風見さんには変わった趣味がある。
それを知ったのは大分前のことだ。
昔はそれほど親しくなく、交流もあまりなかったが、その頃から既に向日葵郷へ訪問して来ては向日葵を眺めて帰っていくのをよく目にしていた。
俺も思春期真っ只中であり、テレビの中の芸能人ですら霞んで見える綺麗な美少女を意識せずにはいられなかったのである。確かに下心もあったが俺はその風見と名乗る美少女と話してみたかった。
しかし、美少女や美男、美女などの美人はどこか近寄り難い雰囲気を持っている。
風見さんも例外なくその一人だった。
現在では少し意地悪を言う気の好い美少女だが、昔の風見さんは誰も近寄せない威圧感を常に纏っていたのである。正直、美少女だけれど絶対に不良だと思っていたし、大袈裟な例えだが刃物のような触れれば斬れる危なさがあった。
俺も歳相応に下心もあったのだが、それ以上に人間として小物であり、風見さんに恐れをなしていた。情けない話である。
だがしかし、俺は諦めなかった。
美少女とお近づきになる下心とそれを叶えるための執念が俺には残っていた。
その年の学校の夏季休暇の都合で最終日となってしまった日のことである。
俺はなけなしの意気地を振り絞り、風見さんに話を掛けようと彼女を待ち伏せした。何気なく目で追っていて分ったのだが彼女にはお気に入りスポットが幾つかあり、そこを毎日回っているのだ。
その一角にて待つ。
そして俺の考えたとおりに彼女はその地点に現れた。
白い日傘を差し、腰よりも長く伸ばした翡翠の髪を揺らす。微かに鼻歌が聞こえる。機嫌が良いのかもしれない。
あの赤い瞳が俺の姿を捉える前に俺は向日葵畑から飛び出し、彼女の前に立った。
「…………!?」
言葉が出ない。
彼女の顔を見ると不審者を見るような、敵対する誰かを見るな表情をしていた。
何か言わなければ。
「ひ、向日葵は好きですか!!」
「……好きよ」
や っ ち ま っ た 。
慌て過ぎて変な質問をしてしまった。
彼女は律儀に答えてくれたが益々不審者を見る目でみている。
流れを変えなければやばい、そう思って百面相を晒していると目の前の彼女がくすくすと笑い出した。ツボに入ったらしい。
「うふふ。可笑しな人ね。貴方、確かこの向日葵畑を管理している家の人よね?」
「はいっ! そうっす!!」
彼女が俺のこと知ってたのかと思うと嬉しかった。
今まで一方的に見てるだけだったから。
「それで本当は何の用かしら?」
彼女は笑みを止めて真剣な顔をする。端整に整った顔が此方を向き、緋色の眼差しが俺を貫く。何だか空気が死んだかのように感じられた。
どうやら俺は彼女に疑られているらしい。
俺は彼女の目を見ながら誤魔化しではない直接的な言葉を吐いた。
「友達から始めさせて下さい!」
彼女は一瞬呆けた表情をした。
直ぐに表情を作り直して彼女は応えてくれた。
「風見幽香よ。風見鶏の風見に幽霊の幽と香るで幽香。チューリップなんてどうかしら?」
「えっ?」
「貴方に似合いそうな花を選んだの。趣味なのよ。初対面の人間に合う花を選ぶの」
「何でチューリップ?」
「貴方が正直者だったからだわ」
その日、俺と風見さんは友人となった。
思い返してみると現在の趣味と少し変わったようだが掛け離れたものではなかったようだ。
ちなみにその数年後に風見さんは一日に多く似合いそうな花を見立ててあげたと嬉しそうに語っていた。
チューリップの花言葉 「正直」
他にもあるので調べてみてください。
決して「愛」ではないのであしからず。