その場にいる全員が共通して持つ感情であった。疲労して、へとへとになって、ようやく脅威を退けたことに実感を持つ。段階的に訪れた感情の波に揺り動かされた、未だ齢幼き少女たちは安堵の息を吐き出した。

 だがそれは、まだ「段階的なもの」でしかない。そう覚えていたのは何人だっただろうか。完全に消し去った、ビルにへばりついた有機体もが魔法少女の攻撃で浄化されていく魔女のように消滅する中、ズワンッ。そんな形容しがたい「重さ」が空から降ってくる。

 

 やつの襲来だ。

 

「来るわ! 体制を整えて出現予想ポイントに移動!」

 

 ほむらの掛け声で、我に返った戦うものたちは無言で表情を引き締めた。重症を受けた者もまた、無理な魔力行使で肉体の損傷を癒しながらグリーフシードを使い捨てて付近のインキュベーターがそれをキャッチする。さやかのマントに残るグリーフシードは残り3。他魔法少女が持つ残量も片手で数えられる程度。

 唯一魔力の消費量が少ないほむらは9つのグリーフシードを見てペース配分を計算し直す。だが、これから相手するのは自分がよく知った相手であり宿敵。あの本来戦うはずではなかった敵、HiveMindよりかはマシだろうとは思考を向けながらも、それ以上に油断はすぐさま捨て去った。

 皆が皆、ビルの上や鉄橋の上に立って空間の歪みを見つめ、その手に握った武器を構え直す。最後の気力を振り絞ろうとする少女たちは、すぐさま足を揃えて移動を開始する。各々の武器に血をしたらせる後姿は、くたびれた戦乙女のそれに違いなかった。

 両手で持った大剣を正位置に構え直し、切っ先に魔力をまとわせ両足で地面を踏みしめた。槍を振り回しながら、その柄を長く長く伸ばし続けて長大な獲物が作り上げられていく。既存の銃を廃棄し、アンティークな意匠の大砲が少女の後方に控え号令を待った。

 少女の姿は掻き消え、一瞬の間に収納空間より取り出された過去から持ち越したミサイル兵器群が海岸線に設置される。それら全ては魔力の起爆スイッチ(ほむらの号令)によって今にも火を吹かんと冷たい光沢を怪しげな光に輝かせた。

 この世界に最もふさわしく、異物の介入がない最終決戦がようやく訪れようとしていた。

 

 

 

 切り裂かれ、肉片が舞う。

 恭介が認識したその瞬間、すでに事は成されてしまっていた。

 もうひとつ、何かが舞う。

 それは彼女が認識した瞬間、痛みを生み出した。

 学生服の長袖に包まれた、不恰好な断面をさらしたそれが地に落ちた瞬間、まどかからは声にならない悲鳴が上がる。強烈で、実感のないあまりにも突発的な激痛は、さやかたちのように感覚が離れた魔法少女でなければ精神崩壊を起こしてもおかしくはない。ましてや、ここはアイザックの精神世界。精神そのものに傷をつけられたというのは、神経でバイオリンを引かれるよりも性質が悪い。

 おおよそ、少女らしくない惨めで醜い這いずり回るような悲鳴と嗚咽が漏れた。そして、転がったまどかにもう一度命を絶つ鎌を振りかぶろうとした化け物、ネクロモーフのスラッシャーは、大きく振り上げたがゆえにその命を散らすこととなる。

 

「う、ッァあああああああああああああああ!!」

 

 てんで素人で、両手を伸ばすように持つという銃の常識を知らない者の射撃。それは恭介の間接部へ非常に大きな痛みを与えながら、偶然にもまっすぐと狙いをつけた先へプラズマの刃を飛ばさせた。

 今度は切り飛ばされたネクロモーフの腕が舞い、落ちるとき回転速度がよほどであったか、もうひとつの自分の腕を巻き込みながら切り裂き落下。まどかの腕があった場所にネクロモーフの二の腕が着地し、本体は生命力源となった四肢のうちの二つを失いただの肉塊へと変えられる。

 

「っ、鹿目さん!」

 

