蝉の泣き声が聞こえず、日差しが春のように柔らかで過しやすい午後。
麦藁帽子を浅くかぶり空を見上げる。雲一つない爽快な日和だ。
俺はさっさと向日葵畑に水をばら撒き、日課を終えて休憩に入ろうと縁側へ向かうとそこには美少女が眠っていた。
太陽の光に当たり翠色をした宝石の如く光る艶やかな癖のある髪。端整に整った造形が瞼を閉じて童話の眠り姫のような魅惑的美しさを醸しだしている。時折、微かに身じろぐあどけない仕草に少女らしさを感じた。
風見さんがここまで無防備な姿を晒すのを初めて見た。
俺は静かに縁側へと忍び寄る。
寝ている彼女の隣に腰を下ろし、俺は何気なく風に乱された髪を撫でた。
本来なら女性の髪を勝手に触れるのは御法度であるけど、俺は一度でいいから彼女の綺麗で美しい髪にどうしても触れてみたかったのだ。
起きている時に承諾を直接貰えばいいとも思うのだが女性に面と向かって髪を触らせてくれ、と言うのは度胸もいるし何よりも変態だと思われるのは耐えられない。
そういう訳で彼女の意識が無いうちに触る。
滑らかな手触りで触れれば手から零れていく。
「髪を撫でられるのを女性は嫌うと聞くが触る方は気持ちいいのだな。知らなかったぜ」
「……私も悪くない気分だわ」
あまりの気持ち良さに本心が口から飛び出した後。
俺以外の声がその場から聞こえた。
「風見さん。起きてたんですか」
「いいえ。眠ってしまっていたわ。今日はこんなに好い陽気なのですもの」
「そっすね。俺も寝たいですわ」
「駄目よ。貴方はこれから私の枕になるのですから」
そう言って風見さんは身体を動かし、俺の方へ近付き膝の上へ頭を乗せる。
突然の行動に俺は慌てるも彼女の人差し指で口を塞がれた。
「乙女の髪を勝手に触れた罰よ。甘んじて受けなさな。光栄でしょ?」
「ひ、ひゃい」
胸の高鳴りがやばくて死にそうだ。
思わず口から出た変な俺の返事に「ふふ。変ね」と言うと風見さんは目を閉じて、眠りに入ったいく。
何でしょうかね。何なんでしょうかね。今日の風見さんの態度は大人なお姉さんなのに少女らしく甘えてくる態度。これがギャップか。ギャップ萌えというやつなのか。
一人悶えていると風見さんから止めが入る。
「あ、そうだ。髪を撫でられるの気持ち良かったから、私が眠っている間は撫でなさい。いいわね?」
「……イエス、マム」
「ふふ。夢の世界へ行って来ます」
気が付いたら俺は風見さんの髪を撫でる機械と化していた。
陽気な午後は過ぎていく。夢の世界へ旅立った風見さんが現実に俺を残したまま。