「私の名前は八雲紫。八つの雲、紫色の紫でゆかり」
八雲紫と名乗る少女に対して更なる驚愕を得る。
それと共に俺は益々確信を深めた。
間違いない。あれは偽名だ。例えるならば黒歴史に刻まれるべき呪われた名前。わたしのかんがえたかっこいいねーむ(笑)。
でなければ、あんな欧州風美少女に名付ける名前ではない。日本人でも八雲と言う名字は少ない。しかも"やくも"ではなく濁点入れて"やぐも"だ。それに輪をかけて紫をゆかりと呼ばせる。正直、確率的にありえない。(※風見さんは棚の上においておく)
なんてこった。
外見から察するに年齢は十五、六。あの歳で中二病を高いレベルで発生させている……。彼女の将来には絶望しか待っていない。
想像しててくれ。
十年後、または子供が生まれ正常なまでに完治した後にアルバムでかつての痴態を子供に知られ
「ママ、おかしなかっこうしてるー」
なんて言われたら…………。
俺なら直ぐに死ぬ準備が整えにかかるだろう。遺書を書く。
哀れだ。しかし、治療法などない。
俺に出来ることは茶番に付き合うくらいだろう。
あまりの不甲斐無さに苦虫をすり潰した顔で俺は言う。
「君ほどの存在が何の用ですか?」
付き合うからには俺も中二要素を台詞に加える。
※仮称 八雲紫は意味深な表情で俺を嘲笑うと何所からか紫色の扇子を取り出し、空間に横線を引く。すると何もない筈の場所に捩れた裂け目が現れた。
その裂け目の上に両肘を乗せ、楽な姿勢を取った。
(なん…だと……!?)
あの子の中二レベルは俺の想像を遥かに越えていた。
空間に裂け目を作り出す即席のマジックにまるでそこに何かがあるように感じさせるボディランゲージ。一流のマジシャンと演技者に匹敵する高性能な能力とそれを実現させる意志の強さ。
馬鹿な……。
驚愕に継ぐ驚愕の嵐に俺は呆然としていると琥珀色に光る瞳が俺を見詰めていた。
「貴方は決して真実に到達することはありえない。哀れね」
またしてもドヤ顔で意味深な言葉を語り掛け哀れむ※仮称 八雲紫。
俺はその台詞に対して口に出さず中二病を哀れみながらそっと内心で突っ込む。
(それなんてゴールドエクスペリエンスレクイエム?)
まさか中二病でジョジョラーだとは思いもしなかった。
俺は何時の間にかスタンド攻撃を受けていた設定らしい。
そう考えてみると、なるほど。先程の裂け目は何らかしらのスタンドということか。
「俺は決して哀れではない。心の中でそう思ったなら既に行動は完了しているのだから」
彼女に見習って俺もジョジョに出てくる名言を混じえた言葉を口にした。
適当に俺が一番好きな言葉を選んだのだが全く意味が分らない。
それでも※仮称 八雲紫は満足したようだ。俺はようやくこの茶番が終わったのかと思い、炭酸飲料を口にしようとしたが中身が入っていなかった。
そういえばさっき飲みきったんだったぜ。
俺はもう一本飲もうとして氷室に取りに行こうとして少女にもあげようと問いかけたが、その場には既に誰も居なかったのである。
何とも不思議な体験だった。