 どぅっ、と倒れ付したその化け物に目を配らず、恭介は両腕の痛みを無視してまどかを抱き起こす。血は出ていない、不思議な精神世界だからこそ助かったのか、失血死という可能性はないらしい。

 ただしその痛みは現実のものに勝るとも劣らない。この精神世界はむき出しの自分が他人の夢に入り込んだようなもの。痛み、辛さ、恨み、後悔。感情とともに吐き出される負の感情は鹿目まどかという少女のイメージされる人格よりもより鮮明に、発露してしまうのだろうが、それでも彼女は泣き言だけで抑えこもうと歯を食いしばった。

 それは何よりも強い負の感情。「自責」の念からくるもの。

 

「こ、こんなのっ…さやかちゃんに比べたらっ!」

「そんな、無理を」

「だめだよ、だって……じゃないとッ、わたしは」

 

 伸ばした手は、払いのけられる。そして恭介は、その痛みに呻くか弱い少女であったはずのまどかを見て、目を覗き込んで、思い知らされた。否、哀れだという嘆きを抱かずにはいられなかった。

 決意は固い、固すぎた。こんな、日常的におおよそありえない損傷を負ってなお、前に進もうとする意思は途絶えていなかった。たとえ、痛みの増す異常な精神世界だとしても、その片腕を失った痛みは我々のように軟で安全な暮らしをしている人間では絶対にわからないほどの激痛。表現のしようのない喪失感であるに違いない。恭介は当事者でないからこそ、そうした強さを持つまどかに少し嫉妬を覚える。

 短くなった息を荒げ、こひゅ、こひゅっ、と痙攣する身体を抑えながらまどかは立ち上がった。死体と、ネクロモーフと、アイザックを模した残骸が散らばる中で、彼女は何よりも輝いているのだと、恭介が錯覚させるほどの気高さで。日常のシンボルであったはずのまどかが立ち上がるというのは、すなわちそれほどの異常であるという事を証明するようなものだった。

 そんな時だった。いや、だからこそ、なのかもしれない。

 まどかは、この代わり映えのしない絶えず変わり続ける異形の空間で、先ほどまではまったく感じられなかった「流れ」を感じ取ることが出来るようになっていた。それは、彼女が精神としての死を迎えそうになったことへの報酬か、それともMarkerの誘惑だったのかはわからない。

 しかし、それは―――

 

「恭介、くん。こっちに、道が」

「鹿目さん!? そっちは崖―――!?」

 

 引き留めようとした恭介は、しかし何もない空間に足をつけてよろよろと歩いていくまどかの姿を見て己の正気を疑った。だからと言って、そこにとどまり続けるのは下策だということも分かっている。ああ、もう。そんなどうしようもないつぶやきを零しながら、覚悟を決めた彼は一歩踏み出し、そこに床があるようで無いような奇妙な感触を靴から感じながら見えない道を歩き、まどかの後を追って行く。

 奇妙な感覚は収まるのをやめない。人の精神に入り込むと言うのはこれほどまでに罰を与えなければ許されないとでも言うのだろうか。暗い感情を謳う詩人のように思えてしまうのは、やはり異常事態の中に囚われているからか。

 

 歩いて、歩いて、歩く。まどかは終始無言で、恭介もネクロモーフの襲来を恐れてかわずかな音をも聞き逃さぬよう周囲へ警戒をまき散らす。ほとんど敵意に近いような警戒態勢にもかかわらず、足取りのおぼつかないまどかの足元からザリザリと地面をするような音が響き渡っているにもかかわらず、あの赤茶けた肉片の大地からネクロモーフたちは動けないようでもあった。

 明確に血の匂いを嗅ぎつけてくるサメでもなければ、弱った敵を仕留めてじっくりと味わう猛禽類でもなかったのは幸運か、はたまた不運か。道なき虚空を踏み固めて歩くまどかの指示に従っていけば、ようやく恭介にも分かる道しるべが見えてきた。

 

 白く輝く光の塊。死に満ちた心の中で唯一アイザックという人物の人間性を残したかのような温かさ。問題解決にいそしむ、現実世界での彼の人情を直に感じ取れるような光がそこにあった。

