これが本編の目的。と言ってみる。
やっとの思いで巴マミの家であるマンションに到着すると、屋根の上から滑りこんでアイザックのスーツにある金具がガシャン、と小さく音を立てた。未来の巨大な宇宙航行船や惑星開拓用の重機の整備、そして人間の身体能力を遥かに上回るネクロモーフと言う怪物どもの相手をしてきたアイザックにとっては、軽業師の真似ごとなど容易い事だったと言う事だろうか。
「お疲れ様。それにしても、貴方は他に服を持っていないの?」
「この身と工事道具だけで地球に戻ってきたのでな。それに、これが無ければ他の物を持ち運べん」
「そう、良く分からないけど仕方ないわね」
家の扉の前で待っていたマミが彼を招き入れると、既に夜の冷え込みは体に悪いだろうと先行した二人の少女が待ち受けていた。あまりにも日常風景には不釣り合いな
「あの、息苦しく無いんですか?」
「息苦しくはない。このスーツは宇宙での使用を目的としている事から空気清浄とエアタンクの両方を兼ね備えているからな。…だが、招かれた立場では失礼に値するか」
そう言うと、首元の開閉スイッチを押して自分の顔を露出させた。
パタパタとリズミカルに閉じて行くフェイスヘルメットの下からは、暗所での作業用に灯されている青色の光源よりもなお、強い意志の輝きを携えた青い瞳が洗われる。短く刈り上げられた髪と、屈強さを表す様な黒い肌は太陽さえ焼き切るには至らないと証明するかの如く。
「改めて、アイザック・クラークだ。早速で悪いのだが、本題に入ってもらえないか? 私には見えないのだが、その、キュゥべえとか言うらしい生き物についても」
「そうね。彼女たちもご家族が待っているでしょうから、簡潔に話させてもらうわ」
まずは、と言葉を置いた彼女は懐に入れておいた黄色い卵の様な装飾具を取り出した。神秘的な輝きのほか、自ら発光しているその不思議な物体は、しかし、電気的な無機質さを感じさせない。
生きた芸術、とでも言った方が表現は当てはまるのだろうか。その脈動するような黄色い輝きは、そこに居る者全ての関心を寄せていた。
「これはソウルジェム。有り体に言えば、私達が魔法少女になるのに必要な変身アイテムで、キュゥべえと契約を交わした時に貰える宝石よ。同時に変身するために必要なだけあって、魔力の源でもあるわ」
「凄い綺麗……」
「だが、契約と言う位だ。代償は当然存在するのだろう?」
「ええ。本当はキュゥべえが言ってくれると説得力があるんだけど、クラークさんは流石に見えないようだから私から言わせてもらうわ。
この契約をした人は、こうしてソウルジェムをもらえたり、魔法を使えるようになるだけじゃないの。さっき貴方達が遭遇した使い魔…それを束ねる負の怪物、魔女たちと闘う宿命を背負う事になるわ。戦える人が少なければ、それだけ私達魔法少女が日常を捨ててまで魔女を退治しないと簡単に死人が出てしまうし、とっても危険な非日常への入り口なの」
「非日常……」
保健室前でほむらに言われた事を思い出して、まどかは知らずの内に手を強く握っていた。もしかしてとは思ったが、知る限りでは彼女がアイザックを送りだした魔法少女ではないのだろうか。自分を心配するような素振りもあり、その可能性は高い。
だが、今はこの話を聞くことが先決だと集中し、皆が理解する時間を待っていたマミは再び口を開くのを待った。
「ただ、それだけじゃないの。魔法少女になる際、本当にどんな事でも、たった一つだけ願いが叶うのよ。あんまり重く考えないで欲しいのだけれど、魔法少女となるからにはその願いによって能力や戦い方が決まる時もあるわ」
「……少し口を挟ませてもらうが、まるで契約を前提としたような物言いだな?」
「ちょ、クラークさん」
「いいのよ。……ごめんなさい、私も少し焦っちゃったかしらね。初めて、同じ志を持った子と一緒にいられるかも、って気が早まっちゃったわ」
