向日葵郷~幽香に会える夏~   作:毎日三拝

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六話前編

 日課である向日葵の水やりを終えた俺はすっかり定位置となってしまった縁側にて実家から来る際に持ってきておいた貴重なアルミ缶の炭酸飲料を口にしていた。

 炭酸飲料独特の何とも言えない刺激が喉を直撃し「くわぁ~」と風呂上りにビールを頂いたおっさんのような声を上げる。考えてみれば俺も成人してから随分と経っているからそろそろオッサンだと言われてもおかしくはない。

 想像してみろ。小さい子供にオッサンだと言われる妄想を。

 閉鎖された空間に俺。その周りに無数の子供達。その子達から一斉に浴びせられるオッサンコール。厨二的に捉えるならば差し詰め『アンミリテッド・オッサン・コール』。何て嫌な心象風景なんだ……。その空間内の中心に立つ俺は耐え切れず膝から崩れ落ちる。

 実際の俺もその場で一人肩を下ろし落ち込んだ。

 気を持ち直して炭酸飲料のアルミ缶を口元へ傾ける。程好い刺激で喉を潤していると急に思い至る。

 

「暇だ」

 

 そう、暇なのである。

 普段なら自虐的な発想など絶対にしないのだが、あまりの自由気ままで誰からも束縛されない時間に孤独を感じてしまっていた。

 今日は風見さんが来ないのである。

 毎日、向日葵目当てで訪ねて来るのだが、昨日言った通りなら人里に用事があるとのことで来ないのだ。

 いつも居る人が居ないと物寂しい気がしてくるのが現代人の性なのか。無性に誰かに会いたい。

 人恋しい気持ちを誤魔化して残っていた炭酸飲料を一気に呷った。

 その時である。

 何時の間にかにその人物は目の前に立っていた。

 俺はその人物の姿に目を剥く。

 豪華な装飾が施された日傘の下の少女。彼女は紫色を基調としたアンティーク風のロリータファッションを見事に着こなしていた。元々が金髪で顔立ちが欧州風だというのもその一端であると思われるがこうまで似合う人物を俺は画像編集用アプリケーションソフトウエア越しにでしか見たことがない。

 ゴシックロリータもそうだがこうした洋服を着こなすのは相当に難しい。日本人には体格・風貌が合わないし、本場である外国産美少女も直ぐに育ってしまう為に幼いうちにしか似合わない。

 その格好を違和感なく、着られるのではなく制している。

 俺は戦慄と共に驚愕するばかりであった。

 

「御機嫌よう」

 

 鈴を鳴らしたかのような心地良く、流暢な日本語が俺の鼓膜を揺らす。

 日本人若しくは日本育ちなのか。俺は驚いた表情のまま動けない。

 

「貴方はまだこんな所に居たのね」

 

 一瞬、少女が言っている意味が分らなかった。

 が、俺は瞬時に察する。

 常人には決して真似出来ない格好。無意味に意味深な言葉を残す。少女が軽く微笑みドヤ顔風なのもポイントだ。まだまだ他にも材料はあるが、十分に確証をある。先程までの思考していた内容のおかげで容易に連想できた。

 

(この子、中二病か!?)

 

 あいたたたっ。

 痛い。心が痛い。

 かつて俺も患ったことのある大病なだけに少女を哀れに思った。

 

 

 ※後編へと続く


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