 まどかがそれに手を触れた瞬間、光が世界を覆い尽くすように広がり―――

 

 幾何学的な記号と数式と、全体的に琥珀色に染まった風景が網膜にはりついた。

 図形のような言葉の意味。捻じれ双角を成す黄金のオブジェ。統括する頭脳の巨大な精神汚染を厭わぬ意志。死の淵に瀕し一体化されていくことで幸福として感情が据え置かれる非道。文字であった、Markerであった、HiveMindであった、Unitologyであった。

 

 「底」に至り、やがてすべてはただの熱エネルギーへと変えられていく。

 食だった。ただひたすらに生きるためにすべてを食らう。

 食らうために料理する。

 変わらない、人間と同じ。生物として正しい姿。

 月はいつでも我々を見ていた。

 

 多少の非現実に触れてきても、それでも当事者たりえない彼女の脳内には宇宙を超えて繰り返された悲劇が刻まれる。ただ、その隣に立つ男の姿はいつの間にか精神世界から消えていた。ただただ、刻まれた烙印のようなものが熱さを発してまどかを襲う。

 永劫にも続くかと思われた、心臓が引き裂かれそうな痛み。腕を失ってなお、まどかはそれを上回る痛みに気が狂いそうになりながら、正気を保つ。それが決定づけられている事項であるかのようにして。

 

 光がほどけていく。その先には、倒れ込む黒い肌の男。

 刈り上げられた髪は必要性と作業に適したスタイル。今は閉じられた瞳の中には、かつては強い意志の光が宿っていただろう。駆け寄った彼女は、その片腕で男の肩に手をおいた。

 

「アイ、ザック……さん」

 

 かぼそい声は遠くに、かの男は目を開いた。

 精神世界のその果てに、奥へ奥へと引きずり込まれたその男。世界が脈動し、我々の考える限りの想像力を働かせた絶叫が彼の精神世界を震撼させる。悲痛なる人ならざる叫びは人のようでもあり、空虚な死体から作られたネクロモーフの絶叫のような鳴き声にも似ていた。

 どくん、どくん、どくん。這いずりまわる地面の血管は、青っぽい筋の入った管を盛り上がらせては、また鼓動とともに引いていく。一度鳴いてはアイザックから遠ざかり、一度動いてはまどかから遠ざかる。

 まどかはもう一度、両目を涙で濡らし、首筋までその血を滴らせながらに胸を叩いた。強く、強く、力のある限りに泣き喚いた。その嗚咽の混じった叫びの中に、アイザックの名を忍び込ませながら。

 

「アイザックさん、起きてよ、アイザックさん!」

 

 自分たちが何のためにココに来たのか。自分がなぜココへ導かれるようにして来たのか。それは決してわからない。ほむらたちのようにMarkerを見たわけでもない、その数式のような信号を脳へと打ち込まれたわけでもない。だけども、言葉に言い表すことのできない感情が心を叩いた。力になれない悲しみと、力になれるはずの人物が動かないことへの怒りが。

 叩きつけられた心の痛みは、理不尽な願望へとすり替わった。されどそこにキュゥべえが望むようなものはない。彼女自身のもたらした悪意混じりの汚い汚い、人間らしい感情の中。決して何も失いたくない、そんな欲張りな自分自身を感じながら、もう一度だけ。

 アイザックの鼓動をもう一度だけ、強く叩かせた。

 

 光に触れて、まどかに続きようやく恭介がその後を追う。ぞわりとする感覚の後に、少しだけ優しげな。父親に見守られているかのような暖かさが風となって彼の頬をかすめていく。

 かの精神世界に住まう陰鬱な肉塊は、アイザック・クラークの心の奥底までも犯していたMarkerの残骸は、少なくとも、彼の心の最後の砦に巣食っていた分は塵も残さず吹き飛んだようにも見えた。

 

 

 

「……お待ちしておりましたわ」

「君が志筑仁美だね。仲間から話は聞いている」

 