だからこそ危険性については口を酸っぱくさせてもらう。そう言ったマミは、「何もない空間」に手を置くと、ゆったりと撫で始めた。キュゥべえの見えないアイザックにはその動作がパントマイムの様に見えていたのだが、無意識でやっている行動だと分かれば確かにそこに何かがいると言う事は理解できた。
同時に、思っていたよりキュゥべえとやらは小さいのだなと、場にそぐわないことを思っていたりするのだが。
「私達が戦う事になる魔女は、世間でよくある理由のはっきりしない自殺や集団心中、突然錯乱した人がする殺人事件はこの魔女によって引き起こされた物が大半らしいわ」
「って言うと、魔女は全国どころか全世界に居るってこと!?」
「そうなるね。しかも魔女は有史以前からこの地球に蔓延っているんだよ」
「そんなに前から…!」
「何を言っている?」
キュゥべえを知覚できないアイザックは首をかしげるが、キュゥべえの言った事をまどかが伝えると、分かり易いほどにその顔は歪められた。精神作用による殺害、自殺作用と言えば石村での悲劇を彷彿とさせる。その忌まわしい記憶がアイザックの脳裏に蘇り、あの、今度こそよく見た映像。恋人だったNicoleが自分の腕に薬を打って自殺した映像が浮かんできた。
「まるでMarkerのようだな。いや、世界規模の時点でそれより質が悪い、か」
似通った性質を持つ今回の事件に対し、彼は誰にも聞こえないように小さく呟いていた。そんなアイザックが話に復帰しようとした時にはまどか、さやかの二人は魔法少女になるかならないかの話を持ちかけられ、同じく唸りながら是非を考えている。
「……ねぇ、そんなに悩んじゃうことなら、しばらく私の魔女退治を見学してみない? クラークさんも私達に引けを取らないみたいだし、ボディガードが二人もいるなら魔女の恐ろしさや、魔法少女についての造指を深めることが出来ると思うの。貴方も敵ではないのなら、付き合っていただけませんか?」
「…それでもこの二人に危険は無い、とは言い切れんのだろう?」
「そう、危険はぬぐいきれないわ。だからこそ、魔女退治は後になってもこの二人の安全を優先して行く方針ね。取り逃した魔女は結界をそう簡単には変えないし、いざとなったら先に二人を帰してからでも十分狩り切れるわ」
「hum……」
少し考え込んだアイザックだったが、ほむらの願いはまどかを守り切り、魔法少女の契約をさせないこと。初めて会った時は「少女」とその存在をぼかしていたが、此処に来る直前は確かに、「まどか」と。守るべき対象の名前を自分に伝えた。
ともなれば、自分が選ぶ選択肢は一つだろう。
「その話、受けることにする。君達も結局は魔女退治の見学に出るだろう、その時に一人だけではカバーしきれない場所もあるだろうからな」
「流石に魔女と闘え、とは言いません。使い魔とはタフさも脅威もケタ違いですから」
「その分君は専門だ。私は排斥程度に働かせていただくさ」
なにはともあれ、これにて話はまとまった。
「あ、そうだ。二人とも、夜道は危険だからこれを持って行って。不審者や使い魔程度なら身を守ってくれるわ」
「ありがとうございます。黄色いリボンかぁ、腕に巻いておこうっと」
「黄色のリボン……」
そうして「お守り」を渡したまどか達を先に家から出すと、アイザックも背を向けて出て行こうとする。が、そこで彼の足はピタリと止まる。スーツのその重厚な音が聞こえなくなった事をいぶかしんだ二人も其方を見ていたが、不思議そうにしているマミに対してアイザックは一つの問いを投げかけた。
「キュゥべえ、と言ったか。私には見えていないが、君の事は私を保護してくれた魔法少女から少し聞いた。この星にMarker――いや、捻じれた柱が絡み合っているようで、表面に訳の分からない文字が刻まれた精神汚染を引き起こす物体が無いか。心当たりでも良い、知っているなら思い出しておいて欲しい」
