照りつく暑さを誤魔化そうと縁側で氷室に入れて置いた炭酸飲料で喉を潤していた時のことである。向日葵畑の方を見ると緋色の眼差しが此方を覗いていた。
風見さんである。
その姿を見て胸が強く鼓動した。
「ごきげんよう」
「う、うっす」
トレードマークと言っても過言ではない赤黒格子柄のベストとロングスカート姿ではなく、脛まで裾がある白のワンピースで腰元に帯を巻いて同じ色の何時も持っている日傘を差した姿。
肩位まで伸びている翡翠の髪が風に揺れる度に押さえる仕草がたまらない。
外見詐欺のサディステック毒舌美少女から儚げ系お嬢様タイプだと……。許せる。というか、無茶苦茶好みです。
「今日は随分とオシャレさんですね」
「あら、何時もはオシャレじゃなかったの?」
その場で姿を魅せつけるように一回転する風見さん。
豊満な胸を前に張り出す。腰に巻いた帯のおかげで余計に強調されている。マーヴェラス。
「毎日同じような服着ていたらそうは思いますけどね」
「……向日葵みたいで好きなのよ。悪い?」
ふん、と鼻を鳴らして外方を向かれた。あら、反応が可愛らしい。
「なんか可愛らしいっすね」
「ひぃえ!?」
これまた可愛らしい悲鳴が辺りに響いた。
本当に風見さんなのかね、この人。普段の姿からは掛け離れている。
「か、可愛らしいって妙なこといわないでよ。この格好だって家の奴がどうしてもって言うからしてるだけだからね。勘違いしないでっ!」
頬を朱に染めて左手の小指で髪を巻き付けながらつんけんどんな態度を表した。その態度といい言い口といい反射的にツンデレみたいですね、って口に出さなかった俺は褒められてもいい。
「……それに一年に一度位は私だって格好を変えたりするわよ」
「もはや制服レベルなんですね、あの赤黒チェック柄」
「そうよ。私のような存在は姿を頻繁に変えてはいけないだから、仕方ないじゃない」
キャンペンガールでもしてるのか。
どういう論理でそうなったのか知りたいぜ。
「もう! 知らない、知らない。今日はもう帰るわ!!」
「あれ、もう帰るんですか」
「目的は果たしたからもういいのよ!」
目的?
目的って何ですか、と言う前に風見さんは踵を返して元来た道に戻っていく。
と思いきや急に振り返る。
「明日は人里に用事があるから来ないからっ!」
風見さんは吐き捨てるように言い残し、向日葵畑の中へ消えて行った。
この場を去って行くその後姿は少女らしく妙に可愛らしかった。普段もそうであればいいのにと一瞬思ったが俺の心臓が持たないので、時々ああなって欲しいと心の中で願った。