 キュゥべえ、にも似通った生物らしきもの。その目に宿る、無機質な感覚だけであれと同類であるということは確認できた。話を切り出そうとしたところで、仁美の躰が建物ごと大きく揺れた。

 ワルプルギス出現の余波である。大質量の魔女が実体化した時に、空気が押しのけられ膨大な勢いの暴風となったのだろう。

 見れば窓の外に侵食していた肉塊は少しずつその身内から弾け、血液のような残骸を残すばかりになっている。HiveMindの脅威は去ったようだが、と目の前のインキュベーターが同胞から同期された情報を仁美へと伝えた。それと同時に、スーパーセルと言う偽りの情報が真になるほどの大嵐が訪れる。比較的安全であるはずのこの部屋にも、建物の軋む音が聞こえてきた。

 仁美の視線はものとも言わなくなったアイザック、そしてその両側に手を置いて意識を飛ばしている2人へと向けられる。唇を噛みしめるように、心の震えを落ち着かせた。

 そうしてこの時、未来は分岐する。志筑仁美という少女は、今この場において膨大なる異常事態の役者の一人となった彼女には、どうしようもないほどの因果が絡みつき始めているのだ。異世界と交わり、外宇宙の脅威に晒され、その騒動の中心人物となり行動を決意した、その瞬間から―――

 

 

 

「……私、は」

 

 痛みが頭を駆け巡っている。それを外から抑えこむように手を当て、心ばかりに力を込める。指の間からは、避難所の硬質な壁が見えた。建物の軋む音が、嫌に心の奥底に不安という感情を与えさせている。

 現実だ。戻ってきたんだ。そう考えるのに時間はかからない。あまりにも空気が澄んでいたからだ。同じ異形の者が現実、精神世界共に現れていたとしても、それでも地球という星の空気は陰鬱な1人の精神よりもよほど澄み渡っていた。自らの懐に住まう生物を受け入れる酸素を彼女に供給させていた。

 

「お気づきになられたのですね。よかった」

「仁美ちゃん…?」

「はい、上条さんも既にお目覚めです。事の顛末は彼から聞きました」

「おはよう、鹿目さん」

 

 一番アイザックと対面していたのがまどかだったから、一番ダメージを受けていたのもまどかだったから、そんな理由で目覚めるのが少し遅れたのではないだろうか、と少し疲弊した様子の恭介が語った。

 ハッと気がついて腕を見れば、精神世界で斬られていた片腕は、当然ながらそこにある。ただその瞬間を思い出してしまったせいか、どうしようもない小さな違和感が腕を襲ったが、体の異常といえばその程度。帰ってきたという実感を抱きながら、まどかはようやく安堵の息を吐いた。

 

 力が抜けてソファに座り込んだまどかは、そこでふと足りない物があるように感じた。それはどうやら間違いではなかったらしく、周囲を見渡せばあの近未来的な宇宙服の様相をしたスーツの男がいなくなっている。

 

「アイザックさんは?」

「彼なら、既に行ったよ。HiveMindの脅威は去ったからあとはさやかたちに任せればいいんじゃないかって言ったんだけど……」

「嫌な予感がする、と言って出て行ってしまいましたわ」

「ああ、うん。そうだけど」

 

 何を思ったか、少し言いよどんだ恭介の代わりに仁美が答える。

 恭介は少し悩んだあとに、普通じゃなかったんだ、とつぶやいた。

 

「普通じゃない、って?」

「なんて言うか、何かに突き動かされてたみたいで。すぐにヘルメットが覆い隠したんだけど、アイザックさんの目がかなり揺れてたんだ。それから慌てたようにテーブルに置いておいたプラズマカッターを持って行ってさ」

「でも、なにがあったのかな」

「わからない…」

 

 ひとまずは脅威が去ったはずだ。今はおそらく、ワルプルギスの夜が出現しているのだろう。倒しきれずHiveMindと合流するようなこともなく、そして予想外の脱落だったアイザックも戦線に戻れるようになった。