「へぇ、“アレ”の事だね。確かに情報はあるけど、少し資料を見てみないと何とも言えないかな」
「―――って、言ってるわ。アイザックさん、その“マーカー”というのは…?」
「此方の事情だ。少し私の恋人の事件に関係していてな、君達が余り気にするほどの物ではないさ」
「貴方は、一体?」
「ただのエンジニアさ。少しばかり化け物退治の経験がある、変わった男だと思ってくれるならそれでいい。これは忠告だが、あまり個人の事情に深入りしない方がいい。人の心は存外に傷つきやすい物だ」
最後にその一言を付け加わることで、言外にこれ以上は関わらないで欲しいと意志表明。年不相応に聡いマミは言葉の裏を読み取ると、彼女自身もアイザックはそう親しい間柄でも無いので深入りする必要も無いと結論付けた。
その様子に一つ頷いた彼は、まどか達の方に振り返る。
「君達、よければ途中まで送ろうか?」
「あ、いえ。わたしは少し一人で考えたいかな……」
「私もちょっとなぁ。今日は危ない所、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げた彼女に、どうにも慣れていないアイザックは恥ずかしげに頭をかこうとして、ヘルメットに手が当たってカァンと硬質な音が響き渡る。その可笑しな様子は二人の深く考えようとしていた空気をほぐし、自然と笑い声を生じさせた。
「あははっ、ありがとうござますクラークさん。もうちょっと気楽に考えてみることにします。また今度お会いしましょう!」
「あの、お電話教えてもらえませんか? マミさんの魔女退治に誘う時、連絡しておきたいので」
「それもそうか。なら回線を同期……この時代は出来ないのだったな、この携帯の番号を渡しておくか」
余っていたメディカルパックのケースにほむらから渡されていた携帯のナンバーを書くと、怪我をした時の優れモノだと言う言葉と共にまどか達に渡しておく。見覚えの無い近未来的な医療道具に少し戸惑う彼女らだったが、使い方を教えてやればこれも魔法の一つだと思ったのか、便利な物だと感心していた。
「それでは、私も戻らせて頂くよ。ただ、此方側に足を踏み入れるなら日常は大切にしておくといい」
「え?」
「おーい、まどかー? 早く帰ろー」
ほむらと同じような事を言ったアイザックの言葉にまどかが声を上げたが、彼は背を向けると闇の中に歩いて消えて行ってしまった。ぽかんとその様子を眺めていた彼女だったが、さやかの呼ぶ声に我に返る。
「やっぱりほむらちゃんなのかな……」
「え、転校生がどしたの?」
「ううん。ちょっと思い出してただけだよ」
「ははーん? 仁美が好きそうな話題に飛びそうって奴ですかぁ?」
「そ、そんなんじゃないって! もぉ…」
顔を赤くしながらも、彼女の言葉にもしそんな展開になったらという考えが浮上し、彼女が転校してきた時に夢を見ていたせいで尚更無駄に意識してしまう。普段はクールなほむらが、自分の事になるとあの時のように必死な声を出して引きとめる。その裏に在る感情はままならぬ、言葉では言い表せぬようなもので……
「だ、ダメダメダメ! わたしがそんなこと考えちゃってるなんて、そんなの……」
「え、本命だった? ………よ、よぉーし! さやかちゃんはアブノーマルな友人でもちゃんとフォローしちゃうから、大丈夫大丈夫!」
「違うってばぁ……」
先ほどまでのマミとの会話はどこに行ったのか、さやかの煽りで全く別の方向へと話が進んでしまっている。だが、普通の少女としてはこれほど相応しい様子も無いだろう。測らずして非日常へのあこがれが薄末端かは定かではないが、この場に居ないほむらが日常の身を過ごすまどかを見ることが出来たなら、一体何を思うのであろうか。
「……お帰りなさい。どうだった?」
出迎えの言葉が二言目にこれだ。彼女は随分とあの少女に入れ込んでいるらしい。私としては元の世界に帰れるかも分からない状況、この世界にもしMarkerがあれば破壊するか何とかしておきたいところだったが、自分の明確な目標がない事に気付いて苦笑する。
「どうしたの?」
「いや…向こうで、魔法少女のマミに出会った事であの二人は契約を持ち掛けられていたな。君にとっては幸いなのか、まどかという少女の方は随分と悩んでいる様子だった。天秤がどちらに傾くかは、君次第かもしれない」
「そうなの。私は、彼女をずっと見ているわけではないから。…難しいものね」
「そうでなければ人は心など持たないさ。それより、聞きたいのだが…その血は?」
「大丈夫よ、もう治ってるから」
「いや、そうではなく」
アイザックが訪ねた理由である血の跡は、彼女の衣服にべったりとこびり付いていた。制服の代えはあると言っているが、どうにも彼女は理由をぼかそうとする。最終的に、アイザックもその言いたくないことが自分に関わることなのか、と聞いたところ、彼女はあまり余分な事を考えてほしくは無かったのだがと、渋々口を開いた。
「実は、貴方が倒れていた場所。あのネクロモーフという化け物が他に何体かいたみたいなの」
「…何だと、何故それを早く言わなかった!」
「貴方は随分と苦労していたから、せめて私の掴めなかった平穏を少しでも日常の中でいて欲しかったの。私の勝手なエゴよ。本当は起きてから言おうと思ったのだけど」
「それは嬉しい心遣いだが、奴らとなると話は別だ。昨日も言った様に、奴らはMarkerが無くとも人間さえあれば、赤子であろうと老人であろうと、無差別に同じ怪物に変える! そして新たなネクロモーフはまた新たな得物を見つけ、倍数もかくやという速度で増えて行くことになってしまう」
「……分かっていた。でも、あの時に見たのはたったの―――」
「ともかく聞いてほしい、アケミ。私がいた場所、君の見た中にエイのような平べったい奴はいなかったか? ソイツはどこに消えて行った?」
彼の言葉に、言われてみれば確かにエイの様な形だと言う納得。そして記憶を掘り起こしていく中でそのような肉塊の怪物がいた事を思い出した。
「……いたわ。私があそこに転がっていた鋭い爪をもった奴と、爆発させた赤子の化け物以外には…その、エイみたいなのが空を飛んで行ってた」
「
机をガンッ、と殴りつける。ネズミ算より酷い速度で
結局、その狂った
そんな結末はどうでも良いとして、重要なのはその人間を材料にする恐るべき芸術家がこの地球にまで訪れてしまっていると言う事。この土地に意志を持つ
ほむらは、そんな必死で、狂気さえ感じるようなアイザックの気迫に押され、次に見つけた時は真っ先に始末すると約束づけた。
「…それで、君が今回出会った奴らの見た目はどんなものだった?」
「……多分、この街の住人だったんでしょうね。流行りの服を着た夫婦が、背中から醜い爪を生やして襲いかかってきたわ。恐らくは生まれたばかりの子供もいたんでしょうけど、そ、その赤子も背中から三本の触手を生やして怪物になり果てて、いたわ」
「そうか。――すまない、よく頑張ったな」
そっと、アイザックは彼女を抱きしめた。
いくら何度も怪物と相対している彼女とはいえども、自分の住む町の人間の面影を残したモノを、赤子の姿をしたモノをその手に掛けた事は想像以上の勇気と決断が必要だっただろう。話している時も彼女の手には銃が握られており、気丈にふるまっていても話しの節々で手が小さく震えていることが見て取れた。
恋人はいても、結局子供をもうける事も出来ず、そんな機会に至る前にニコルを死なせてしまったアイザックとしては、ほむらの事は「もし自分に娘がいたらこうして接していたかもしれない」という勝手な投影と、願望を重ね合わせてしまっていた。だからこそ、我が子のことのように、精神に掛けられた負担を少しでも減らす為、精一杯の人の温かさを感じて欲しい。アイザックの、今まで彼女に与えられることの無かった心配の情は硬質なスーツを通りこして、彼女へとしっかりと伝わっていた。