 だけど、それでも彼の取った行動が残った三人へと不安な気持ちを抱かせる。

 もはや、戦う力なきものとしてできることは全てやりきったと言ってもいいだろう。アイザックの助けが無くとも片付けられる問題は全て片付いたはずなのだ。あとはこの過剰とも言える戦力でワルプルギスの夜を完封するだけ。それもまた困難な道には違いないのだろうが、それでもほむらからしてみれば単身で立ち向かうよりも純然な魔力攻撃を持つマミ、機動力に優れたさやかと杏子、そして何よりも経験によって的確な指示をだすことが出来る彼女自身と言った風に、雪辱を果たす最大の機会を与えられていると言える。

 それでもどこかに、小さな黒いシミが心に引っかかっている。志筑仁美という少女が決意するにはあまりにも、決定的すぎる嫌な予感が。普通の人間では漠然としかわからないはずの嫌な予感が、現実的な重圧となって訪れている。

 だからこそ彼女は、決意したのだ。まどかがダメでも、自分がいるのだからと。

 

「…鹿目さん、恭介さん。なんと申し開きをすればいいのやら、私には今それを言うしかくはありませんの」

「仁美ちゃん?」

 

 唐突な切り出しに、まどかと恭介は即座にその言い回しが隠すものを見ぬいた。

 それでも認めたくはなかったのだろうか、どうしたんだ、と疑問を声に出さずには居られない。この日は何度、このようなしなければならない感情に引っ張られたのだろうか。そんなどうでもいいことが頭を過るほどには現実逃避の思考が働いていた。

 

(わたくし)、恋敵との条件は平等でなければならないと、改めて思いましたの」

 

 彼女が浮かべた笑顔は、いっそ清々しいまでに美しいものだった。

 懐から取り出したのは、ライムグリーンのソウルジェム。黄金の台座に縛られた魂は、輝かしいまでの光を放っている。小さな小さな物質に閉じ込められた魂に、語りかけるように片手を重ねた。

 

 優しい光が仁美を覆う。両手にはめられた新緑の指ぬきグローブ、大地に根付くような深緑のハイヒール。上半身から行動を阻害しない程度のミニスカートドレスを引き締めるコルセットはその引き締まったボディラインを強調させる。魔法少女というよりは、ファンタジックな意匠の格闘少女というべきか、それらしい武器のないインファイターな魔法少女・志筑仁美がそこに立っていた。

 

「きっと損はありませんわ。私の願った奇跡はそれほどに現実的ですもの」

 

 美しい動作で令嬢にふさわしい一礼を見せた彼女は、ギチギチとグローブから音が鳴るほどに拳を握りしめてから窓の外を見やった。契約して初めて分かった未知の感覚も、まるで体に慣れ親しんだかのよう。これまでにない万能感を押さえつけて表情を引き締める。

 もう、全ての決意は胸の内で行った。ここからは体が、行動が、全ての結果を出す。持つべき常識を全てかなぐり捨てた仁美は静かに心を燃やしていた。

 

「それでは、ごきげんよう」

 

 きっとどこかで分かっていたのだろう。ここまで行動を起こした恭介とまどか、そして外に残った責任感の強い仁美が何を選択するのか。ただ祈るというのはあまりにも、彼女のイメージにそぐわなかった。

 諦めたような、それでいて仕方ないよね、という感情を一度見せながらも、二人はいってらっしゃいと仁美を送り出した。暴風吹き荒れる窓から去っていく彼女を見送って、今度こそ戦う力を持てないまどかと恭介はただただ、祈りを捧げる。

 神様にではない、この自体を収めるべく動く者たちへの必勝祈願を。

 

「とにかく、これまでの情報を皆に伝えよう。僕達も少しでいいから動かないといけないからさ」

「うん、そうだね」

 

 無線のスイッチを入れて、彼らが請け負えるもう一つの戦いを再開する。

 報告は、ひとまずの勝利。HiveMind撃破の吉報からだ。

 




ほとんどフェードアウトせずに視点置いたままなの初めてかもしれない。
それにしても、ようやく書ける時間とれるからって書いた結果がこの展開だよ。
ひとりよがりでも燃えれるならいいよね……

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