「……ごめんなさい」
「君はまだ子供だ。どんなに心が成長していようとも、子供という事実は変わらない。頑張った。君に、私のせいで手を汚させてしまった。どんなに謝罪をしても足らないだろうが、私なら幾らでも使うと良い。アケミ、君の守りたい彼女を、私は必ず守り通す」
抱きしめた体を離し、彼女の両肩に手を置いた彼はそう言い放つ。
視線を合わせ、言い聞かせるように、決して無理をさせないように。
「そして、本当にすまない。私がこの世界に来なければ、きっと君はこんな真似をしなくてもすんだのだろうに」
「……いいえ。私はもう、あの子を二度も手に掛けた時から…ううん。最初に殺してしまった時から、覚悟は決まっていたわ。…ありがとう、アイザック。こんな所で縮こまっている場合じゃないって、気付かせて貰ったわ」
そう言った彼女は、罪から逃げるわけでもない。殺した元人間達を忘れようとしているわけでもない。ただ、起きてしまった事実として背負い込むことを覚悟する。彼女の揺れていた瞳が微動だにしない様子を見たアイザックは、ただ一言呟いた。
「…強いな」
「そうでなければ、あの夜は越える事は出来ないの。…私にここまでしたんだから、地獄の底まで付き合ってもらうわよ」
「それで上等だ。指示をくれれば、私は君の言われた通りに、君の思い描く結末を作りだす為に動こう。だから、君は君に出来る事をするといい。全てをこなす必要は無い」
「ええ。……ただね、アイザック」
「どうした?」
一体何を聞こうと言うのか。決して崩れる事の無い強靭な決定の意識が見える瞳を覗かせたままほむらを見据えていると、彼女は対照的にくすりと笑った。
「貴方、やっぱりエンジニアには見えないわ」
「……それを言われてしまうと、どうにもな」
苦笑で返し、自分もあまり石村ではエンジニアらしい修理はほとんどしなかった事を思い出していた。せめてケンドラが裏切らない人物であったならば、ハモンドとの間柄を修復して大団円と行きたかったところだが……どう言う皮肉か、運命か。その両者ともにアイザックの目の前で死んでいる。
片や自分に逃げろと言って串刺しにされた後、遺体はゴミの様にネクロモーフに放り投げられていた。片やMarkerを思い通りに動かそうとして、Hivemindの巨大な触手に面影も残さないほど粉々に押し潰された。そのどちらもが人間として尊厳もあったものではない死に方。
この目の前の少女を、この街に住む人間をそんな目に合わせてはならない。自分が持ちこんだ厄災と言う事実が酷く心にのしかかるが、ほむらも言うとおり、こんな序盤で躓いているなら何をすることも出来ないだろう。
「アイザック、ネクロモーフについてはまどか達にそれとなく伝えておいて。でも、事実をぼかした方がいいわ」
「了解だ。あくまで私の観察眼からの物言いだが、あのマミという子は人間の面影が残っているネクロモーフには躊躇するかも知れない。せめて頭を吹き飛ばしてから遭遇させた方が人間とは分からないだろうな」
「……まさか、人殺しの葛藤に悩む日が来るなんてね。魔女だって、元は人間なのに」
「そう言えば、魔女は魔法少女のなれの果てか」
「なるべく巴マミに伝えた方が良い情報だけど、彼女はソレを知って錯乱してしまうタイプだから。ソウルジェムは魔力を使いきるほかに、まさしく“希望”の魔法少女の象徴でもあるわ。魔女化すると言う事実に負け、彼女の心が絶望に染まれば……」
新たな魔女化と魔法少女の事実。あの地球外生命体との契約者ではないアイザックとしてはならば絶望しなければ良いじゃないか、という考えが浮かんだが、それは決して口にしてはいけないことであると呑みこんだ。
その代わりに応えるのは対抗策。こうして話すことしかできないのはもどかしいが、何も考えずに行動するよりはマシだと心を抑え込む。
「そのために、言うべきタイミングとフォローは必須か。…私も随分な輩に調査依頼を出してしまったものだな」
「安心しなさい。インキュベーターは嘘は言わない。そして一方的な利益を人間から得ていると言う事で、大抵の聞かれた事に答える性格だから。」
「Markerもそれほど知的な物体なら、まだ話は通じただろうな」
「ジョークを言ってる場合じゃないでしょ。それにしても、調査って…ああ、Markerについて聞いたのね」
流石にすぐ検討はついたようだ。
ほむらの言葉に、アイザックは大きく頷いた。
「Kendraは地球のオリジナルを真似て石村のMarkerが作られたと言っていた。もし、この世界にもそれがあるのならば……破壊するしかない」
「こっちとしてもそんな物は願い下げね。ワルプルギスの夜を乗り越えた後は、貴方の事を手伝おうかしら」
「
「…余りにも話すことは多いから。まだ貴方に話せていない事実はたくさんあるの。時が来たら、その時にまた」
何かを話したくても、言葉にできないもどかしさがある。そんな恋人のニコルの最期を彷彿とさせる彼女の様子は、アイザックを奮い立たせる。二度と、二度とあのような悲劇は生んではならないのだと。
もう何度目だろうか。そうして一日の間に言い聞かせるようにしてきた決意の全ては、しかし決して無駄ではないと言い切れる。アイザック名の中ではそれらが全て、今の原動力になっているのだから。
「分かった。とにかく未来の平穏無事の為、君につくさせてもらうよ。私はどこまで行ってもしがない一社員として従った方が性に合っているからな」
「だったらその社員証でも提出してみる?」
「まさか。私の上司は後にも先にもあの煙くさい彼しかいないさ」
そんな他愛のない言葉を交わしていると、十一時の鐘が鳴る。彼女の方は明日の学校のために眠りにつく必要があるため先に寝室へ向かって行った。アイザックは久方ぶりに訪れた静寂の中、自分も同じく眠ろうとしたのだが、部屋の隅に置いてある作業道具を見つけ、思わず其方に足が向いてしまう。
次に気がついた時には、自分の両手には機械が握られていることに苦笑する。
「なんとも言えないな。私はあの船の中で、どれだけ普通のエンジニア業を求めていたのか……いや、この作業こそが日常だと信じていたのかもしれない」
ともかく、彼女を少しでも楽させるためにプラズマカッターの制作作業は続けた方が良いだろう。そう結論付けた彼は、最初からセーフティも何も外していない、自分の所持している方を見本にしながら作業に取り掛かった。
それからしばらく経った宵闇の襲い来る丑三つ時。確かにこの異邦の男は、未来の希望を信じていたのかもしれない。彼の鉄の覆いに隠された口元は、楽しそうに跳ねあがっていたのだから。
楽しそうなアイザックさんが書きたかったんです!
他意は無いんです! あ、でも元一般人殺して涙目のほむらとかもかわいいかも……
今回の「暁美ほむら」に関してですが、流石に何度も繰り返してからと言って、性根の「臆病だったころの暁美ほむら」が変わりきることは無いと思うんですよ。彼女も変哲もない、しかもビクビクしていた一般人だった経験があるわけで、一人の人間なんです。
そりゃぁ、ワルプルギスの夜に挑むなんて蛮勇にひとしい真似をしていますが、それはまどかが死んだことやまどかの為という目標があったからこそ。アイザックが持ち込んだ不確定要素に関しては、同じ覚悟はそう簡単にできないのではないかという想像です。
まあ、ほとんど理にかなってないのは承知の上。所詮は初心者達による考えですので、「そのうち考えるのをやめた」って感じで気楽に読んでください。そっちの方がストーリーや戦闘で楽しめるかもしれません。(私達にそれだけの技量があれば)
長々と失礼。
こんな感じで後書きは補足などにしていくつもりですので、それでも判らないことがあれば感想にどうぞ。この先の展開がネタバレしない程度にこの物語の解説と自己解釈による設定を教えることができると思いますので。